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 国民をなおざりにしたマッドジョイ国王

 トウショウ王国の王都のギルド二階の執務室。

 一人の受付嬢が待っている部屋に。


 「お待ちしておりましたマッドジョイギルド長」


 部屋に入ってから、部屋の一番奥の執務机に向かいながら。


 「ああ。久しぶりになって申し訳ない。メイデス副長。

 受付の方は変わりないか?」


 「はい。問題なく進んでおります」


 「もう一度言うよ。ここでは国王では無いのだ。言葉遣いはもう少しラフでいいぞ」


 「ありがとうございます」


 「で、縛り付けてもいない。結婚も自由だ。二十五だろう。そろそろどうなんだ」


 そう言いながら椅子に腰かけた。


 「わたくしの自由です」


 「判った。火急の案件から」


 「はい。一昨日ですがノルトハン王国のエウマイアーギルド長のギルドで即日登録Aランク十五歳のフジミヤという少年が登録されました。レベルは1571。

 続いてハルサーラが復活Aランク。娘のスカッシュとアルミスが共にBランク昇格。

 アルミスはドラゴンブレスの大やけどの失明から全完治したようです。

 こちらが火急案件」


 「確かに色々驚きだな。

 それで異常事態の方は」


 「本日。エウマイアーギルド長のギルドで新規登録と昇進含めAランクが二十二人。Bランクが十二人です。

 内十八名は百年前以上に死亡した、とされている冒険者です」


 「正に異常事態だな。死者が蘇った?」


 「エウマイアーギルド長の説明文によるとノルトハン王国とホルカイ帝国の国境のノルトハン王国側の山脈で村を襲ったドラゴンを捜索中に氷漬けの十八人を発見。

 損傷も少なく保存状態も良かったため捜索隊の面々が回復魔法等を駆使した結果、蘇ったと。

 事実、百年前ほどのクエストにあの辺りの討伐依頼が集中しております。

 今では何の資料も無く未開の地となっております。

 恐らく被害が甚大でクエスト受付を中止して忘れ去られたのではないかと思っています。

 過去の登録を確認いたしましら、十八名全員の存在を確認できました。

 皆、月一のクエスト報告が無かったため、当時のギルド規定に従い二年後。およそ百年前に登録を抹消されていました。

 なお、状況が状況だけに捜索隊全員秘匿されています」


 「秘匿はいいが冷凍蘇生は人でも通用したのだな」


 「はい。ホルカイ帝国の北部では十年か二十年に一人くらいは蘇生していると聞きます」


 「それの大量版か」


 「恐らく雪崩に巻き込まれたのでは?との見解です。ほぼ全員が記憶を失っているそうです」


 「会う事は?」


 「ノルトハン王国の秘匿案件に入りました。各国は何もできません」


 「そうなるな」


 「大混乱。戦争の火種にもなりかねません。人物の特定が出来ないように、我が国でも同じ対応になると思います」


 「だね。フジミヤ君の情報は?」


 「職種。魔剣士と木こりです。スキルは全てクローズ。

 スキルのクローズは珍しくありませんがギルド初の木こりです。どういった職種なのか資料が全くありません」


 「その少年に会う事は?」


 「マッドジョイギルド長は初期登録でAランク冒険者。この先が大きく期待される冒険者をやすやすと他国のギルド長に紹介しますか?」


 「勧誘されては困るからしないよ」


