王子の勘違いが勘違いを生む
夜の帳が下りたトウショウ王国の宮城上空を隠蔽を掛けて飛ぶ木こり姿のアイファウスト。
「さてと。王女様はどこにぃぃぃあれぇぇ?王宮には居ませんねぇ。お城の方でしょうかぁぁ。
はぁぁぁ?何で火の見櫓みたいな塔のてっぺんにぃぃ?
スイシャーナ隊長達もあそこかぁぁ。行ってみるかぁ」
(えっ?結界魔法?何で?脱出阻害?嘘。監禁されてるの?何で?まぁ入れますけどぉぉ。探知の魔法はかかっていませんね)
ベッドの上で窓から月明かりを見ていたアイミーナ。
その窓枠に人影。
そして。
コンコン。
「何方ですか?そちらの窓は物凄く高いですよ。怖くありませんか?」
そう問いかける間にアイファウストは窓の扉を開けて部屋の中に入った。
「僕ですよ。お姫様。ああご存じなかったですね。お加減は?」
「狩人さん?」
「はい。何故ここに?」
「お爺様が暫くここに居ろ、その方が
(やっぱりかぁぁい。クソジジィがぁぁ。許すまじ)
「そうですか。失礼いたしますお姫様」
「わぁお姫様抱っこぉぉ。狩人様ぁぁ嬉しいぃぃ」
「少々手荒な
ノックも無くへの入り口が開いた。
(はぁぁスイシャーナ隊長ですかぁ)
「姫様?月明かりの逆光でシルエットしかぁ何やつだぁぁ。あっ姫様。姫様ぁぁ。であえぇぇ。皆であえぇぇ。不審者だぁぁ。姫が攫われるぅぅ。
待てぇぇ
「待ちません。では」
「えっ。その声。アイファウスト王子殿下?って、えぇぇぇここ下まで二十メートルあるぅぅ
スイシャーナは窓に駆け寄って身を乗り出し下を見た。
「居ない?どこだ?あぁぁぁ飛んでるぅぅ
後ろに部下が来て。
「隊長。姫様は」
「アイファウスト王子殿下に攫われた。あそこだ」
「えぇぇぇぇお姫様抱っこをしながら飛んでるぅぅ
「付いてはいけませんね。どうなさるのですか?」
「陛下は緊急でお忙しい。公爵閣下だ。
ここに三人残れ。お二人の行く先を見定めろ。
サーラ副隊長の三人は姫様の宮中のお部屋。
三人はわたくしと共に公爵閣下の執務室」
「了解」
「行くぞ」
「夜のお空が奇麗ぃぃ」
「寒くは有りませんかお姫様」
「大丈夫。飛んでいるの?」
「はい。飛んでいますよ。あちらのお部屋ですね」
「そう。もう終わり?」
「はい。寒空はお体に障ります。もう完治されたようなので僕のお仕事は終わりです」
「町の明かりが奇麗」
「そうですね。とても奇麗ですね
「もう少しダメ?」
「体が冷えてしまいます。ダメですよ。
あれ?あの人だかりは?」
「スイシャーナが言ってた。今日ギルドで自殺者が出たって。お父上の目の前で。でも、命は助かったみたい」
「そうですか。はい着きました。ベッドで暫く温まってください。メイドさんを呼んできます」
「アイファウスト殿下」
「待っていてくださいね」
「アイファウスト王子殿下ではありませんか?」
「大森林の狩人です。お休みなさい。姫様」
「ああ。行っちゃった」
「姫様ぁぁぁ
「チャメル。ただいまぁ」
「お怪我は?何かされていませんか?」
「狩人様が診察に来てくれたの。塔の上からここまでお空を飛んで来た」
「まぁぁなんとぉぉ
「体が冷えるといけないからベッドの上なの」
「シーツを掛けますね」
「ありがとう」
「今、温かいお飲み物を」
「うん。甘いミルク」
「はい」
「わたくし。わたくし。王子様のヒロイン役?きゃぁぁ恥ずかしぃぃ。
とても素敵なお方でしたぁぁ」
「お待たせいたしました・・・姫様?
枕をお抱きになって、どうなさったのですか?
