は!?
お久しぶりです!緋絽です!
ガヤガヤとうるさい教室の中。
俺は他の3人と話していた。
団扇で自分を扇ぐ。
「……あっちぃー!」
もう夏休み終わったのに、なんでこんなに暑いんだ。
「真実、うるさい」
不機嫌な茜に睨まれる。
「だって暑すぎる!もう秋じゃん!なんでこんなに暑いんだよ」
「さぁなぁ。温暖化だからじゃねぇかな」
由輝がどうでもよさそうに言った。
由輝、お前今適当に言ったろ!
「アイス食いてぇ…」
飴を噛み砕いて朝弥が机に突っ伏す。
「俺も」
カッターの襟元を掴んでバサバサと内側に空気を送る。
まぁ、あんまり変わらないんだけど。
今、教室の皆は宝岳祭の文化祭の準備をしていた。
俺達は喫茶店の内装担当。
テーブルは学校の使うとして、流石に机の地肌丸出しは気分萎えるだろっつー話になっている。
「テーブルクロス買う?」
茜が下敷きで自分を仰ぎながら言った。
「いや、でも予算限られてんだろ?最悪机はそのまんまにするって方になると思うんだよな」
材料費とかコスプレの衣装代とか、そんなんで余りが出て初めてこっちに回ってくるはず。
「とりあえず申請してみればいいって。色、どうする?」
由輝が携帯でテーブルクロスの写真を出して言った。
「ハーイ!派手目に赤は?」
朝弥が手を上げる。
「あーいいね。重ねて白も置く?」
「そうだな」
申請書に書き加える。
「壁は?」
「いやーやっぱりコスプレのキャラの設定ベタベタっと貼りたくね?白雪姫とかシンデレラとかは継母に城を蹴り出されて出稼ぎ中とかさ」
由輝が紙に意味不明な落書きをしながら言った。
ていうか何それ!グルグル円が書いてあるようにしか見えねぇけど、何だそれ!
「面しれー!」
朝弥が目をキラキラさせる。
「侍は?」
「藩に属してなくて金がないからって細君にケツ蹴られて出稼ぎ中」
「ぎゃはははは!」
ヤベー!と爆笑している。
俺も朝弥と笑う。
おかしすぎる。細君つえー。
「軍人は?」
「んー。軍の給料じゃ金足りないから出稼ぎ中」
「何それ。チョー貧乏じゃん。ていうか、全部出稼ぎなの?」
茜が笑う。
確かになー。
「あ、じゃあこれは?海賊は他の船からお宝奪うのに失敗して頭目にケツ蹴られて」
『出稼ぎ中』
全員の声が被る。
「結局出稼ぎか!」
由輝にそこらにあった木刀で軽く頭を小突く。
「いてっ」
「案ずるな、峰打ちじゃ…!」
ふっ、と決め顔を作った。
イメージでは、周りにキラキラとした光が散っている。
「峰じゃないけどね」
茜が俺の方も向かずにズバッと突っ込んできた。
頭にザクッと突き刺さる。
「ぎゃはははは!真実バッカでー!」
朝弥が俺を指差して笑う。
「うるせーよ朝弥!」
朝弥に向かって怒鳴る。
茜のバカ野郎ー!なんか猛烈に恥ずかしいじゃねぇか!
「まあ、でもこんな風でいいんじゃないかな?」
朝弥の頭を拳で挟んでグリグリしていると茜が唐突に言った。
「何が?」
「ちょ、痛い!マジで痛い、ギブギブ!」
「この喫茶店のコンセプトだよ。面白いじゃん?」
ニヤリと茜が笑う。
「あー確かになぁ」
由輝が頷いた。
「なぁ、無視なの!?オレ泣いちゃうよ!?」
「無視だ。朝弥、諦めろ」
由輝に肩を叩かれている。
ウガー!と奇声を上げていた。
ざまあみろ、朝弥め。
「でも、テーブルこれだけだと寂しくね?」
復活した朝弥が頭を押さえながら言った。
「あー、それは」
由輝が答えようとして、それが遮られた。
「東山君、西川君、南沢君、北村君、ちょっと来てー」
数人の女子に呼ばれる。
「はーい!」
返事をして4人でそこに移動する。
女子の中に中元がいた。
「何?」
中元のそばに寄って尋ねる。
「客引きだから衣装作るでしょ?寸法測らせてほしいの」
「あー、成る程」
中元がメジャーをとる。
「いい?」
笑ってちょっと首を傾げた。
うっ。なんか、ちょっと、可愛い。
そう思ったことになんか焦って、紛らわすようにガクガク頷く。
「よ、よろしくお願いします」
「はーい」
他の人の邪魔にならないように離れる。
「はい、じゃあ両手挙げて」
言われた通り両手を横に広げる。
「ちょっとごめんね」
「え──」
中元が抱きついてきた。
えぇ!?
