青の女剣士
緋絽です!
「ただいまー」
家に入ると出てきた母さんが目を丸くした。
「あ、あんた、その髪…」
「あぁ、これ。これは――――」
パシッと頭を叩かれる。
「イテッ」
「何なのよこの髪は‼不良になっちゃったの!?ん!?」
ややヒステリック気味に母さんが叫んだ。俺の両肩を掴んで揺さぶってくるが流石にこの歳になるともうそんなに揺れない。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと落ち着いてよ」
腕を掴んで落ち着かせようとする。
「落ち着けるわけないでしょ‼こんな髪にして、悪いお友達ができたの!?もう、お母さん、お父さんになんて言えばいいのよ‼」
「違うって‼これは映研部の映画に出るから一時的に染めてるの‼風呂に入れば落ちるよ‼」
「あらそう…そうなの…」
世の中は便利になったのねぇとしみじみと呟く。
俺は母さんの手を離して溜め息をつく。
「え?劇?もうそんな時期なの?」
「いや、部の活動」
「あぁ…あら?演劇部にあなた入ってたっけ?」
「違う違う。万屋同好会の」
「あぁそういえばそういうのにも入ってたわね」
居間に移動しながらネクタイを解く。額にかかる前髪が赤くて目に入るとギョッとしてしまう。
「ご飯できてるけど」
「んー…」
前髪を摘まんで考える。
ご飯は、落ち着いて食べたいよな。
「風呂先に入ってくる」
「はーい」
風呂に入って髪を洗うと赤く水が染まった。
ということを飯を食べてから由輝に電話で話すと
『うおっホラーだな』
と笑った。
「何だよ。俺ちょービビったんだからな。しかもなかなか落ちないし」
『染髪料だからなぁ』
苦笑したのが目に浮かぶ。
「明日も染めんだろ?」
『だろうな』
俺は溜め息を吐く。
『そういえばまだやる人が決まってない役あったよな』
「え、あーそういえば。“青の女剣士”だっけ?」
『そう。どうすんだろうな』
「また茜が見つけてくるんじゃないか?」
『しかもまた事後承諾で?』
由輝が軽く笑ったのが聞こえた。
「そうそう。今日の中元とかすげーびっくりした顔してたもんなぁ」
俺もつられて笑う。
「流石に今度はちゃんと話すんじゃね?」
『だといいけど。うわ、なんかすげー申し訳なくなってきた。吉野、帰ってきてー‼』
「お前のせいだ、お前の。早めにフォロー入れないと、取り返しつかなくなるぜ」
『痛いとこ突いてくんなー。どうしようもなかっただろ、あれは』
「まぁ乙女心はわかんねーし、そっとしといたほうがいいのかねぇ。ま、それは後々考えるとしようぜ」
『おー。じゃあな』
「あぁ」
電話を切って布団に寝転がる。
とろとろとした眠気が襲ってきて、俺は目を閉じた。
――――翌日、放課後そのことを茜に話した。
「で、誰か目星はつけてんの?」
金髪にした髪をうっとおしそうに摘まみながら朝弥が聞いた。
「え?何言ってんの。由輝がやるに決まってんじゃん」
俺と由輝は同時に噴出した。
「は、はぁ!?」
由輝が、女剣士!?つーか女装!?
中元も口を開けている。
「そう何人も部以外の人に迷惑かけられないしね。僕は監督があるし。じゃあ残ってるのは部長と由輝だけど、部長は体格と顔的に無理。てことで由輝しかいないじゃん」
真顔で茜が言った。
あれ、真面目!?本気じゃん‼
「イェー‼」
朝弥が拍手する。
チラリと由輝を見ると片頬を引き攣らせている。
「嫌だ‼」
叶うことのない抵抗の叫びが部室に響いた。
次は、夕さん!