お寒いのですか?」
「うぅぅうん。違うの。
アイファウスト殿下がとても素敵だったので、思い出しているの」
「さようですか。
もう間もなく、スイシャーナ隊長がいらっしゃいます。
ミルクが冷めないうちにどうぞ」
「ありがとぉぉ」
トウショウ王国の城。公爵の執務室。
顔中を腫らし、ボロボロになった服で床に転がるドルトメスが。
「はぁぁはぁぁまぁ待ってくれぇアイ アイファウスト殿下ぁぁ」
「待たない。姫をどうして塔の上に閉じ込めた。ドルトメス・イズ・ジョウザン公爵閣下のじいさんよぉぉ。おらぁ
腹を蹴り上げた。
「ぐふぉ
「可愛い孫娘じゃねぇのかぁぁクソジジィがぁおらぁ
もう一発。
「ぐふぉぉ
「何とか言えよクソジジィ。おらぁ」
「ぐふぉぉぉ、まぁぐふぉぉぉ、待ってくれはぁはぁ待ってくれないか。り 理由が はぁはぁ ある
「早く言えよぉぉ。もう一発行くぞぉぉ
「狙っている。はぁはぁはぁ。いや、狙われる
「誰にだ」
「今はいない。だがあなた様。アイファウスト王子殿下の寵愛を受けた はぁはぁ
「いつぅぅ」
「賊からの襲撃を助け、ヒールを掛け、はぁはぁ、ポーションをあなたから授かった」
「だから狙われるから高い塔の上に結界張って軟禁していたの?」
「はぁはぁ軟禁ではない。だが、そう。そうなる。はぁはぁうぐぅ。
あの一件が表に漏れている事実が解った。うぐぅぅ、教会とホルカイ帝国もその情報を掴んでいる」
「西門で盛大にやり過ぎた?」
「それも有るが、この城も含め全て監視されている。
はぁはぁはぁ、王宮内にあの時、教会側の三人のスパイがいた。はぁはぁ外部からもホルカイと教会の三人にはぁはぁ見張られていた。
はぁはぁ、イフィスの影が突き止めたうぐぅぅ」
「あららぁぁ」
「アイミーナを誘拐しはぁはぁ、アイファウスト王子殿下をおびき寄せるための道具にされないようにはぁはぁ、警戒した結果だ」
「それにしてもあんな寂しい場所にしなくても」
「あの塔にしたのは、陽の光が差すはぁはぁ最も安全な場所だとはぁはぁ思ったからだ。
王宮のはぁはぁアイファウスト王子殿下の結界がうぐぅ安全だとも思ったのだが、出入りの可能な者が多いはぁはぁだからあの塔にした。
勿論自由は保障している。学校にもスイシャーナ隊長達と行っている。うぅぅ。
部屋に友達すら呼んでいる。食事も両親と共に食べ、質も量も制限も全くない。寝る時は母親のイフィスも一緒だ。今は急用で部屋を出ている。
ただ、狙われる可能性は排除できない。外での遊びは控えている。はぁはぁ、嘘ではない。側仕えやスイシャーナ隊長にはぁぁ確認してもらえば判る。
誘拐を警戒している中での自由に対し、それでは足らないだろうか?」
「あちゃぁぁやらかしてましたねぇぇ。ごめんなさい。ヒール」
「おぉぉこれが。全く痛くない。口の中の傷も治った」
「母からヒールを受けたことは?」
「残念なのか幸運なのか受けたことは無い」
「そうですか。
これ痛みが戻った時に飲んでください。ポーションです。
改めて。早とちりして、ごめんなさい」
「お直りください。
それは許します。孫娘を思ってくれた証し。術後の経過を見に来て下さった」
「はい。もう完璧でした。ですが王宮のお部屋に戻してしまいました。勿論、近くにいたメイドさんに声は掛けてあります。
それと姫様には僕が特殊な結界を掛けています。二か月ぐらいは持ちます。先ほども上掛けをしましたので大丈夫ですよ。
良からぬ謀を持っている輩が近付いたら反応しますし、スイシャーナ隊長にも念話のような形で、緊急通知として自動で転送される仕組みです。説明に書かなかったかなぁ」
「そうでしたか。ありがとうございます。
対価は?」
「僕のお節介ですから必要ありません。お気になさらず」
「判りました。
それで今後の事なのですが
廊下の遠くから。
「公爵かっかぁぁぁ大丈夫ですかぁぁ扉係がぁぁ血相変えて来ましたぁぁ
