二正面軍事行動
今話だけではなく、後半は書き直したほうがよかったかもしれません。ただ、書き直すののは世界の現状からして、難しく、まったく異なる話しになっていたかもしれません。少し汗顔増す。
一九九八年のカムチャッカ独立国が東露西亜の一部(自治州)となったことで、露西亜極東軍との関係が悪化することとなった。半島国家であればまだしも、東シベリア南部を領土とし、東亜細亜有数の経済国の一部となれば、露西亜の対応も変わらざるを得ない。なにしろ、カムチャッカ半島周辺は天然資源が多く眠る場所として露西亜中央では認識され、国際的にもそう認識されていたのである。
それまでの極東開発とは異なり、露西亜中央は本腰を入れて極東の維持に向かうこととなる。その表れともいえるのが太平洋艦隊の再編であったといわれる。アクラ級攻撃型原子力潜水艦の整備による稼働率上昇、四隻しかないキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦『フルーンゼ』のマガダン再配備、スラヴァ級ミサイル巡洋艦『ヴァリャーク』の再配備という海軍力の増強および極東陸軍の増強といえる。さらに、露西亜中央の制御が利くようにもなっていた。もっとも、彼らは日本海を通ることはなく、日本列島東の太平洋を通り、千島列島のいずれかの海峡を通ってマガダンにいたることとなる。
この当時の露西亜は、バイカル湖以東に東露西亜国が存在することで経済状況ははるかにまともであったといわれる。民間交流による結果、それなりの発展は見せていた。ただ、レナ川以西に集中された経済により、東シベリア方面はそれほど力を入れていなかったことがカムチャッカ半島事件となって表面に現れたといわれる。いずれにしても、現在はそれなりに極東地方に力が入れられていた。それが冷戦崩壊後の西側工業機械の導入によるものであったとされる。
現在確認されている露西亜海軍編成は以下の通り。
「キーロフ」級原子力ミサイル巡洋艦『フルーンゼ』、「スラヴァ」級ミサイル巡洋艦『ヴァリャーク』、駆逐艦四隻、「オスカー」級ミサイル原子力潜水艦『イルクーツク』『ヴィリュチュンスク』『オムスク』『トムスク』『クラスノヤルスク』『チェリャービンスク』、「アクラ」級原子力潜水艦『ブラーツク』『マガダン』『クズバス』『サマーラ』『バルナウール』『カシャロート』『アクーラ』、「デルタ」級原子力潜水艦『ポドルースク』『ペトロパヴローフスク・カムチャツキー』『スヴャトイ・ゲオルギー・ポベドノーセツ』『ゼレノグラード』、「キロ」級潜水艦五隻、揚陸艦六隻、その他多数であった。
その他にMig31戦闘機配備の航空隊、Tu-22M3飛行隊、Tu-142M3飛行隊、対潜哨戒機Il-38などの航空戦力、六万人の海軍補英部隊、三〇万人の陸軍戦力、六○○機以上の空軍戦力が配備されていた。
その露西亜極東と連動する形で整備された艦艇や航空機、陸上兵器が中華人民共和国にも流れたということであろうと思われた。それが、ヴィクターIII級原子力攻撃潜水艦や水上艦艇多数、Su-27やMig29などの最新鋭兵器が売却されていたといえる。これによる経済立て直しなども行われていたと考えられる。
他方、中華人民共和国では工業化はそれほど進んではいないが、軽工業や繊維産業が発達し、それなりの財源があったとされている。むろん、特権階級とそれ以外の国民との貧困の格差ははるかに多いとされている。そのため、華南共和国や中華共和国、満州国に密入国する人間が後を立たないといわれてもいた。とはいえ、人民軍二○○万人と海空軍の充実により、中華思想に回帰していたともいえる。
