解決!
お久しぶりです。
改めまして、真実目線を書かせていただいてます、緋絽と申します。
ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
由輝と平方が行ってからも俺は絵の具の前に屈んでいた。
「東山君?」
中元が隣にしゃがみこむ。
「この絵の具ってさ、油性じゃん」
「え?うん」
洗濯して落ちないんだから、まず間違いない。
「この油性の絵の具を使ってる小学校って、2校しかないの知ってる?」
俺達の学校と、平方の学校の2校。
「…知らなかった」
「しかも、これを売ってる店って、この辺では一件しかないんだ」
もうほとんど使う学校がないから、ほとんどの店では取り扱ってないのだ。小学校の時、これを買うのに苦労したから覚えてる。
「その店、インターネット販売してないんだ。店主のじいちゃんが覚えてるかも」
翌日、その話を茜達にもすると真っ先に聞きにいこうということになった。
その時、捜査の進展の様子を見にきた上杉先輩も一緒に行くことになった。
「なんで2人が狙われんのかなぁ」
朝弥が飴を口の中で転がして言った。
他のモデル仲間は狙われなかったらしい。
「私と飛鳥ちゃんは今年の学校祭のファッションショーに出るからじゃない?」
上杉先輩が小首を傾げて言った。相変わらずなんか迫力のある美人だ。
「え、小森さんそうなの?」
茜が目を丸くして言った。
「は、はい。生徒会イベントでファッションショーをすることになって…め…メインのランウェイを歩くモデルを…や…やらせてもらうことに…なって」
上杉先輩が肩をすくめて言った。
「私はサブのランウェイモデル。あと、横峰先輩もメインのランウェイモデルよ」
「へぇー、小森すごいじゃん」
由輝が平方をいじりながら目を丸くする。
「あ…ありがとう…ございます」
「じゃあ、その横峰先輩も絵の具掛けられたのかな?」
中元が首を捻る。
「それがどうも掛けられてないらしいんだよね。“え?何、絵の具って”って言われたもん」
茜がメガネを押さえて言った。
シーンと沈黙が落ちる。
「……言ってもいいか」
「ダメ」
俺の言った言葉ににべもなく茜が被せてきた。
「いや、敢えて言わせてもらう!一人だけ掛けられてないとか怪しいって!」
「言うな真実!わかってる、皆わかってんだよ!」
由輝がクッと眉間を指で挟んで言う。
「でも逆に怪しすぎねぇ?オレでも自分だけ掛けられてなかったら疑われるってわかるぜ?オレだったら真っ先に被るけど」
朝弥が飴を噛み砕いて言った。
「……確かにそうだね。珍しく朝弥がそれっぽいこと言ったよ」
茜が真顔で頷きながら言う。
「珍しくってなんだ!オレはいつだってそれっぽいことを言ってんだろ!」
朝弥がギャアギャア吠えた。
悪い、朝弥。俺もちょっと思った。
そうこう話している内に店の手前に着いた。
「あ!」
突然上杉先輩が声を上げて店の陰に隠れる。
「え、何ですか?」
「あそこでシャーペンの芯見てる男!」
言われるまま店を覗き込んでその男を確認する。
ちょっともさっとした感じの男子がシャーペンの芯のコーナーの前にいた。制服が同じなので同じ学校の人だ。
「…実は言い忘れてたんだけど、私、階段の下で絵の具掛けらた時、一瞬だけど犯人の顔見てるのよ」
「は!?」
朝弥が声を上げる。
うるさいと由輝に叩かれた。
「何すかそれ!もっと早く言ってくださいよ!」
確かにー。そしたらあれだよ?もっと別の捜す方法考えれてたよ?
