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カムチャッカ紛争

これはこの世界では起こりえるであろうと思います。人口希薄地帯ですし、東露西亜の存在もあります。

 一九九四年九月、千島列島最東端の占守島(しゅむしゅ島)はもう寒い時期であった。占守島はカムチャッカ半島と至近の距離にあり、千島海峡は皇国が直接露西亜と国境を接する唯一の場所でもあった。この島はすぐ隣の幌筵島(ほろむしる島)とは異なり、人が住むにはあまり適していない。その島にカムチャッカ半島最南端から一〇〇〇人もの人間が押し寄せていた。粗末な漁船に軽く定員オーバーで渡ってくるのである。


 第一一師団第一一三連隊第三大隊第二中隊第三小隊所属の将兵たちは六四式小銃を手にそれを見守っていた。原因はわかっていた。ソ連崩壊により新たに誕生した露西亜中央の混乱と治安悪化により、露西亜を脱出するケースが頻発しているのである。それは何もここだけではなかった。扶桑州北端でも起きており、東露西亜でも頻発していたのである。日本政府は露西亜政府に対応を求めているが、露西亜は善処しているとの返事のみで改善されていない。


 彼らに出された命令は人数の確認とその原因の調査および難民の保護であった。皇国政府は人道的処置として難民の保護を行っていた。この一ヶ月で東露西亜だけで既に五万人あまりの難民が、千島海峡を渡って三〇〇〇人の難民がいた。第一一三連隊本部は択捉にあり、第三大隊本部は幌筵島にあった。最初に彼ら難民を発見したのは海軍の対潜哨戒機であり、気づいたときには既に一〇〇人程が占守島に渡っていた。


 皇国政府は占守島難民をとりあえず幌筵島に移し、帰国か拘束を選ばせている。すべての難民が帰国を拒否したため、島にある缶詰工場や魚介類加工工場での労働に就かせている。強制送還も考えられたが、それも不可能だと判明する。皇国の船がペトロパブロフスクカムチャツキーに近寄ることができないからである。幾度か試みてはいるが、露西亜軍を名乗る武装勢力による攻撃を受けていたのである。


 難民の中に一〇人程の軍人が混じっていることを確認した皇国軍上層部は彼らからの情報提供を要求することとなる。そして判明したのは、ソ連崩壊後に軍上層部の一部の人間と民間人との結託により、無秩序状態になっていることが判明する。さらに、良識ある軍人や知識人は監禁されているらしいことも判った。露西亜政府は何の手も打っていないという。


 冷戦崩壊後、ソ連邦が解体されてゆくにつれて、新たに成立した露西亜共和国は数々の問題を抱えていたとされる。その多くが中央の手の届かない地域の治安悪化だといえた。中でもレナ川以東のシベリアがそうであった。ましてや東シベリアやカムチャッカ半島は中央からも遠く離れているため、露西亜政府でも把握されていないと考えられた。


 いずれにしても、軍人の中で最高位であるミハイル・ブーリン陸軍大佐から得た情報は皇国政府や皇国軍を震撼させえることとなった。また、ブーリン大佐をはじめとする軍人は東露西亜への亡命を求めていた。皇国と東露西亜国の関係は良好であり、亡命に応じることは可能であった。しかし、東露西亜国は過去の経験から、何らかの身分証明書を所持していなければ認められるまでは長期間有することとなっていた。


 カムチャッカ半島のペトロパブロフスク・カムチャツキーは天然の良港であり、露西亜極東艦隊の根拠地でもある。ブーリン大佐がいうには、極東軍管区でも陸軍と海軍は不仲であり、海軍は極東軍管区の命令よりも中央の命令で動くようであった。現に冷戦崩壊後、駆逐艦以上の水上艦艇は欧州に在って、ペトロパブロフスク・カムチャツキーには小型艦艇しかなく、それ以外には潜水艦が配備されているだけだといわれ、その潜水艦にしてもマガダンに配備されることが多く、ペトロパブロフスク・カムチャツキーにはあまり近寄らないらしいことも判明している。


 結局、皇国政府や皇国軍が恐れているのは艦艇、特に潜水艦装備の核ミサイルであり、戦略核ミサイルであった。ブーリン大佐がいうには陸軍には核ミサイルはなく、露西亜中央が制御する核ミサイルは戦略原子力潜水艦に移行されているとのことであった。


 この占守島難民はメディアによって既に報道されており、皇国政府としても国際連合に持ち込む予定であったといわれる。ではあったが、ことはそう簡単には進まなかった。友好国である東露西亜国も含めればすでに万単位の難民が発生していたのである。現地では有力な知識人の亡命も相次いでいたといわれる。


 ここにいたって、皇国政府および軍上層部はこれら地域が無政府状態に近く、現状では何の解決にもならないのではないか、そう判断せざるを得なくなっていた。放置しておけば、千島だけではなく、樺太、ひいては東露西亜国にも影響がおよび、域内の治安が悪化し、経済的負担も増加すると判断することになる。とはいえ、解決策は今のところ見いだされてはいなかった。


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