 「それと同じです。Sランクのアバターが引退して各国のギルドはAランク冒険者の獲得と秘匿に入りましたから」


 「ここもまぎれもなくそれだね」


 「はい。なかなかご返事が頂けなかったので副長権限で指示を出しました」


 「申し訳ない。カミミヤファミリーの日の件で色々とぉぉおぉぉぉ。フジミヤ君だったね」


 「はい。フジミヤです」


 「彼だ。アイファウスト王子殿下だ」


 「根拠は?」


 「イサム達が愛した祖国の山。フジサン。彼らの苗字がカミミヤ」


 「安直ですがそこが狙い目。フジサンを知る者は少ない。ノルトハン王国でしたらなおの事。

 十年経って安心された?」


 「アイファウスト君が自らその名を付けるとは考えにくい。恐らくクラウスが偽名で通したのだろう。

 あのクラウスだ。頭はいいが、一般的な部分でかなり抜けている。

 イサム達と行動を共にした俺が知るところ。この大陸で気付いたのは俺一人だろう。

 エウマイアーの所へ転移で行く旨を伝えてくれないか?」


 「数回掛かりますが?」


 「休憩を挟んで行けばいい」


 「ですが、現地時間の本日午前、ノルトハン王国は出入国禁止法が極秘裏に無期限で発令されました。

 正規ルートでの転移での出入国、念話も例外ではなく何人たりともが捕縛対象で最高刑が死刑です」


 「国境砦の念話疎外を発動したか」


 「はい」


 「何が起きた」


 「極秘扱いの為何も来ていません。

 ただ、昨日までの情報によりますと貴族や商人が大量粛清お受けたと来ました。その後、念話が悲鳴と共に消えました」


 「念話に悲鳴が乗るのは死ぬ寸前だけだぞ」


 「はい。恐らくその者は」


 「一体何が起きているんだ。調査も出来ない状態か。

 ようやく居場所を掴んだというのに」


 「残念ですが今は何もできません」


 「教会を使うか?」


 「何人とは、この場合は全て。許可の有無に関わらず自国民や他国の王侯貴族ですら入れません」


 「ここから


 「馬に回復魔法を掛けつつ昼夜兼行で休憩無しで何もかもが順調にいってキューレット王国経由でおよそ二か月。

 ホルカイ帝国経由でおよそ五十か所の関所の通行審査がすんなり通って三か月です。

 馬車ごと転移できるのは狩人様ぐらいです。

 それに出入国禁止の解除が何時か判りません」


 「今は全く動けんか」


 「お伺いいたしますが、フジミヤ様がアイファウスト・カミミヤ王子殿下として、陛下がお会いするのはギルド長?国王陛下?イサム様達の冒険者仲間?それもご両親の敵として?

 お会いしたい理由は?

 登録の労い?幼いころのお話し?仇の責任を取って保護?仇を討たせる?それとも謝罪のみ?国王になってくれ?

 ですか?

 この十年間を見てきましたが目的意識無くお探しになっていると国民は感じていますよ」


 「謝罪し、俺が補佐するから両親が作ったこの国を受け継いでほしい」


 「一度でも他国に伝わるようなその心を公表されましたか?」


 「いや、一度も無い。必要か?」


 「その時点で出てきませんよ。諜報部でコソコソ探している。

 女神様が最後にお聞きになった言葉は恐らく。ガキをエサに。ガキの命乞いをするな。でしょう。

 そして民に対し『捕らえてこの断頭台で首を刎ねる。国賊の子を生かしておいてはいけない』と、仰ったままでは有りませんか。

 完璧な隠蔽スキルを持つクラウス様が聞いていないとでも?