「う、ご、ごめん。なんて犯人の特徴言ったらいいかわからなくて。その場に固まってて動けなかったから、そんなに特徴見えなかったし」
上杉先輩が目を逸らしながら言う。
「まぁ、確かに言われてもわかんねーな」
うんうんと頷く。
「で、何ですか?まさかあの人が犯人とか?」
茜があの男から目を逸らさずに聞いた。
「そのまさかよ!」
上杉先輩が自信満々に胸を張る。
「……………」
犯人捜し終ー了ー!!
『えぇぇぇええ!?』
全員で叫ぶ。
「あのズボンの裾の汚れ、間違いないわ!」
その言葉に違和感を覚えた。
あれ?なんかおかしくないか?
「ちゃんと言いやすい特徴知ってんじゃないすか!!」
「あ、あら?」
思わず考え込む。
待てよ。今考えないと、何かを間違える。考えろ、考えろ、考えろ───!
朝弥が男の写真を撮る。
由輝が男の隣を通り過ぎて例の絵の具を一つ掴んでレジに行った。
「じいちゃん、久しぶり」
「ん?おー由輝坊。生意気な顔つきになったの」
「生意気って」
由輝が苦笑する。
「あのさ、聞きたいことあんだけど」
「んー?50円な」
「あぁ、うん。これをさ、最近俺と同じ制服の奴が買っていかなかった?」
由輝が少し声を潜めて訊いた。
「お前と同じ制服の奴ー?」
「そう。男で」
じいちゃんがちらっと男を見た。
「あそこにいる奴だな。それ以外はいなかった」
由輝がそれを聞いて心底嬉しそうに笑った。
「あ、そーなの?サンキューじいちゃん」
その翌日、俺達はあの男子生徒を見張っていた。
囮作戦で誘き出すぜ!と全員気合いが入っている。
ちなみに囮作戦を言い出してくれたのは上杉先輩だった。
『前と同じ場所、同じ状況でなら相手も油断してくれるわよ』、と。
怖くないのかなと思って聞いてみたら、『怖いけど、これからもずっと怯えて生きるよりはマシ』と返ってきた。
ま、自分には覚えがないのに悪意をもたれたら怖いよな。どんどんエスカレートしていっても困るし。
正直、どうやって証拠掴もうか悩んでたから非常に助かった。
「こちらA地点、所定の位置に付きました。上杉先輩から見て右側の非常階段にいます、どうぞ」
『こちらB地点、了解。我々も所定の位置に付きました。上杉先輩のいる階のもう一つ下の階にいます、どうぞ』
「こちらA地点、了解」
由輝との連絡を終えて朝弥に黙ったまま親指を立てる。
朝弥も返してきた。
ここなら逃げ道は由輝と茜のいる階下へ駆け下りるか、俺と朝弥のいる非常階段へ逃げるかのどっちかしかない。
非常階段までにある教室は鍵がかかってるし、まさに袋のネズミだ。
由輝から連絡が入った。
「こちらA地点、どうぞ」
『こちらB地点、標的が現れました。階段を上って上杉先輩を追い越してます。我々は隠れるのであとよろしく、逃がすなよ!』
「こちらA地点、Roger!」
携帯をたたんでポケットに突っ込み朝弥に合図する。
「いいか、バッチリ写真撮れよ!」
「任せとけ!」
朝弥がプロのカメラマンさながらのポーズでカメラを構えた。
ノリノリだな、こいつ。
「きた!」
上杉先輩のいる階段の上で昨日の男子生徒が懐から瓶を取り出した。中には黒い液体が入っている。
そこでまた違和感を覚えた。
あれ?やっぱ、なんかおかしくねぇ?
