だんだん遠ざかる夢の一人旅
「はい。らっしゃい。女の子一人かい?」
(えっ?中華料理屋さん?なんでこんなに赤色の占有率が高いの?
それに男の子ですけどぉぉもう面倒)
「はい。見せてもらっても?」
「そのための店だ。自由にしな」
(なんかこえぇぇよ。スキンヘッドのおっさんよぉぉ。座ったままで店番?)
「あ ありがとうございます」
「一つ聞くぞ」
(えっ。何々。何か悪いことした?)
「は はい?」
「木こりか?」
「はい」
「ここに斧やナタを探しに来たのか?」
「いえ。剣や槍が珍しくて」
「そうかい。邪魔したな」
(えぇぇいいのぉぉ?)
(名鈑と商品を間違えているのかなぁぁ。値段もべらぼうに高い。と、思う。
簡易魔力剣も魔石入れて五分ももたいない。こんなもんなのかぁ?えぇぇ金貨二十枚もするのぉぉ。剣一本が二百万円ですよぉぉ。どえらいお高いではありませんかぁぁ。
何か装飾に凝っているとかぁ。無いですねぇ。
素材がアダマンタイトとか?ミスリルとか?普通の剣と同じで鉄ですねぇぇ。
過去の有名人がお使いだったとかぁぁ。魔力に所有者無し。
怖いから帰ろぉぉ)
「お邪魔しましたぁぁ」
「もういいのかい?」
「あぁはい。堪能しました。金額に」
「まぁ俺 が 暇だから茶でも飲んでいくか?」
(おっさんの暇に付き合うのかい)
「い いえ。結構です。ありがとうございました」
「今日でよ。店閉めるの。
明日から奴隷生活でよ。最後に奇麗なお嬢ちゃんと茶ぐらい飲みたいと思ってな。
勿論やましい気持ちはねぇよ。同い年位の娘がいるからな」
「奴隷ですか?」
「あぁ。借金のな」
「娘さんも?」
「いや。かぁちゃんと一人娘は別れて田舎に返した。そこまでは及ばねぇ。
どうだい。おっさんの愚痴でも聞いてくれねぇか」
「じゃぁ少しだけ。そのお茶のセットですね。わたくしが淹れますよ」
「ありがとう」
「もしかして」
「あぁ。視力っていうのか?ぼやけんのよ。で、鑑定のスキルも少々な。
で、売り子を雇っていたけど先日辞めちまった。
その売り子の小坊主が切り盛りしてたんだがいい売り上げでよ。
金が出来たからたまには実家にと、かあちゃんも娘も一旦実家に帰した。
で、二、三か月前から急に売り上げが落ちて、借金まみれ。気が付いたら奴隷だと」
「お茶です。ぬるくしましたので大丈夫ですよ。これです」
「あぁありがとう。ひっさしぶりに旨いなぁ。ありがてぇぇ。
木こりにしちゃぁ軟らかい手だなぁ。まぁ女の子だしな」
「どれくらい見えるんですか?」
「入口だと人影。今、目の前のお嬢ちゃんでどうにか判別できる。
赤い文字は読めねぇな」
「文字だけ?」
「あぁ文字だけだ。お嬢ちゃんの赤いネッカチーフは見えるぜ」
「さっき木こりって」
「冒険者やってた勘かな。雰囲気みてぇなもんだ。説明は出来ねぇな」
「商品の値段表記は全部赤いですよ」
「あぁ坊主がその方が目立つって言って赤にした。実際売れていたからな」
「商品の確認は?」
「俺のスキルがバカになっちまっているから、坊主に頼んでいた」
「目やスキルが悪くなって、たたむとか考えなかったのですか?」
「考えたよ。でも、最後と思った時にいい物を仕入ちまった。まだその頃はここまでバカになっていなかった。
ドサ周りの商人から、滅茶苦茶いい物を捨て値で買った。よく売れてよ。連日大盛況。
噂を聞いたのか新規の客ばかりで、戦争でも始まるのかよって言うくらいの勢いだった。
ある日、一気に目もスキルもバカになっちまった。
で、そのドサ周りの商人に相談したら坊主が来てくれた。
別にぼろ儲けしていた訳じゃ無かったんだが、エルファサ女神様のお怒りにでも触れたのかねぇ」
(おじ様の話しに嘘は無さそうですですねぇ。それにおじ様から呪術の魔力も感じますよ。
なぁぁんか胡散臭いですねぇ坊主と商人)
「おじ様。一見の客ですが帳簿を見せて頂いても?」
「本当に木こりさんか?まぁいいさ。後ろの棚の箱の中にあるはずだ」
「失礼します。文字が全部真っ赤」
「赤い文字は縁起がいいってさ」
(ここのお店の名前が【盾と矛】。なんでぇぇ?まぁうん。おじ様がサホタブルさんね。
あらまぁ複式簿記様ですねぇ。
うんなあほなぁぁ。ああなるほどぉぉ途中から仕入額が十倍になってぇぇ売値はタダ同然?今の値札は?で、手持ちの残金がここでゼロ。
