走らないやつで
今回は回ってくるのが早かった!
この話からは依頼が少しお休みです。
まだまだ、暑い夏は終わらない。
8月が終わり9月に入ると、定番であるあの行事がやって来るのだ。
「あっかねーっ!体育祭と文化祭いぃ!」
「朝弥、黙って。暑苦しい」
――そう、体育祭と文化祭だ。
文化祭はいいとしても、なにもこの暑さの中体育祭をしなくてもさ。熱中症続出するよ?
と、いうのも、ここ宝岳学園では『宝岳祭』と称した学園祭が3日間に渡り開催されるのだ。
1日目と2日目が文化祭、最終日が体育祭、といった具合に。
七時限目が始まる前の10分休憩。
朝弥とうちわ代わりの下敷きで涼んでいると、真実と由輝もやって来た。各々うちわを持って。
「いいね、それ」
「これ?バスケ部の部室に落ちてた」
「俺は家からにーちゃんの盗ってきた」
しばらく、いつも通りなんでもない会話をした後、真実が突然切り出した。
「なーなー、この後体育祭の種目決めるじゃん?なに出る?」
そう言えば七時限目はLHRだったっけ。
「あんまり走らないやつ」
由輝が言うと朝弥が反論する。
「体育祭は走ってなんぼだぞ!オレ、100m走とか出たい」
「僕は…うーん…僕も疲れないのがいいかな」
それに、こういう学校行事には姉さん来たがるから、あんまり目立つ競技は避けたいんだよね。
「疲れない種目って、なんかあったっけ?」
そう振ると、みんな一斉に考え込んだ。
走らないのがあれば万歳なんだけど、体育祭は基本走るものだからな。
涼むのも忘れてぼーっとしているうちにチャイムが鳴り、その時は3人ともだらだらと自分の席に戻っていった。
まあ、朝弥はこの前の席替えで僕の後ろの席になったんだけど。
「では、文化祭の出し物を決めるのは時間がかかるので、まず体育祭の種目決めからしたいと思います!」
クラス委員の人が張り切って声をかける。
単に宝岳祭が楽しみなのか、授業がなくなったからかは知らないけど、クラス中がハイテンション。
「じゃあ…クラス選抜リレーから!」
ざわざわと話し声が上がった後、足に自慢のある数人が手をあげる。
「それじゃ、その4人でお願いします」
拍手が起こる。
僕はその中で黒板に目を走らせた。
体育祭にはクラス全員が出ないといけないことになっているから、どれか一種目選ばないと。
「どれも走るのばっかりだなぁ…」
「茜、どれ出るの?オレ、100mのじゃんけん負けたんだけど。やばい、いいのがなくなっていく」
後ろから朝弥がにゅっと顔を出す。
「負けた?他にも出たいのあるんじゃないの」
みんな文化祭のほうを決めたいのか、種目決めは朝弥と話してる間にもどんどん進んでいっている。
あと残ってるのは…。
「400m走と…」
「借り物競争…あと、三輪車レース」
朝弥と顔を見合わせる。
うん、三輪車はない。
「真実と由輝も決まってないみたいだね」
真実は机に沈んでいるから、朝弥と同じでじゃんけんに負けたらしい。
「あの中だと借り物競争…かな」
「だよな。オレ400m走りきる自信ねぇもん」
朝弥ってなんか、“一瞬の栄光”って感じするからね。
あ、400m決まった。
「あれ?ふたりとも手挙げてなかった」
まさか三輪車ってことは…。向こうも同じことを考えていたのか、振り返ったふたりと目があった。
まだ黒板に名前が書かれてないのは、僕達4人となにやらこそこそ話している女子だけになった。
「次ー、借り物競争ー」
朝弥と目配せして手をあげる。
それを見て、ニヤリとした真実と由輝。ふたりも手をあげた。
「俺達で出まーす」
「はい、じゃあ、東山君と西川君と、南沢君、北村君でいいですかー」
そろそろ飽きてきたクラスからまばらな拍手。
自分の教師机でうとうとしているカマさんの目を盗んで、真実と由輝が寄ってきた。
「なあ、借り物競争の恐ろしさ知ってて手挙げたんだよな?」
「恐ろしさ?」
「知らねーの?俺にーちゃんに聞いたんだけど、借り物の紙あるじゃん?あれの内容が容赦ないんだってさ」
…話を聞く限りでは、秋良さんが1年の頃なにも知らず借り物競争に出たところ、『ヅラの教師』という紙を引き、勝ちはしたものの…その後そのヅラだった先生の説教に突入、ということらしい。
「面白そー!」
普通は嫌がるところだよ、朝弥。
「だよな!面白そうだよな!」
ああ、真実まで。…類は友を呼ぶ。
「三輪車よりはいいだろ」
由輝に言われて頷く。
「秋良さんの二の舞にならないよう祈っとく」
現在と季節が逆ですね。
暑かったころが懐かしい…。
次は秋雨さんです。