朝弥が連写して写真を撮る。
男子生徒は顔も隠さないまま階段の手すりに手を置いて瓶を下に向けた。
黒い液体が全部上杉先輩に向かってこぼれる。
先輩の短い悲鳴が聞こえた。
それに弾かれたように男子生徒がこちらに向けて走ってくる。
「きた!真実!」
「了解!」
飛び出して男子生徒の前に立ちはだかる。
「うっ、うわっ!」
「止まれ!逃げても無駄だ!」
男子生徒が階段の方へ向いて逃げようとして後ずさった。
「逃げるなんてそりゃないんじゃありません?先・輩」
由輝が階段の手すりにもたれてニヤリと笑った。
か、カッコいいー!カッコいいぜ由輝!こりゃモテるのもわかるわ。
……目の前で口に出して言ったら殴られるだろーなー…。
「な、なんでっ」
「なんでじゃないっすよ。今、そこにいる上杉先輩に絵の具掛けましたよね?ま、否定しても証拠に写真撮りましたけど」
階段を茜に付き添われて黒くなった服を脱いでジャージを着ている上杉先輩が登ってきた。悠々と歩いてきている。
あら、着替えてる?
茜を見るとげっそりしていた。
もうヤダこの先輩、と言うような顔だ。
思わず吹き出しそうになる。
茜の女子苦手度がどんどん急上昇していくな。
「……クソっ…!」
男子生徒が逃げるのを止めた。
あれ?なんかアッサリ引き下がった。
思わず拍子抜けした。
まぁ、下手に暴れられるよりは、マシ…だよな?
その後、男子生徒には先輩からきっちり説教をしてもらった。
男子生徒が先輩と小森ちゃんを狙った理由は、前付き合ってた彼女がわりかし綺麗な人で、その人にこっぴどくフラれてから綺麗な人を見ると憎く思うようになっちゃったかららしい。
もう二度としないことを約束させてこの依頼は終わった。
「なーんか拍子抜けだよなー」
朝弥が飴を噛み砕きながら言った。
階段を下りながら話をする。
「ね。もっと時間かかるかと思ってた」
「あー確かになー」
由輝が頷いて返す。
俺はまだ違和感がモヤモヤしてる。
何かを間違えてる気がする。
「あのさぁ」
そう言って一つ上の階段にいる由輝を見て───固まった。
「何?」
由輝が訝しげに首を傾げる。手すりから上半身を乗り出して俺の頭を小突いた。
「真実?」
茜が俺の腕を掴んだ。
「…あの先輩、なんつってた?」
確か、固まってて動けなかったって───。
「何が?」
茜も俺と同じように由輝を見上げて、目を見張った。
「嘘だろ…」
階段を駆け上がって上杉先輩の教室へ行く。
教室のドアを開け放つと、さっきの男子生徒と上杉先輩が向かい合って楽しげに話していた。
「…やっぱり…」
後ろで茜が息を吐きながら言った。
男子生徒の足を見る。
ズボンの裾に白い汚れが付いていた。
「足に何が付いてたって?」
上杉先輩を見る。
不思議そうに首を傾げた。
「え?見ての通り、汚れが…」
「あの階段じゃ、手すりで隠れて下半身は見えないんですよ」
あの手すりは胸までの高さがある。
下の階にいて、上の階へ追いかけたのでなければ、足の汚れは見えるはずがないのだ。
「じゃあなんであんたはそこの男子生徒の足に汚れが付いてるのを知ってたんだ?」
由輝が顎をしゃくって男子生徒を示す。
男子生徒がビクッと体を竦ませた。
「近くで見たことがあったから、だろ?」
朝弥がカメラで写真を撮りながら言った。
「さて、答えてもらいますよ、上杉先輩。近くで見たことがあるなら、当然顔も覚えてますよね?会話だってしたことあるはずだ。───当然、名前だって」
足元の汚れって言うのは割と何度か近づいて関係を持たないと気付かない。
「なのに、どうしてあなたはその人を知らないフリをしたんですか?」
茜がメガネを押さえて言った。
俺達全員の目が上杉先輩に集まる。
