デートでもいかがでしょう?
緋絽です!
今俺は正座している。
寝間着の浴衣の隙間から暑さの中に夜特有の涼しい風が吹きこんできた。
そろえている膝の前に携帯が鎮座している。
表示しているアドレスは中元。
メールか、電話か。
「うーん…」
布団の上にごろ寝して仰向いたまま携帯を手に取った。
携帯からって緊張するんだよな。
耳から声だけが聞こえるのってなんか普通とは違うし。
「どうすっかなー…」
「何を?」
突然聞こえた声に慌てて飛び起きる。
「うわっ、母さんっ!」
部屋の戸から中を覗き込んでいた母さんが腰に手を当てて怒った顔を作った。
「真実ー?姿勢をきちんとなさい。浴衣が崩れてるわよ?」
「あーはい、すんません」
襟を引っ張って崩れていた浴衣を直す。
どうせ寝たら崩れるのになぁ。つーか自分だって、腰に手をあてたりしたら、はしたのうございますよ?
「ねぇ、真実?あててあげようか」
「んー?何をー?」
「女の子でしょ?」
この時ばかりは噴き出しそうになった。
なんでわかるんだろう、この人。
「な、何言ってっ」
「あたりでしょ?そうよねー、ウチの真実を放っておく女の子がいるわけがないのよねー。姿勢から立ち振る舞いまでこの私が叩きこんだんだから」
うんうんとしきりに頷いている。
「何言ってんだよっ、違うって‼由輝達に祭り行こうか行かないか聞こうとっ」
「由輝君相手に真実が迷うわけないじゃない」
ズバッと言われて思わず押し黙る。
た、確かに。
「ね、ね、あたりでしょう?女の子よね?」
家につれてらっしゃいと言い出した母さんの背を慌てて立ちあがって押す。
「ちげーよっ‼もう、なんでもいいだろ!?」
「あっ、ちょっと‼その子今度連れて来なさいね?」
「だーかーらー‼違うんだって‼おやすみ‼」
戸の外でブーブー言っているのを無視して電気を消してさっさと布団に潜り込む。
掛けてあるカレンダーを見る。
祭りまであと3日。
まぁ、それまでに言えばいいよな‼
――翌日、俺はバスケ部の練習で学校に来ていた。
「走ってきまーす」
「ほーい」
立てつけの悪い体育館の戸を開けて外に出る。
夏の日差しが容赦なく照りつけてきた。
学校から出て隣駅まで走ってまた学校へ戻る。
走行距離計12キロ。
1時間かけて学校に戻ってきた。
Tシャツの襟で汗を拭う。
運動場を横切っていると、ふと廊下を歩いている中元が見えた。
「おい、中元ー‼」
「え?」
周りをきょろきょろと見渡して俺に気付くと窓から顔をのぞかせた。
「東山君‼久しぶり‼」
「久しぶりー」
窓に駆け寄って窓の桟に腕をかけて中元を見上げる。
「東山君、部活?でもバスケ部よね?どうして外にいるの?」
「ランニング行ってたんだ、隣駅まで。超暑ぃ」
「ホントに暑そう。汗すごいよ?」
中元が苦笑いした。
「汗かきなんだよ。走ってる途中何度汗が目に入ったことか」
「アハハ。シャワー浴びたみたい。髪ぐしゃぐしゃだよ?」
中元が俺の頭に手を伸ばして触れた。
くくっていた髪が解ける。
「え!?」
ゴムが切れたかと慌てて頭を押さえると、ゴムを指で弄びながら中元が悪戯っぽく笑った。
「水、浴びてきて。頭だけだよ?ちゃんと拭いてね」
「え?」
なんのこっちゃと首を傾げると軽く肩を押された。
「早く。くくりなおしてあげる。ぐしゃぐしゃになりにくいの、教えてあげるから」
「あ、ほんと?やりぃ」
水道まで行ってビシャビシャと浴びる。
「タオル…タオルは…」
手探りで探すと誰かが渡してくれた。
「お、サンキュー」
顔を上げると中元だった。
「しっかり拭いて。風邪ひくよ」
「はーい」
ガシガシと拭いて終わったことを目で伝えるとベンチに座るように促がされた。
跨ぐようにして座ると中元が後ろへ座る。
中元の手が髪に触れた。
ゆっくり中元の指が髪を束ねていく。
「で、ここをこうして…」
「あーほんとだ」
「…わかってないでしょ」
「だって見えねぇんだもん」
「もー」
中元がゴムでくくりはじめた。
「でも、隣駅までってすごいね。私絶対走れない」
「そうか?酷い時ハーフマラソンぐらい走らされるけど」
「うわ‼無理だ‼」
「ハハハッ、死ぬ気で走った」
「大変だったねー。はい、できた」
ポンと肩を叩く。
「サンキュー。じゃ、俺戻るから」
「うん。バイバイ」
体育館へ向かう途中でふと思い出す。
あ‼祭り‼
振り返って中元を追いかけると正門を出るところだった。
「中元‼」
「あれ、東山君?どうしたの?」
「あのさ、盆祭りの時、暇?」
「え?えーっと、咲と、初流ちゃんと、あと飛鳥ちゃんと行くけど」
「あ、ちょうどいい‼」
「え?」
よくわからなさそうにしている中元に向けてニヤリと笑いかける。
むろん、照れ隠しだ。
「デートでもいかがでしょう?」
「へ?」
「盆祭り‼一緒行こうぜ‼」
「えっ…」
中元が赤くなる。
「ついでに俺の誕生日祝って‼」
「えぇ!?自分で言っちゃう!?」
「いいじゃん。14日、当日なんだよ。で、どう?」
「私は…いいけど…」
「やった‼行こうぜ‼」
俺の言葉に中元が恥ずかしげに伏せていた目をあげて笑った。
「…うん‼」
かえって3人に聞いてみると言って帰っていった。
――その晩、全員OKしたと電話がきた。
慣れない電話の向こうで、中元も緊張しているのがわかって、少し、ほっとした。
次は夕さん!