欧州での戦い2
こういう設定で戦いえるかというと不安ですが、どうでしょうか。いずれにしろ、史実ではまずありえないことでしょう・たとえ、大日本帝国が連合国側に回ったとしても、工業力の面から大して貢献はできなかったと思います。それこそ、米英から技術導入を図って五割以上工業力が増強されていなければならないでしょうし、それでも無理かと思います。当時の大日本帝国でも、産業基盤に影響しない兵力はかなりあったと思いますが。
以後、遣欧艦隊主力部隊は地中海および北大西洋で、新たに派遣された第二護衛部隊は大西洋で、「鴻」型海防艦を有する第一護衛部隊は地中海でそれぞれ任務に就くことになった。第一護衛部隊旗艦である水上機母艦『日進』から発艦した水上偵察機<瑞雲>は最初の英国本土への船団護衛において三隻のUボートを撃沈破しており、これが英国海軍に護衛部隊には水上機母艦と水上偵察機<瑞雲>をと思わせたのであろう。<瑞雲>は売却された「千歳」型水上機母艦搭載分を含めて一○〇機を購入しており、大戦末期には英国でも生産されている。
もう一機種、英国海軍がほしがった機体があった。一七式大艇(史実の二式大艇)である。空輸時七二〇〇kmという航続距離がその理由とされた。重ねて言うが、この時点ではまだ米国は参戦しておらず、レンドリース法すら制定されていない時期である。ちなみにこのころ、皇国本国では新型電探を載せた警戒管制機型とMADを搭載した対潜哨戒機型が既に正式採用されて就役していた。英国海軍の前に現れたのは一七式輸送飛行艇<晴空>と対潜哨戒機型<潜空>であった。
一九四三年一一月、英国陸軍(ANZAC部隊含む)と皇国陸軍連合部隊一〇万人がフランス領北アフリカに上陸、東進を開始した。枢軸側北アフリカ部隊の侵入を阻止し続けていたモントゴメリー中将のエジプト駐留軍と共同し、北アフリカから枢軸軍を追い出すための作戦であった。マルタ島を根拠地に遣欧艦隊主力部隊と第一護衛部隊の働きにより、ジブラルタルや英国本土からの補給は確保され、逆に枢軸側の補給路遮断に成功していた。
マルタ島を防衛するための航空隊には<スピットファイア>戦闘機、<ハリケーン>戦闘機などに混じって、一七式局地戦闘機<雷電>や一七式戦闘機<飛燕>があった。この二機種はもともとが独逸のダイムラーベンツのエンジンを基にした国産液冷エンジンを搭載していたが、ここマルタにあるのはロールスロイス製エンジン(「マーリン」45液冷V型一二気筒一四八〇馬力、「グリフォン」65液冷V型一二気筒二〇五〇馬力)を搭載したものであった。特に「グリフォン」エンジンを搭載した<雷電>は八〇〇km近い速度を誇り、航続距離も一五〇〇kmを誇り、地中海では無敵とも言われていた。
ここマルタ島には皇国海軍基地航空隊である第二〇航空艦隊が進出していたのである。そのため、「隼鷹」型航空母艦二隻は新編成された海上護衛総隊所属の海防艦の護衛を受けながら、瑞穂州や秋津州、果ては本土とスエズを往復し、航空機輸送に借り出されていた。こうして独逸アフリカ軍と伊太利亜の補給を絶つことにより、独逸アフリカ軍の戦力をそぐことに成功していたのである。
一九四四年六月、北アフリカの枢軸軍が降伏し、北アフリカ戦線は終結する。むろん、遣欧艦隊機動部隊による対地攻撃も効果が大きいと判断された。これで地中海南岸の制空権は確保され、輸送機の航行は安全であるとされた。地中海は東西の長さ約三八六〇km、最大幅約一六○○kmであり、一七式大艇の輸送型<晴空>なら十分に活動可能であった。海上はUボートの脅威が完全に消えたわけではなく、輸送は未だ不安な面もあった。しかし、この後、遣欧艦隊も英国本土も悲劇を味わうことになる出来事が起こる。
地中海を主戦場とする艦隊を襲ったのがFX1400XフリッツX誘導弾とHs293誘導弾であった。最初に被害を受けたのは英国地中海艦隊の『ウォースバイト』であった。『ウォースバイト』はFX1400XフリッツX誘導弾三発を受けて大破、戦列離脱を余儀なくされたのである。その後、遣欧艦隊第一二戦隊戦艦『榛名』『霧島』がそれぞれFX1400XフリッツX誘導弾二発を受けて中破、戦列離脱を余儀なくされた。極めつけは第一二航空戦隊の空母『龍驤』『龍鳳』がそれぞれFX1400XフリッツX誘導弾二発を受け、『龍鳳』が沈没、『龍驤』も大破後自沈処分となったことであった。
幸いにして航空隊は全力出撃中であったため、航空隊に被害はなく、マルタ島に帰還しており、角田覚治少将も脱出して事なきを得ていた。遣欧艦隊司令官山本五十六大将は本国と計り、『榛名』『霧島』と航空戦隊を日本に返し、新たな部隊と交代することにした。だが、大西洋や北海で艦艇に甚大な被害を受けている英国海軍は『榛名』『霧島』『蒼龍』『飛龍』の譲渡を申し出てくる。英国海軍で現存している戦艦は「キング・ジョージV世」型戦艦の『キング・ジョージV世』『プリンス・オブ・ウェールズ』『デューク・オブ・ヨーク』『アンソン』『ハウ』、「クイーン・エリザベス」型戦艦の『ウォースバイト』のみ、しかも『デューク・オブ・ヨーク』『アンソン』『ハウ』『ウォースバイト』は長期のドック入りを余儀なくされている状態であり、航空母艦も「イラストリアス」型航空母艦『ヴィクトリアス』『フォーミダブル』のみであり、大規模作戦には艦艇が不足していたからであった。
しかし、新たなる攻撃にさらされている英本国では艦艇不足は更なるものとなっていたのである。V-1(後にHs293誘導弾と判明する)による爆撃であった。結局、「金剛」型戦艦四隻すべて、「蒼龍」型航空母艦二隻の英国への売却が決定する。航空母艦の場合は戦闘機以外の艦載機もすべて売却された。彼らが最も喜んだのは艦上偵察機<彩雲>であったかもしれない。売却艦はマルタ島で引渡しおよび習熟訓練が行われ、三ヶ月後に英国本土に向かった。さらに、「雲龍」型航空母艦三隻が翌年に相次いで売却されている。
いくら皇国の工業力が史実よりは高いとはいえ、あまりにも無謀であると思われたが、中国戦線がなかったこと、工業生産を無視した徴兵が行われていなかったこと、基礎工業力が上がっていたことがこれを可能にしていたといえるだろう。満州国や朝鮮に無謀な投資をしておらず、瑞穂州や秋津州、扶桑州の存在がさらに生産力を向上させていたといえる。距離はあるにしても、英国にとって今や皇国の生産力や軍事力は欠かせなかった。挙国一致内閣のチャーチル首相は米国の尻を叩いているが、米国は動かなかった。
史実のようにレンドリース法が適用されていれば、英国としてももっと楽に戦えたかもしれない。しかし、ないものはないため、英国としても可能な方法でこの危機を乗り切らなければならなかった。そして、皇国もそれに答えるべく、可能な限りのことはやっていた。戦闘に関係のない日用品などは満州国や朝鮮から購入し、欧州に送っていたのである。それほど工業生産に力を入れていたのである。