疑問
緋絽です!
部室に入ると朝弥と小森ちゃんが何か話し合っていた。
「よぉ。2人共、早いな」
「あぁ、今どこで撮るか決めてたとこ」
「ど…どうも」
「はいどーもー」
ソファにかばんを置いて朝弥の隣に座る。テーブルの上に置いてある多分小森ちゃんのだと思われる可愛らしいメモ紙に目がいった。持ち上げてそれに目を通す。
“中庭、公園”
「この2つだけ?」
一緒に中に入った茜が横から覗き込んできて言った。
「あと1つぐらい決めたいんだけどなー」
朝弥がソファの背もたれにもたれかかって上を向きながら言った。
「どっかの部屋は?」
由輝が心なしか小森ちゃんから離れて言った。座っている俺の後ろに立って逃げるように目を逸らしている。
こら由輝。お前何してんだ。
「屋外ばっかじゃん」
「あー確かに。誰かの家使えない?」
朝弥が皆を見渡しながら言うと全員が目を伏せた。
嫌に決まってる。
家に女子を呼んだりしたら母さんがなんて言うかわからない。
由輝達がいても話は別だ。
『4人で奪い合ってるの?頑張れ真実‼押して押して押しまくるのよ‼』ぐらい言いかねない。
あの人、なんで息子が女子といたら常にその子を狙ってると思ってるんだろう。おかしいだろ。俺がいつも欲情してるみたいじゃねぇか‼
「俺、無理」
「俺も無理」
「僕もやだ」
茜がやけに切羽詰まったように返した。朝弥がこれまたコミカルな動きで机についていた肘をガクッと落として茜を見た。
「やだって。茜、なんでだよ」
「いつだと思ってんの。どうせ土日でしょ!?姉さんがいるじゃんか‼そんなとこに小森さん連れてってみなよ‼」
ブルリと体を震わせ顔を蒼褪めさせるとフッと達観したように眼を細めた。
「…一体どんな反応をされるか…」
「あぁ…」
朝弥も遠い目をする。
いや、マジで一回茜のお姉さん、会ってみたいわ。
「朝弥ん家は?」
「俺ん家もなぁ…騒がしいから」
朝弥が小森ちゃんに向いた。
「飛鳥のとこは?」
「……わ、私の…部屋で…よければ…」
小さい声で小森ちゃんが答える。隣にいる朝弥にちょうど聞こえるぐらいの声量だ。
そういや、小森ちゃんって、こんなに人見知りなのにモデルなんだよなぁ。しかもプロで、雑誌にも載ってるんだよな。
「OK、じゃあ、そこで。お前らも来いよ」
「なんで!?」
由輝が素っ頓狂な声をあげた。由輝も、その隣の茜の顔にも悲壮感が漂っている。
「反射板持ってもらったりしなきゃいけないし、人手がいるんだよ」
「す…すみません…」
小森ちゃんがオドオドと頭を下げた。
こんなに、人見知りなのに、なんでモデル?
「小森ちゃんさぁ、なんでモデルになろうと思ったわけ?」
「え?」
俺の言葉に小森ちゃんが顔を上げる。キョトンとした顔だ。
「こう言っちゃ悪いけど、小森ちゃん人前に出て目立ちたがりたい性格じゃないだろ?モデルになって何がしたいんだよ」
「真実」
由輝が窘めるように俺の肩を掴んだ。
「まぁまぁ。いいじゃん。知りたいだけ、知りたいだけ」
「でもなぁ」
「い、いいんです」
小森ちゃんが珍しくいつもより大きな声で俺と由輝の会話を遮る。
俺は小森ちゃんに目をやった。
小森ちゃんの何かに立ち向かうような目と鉢合う。
あれ、思ったより強い子だった?
楽しんでるような思わず小さく笑ってしまうような、そんな気持ちになった。
「か…変えたくて…」
「え?」
「今もだけど…私、少し前までは、ほんとに…ほんとに、誰とも、話せなくて…。このままじゃ、駄目だって…思って…」
「………」
「変わりたくて…それで…応募したら…仕事、もらえて…。モデルは、楽しい。けど…全然、話せるようになれなくて…モデル仲間も、少、なくて…」
どうやら思ったよりポジティブな子だったらしい。
「いいじゃん‼」
朝弥の言葉に俯いてしまっていた小森ちゃんが顔をあげた。
「話せるようになってるって‼な‼」
朝弥が俺達に同意を求めて振り向く。
俺、朝弥のそういうとこ、いいなって思うぜ。
思わず笑う。
「うん。今の聞いてスッキリした‼俺もそう思うよ」
「俺もー」
「僕も、少しは進めてると思うよ」
由輝と茜も頷く。
「変われてるよ‼飛鳥、頑張ってるって‼」
朝弥が小森ちゃんの頭をグシャグシャと撫で回した。
「ありがとう…」
小森ちゃんがふわりと笑った。
な、なんか真実が黒い…。意地悪、それは茜のポジションなのに‼
次は夕さん!