結局のところ、日本が自国の安全を確保するためにはオホーツク海方面と東シナ海方面の沿岸の安定化が必要であった。そして、中華人民共和国が原子力潜水艦を手にしたことで大きく脅かされていることになる。露西亜の水上艦艇は日本海を通ることはまずないが、潜水艦はそうではなかった。関門海峡、津軽海峡、宗谷海峡、千島海峡は国債海峡として開放されているため、基本的に浮上航行しなければならないが、あまり守られてはいなかった。
そのため、最も近い扶桑州と北海道はデフコンレベルをイエローに上げていた。そして、台湾州は中華人民共和国の事情から同じくデフコンレベルをイエローに上げていた。日本全体ではいまだブルーのままであった。それは瑞穂州や秋津州という本国から離れた領土が在るためのデフコンレベルの差であった。しかし、一九九九年九月の黄海事件発生に伴ってデフコンレベルは日本全域(南シナ海の瑞穂州や秋津州も含めて)でオレンジに引き上げられることとなった。
南シナ海の瑞穂州や秋津州では周辺域は何もなくてもレベルが上がるということは良く在ることであった。ただし、レベルが上がれば、第四艦隊は出動することとなる。今回の場合であれば、台湾州に向かうこととなる。もっとも、フィリピンの米海軍基地が存在するため、その兼ね合いも存在する。少なくとも、現在のところは米国と良好な関係が続いているため、問題はないとされていた。もっとも、露西亜にしても米国にしても情報収集のための艦艇は派遣している。
米国はグアム島に本拠地を置く第七艦隊から、露西亜はマガダンの太平洋艦隊からそれぞれ艦艇を派遣することになる。米国は電子作戦艦を、露西亜は情報収集船を出すことが多いといわれる。当然ではあるが、潜水艦も派遣している。旧ソ連製の原子力潜水艦は騒音が大きく、日本海軍では多くの潜水艦を探知することは難しくはないとされている。しかし、アクラ級やシエラ級、タイフーン級はてこずることになる。翻って米国のロスアンゼルス級やオハイオ級は探知が困難であるとされている。
こと潜水艦技術に関してはまだ日本に利があった。第二次世界大戦終了時、独逸の潜水艦技術は日英で独占していたからである。米国や旧ソ連は日英の技術を取り入れて開発していたといえる。「潜竜」型戦略核ミサイル搭載原子力潜水艦はまだ米国艦艇に探知されたことはないといわれているし、「海魚」型攻撃型原子力潜水艦はロスアンゼルス級よりも静音であるといわれていた。
ともあれ、日本海軍は二正面に艦隊を派遣するという不利を蒙ることとなった。そのため、これまで実戦経験のない第二艦隊が択捉島に派遣されることとなり、その間、呉のやはり実戦経験のない第三艦隊が横須賀に進出することとなった。もう一隻、「天城」型空母が舞鶴にあるが、これは練習空母であるために進出することはない。また、波の荒い日本海での訓練が有効とされ、舞鶴に配備されていたのである。
航空母艦『葛城』は練習空母とされる際、徹底的に改装されている。まず、原子炉を撤去して今では珍しい蒸気タービン機関に換装され、航続力も短く、武装は近接防御のための二五mmCIWS二基のみとされている。練習空母の任務は空母乗り組み乗員の教育および母艦航空機搭乗員の養成であり、国外へ出ることはまずない。例外的にウラジオストック、扶桑州の本国から近い日本海の領土に出ることはあった。
皇国海軍の四個艦隊すべてが航空母艦を有する機動部隊であり、平時には佐世保の第一艦隊は東シナ海および西部太平洋を、横須賀の第二艦隊は北太平洋およびオホーツク海を、呉の第三艦隊は中部太平洋および日本海を、三田冠の第四艦隊は南シナ海および西部太平洋をそれぞれ担当するとされている。しかし、一九五五年のマリアナ事変以降、米国とは睨み合いのみで戦端は開かれおらず、中華中央での紛争が起きたことから第一艦隊がもっとも実戦経験があり、ついで第四艦隊であった。