へーんしんっ!
緋絽です!
役にのめり込むのは結構簡単にできた。劇の練習みたいで楽しかったし、その上周りも恥ずかしがってやったりしなかったし。
ただし。
いざ撮影となるとあの問題が出てくる。
そう、それは衣装だ。
なぜか我が映研部は本格的で、衣裳係とやらがいるのだ。
ついこの間採寸され、そして放課後。
赤い布地に白の糸で繊細な刺繍が施され、肩には金色の結われた紐が飾りとしてついたロングコートのような上着に同色で横に刺繍の入ったズボン。
下のシャツはよく使ったなというほど見事なレースに白いビーズが縫い付けてある。さらになんか見た目高級そうな黒光りするブーツを履いた。
『水で落とせる染髪料‼ 赤』
「…何これ」
手渡されたスプレーに書いてあった文字を茜に向けて首を傾げる。
「染髪料だけど?」
茜も首を傾げる。
沈黙が落ちた。
「…えっ!?何、この当たり前じゃんみたいな空気」
「えっ?当たり前なんだけど。早くしてよ」
「は!?」
髪染めるのかよ‼
突然の事実に口をポカンと開けていると手の中からスプレーが消えた。
「あれっ!?」
「やんねーの?ちょい、屈んで屈んで」
朝弥が由輝とうおーい、うおーいと無駄に男らしい掛け声をかけあって固まっている俺を肩で押し合って椅子に座らせらた。
「あっ、おいっ」
「ほれほれ動くなって。顔ついたらヤバい絵面になるぜ」
由輝が俺の頭にスプレーを振りかける。
「おっし完了!」
朝弥が俺がいつもくくってるように俺の髪をくくった。
「「「おぉー」」」
俺が着替えるのを待っていた3人が感嘆の声をあげた。
「すげーすげー‼真実、よく似合ってるぜ」
朝弥がバシバシ背中を叩く。
「うん。王子様そのものだ‼」
親指を立てて由輝が頷いた。
「そ、そうか…?」
「じゃあ後は、ハイ」
「え?」
手の平に何か乗せられる。
見るとコンタクトだった。赤いワインカラー。カラーコンタクトだ。
「これで完璧」
満足そうにニヤリと茜が笑う。なかなか不敵な笑みだ。
溜め息をついてトイレに行ってコンタクトをはめた。
「うしっ」
トイレを出ると女子に会って悲鳴をあげられた。
「え?」
「えー!?誰ー!?」
その声の高さになんとなく身の危険を感じた。片頬が引き攣る。
「し、失礼します‼」
恐怖に身をまかせて逃げる。
なんで…っ‼
「なんで追いかけてくるんだよー‼」
奇声をあげて追いかけてくる女子は、まけると思っていたがすごい執念で追いかけてくる。
はっきり言って怖い。ものすごく怖い。
撮影場所に行ってドアを開けた。
「た…っ、助けて‼」
慌てて中に入ってドアを閉めると廊下を走っていく音が聞こえた。
「何事?」
由輝がただ事ではないと思ったのか傍に寄ってきた。
「し…っ、知らない、けど…っ追いかけっ、追いかけられたっ」
「あ、そう…」
どんなすごいことかと意気込んでいた分、白けた顔になった。
「ま…まじで、怖かったんだからな‼」
「いいじゃん。騒がれたわけだし」
朝弥が写真を撮る。
「撮るな‼」
「撮るよ真実」
「だから撮るなって…え?」
茜が丸めた台本で肩をボンと叩いた。
「映画。撮るよ」
「お、おう」
「じゃあシーン1いきまーす」
カチンと音がした。
次は夕さん!