しばらくの沈黙が落ちた。
クスッと笑い声がした。
「あーあ、残念。バレちゃった」
上杉先輩がもたれていた机から立ち上がる。
「そうね、あの階段じゃ、足は見えない。迂闊だったわー」
「おかしいとは、思ったんです。犯人前にして、すぐに着替えて悠々と歩いてるし」
先輩が顔を背けてフンと鼻を鳴らした。
「…なんで、飛鳥を?」
朝弥が珍しく低い声で言った。
「メインのランウェイモデルになったからよ」
「それなら横峰先輩だって、そうですよね?」
茜が目を逸らさずに聞く。
突然、上杉先輩がキツく俺達を睨んだ。
「あの人はいいの。容姿も、実力も、両方文句ないもの」
「つまり、小森は」
由輝が頭を掻いた。
「容姿はいいとしましょう。…でも、実力なんて、露ほどもない!」
上杉先輩が机を強く叩いた。
「私が…っ、私が出るはずだったの!去年からそう言われてたの!嬉しくて、友達にも言ったわ!そしたら、どう?いつの間にか飛鳥ちゃんが期待の新人、なんて言われてランウェイモデルに抜擢されてるじゃない!とんだ大恥じよ!私がっ、サブに回されてどんな気持ちだったか!」
息を大きく吐いて、上杉先輩が震える声で呟いた。
「…すごく、嬉しくて、楽しみだったのに。2人の内のどっちかが出られないようにならないと、私、もうランウェイを歩けないのよ」
上杉先輩が頬を手で拭った。
そこでようやく俺は上杉先輩が泣いていることに気が付いた。
「……どうせ歩けないなら、飛鳥ちゃんも道連れにしてやろうって、思ったの。事務所に言えば、問題のあるモデルを出すわけにはいかないってことになるし。もしかしたら、代役に抜擢されるかもしれないじゃない?だから、そこの彼に」
上杉先輩が男子生徒を示す。
「いつも、私を気にしてるのわかってたから、利用したの。私の代わりに飛鳥ちゃんに絵の具を掛けて欲しくて。ただの腹いせよ。もう、悔しくて、憎くて、汚れた姿が見たくて、…何でも良かった。まぁ、飛鳥ちゃんの友達が被っちゃったから、失敗しちゃったけど」
目を赤くして、肩をすくめてみせた。
「言っとくけど、謝らないから。飛鳥ちゃんに言ったっていいわ。この世界は蹴落としてなんぼ。私は蹴落とされた場所にかじりついただけ」
「でも」
小森ちゃんに言ったら、彼女は傷つく。果たして、言っていいものか。
「東山君は優しいのね。西川君も、南沢君も」
上杉先輩が苦笑した。
ようやく、これが彼女のちゃんとした笑顔なんだと思った。
「北村君は違うみたいだけど」
その言葉に由輝を見ると、由輝は体の陰から携帯を見せた。
「どうせ録音したんでしょ?大丈夫よ、二度とやらないから」
「……俺は用心深いんです」
由輝が録音したものを保存する音が聞こえた。
「やらないったら。……悪いことをするのって疲れちゃうの」
だから、もうやらない、と先輩は呟いた。
「小森さん、なんて?」
部室のソファに座って茜が朝弥に聞いた。
依頼結果を伝えるなら朝弥がいいだろうということになって、朝弥に行かせたのだ。
「『ありがとう』だって。泣きもしなかったぜ、あいつ」
「嘘。意外」
由輝が携帯を閉じたり開いたりしながら言った。
朝弥が飴を噛み砕く。
「事務所には言わないって。先輩と仕事すんの楽しかったからってさ」
「つえーなー」
俺は思わず笑う。
「上杉先輩、サブ降りたらしいよ。代わりに大きな雑誌のモデルすることになったって」
茜が言った。
「そっか。しぶてぇなぁ」
由輝がソファにもたれて言った。
全員で笑う。
ある意味、一件落着?
由輝が携帯のデータを消した音が聞こえた。
急展開だったので、首を傾げる展開になってたらすみません。
次回、とうとう学園祭編!
依頼はちょっとお休みです。
次は、夕さん!