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白紙に綴る夢  作者: 緋絽
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真実の場合

緋絽です!


自分で誘っといてなんだけどさ。

今日は特に緊張する。

中元を見ると恥ずかしそうに微笑み返してきた。

女子と遊んだことなんて中学の時までにも何回かあった。

手をつないだこともあるし、もちろん2人っきりってこともあった。

けど、今ほど緊張したことはない。

「東山君が浴衣って…意外」

「そう?」

帯の位置を直す。

雑踏で声があまり通らないため少し声をはりあげた。

「うん。なんか着慣れてる?」

「まぁね」

「ふーん」

不思議そうにしている中元を見て笑う。

「中元は浴衣あんま着ないんだ?」

「そうそう着るもんじゃないって」

「あぁ、そうか。そうかな」

白の布地に大ぶりの桜柄が映えている。

「似合うな。女子ってそういうの選ぶの上手いよなぁ」

「え……」

少し赤くなる。

「よし、行くか。中元、行きたいとこある?」

「ううん、特には」

「じゃあ全部回るか‼」

「うん」

並んで歩きだす。

少し歩いていると急に中元がいなくなった。

「中元?」

あれ、どこ行った?

慌てて後ろを振り向くと人ごみに押されて進めていない中元が見えた。

「…ひ、東山く……っ、ちょっと待っ…」

人にもまれながらこっちに来ようとしている。

「すいません」

人ごみをかきわけて中元の下へ向かうと中元がすまなさそうに立っていた。

「ご、ごめん」

「いや、まぁ仕方ねぇって」

「あー、グチャグチャ…」

浴衣をつまんで溜め息を吐く。

ちょっと笑って浴衣を引っ張ると形を整えた。

「ほい直った‼」

「わ、ありがと」

少し迷って手を差し出す。

「はい‼」

「え?」

「はぐれたくないじゃん?1人で応答もなしに話し続けるってけっこう精神的につらいんだぜ」

小さく噴き出した。

軽く弾むような声が響く。

「じゃあ甘えちゃおう」

中元の手と自分の手が重なる。

熱くなった顔を背けて歩きだす。

いろいろと見て回りながら中元にちょっかいを出さずにはいられなかった。空いている片手を出してそこにタッチさせようとする。それを見て中元が手をタッチしようとしたら手を引っ込める。これがなんというか、飽きないのだ。何度やってもだまされる。

「――――もうっ‼」

意地になって手を掴もうと手を伸ばしてくるのを避けた。

悔しいのかそれに夢中になっている。まるで猫じゃらしを追いかける猫みたいだ。

「ちょっとっ、東山君!?人が悪いよ!?」

「あーやばい」

思わず笑ってしまう。口に手を当てた。

「可愛いなー。一匹家に欲しい」

「え…」

一瞬中元が固まって段々赤くなってきた。

俺自身も思わず自分の言葉に焦る。

な、何だ、欲しいって。可愛いって、なんだ。セクハラだぞ、俺!

「あ、いやっ、猫みたいで、ついっ、ほら、猫じゃらしがさっ」

あぁぁああ何言ってんのかわかんなくなってるー‼

「あ、そ、うなの、へ、へぇっ」

あー向こうもわけわかんなくなって納得しちゃったー‼

「…行くか…」

「う、うん…」



それから少し経って、そろそろ休憩しようということになった。

「もうそろそろ終わっちゃうねー」

「残念だよなぁ。楽しい時ってすぐ時間すぎねぇ?」

「あーわかるかも」

祭りの行われている神社の石段に座っていた。

人ごみから外れて雑踏の声が遠い。

「…あのさ」

中元が改まったようにこっちを向く。

「ん?」

「…………はいこれ‼」

ポンと大きな包みを押しつけるように渡された。

思わずキョトンとする。

「え?」

「誕生日おめでとう‼」

「あ、まじで!?くれんの!?」

「う、うん」

小さく頷く。

開けるとタオルが入っていた。

赤いタオル地に黒い縁取りとボーダーの柄がプリントされている。

「やった‼数なくて困ってたんだよ‼」

「そう?な、ならよかった」

ちょっとホッとしたように表情が緩んだ。

「ありがとな」

笑って中元の顔を見ると赤くなっていた。

嬉しいのと気恥ずかしいのとで俺も顔が熱くなってくる。

袋にしまって立ち上がって石段を飛び降りた。振り返って中元を仰ぐ。

「大切にするよ」

「あ、ありがとう」

降りてこようとした中元が足をひねった。

「わっ」

「うわっ」

落ちてきた中元を反射的に抱きとめた。

花火が上がって明るくなる。

「あ、ありがと…」

「お、おう…」

少し間を開けて噴き出す。

なんてタイムリーな‼

「な、何!?」

「いや…」

しばらくそうして大笑いしていた。


次は夕さん!

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