イケメンな幼馴染は俺のことが
「……直哉」
「ん?」
「あたし、昨日告られた。3組の長野ってバスケやってるやつ」
「ふーん。で?」
朝。
高校までの道すがらそんな話をしてきたのは、俺の幼馴染で隣の家に住む美怜。
新興住宅地で近所には俺たちの他にも子どもが数人いたが、一番仲が良かったのが彼女だった。
子供の頃は美怜も男の子みたいで毎日日が沈むまで泥だらけになって遊んだものだ。
「断ったけど?」
「ん。それって2年になって何度目くらいなんだ?」
「そんなの数えてるわけ無いでしょ。でも片手じゃ足りないくらいかもね」
「モテモテだな」
実際には6人目である。4月から6月のたった3か月で6人は驚異的だと思う。因みにだが、去年は1年間で女子生徒からの告白まで含め17人に告られている実績がある。
美怜はボーイッシュなイケメン美少女である。
ちょっと表現が渋滞しているが、そう言い表すのが一番わかりやすいと思う。
これは他人からの評価をまとめたものなので間違いないと思われる。
ずっと長いこと美怜と一緒にいた俺の主観を入れるとややこしくなりそうなので、俺の考えは端に置いておくことにした。
身長は俺と大差変わらないくらいの170センチ。美怜自身はスポーツをやっていなかったが、彼女の両親が高身長なのでその遺伝子を色濃く受け継いだのだろう。
髪は子供の頃からずっとベリーショート。小さい頃は今よりも更に短かったから本当によく男の子と間違われていた。
目鼻立ちがきりりとしているので、そこがイケメンと言われる所以なのだろう。一部の女生徒からは”王子”なんて漫画みたいなニックネームで呼ばれていることも知っている。
しかもスタイルさえそれなりにいい。薄着で俺の部屋に来ることもあるので、そのあたりの評価も間違っていないと思う。
「直哉」
「なに?」
「毎度告られて断るの、めんどくさい」
「だろうな」
毎回美怜が告白を断る際は本当に申し訳なさそうな表情をしていて、断っている美怜のほうがかわいそうに思えるほどである。
一部の男子――若干名の女子も含まれるらしい――は振られるのが解っていて記念と称して美怜に告白してくる不届き者もいるなんて話を耳にしたことがあった。
俺は美怜の気持ちも考えず、遊び半分で告白をしてくる連中のことを絶対に許さない。
「直哉」
「なんだ?」
「もうこんなこと終わりにしたいんだけど、実は終わらす方法があるって言ったら協力してくれる?」
「当たり前だろ。俺はおまえのなんだって言うんだよ? おまえが困っているなら、どんなことだって協力を惜しまないさ」
突然に立ち止まる美怜。
何事かと彼女を振り向いて見たが、先程までの沈んだ表情が一変し、ニコニコというかもはやニヤニヤに近い表情をしていた。
「直哉、言ったね? 言質取ったから。男に二言は許されないよ」
「あたりまえだろ。それよりもどうしたんだ? のんびりしていると遅刻するぞ」
「わかった。もう逃げられないからね」
「なにそれ、怖い」
物静かな美怜にそんなことを言われると何があるわけではないがちょっと怖くなってしまう。
でも美怜の言う”方法”ってやつも大したことではないだろうし、彼女のためになるのならば俺も頑張るつもりだ。
美怜も再び歩き始めてくれたので遅刻せずに高校に着きそうだ。
交差点の角を曲がれば校門が見えてくるという場所まで来て、美怜が急に俺の手を取る。
「どうした?」
「嫌なの?」
「別に子供の頃は毎日手は繋いでいたし嫌じゃないけど」
「だったらこのままで」
嫌ではないが、男女が手をつないでいても問題ないのはせいぜい小学生までで、高校生にもなった今では少し問題があるのではないだろうか。
「これじゃ駄目か。なら、こうならどう?」
「お、おい。これって……」
「そうだよ? いわゆる恋人つなぎってやつ」
「美怜、おまえこんなことやったらみんなに勘違いされるだろ?」
これではまるで俺と美怜が恋人同士のように見えてしまうじゃないか。
「なにか困るの?」
「俺が困るというか、美怜が困るだろ?」
「ううん、ぜんぜん。困るどころか助かる、というか安心できるよね」
「おまえなぁ……。どうなっても知らないからな」
美怜と恋人だと勘違いされても、俺の場合、多少からかわれる程度であまり実害はないだろう。
だけど美怜としてはボーイッシュでイケメンな美少女王子様のバリューが落ちるんじゃないだろうか。
手を恋人つなぎにしたまま校門をくぐる。
四方八方からの視線に晒されるが、美怜はなんとも涼しい顔をしている。普段から注目されているとこの程度はなんともないのだろう。
「おはよ、美怜」
「おはよう、ともちゃん」
「なに、とうとうものにしたの?」
「まだなんだけど、これからね」
美怜の友人の朋美さんが駆け寄ってきてよくわからない会話を繰り広げている。
ものにするって、何を? これからって、何が?
ちょっと不安になるんですけど……。
「直哉」
「なんだよ?」
「あそこまで行ったら、一旦止まって」
「あそこって、銅像の前? なんで」
いいから、と言って美怜は俺の手を引いていく。ちょうど登校のピークらしく、ぞろぞろと関係ない生徒までついてくる。
みなさんは、こちらを放っておいて早く教室に行ったほうがいいのでは?
「直哉」
「はい?」
「あらためまして、直哉のことが好きです。あたしと付き合って」
「……なんて?」
何故か俺たちのことを遠巻きに囲っていたオーディエンスから『うおおお!』というどよめきが起きる。
俺自身も美怜に何を言われているのか分からず思わず聞き返してしまった。
「直哉、だからね。あたしはこーんなちっちゃいころからずっと直哉のことが好きだったんだ。だから、あたしの恋人になって」
「え、あ、お?」
「何でもいうこと聞くんだよね? だったら、ちゃんと受け止めて。大好き、直哉」
「ああ、うん。わかった……」
協力は惜しまないとは言ったが何でもいうこと聞くとは言った覚えがない。
でも、美怜がそこまで俺のことを想ってくれるのならばそれに応えるのが俺だろう。
そしてもちろん、俺も美怜のことがずっと好きだったから。
「よろしくな」
「直哉っ」
「おっ、なにするっ!」
「んー!!」
みんなの前で思いっきりキスされた。
身長が同じくらいだとキスってやりやすいんだな……なんて考えている場合じゃない。
騒ぎに気づいた先生に生徒指導室まで二人して引きずられて行ったけど、美怜と繋いだ手は決して離さなかった。
もちろん、恋人つなぎでね。
先生には余計に怒られたが悔いはない。




