まきぞえ
とうとう100話を越しました!
早い。
今回もお待たせしました。
プー太です。
颯爽とカマさんが去っていき、部室にまがまがしいオーラが立ち込める。
嫌な予感をいち早く察知した俺は茜にアイコンタクトを送った。茜も同じことを感じたのだろう。ゆっくりと頷き、忍び足で出口に向かう。
「……なあ」
と真実。
ぎくりとした。急いでその場を離脱しようと取っ手に手を伸ばす。
「オレたち友達だよな」
「友達が困ってたら助けてくれるのが友情だよな」
な、と朝弥と真実の声が重なる。
どうやら一歩遅かった。諦めのため息を吐く。
「……一教科だけだぞ。俺はそれだけしか手を貸さないから」
「僕も」
「えー」
親切心を無下にするかのごとく激しいブーイングをされているのはなぜだろうか。
大して多くもなく、まして難しくもなく。そして解答付きのものもあったというのにそれをこなせなかったのになんでこんな上から目線なんだ。
「けちー。オレが馬鹿なの知っててそんなこというのかよー」
「もう一教科くらいやってくれても罰はあたんねえよ。やってくれよー」
こら、足にすがりつくな。
「はあ。とりあえずどれだけ残ってんの。それを聞いて考える」
「オレは数学と英語のワークと漢字!」
「俺は、えーっと。英語と古文と……」
指を折りながら確認していくが、その目は泳いでいるわけで。
「真実くん、数学も残ってるんでしょう?」
「は、はい。その通りです!」
また大きなため息が零れた。
「僕は朝弥の方をやるよ。由輝はそっちよろしく」
「ああ」
これは全部手を貸さないと終わりそうにない。仕方ない。
「真実、今から始めるぞ。今週の金曜までに全部提出させてやるから安心して」
「え、来週の月曜日まででもいいじゃんか」
「真実、金曜日だよ。それ以降はなにもしないからね。うだうだ言ってる暇があるなら課題出して。数学から片づけるよ」
この二人の課題の提出率が悪いのはきっと受験前まで続くのだと考えると頭が痛くなりそうだが、これをすれば自分の学力に繋がるのだと言い聞かせる。
「由輝スパルタ!」
「なんとでも」
翌日の放課後。真実の課題を理由に部活を無理やり休ませて四人そろって部室に籠り、課題にかかる。
昨日の帰りに俺の家で数学は終わらせたため、残っているのはあと二つ。今は古文を教えている(サボらないように監視している)途中だ。
「もう無理!レ点って!」
「レ点の説明はしたでしょ。あ、ここ置き字ね」
半泣きになる真実に強制的にシャーペンを握らせ、監視を続ける。
正面で茜にマンツーマンで教えられている朝弥の様子をチラ見するとあっちも集中力が切れる寸前だった。
「あーもう、休憩!10分休ませてくれ!」
「仕方ないな。これ解いたらひと段落するからそれからね」
「やったー」
横に視線を戻すと涙をためて潤んだ瞳がじっとこっちを見つめていた。
「あと2問あるからそれがすんだらいいよ」
ぶんぶん頭を振って1分もかからないうちに解き終わって休憩を満喫していた。
最初からその速さで取り組めば冬休み中に終わったはずなんだけどな。
「チョコうまー」
「由輝もチョコ食えば?限定品だぞ」
チョコ、ねえ……。
「そう言えばもうすぐバレンタインだよね」
何気なく無意識に口から零れた。
「それ禁句!」
あと3週間ほどで年に一度のイベントがやってくる。
平方がくれないかな、とぼんやり考えてしまう。
「でも朝弥と真実はもらえるよね。そこんとこどうなの」
いたずらを思いついたのか眼鏡がきらりと光る。
「真実?」
「いや、そんなさっ、俺より由輝だろ!」
真っ赤になった真実はおもしろい。
「俺は告ったよ。返事待ち」
「えー!!」
3人の声が重なる。
「言ってなかったっけ」
「言ってないよ!いつそんな展開になったのさ」
「宝岳祭の後夜祭だけど」
「定番っちゃそうだけど。なあ!」
「え、え、なあちょい待ってくれ。由輝の相手って誰の話してんだ!」
「誰って平方だけど」
「……平方ってあの?」
「たぶんあの平方だけど。で、真実。真実は?」
俺に集まっていた目が一斉に真実に移る。
うっ、と黙りこみ、顔をこれ以上ないほどに赤くして口をもごもごと動かしている。
ふむこれはなにかある。どうやっていじめてやろうかな。
ピンと閃き、口にしようとしたところでドアがバーンと大きな音を立てて開けられた。
「課題の進み具合はどう?」
カマさんが登場した。
くそ、この話題がもうできないじゃないか。
落胆しつついそいそと課題に戻る。
「真実、帰り道で教えてよね」
「いやだ」
赤みの抜けない顔で睨んでも怖くないが、はいはいと返事をしておいた。
課題はちゃんと出し切ったのだと思う。
次は緋絽さん。
よろしくお願いします。