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白紙に綴る夢  作者: 緋絽
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絡み付く

うふ、過ぎちゃいましたがまだ引っ張りますよー!

どうも、緋絽です!

「おはよーっす」

ガラリと扉を開けて教室に入ってきた俺を見て、他の3人が返事をしようと振り返った。

「おは………よ?」

今日は3月14日。すなわち、世に言うホワイトデーである。

「真実ーなんだその紙袋は!」

朝弥が飴を噛み砕いて呆気に取られたように言う。

俺の左手には、かなりの大きさの紙袋が握られている。

「あ、知る? 知りたい? しょうがないなー」

「うわ、何これ。無償に腹立つのはなんでなの」

茜が青筋を立てる。

「うそうそうそ! これ、ホワイトデーのお返し!」

「さすが…真実、ちゃんと返すんだなぁ」

苦笑して由輝が紙袋のなかを覗く。

おかしいおかしい。返さない由輝の方がダメだろう。

「いや、返せよ」

俺の言葉に由輝がフフンと笑う。

「何を言う。あんだけの量のお返しなんぞしてたら破産するわ!」

「ちょっと。なんかムカつく人がいるんですけど」

「自慢かコラ!」

茜が冷え冷えとした空気を纏い、朝弥が由輝に噛みつく。

「馬鹿、お前らあれ全部返すほど裕福なのか? よく考えろ、お前らはまだ高校一年生だ」

由輝が二人の肩を掴んで真面目な顔で詰め寄る。

「だって真実は、」

「あいつは気にしたらダメだ忘れろ」

「いやいやいやなんでだよ」

由輝の頭に手刀を落とす。

「だってお前んとこは一族総出でスポンサーについてんじゃん。そんなの俺達と同列には認めねー」

「それはしょーがねーじゃん。俺の采配だけで決められるもんなんてほぼねーし…」

蚊帳の外の二人が首を傾げる。

「何、何々、一族総出でスポンサーってどういうことだ!」

朝弥が突進してくる。

「はあ? どういうことってそういうことだよ」

「は!? そういうことって」

「ていうか一族ってのもなかなか使わないワードだよ?」

茜が汗をかいて言う。

「あ、そだ、今年は?」

由輝が振り返って言う。

「ゼリー。食える花が入っててなかなか綺麗なんだよ。家の料理人さんに頼んだら作ってくれた」

「おーあの人か。男気の人」

「そうそう男気。あの人、かっこいいよな」

フッと笑いが漏れる。

俺の顔を3人が凝視した。

「…………何?」

「いや、………なんか、真実って年々和装が似合うようになってきたよな」

由輝が目を逸らして言う。

「どういう意味だ。渋くなってきたってことか?」

「いや、なんか時々妙な色気みたいなんが…」

「は!?」

なんだ妙な色気って!

