食料確保の実戦で早速
クラウスが去って数日後。
アイファウストは小屋の大型冷蔵庫らしきものを開けて。
「やばぁ。肉がねぇじゃん。いつもクラウスが在庫管理していてくれたからなぁ。母さんの調理法が有っても、近場の魔物の肉はあまり旨くねからなぁ。
もうすぐ夜だし、東の街道近くでイノシシ狩りだなこりゃ。転移で行くか。
ちょっと待て俺。刀の名前は?練習ばっかで名前忘れてた。クラウスの桜吹雪カッコいいよねぇ。父さんは何にしてたんだろう。
刃見たら思いつくかもぉぉって何?勝手に名前刻んだの誰。父さん?母さん?女神?はぁぁ愛幸勇でいいのこれ?
なんか安直過ぎぃぃ。長いぃぃ。ゴロが悪いぃぃ。読みにくいぃぃ。
はぁぁ通名で我慢しよう。アイちゃん?さっちゃん?勇ちゃん?ばぁかぁぁ。思考が同じだぁぁ。だめだ何も浮かばねぇぇ。
あぁぁぁ。はぁあ。独り言増えたなぁぁ。寂しい。
ご飯食べたらペガサスちゃんや青龍ちゃん達と遊ぼっと。
取り敢えず狩りに行こうか愛幸勇」
街道から西へ十キロほど入った森の中。
月が雲に隠れ真っ暗闇の中、アイファウストを目掛け突進してくる三メートルほどのイノシシ。
正面で弓を構えるアイファウスト。
十メートルほどの距離で目一杯に引いた弦の指を放した。
放たれた矢はイノシシの眉間に突き刺さり、腹で滑るようにアイファウストの前で止まった。
「よっしゃっ。二頭目ゲット。これで暫くは持つな。血抜きは家でやるか。収納っと」
イノシシに手をかざすと虹色に輝き、一瞬で消えた。
(ん?東から誰か来る。かなり街道寄り。集団だな。五人がこちらに向かって来る。その後方は追いかけているのか?十人位か?
前の五人には殺意ありとか嫌だねぇ、怖いねぇ。
『若様。この殺意の陣形は往々にして賊に追われている時です。
そして逃げる側に女性が必ずいらっしゃいます』
ですよねぇぇ。全員女性なのかなぁ。後方に全く殺意が無い。
確認に行くか)
その場から隠蔽を掛けて、短距離転移と枝の上を跳躍しながら集団の方へ向った。
森の中の開けた中央。
月明かりが差しむ中で左手で剣を突き出す女騎士。右腕には負傷している女騎士を抱えている。
その周りを三人の女騎士が囲った。
木の長く突き出した枝の上に隠蔽を掛けて陣取ったアイファウスト。騎士たちのほぼ真上。
(えぇぇっとぉぉ。クラウスさん曰く
『鬼気迫る状態であったとしても、状況をよく観察。助けるべく相手をよぉぉく確認してください』
でしたね。観察開始)
女騎士を抱きかかえる女騎士が前方の男達に。
「貴様らぁぁ。高貴なお嬢様と知っての狼藉かぁぁ
「高値で売れる若けぇ女なら何でもいいんだよ。お嬢様とやらが怪我してもう走れねぇか。囲め」
十人の男達が抜剣しながら。
「おうっ」
少し開けた場所の中心に居る五人の女騎士たちを囲んだ。
「この森ん中じゃ念話が使えねぇ。残して来た女騎士達の辺りも使えねぇ。だから援軍も冒険者もだぁぁれも来やしねぇ。
だからぁ俺達が助けてやるよぉ。
ほうらぁぁポーションだぁ。タダで提供してやろうじゃねぇかぁ。今なら完全に治りそうだぞぉ。
落として割れたのが数本。残して来た六人の怪我用に使ってもうねぇだろぉぉ」
「まだある」
「今ここで使ってみな。早い方がいいぜ。死んじまうかもな?魔物達も若けぇ血の匂いに釣られてお出ましになるかもなぁ。
俺たちはここでおとなぁぁしく、お嬢様が回復するまで待っててやるからよ。
それからまた鬼ごっこしようぜ」
「わぁぁはっはっはっはっはっ
「くそう。お嬢様大丈夫ですか?」
「・・・・・」
「お嬢様。お嬢様」
「隊長。脈と呼吸は有ります」
「気を失っちまったか?なぁぁんだ。もう終わりかぁ。
まぁお嬢様とやらは手つかずで残して、女騎士様は美味しくいただこうかぁ」
「へっへっへっへ」
「包囲をゆっくり小さくしろ。おい、そこ。慌てんじゃねぇよ。ゆっくりがいいんだよ」
(騎士様は襲われている側決定。しかし。
『悪党である可能性も否定できません。会話をして確認ですよ』
でしたね。隠蔽を解いて)
「あのぉぉ。騎士様。お困りですか?」
「女の子の声?どこからだ」
「隊長。真上です」
「何?誰だ貴様は。あいつらの仲間か?」
「一人ぼっちです」
(自分で言ってて悲しぃ)
「ぼっちはいつからそこに居る」
(えぇぇ騎士様言い返すのって酷くないですかぁぁ)
「えぇぇっとぉ。さっきから?」
「親分やばいです。大森林の狩人です」
「ちっ。助けられた者たちから、噂には聞いていたが実在したのか。
声からしても女にも見えるが」
「男と聞いていましたが、女の子だったんでしょうかねぇ。