「スイシャーナ隊長ですね。他にも近衛の多数の足音もします。捕縛の指示を出しになった?ではこれで。
最後に一言。お会いするのはこれが最後です。姫様にもお伝えください。では」
「あああ待ってくれぇぇ転移かぁぁ
「公爵閣下。何を。どうされたんです床に座って
「今。アイファウスト殿下に滅多打ちにされてな。このざまだ。
あの塔にアイミーナをわしが監禁していると勘違いされたようでな。ものすごい剣幕でお怒りだった。
わしの説明にご納得いただけた後は優しく微笑むサチ様のようだった」
「そうでしたか」
「それで今後の事を話そうとしたが、君達の足音を聞いて捕縛されると警戒して、転移で去って行った」
「申し訳ございません」
「いや、君達も私の身を案じての行動。感謝している」
「着衣がボロボロですが、お怪我の方は?」
「ああ本当だな。正に滅多打ちにされたからな。胸倉を掴んで何度も殴られ、引きずりまわされ、壁に打ち付けられ、何度も蹴り上げられた」
ドルトメスが指差す壁や床には凹みや血痕が付着していた。調度品や机、椅子が倒れたり、書籍が散らばって惨憺たる状況になっていた。
それを見回したスイシャーナは。
「相当お怒りだった?」
「事情が理解できた後の冷静さを見れば、アイミーナを思う心で怒りで我を忘れていたのだと思う。何度もクソジジィと呼ばれてしまったよ。
だが、親近感が持てて少し嬉しかったがな。
それでヒールを掛けて頂いた。このポーションも頂いた」
「二人。手を。椅子を用意する」
「すまぬ」
「で、アイミーナ姫様はどこに?」
「王宮の自室」
「判りました。アイファウスト王子殿下のことは」
「本来なら狼藉者として指名手配だが理由が理由だ。アイミーナへの無償の完璧な治癒に経過の確認にまで来ていただいた。
私も殴られた事実が有るがヒールで回復している。
どの道、君らも知るあの転移で逃げ回られたら捕まえる手立てはこちら側には無い」
「そうですね。今何処で何をなさっているか判りませんが、わざわざ出向いてくださった。
そして勘違いであったとしても、公の場に身を晒し自らの危険を顧みずアイミーナ姫様を思っての事。
本当にお優しいお方ですね」
「ああ。そう思うよ。イサム陛下の勇ましさと優しさ。サチ妃殿下の人を思う優しさと生き写し。身を以て確証が持てたな」
「お二人の事をそこまで解っていて何故」
「本当にあの当時はわしは何を考えておったのだろうな。
人を殺めておいて今更何を。だが」
「いっそのこと捕縛はしない。お礼がしたいと公表なさってはいかがですか?」
「そうも思うが、より監視の目が強くなり、アイミーナの利用価値が跳ね上がる。今以上に危険には晒したくは無い」
「そうですね。
しかし、残念でした。この剣のお礼が申し上げたかった」
「それで、この一連のアイミーナへの言動をスイシャーナ隊長はどう見る?」
「どう見るとは?」
「アイファウスト王子殿下に恋愛感情は有ると思うか?」
「恋愛経験ゼロのわたくしに聞かれましても、解かりませんとしか答えようがございませんが」
「知的な美貌を備えた君がか?」
「言い過ぎですよ。それで言い寄られた事すらありません。わたくしの恋人は剣と言ってもいいほど剣一筋です」
「その気は?」
「無いと言えば嘘になります」
「紹介をしようか?」
「な 何を言っちゃってるんですかぁ
スッパーン。
「おごぉぉ
「隊長ぉぉ背中叩いちゃダメですよぉぉ」
「ああ、申し訳ございません
「何っ。構わんさ。私の配慮が足らなかった。逆に申し訳ない」
(滅茶苦茶痛てぇぇぇ。王子より痛ってぇぇ。ジンジンするぅぅ。後でポーション飲んどこ)
「わ わ わたくし達は姫様の元に向かいます。既に三人が向かっていますのでご安心ください」
「頼む」
「そこのメイド。メイドを三人だ」
「畏まりました」
「親衛の三人とわたくしは姫様の元に向かいますが、外の近衛五人は残しておきます。では」
「三人。すまないが、片付けを手伝ってくれるか」
「「「はい」」」