「その内かなり年下からもモテるようになるかもよ」

なんだ、その世の中を憂うような深いため息は。

「はぁ?」

「………実はうちの純がもうすでに」

朝弥がハッと思い付いた顔で言う。

「ほんとに? あんなにいたいけな幼い子に手を出すなんて外道の極みだね」

茜が眼鏡を押さえてジロリと俺を睨む。

「え? 何これ。何で俺今不当に責められてんの?」

「いやー、ねえ」

3人がウンウン頷く。

俺はふくれ面をして紙袋を抱き締めた。

「じゃーいいよ! お前らにも作ってきてもらったけど、もうやんねぇから!!」

「「「ウソですごめんなさい」」」



昼休みの屋上。

「真実さん」

その声に俺は振り返った。

腰まである艶やかな黒髪が風で揺れる。

華やかな美少女が淑やかに微笑んでパタパタと駆けてくる。

「申し訳ありませんっ、お待たせしてしまいましたね」

それに俺はゆるゆると首を横に振って微笑んでみせた。

この子が最後。

きっちり締めたネクタイが苦しい。

先々代から付き合いのある同業の一族の娘。

小さい頃に顔を合わせたきりで、でも高校に入ってから同じ学校になったんだよな。

「いえ、お呼びしたのはこちらですから。このような寒い場所にお呼びしたこと、お許しください」

「いっ、いえ。わたくしがあまり大勢の前に出るのが得意ではないと、覚えていてくださったからでしょう?」

ウソ、そうだったっけ。

「………敵いませんね」

ありったけの精神力を総動員してなんとか苦笑すると、ウフフと笑い返された。

もしかしたら、御当主が、後継者の妻に選ぶかもしれない相手。―――要するに、俺の婚約者になるかもしれない子。

「こちら、いただいたチョコレートのお返しです。ささやかなもので心苦しいのですが…僕の家の料理人が作った花のゼリーです。貰っていただけますか?」

誰だよ僕って。俺は俺だろう。

うぅ、窮屈だ。

「まぁ…! ありがとうございます」

はにかんだ笑顔に罪悪感が湧く。

すみません。でも、これは、嘘と偽りで塗り固めた『僕』なんです。

「なんて美しい。家に帰って、早速いただきますね」

「ありがとうございます。喜んでいただけたなら幸いです」

屋上のドアを開けて彼女を送り出す。

そして抜け目なくドアを閉め、フゥとため息を吐いた。

ネクタイを緩めてフェンスにもたれて座り込む。

「つ…かれた…」

いや、彼女が悪いわけではない。でも、あんな風に家のために自分の行動も、感情も、自分でコントロールできる女性は、………正直恐ろしい。もしかしたら、自分でコントロールしているつもりで、コントロールされているのかもしれないが。

今時、いい家の血を入れれば才能のある奴が産まれるという考えは廃れてきているはずだろうに。

足を投げ出してぼんやりすると、普段の生活が程遠いものに思えてくる。

時々陥る、仄暗い感情。人はこれを、孤独と呼ぶのだろう。

「薄墨なる孤独、ね」

御当主が、まだ俺が幼い時に言ったこと。

主には、常に孤独がついて回る。仄暗いその感情は、薄墨の景色とも似ているのだ。さすらば、薄墨なる孤独とでも呼ぼうかの。のう真実。お前がその薄墨なる孤独より、逃れうる日は訪れると思うか。

年老いてなお、大輪の華のように美しい、御当主。 その言葉は、絶大で。

あの子からのチョコレートを、断りきれなかったのは…。―――同情からなのか、それとも―――。

ゾクリと背筋が冷えた。

足の上に投げ出した両手さえ、その薄墨なる孤独に雁字搦めにされている気がする。

―――あぁ、なんだ。結局、俺もまだ…。

「……くん………東山君!」

肩を揺らされて我に返る。

目の前に、仏頂面の中元がいた。

「あ………」

その後に盛大に噎せる。

「ひ、東山君? 大丈夫?」

「ゴホッな、中元っ、なんでっ」

ここにいんの!?

「………ほんとは、東山君が来る前からいたもん」

「え」

ウソ。てことは。

「き……いてたよね……」

「うん。ばっちり。立ち聞きしてごめんね」

って言ってるのに不機嫌なのは何故かな?

「中元? なんか怒ってないか?」

「別にぃ。東山君なんか知らない」

プイとそっぽを向かれる。

えーっえーっなんでー!?

「さっきの子、可愛かったね」

「え、あ……あぁ、あの子」

フゥと息を吐く。

「……バレンタインにチョコくれたから、そのお返しかな…」

「ふーん。………私だってあげたのに……」

その言葉に。ぎょっと体を引いた。

な、な、なんだ今の。なんだ今の拗ねたみたいな顔。と、声!

思わず顔が熱くなる。

へなへなと顔を手で覆い隠したくなった。

可愛い。それも物凄く。

「い、や…っ、そうなんですけど。中元は、最後に、渡そうって」

ちらっと中元が俺を見る。

ばつが悪そうだ。

いや、でもなんとか怒ってる風を保とうとしているのがまるわかりだ。

「花のゼリー?」

「! いや、それはっ」

そうなんだけど。

…………渡そうか渡さまいかずっとなやんでいたわけなんだが。

「あー…のさ」

「え?」

「手、出して」

「手?」

無防備に差し出した中元がこれまた可愛い。

そこにピンクやら白やらの珠の繋がったブレスレットをつける。

「あげる」

「え!?」

ぐあ、今になって恥ずかしくなってきた。

いや、だってもう、好きとは伝えてあるわけですから。

「中元っぽいなって思ったら、買っちゃって」

ヘヘと笑いかける。

「もらって?」

ブレスレットが巻き付いている手首を指先でなぞる。

「ほっせ…」

「んな!」

変な叫び声をあげて中元が赤面する。

「え?」

「ほ、ほそ、くはっ」

え?

なんでそういった事態になったかはわからなかったが、妙に嬉しい。

思わず口許が緩んで目が細まる。

「フハッ」

俺の顔を見て中元がさらに赤面した。

「な、ななな…! 何っ、なんか……っ」

ギッと中元が顔を赤くしたまま俺を睨む。

「東山君、ずる…!」

中元の手首を引き寄せてブレスレットに軽く口づける。

「ずるいのは中元だ」

さっきまで、薄墨なる孤独にいたのに。

一瞬で連れ出してしまう中元は、本当に―――。

「やっぱりさ、中元。俺、中元が   」

手の中にある中元の手首がさらに熱を持った。



なかなか引っ張りましたね…。

次回、夕さん!

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