それでも、ちらほら聞く登場の仕方と同じです。
それに並の女の子がここにぼっちで居られる訳が有りません」
(ぼっちぼっちって、酷いよぉ。女の子じゃないしぃ)
「なぁ木の上のボッチちゃんかボッチ君かどっちでもいいんだが、お前さんの目的が何か知らないが、俺達はその怪我している子を助けようとしてたんだぜ。
ほらぁ俺の手にポーションが在るだろう」
(またボッチ君って言われちゃったよ)
「怪我人を助けようとしていたのは認めますよ。
ですがその対価の要求が強引すぎやしませんかねぇ。
騎士様。要求の対価をお支払いになるのですか?」
「いや、その気は全くない。必ずお嬢様を御守りする。それがわたくし達の使命だ。
そしてあの者らはお嬢様を売り飛ばそうと画策している」
「でたらめ言うんじゃねぇぇ」
「高値で売れる若い女性なら何でもいい。騎士様を美味しく
「ちっ。そこから聞いて居ていやがったか」
「はい。あなた方がここに到着すると同時にここに居ました」
「全く気配がしなかったのだが?」
「ありがとうございます。騎士様」
「なぁ。見ていたのなら、解かるだろう。俺達は何もしてねぇ。このまま大人しく帰るわぁ。なぁ」
「「「おうっ」」」
「お嬢様の怪我は」
「追いかけはしたが俺達じゃねぇよ。転んだんじゃねぇか?」
「騎士様
「じゃぁな。みんな達者でな」
「待ってくださいよぉ。
せめてお名前ぐらいは伺わないと」
「言う訳ねぇだろ。バカか?帰るぞ」
(ああ。あのお顔はクラウスが見せてくれた指名手配のお方ですねぇ)
「大人しく帰すと思いますか?
ギルドとキューレット王国の指名手配の賊【暁の暗闇】の皆さん
「て てめぇ何でそれを。ここでボッチ生活なんだろうがぁ
(はい、自白しちゃいましたぁぁ。バカですねぇ。悪党決定)
「この森の魔物達の中でも有名ですよ。あの人たちは怖いって
騎士達から笑い声が漏れた。
「ふ ふざけるんじゃねぇ
「部下の構成員は十五名。ボスさんのお名前が偽名がアカッツさん。本名はカラッコクさん
「何でそこまで知ってやがるんだぁぁ
「主な業種は盗賊。
ご商売の内容が強盗。殺人。人身売買。商隊の襲撃が主な資金源。
子供も含めて、男性は殺しちゃうんですよねぇ。酷い。
それでご商売の活動範囲はキューレット王国の王都の南。クダンの森林のはずですが、どうやってトウショウ王国に入国できたのでしょうか?」
「世間知らずのボッチには解らねぇ方法が有るんだよ。
ここは大森林の中。指名手配も関係ねぇ。あばよっ」
「このまま帰ると?見逃すはずがないじゃないですか。
で、大人しく投降するなら何もしませんよ。抵抗するなら容赦はしませんよ」
「おいっ。俺達じゃ歯が立たねぇか?」
「恐らく、全く、ちっとも、全然。『人質?何それおいしいの?』『多勢に無勢って何っ?』って、言われますよ。
命あっての物種。逃げるが勝ちです」
「ここで最強のおめぇでもか?」
「あいつの背中に死神が見えていますよ」
「ちょっとぉぉ。さっきから、酷くないですかぁぁ」
「あのセリフ間違いねぇ。さらばです」
「引けぇぇぇ
「逃がすはずがないじゃないですかぁ抵抗するなら殺しちゃいますよぉいいんですかぁぁ
そう言って飛び降りた。
「来るんじゃねぇクソガキがぁぁぎゃぁぁ
「騎士様。みんな殺しちゃっていいですか?」
「背後関係は?」
「単独のボッチの盗賊。密入国など手引き無しで幾らでも可能」
「ならば。憂いは絶って欲しい」
「はい。了解しました。全滅確定」
刀で一振り、二振りしながら賊を倒していった。
「五人で囲んだのにぃぃ
「何でこんなに強いんだぁぁ」
「「うぎゃぁぁ」」
「今のうちにお嬢を・・・えっ?夜なのに夜?」
「枝の上に居ますよ。夜の夜になったのは僕の影です。ダメですよぉぉ抜け駆けしちゃぁぁ。さようなら」
その枝の上から飛び降り。
「おごっ」
「さてと。騎士様、暫く席を外しますね」
「ああ。ここは任せてくれ」
「はい。ここから動かないでください。皆さんを囲む結界を張ります」
「ありがとう。助かったぁ」
「行ってきまぁぁす」
「うへぇぇ死神来るんじゃねぇぇ」
親分は仲間を囮に一人街道迄逃げ切った。
(くそう。何なんだあの野郎。ここの二人は何処へ行きやがった。仲間で残ったのはここの三人か)
「二人は何処に行った?」
「金と食料が乗った馬を追いかけて行きました」
「そう言う事か。この女達を馬車に乗せ
「良かったぁぁ。騎士様達は怪我も回復して、全員ご無事ですね」
「もう追いつきやがったのか?死ねやぁぁ
「せっかくもう追いついたから、いやだぁぁ
一瞬で親分も含めた賊が地面に倒れて動かなくなった。