 追手が近寄れば命がけで逃げるお方ですよ。

 未だ処刑対象になっている。出てきませんし、逃げますよ。

 完璧な謝罪の姿勢を王妃様共々取って意思が伝わるかどうかです。

 そして側近にマッドジョイがいればクラウス様は絶対に手放しませんよ。意味わかります?」


 「・・・・なぜ、ノルトハン王国に出た」


 「ノルトハン王国は最初の一年で捜索を打ち切りました。

 その一年も緩い感じで。


 もう一点はエマルサーラ商会の存在。

 教会によってイサム様達がこちらに召喚され、盾すら持ったことが無いと聞くや否や放り出しました。

 たまたまエマルサーラ商会の商隊に拾われ、事情を聞いた隊長が献身的に尽くし、この世界の全てを叩き込み育てました。

 そして瞬く間にお二人はSランクの二万越え。スキルは優に百を超え魔王討伐に向かうことに。

 そしてギルドがあなたがたを紹介。

 エマルサーラ商会の商隊は自前の護衛隊を引き連れ、最前線にまで赴き武器と食材が途切れることなく勝利した。

 その遠征費用をノネジット・ファウス・ノルトハン国王が自らの資金を提供されていた。と聞き及んでいます。

 この大陸唯一の存在です。


 そしてイサム様が国王になって暫くしてから、あなたは遠征時の恩義を忘れ、国王に媚びを売る商人としてエマルサーラ商会の一切の出入りを禁じた。

 あなたが無理やり押し付けた国王の座なのに。


 余談ですがあなたの紹介で王城御用達になったガボジット商会はあなたの同郷でザイスターの遠い親戚。

 それを知ったあなたは即座にエマルサーラ商会へ再入城許可を通達したが拒否された。

 イサム様からエマルサーラ商会のことを聞かれた時、保身で嘘を付いた。談合と横領が有ったと。

 イサム様とサチ様は転移でエマルサーラ商会へ向かい謝罪。可能な限り協力すると確約。

 あなたの行いでエマルサーラ商会は大変なことになってしまいましたが。ご存じないと思います。


 これらの経緯から、アイファウスト王子殿下が四国の中で世間に出るならノルトハン王国のみでしょう。

 もし、フジミヤ様がアイファウスト王子殿下であるなら既に両親の恩があるエマルサーラ商会に接触を図っていると想像に難くありません。

 そしてエマルサーラ商会のアルミスの失明を全回復させた事も理解できます。

 恐らくサチ様程度のヒーラーにお育ちになっていると思います。


 不敬罪の適用でも構いませんよ。

 エマルサーラ商会の商隊の従軍武器日用品職人だったわたくしの父。

 イサム様やサチ様から技術を賜り、大森林の家具職人となった父と母。

 十年前のあの日、全てを失いました。

 その後、父と母は自殺。従業員は路頭に迷い、従業員の妻や娘は売られました。

 借金奴隷に落ちた者も多くいます。あなたは何もせずそのまま認め奴隷落ちにした。救済の法律が在れば奴隷落ちにならずに済んだかもしれません。

 しかし、何の対策もせず捜索活動に時間を費やした。苦しむ国民を無視して。

 誰かは言ったそうです。イサム様に人が住める国では無いと。

 この十年間。この惨状があなたの言うところの人が住みよい国なのですか?

 聞くところによればこの十年でキューレット王国へ移住した人は当時の三十倍に達したそうですね。

 人が住める国と思えなかったのでしょう。王城勤務者を除き。

 ここに来て五年。やっと思いの全てを言えました。

 だから結婚せずにいました。

 女神様を恨んではいません。あなたを恨んでいます。

 イサム様とサチ様を殺した断頭台がいいです。捕縛してください」


 「今はしない。俺はなにを


 「イサム様とサチ様がこの世界を豊かにした日用雑貨から機器装置。

 それの開発や素材の入手。加工から販売までどれほどの人の手が有ったとお思いですか?

 あなたがたった一言イサム様に こんな法が通ると思っているのか? と、諫めていれば数万の職人とその子らは救われた。

 頭の隅に何が有ったのかは解かりません。ただただ同郷のザイスターを信じた。

 そしてイサム様はあなたを国王に推し、国王になった。

 一番初めにするべきこと。職を失ったものに救済。これだったのです。

 それは未だに実行されていません。

 あなた一人でこの大陸の何人が自ら死を選び、身売りし子供が路頭に迷ったのでしょうか。

 目的意識がはっきりしない捜索費に幾らつき込んだのでしょうか?」


 「ならば今から何をすればいい」


 「全ては遅い。です」


 「何もできないという事か?」


 「有り体に言えばそうなります。

 国税の収入源の一柱のギルドを捜索のための拠点にし、改善改革を一切行わず、資料にすら目を通さず無下にしている時点で。

 こんな小さな組織さえまともに運営しようと言う気概も自覚すら無いあなたに何が出来ますか?

 そんなあなたはイサム様やサチ様への国民の情報の一切を遮断し、嘘までついて、もっとまともな奴だと思ったと、仰ったそうですね。

 今では、引き連れていた護衛達が退職した後の酒場の酒の肴です」


 「・・・・」


 「最後にもう一点。お可愛いアイミーナ王女様。仇敵が育てると言ってお渡しできますか?