顎のすぐ下にある中元の顔の近さにドキッとする。香水なのか、なんかいい香りが仄かに香った。
体が強張って火照り出す。
心臓がバクバク鳴っている。
な、ななななな何だ!?
「え、あの、な、中元?」
ふっと中元の体が離れた。
その手には俺の背中に回ったメジャーが握られている。
それに気付いて一気に恥ずかしくなった。
詰めていた息を吐き出す。
メジャーを背中に回しただけか!
あまりにも衝撃が大きくて手が震えてしまうような気がする。それぐらい、今ドキドキしている。
中元を見ると紙に書き込んでいた。
「な、中元」
「んー?」
「香水付けてる?」
「え?」
中元がキョトンとした顔をする。
「なんか、そんな香りしたんだけど」
「……あぁ!多分、それシャンプーだと思う。キツい?」
髪を押さえて中元が聞いてきた。
まさか、そんなことありませんよ!
「全然!俺好きだし」
言い切ってしまってからギョッとした。
へ、変態じゃん、俺!
いや、でも、冗談として受け流してくれたりして。
なーんてね、と誤魔化そうとして中元を見て──今度こそ固まった。
中元が顔を赤くして固まっている。
う、そ。
俺も顔が熱くなるのがわかる。
「な、か…」
「ありがとう」
赤い顔のまま中元がはにかむように笑った。
うっとなる。
クソ。
口元を手で押さえる。
可愛いな!
「い、いや…」
なんだかギクシャクした状態で測り終える。
由輝達の方に行くとなんかの紙を見ていた。
「何々?」
「女子は全員頭に花飾り付けようと思ってるらしいんだけど」
机の前の椅子に座っている女子が紙を渡してきた。
受け取って見る。
「……まぁ、注文したら高いわな」
「だよねぇ」
「本物じゃなきゃいいんじゃね?」
朝弥が言う。
「確かにね」
茜が同意した。
「本物がいいんだよねー」
女子が困った顔をする。
「あぁ、大丈夫だよ、それ」
由輝が笑った。そして──ポンと俺の肩を叩いた。
「真実が作るから」
一瞬の、間。
「は!?」
そんなこと言ってねー!!
「ほんと!?」
女子に期待に満ち溢れた目で見られる。茜と朝弥も驚いたような顔で俺見てるし、もー!
「え、えっと」
由輝を睨む。
「何勝手に言ってんだよ、由輝!」
詰め寄るとまぁまぁと手で制された。
「だってお前んちなら花溢れてるしさ?」
「そりゃそうだけど!」
「いやいや待って。作れるか作れないかでしょ?」
茜に突っ込まれる。その隣で朝弥が頷いている。
「……そりゃ、大体どんなもんが欲しいとか言ってくれれば作れるけど。家が家だし。でもなっ…」
「まーまーまーまぁ」
どうどう、と由輝が俺の肩に腕を回した。
「いーじゃん、作れるんだし。ついでにそれ作るのと同時にテーブルの飾りも考えてくれよ。お前、そんなん得意だろ?わさっと豪華にやってくれればいいから。それに…」
ニヤッと由輝が笑う。
「中元が付けてるの、見れるぞ?」
ピクッと反応する。
「可愛いやつ作ってやれよ、な?」
女子の方を振り返る。
笑って手を差し出した。
「どんなデザインがいいか教えて?」
エヘッと笑う。
現金だと言いたければ言えばいい!
見てみたいもんは見てみたいんだ!
由輝がチョロいと言っているのが聞こえた。
若干、はめられたら気がしないでもないけどな!
次は夕さん!