 外の警備兵。わたくしを捕縛してください。


 「待て。入るな。戻れ」


 「はっ」


 「お父さん。お母さん。今行きます


 「止めるんだぁぁ「止めろぉぉ「止めろぉぉ


 「ぐっ


 「なんて事をぉぉ止血しろぉぉ


 「胸の急所は僅かですが外れています。が」


 「冒険者の回復できる者を呼んできます」


 「二人以上は必要かもしれん。早く」


 「はい」


 「おい君。おいっ


 「お おね がい 死なせて


 「絶対に死なせはしない。ポーションは?」


 「深すぎて効果が薄いです。それに飲むタイプです。拒むと余計に大変です」




 「連れて来ました。彼女だ早く


 「えっ?「何?メイデス?」


 「私達三人の前で自殺を図った」


 「ばかぁぁ何てことしたのぉぉメイデス。メイデス。メイデスいぃぃやぁぁぁ


 「ロレン回復よ。早く、早く


 「メイデス治って。返事して。息をしてよぉぉメイデスぅぅぅ


 「まだ間に合う。絶対に間に合う。間に合わせる」


 「うん。うん。うん


 「私はイーリス。先程のあなた。下に行ってメリースとポコマイミを呼んで来て。絶対に説明しちゃダメ。暴動が起きるわよ」


 「は はい」


 「どうロレン


 「もう少しで出血は止まる。ナイフをゆっくり抜いて。ゆっくりよ


 「抜くわよ


 「うん


 「イーリス。私が変わる」


 「メリース」


 「その代わりナイフの周りを覆って回復を


 「はい」


 「ポコマイミ。両腕を押さえて。条件反射で体が動く


 「オーケー。死ぬんじゃないよメイデス」


 「大丈夫よ。みんないい。抜くよ魔力最大


 「「「はい」」」


 「ごふぉっ


 「よぉぉし。交代で心臓マッサージぃぃ


 「「「了解」」」


 「あんた達何やってのぉぉ担架ぁぁぁ


 「「了解」」


 「あんた王様でしょう宮中の医術長に連絡入れなさいよぉぉ。医務室使わせなさいよぉぉ


 「あぁ判った。連絡する」


 「あんた本当に冒険者なのぉぉ。何人見殺しにしてきたのぉぉ飲むタイプのポーションでもいいからぶっかけなさいよぉぉ


 「奇麗な布よ」


 「イーリス。ほうたぁぁい」


 「ポコマイミぃぃ服を脱がせるからシーツぅぅ


 「呼吸がもどったぁぁ。自力呼吸開始ぃぃ


 「脈は不安定だけど概ね良好ぉぉ


 「手足がつめたぁぁい。さすってぇぇ


 「メイデス。メイデス。意識はまだか」


 「担架です」


 「宮中は?」


 「医療搬送馬車が来る。もう来ているはずだ」


 「患者は」


 「ジーナ医術長彼女だ」


 「診せて」




 「よくここまで持ち返したね。自殺?」


 「私から言おう。そうだ」


 「判りました。予断を許さない状況には変わりありません。至急宮中の医務室へ」


 「「はい」」


 「あなた達四人は来て」


 「イーリスとロレンあんた達が行きな。冒険者のバカ共があぶねぇ。

 Aランクの俺とメリースで押さえておく。

 ロレン。大丈夫だ。必ず助かる。側にいてやんな」


 「うん。うん」


 「行きな」


 「はい」


 「で、あんた。ギルド長何があった。今は陛下じゃねぇ。言いな」


 「俺が責任であることは間違いない。今は彼女に着いていてやりたい。

 俺が居れば宮中内が命令で動く。どうだろうか」


 「必ず説明しろよ。アイファウスト殿下のように曖昧にするなよ」


 「謝罪の公言の件か」


 「それしかねぇだろう。王様たぁ凄いねぇ。人に謝るのがでぇきれぇ。じゃあな。メリース行くぞ」


 「あの子に何かあったら絶対に許さないからね。あんたが居ないせいであの子、忙しい時なんか一睡もしていないんだから。

 あの子の元に早くいけよ。宮中全部で助けろよ。無能のAマッド」


 「ぐっ」


 「おいっ。それぐらいにしておけ。下が騒ぎ出した」


 「はぁぁい」


 担架を持って出た護衛と引き継いだ護衛が。


 「陛下。落ち着いてください。今はギルド長です」


 「ああ。判っているっ。ここを頼む。行ってくる」


 「はっ」

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