母さんが単式簿記君の独壇場だった所へ複式簿記様と貸借対照表殿をぶち込んだおかげで学歴の無いお方達が困惑したとか、クラウスが言っていましたねぇ。
正にこれ。
おじ様のサインと記入筆跡が違う。『いいってさ』って事は坊主が記入ですね。学は有るのでしょうねぇ。
赤文字は見えなくても・・・はぁぁそう言う事かぁ。まぁもう少し。
ここからぁぁあらまぁどちらの教会様からお借りにぃ。はぁぁ北都教会。あひょぉぉあだだ。で、借入金は金貨五十枚か。
北都教会って北の教会?って、事はママシスターとシャラースシスター?はぁぁ。嫌な予感が。
こっちが店の権利証と譲渡契約証。これが奴隷契約書あららぁぁ。奥様と娘様も入ってるじゃないのぉぉ。しかも赤文字で)
「おじ様は商品なんかに結界魔法なんかが使えるの?」
「よく判ったなぁお嬢ちゃん。目が悪りぃぃから盗まれっちまうだろう。
俺の許可無く持ち出しは出来ねぇようになってる。
そこの書類関係にも掛けてある。なかなか持ってないスキルだぜ。すげぇだろぉぉ」
「はい。凄いスキルだと思います」
「帳簿見て、何か判るのか?」
「ええ。もう少し見せて下さい」
「いいよ。茶がうまくてよ」
(ありました。商人はドサ周りの住所不定のドキジェット。飛行機かい?
で、僕ちゃんが・・もっと小さい子かと思ったじゃん。おっさん。
正に親の顔が見たい。何この名前?インシデントだって。キラキラネームにも程が有るでしょう。二十二歳。
この帳簿を見られないように奥様とお嬢様はご実家に帰した。
離婚は成立しておらず、親権もおじ様のまま。かぁ。
そしてお二人が居ない事をいい事に奴隷契約書に記載しておじ様のサインか。
で、正規の借金奴隷契約であることを証明するためにわざわざ複式簿記様を起用してトリプルプレー。完全封殺。
しかぁぁし。支払い出金証と領収証の金額と支払金額が全くちっがぁぁう。
何ですかこれ。商品仕入れ金貨一枚。領収証金貨一枚に対して支払金額金貨五枚。ありえないでしょうがぁぁドキジェット航空隊さんよぉ。
おじ様がわざわざ奴隷落ちするために余分に支払う訳が無いでしょうがぁ。考えたら判るでしょ。
こまかぁぁく分散して色々混ぜ混ぜして出金帳を誤魔化して保管してもクラウス署長直伝マル木の僕ちゃんは騙せませんよ。
目が悪い事をいい事にやらかしていますねぇ。
税が絡んでいる以上単独では無いでしょう、これ徴税局も絡んでいるのでしょうねぇ。
ああ、あっこは王都管理かぁ。エウマイアーギルド長様がきのうユーミルナ王妃様に言っていましたねぇ。都長がゴニョゴニョ。
妖精ちゃんお願い。このサインで居場所わかる?すごぉい。はぁぁ。北都教会に居るの?二人共?今?ありがとう。いっぱい食べてね。
で、この顧客名簿。数少ない常連客でお知り合いでしたか。
おじ様を・・・放置できる訳無いよね。
これもエルファサ女神様の御導きなのでしょう。教会も絡んでいそうですから。
って、ちっともありがたくねぇぇ。はぁぁ。また、お仕事ぉぉ。夢の一人旅はいつになるのやらぁぁ)
「おじ様。少しの間お店閉めてもらってもいいですか?」
「あぁ構わないよ。何かあったのかい?」
「ちょこぉぉっと。知り合いを連れて来たくって。いいかな?」
「お嬢ちゃんの知り合いかい?」
「まぁそんなとこ。いいかな?」
「あぁ貸し切りでも何でもいいさ」
「ありがとぉぉ。少ししたら来ますね」
「変な輩が多いから、気を付けるんだよ」
「はい」
(優しぃ。入り口にクローズの看板)
「行って来まぁぁす」(転移)
購入したばかりの宿屋のラウンジで待っていたアルミスの元にスカッシュが戻って来て。
「お姉様。居た?」
「何処にも。見かけた人もいないわ」
「転移でどこかに行ったのかしら?」
「ご自宅に帰ったとか?」
「あの」
「セルファンお帰り。何か手掛かり?」
「非常に申し上げにくいのですが、北都橋の上で思いつめるように川面を見つめる、背が高く可愛い男の子のような女の子が居たそうです。
身なりは首に赤いネッカチーフの木こりだったそうです」
「えぇぇそんなぁぁ
「アルミス。落ち着いて」
「で でも
「セルファン。奴隷契約は解除されてる?」
「いえ。されていません。どこかで生きておいでです」
「アルミス。まだ時間は有るわよ」
「何か思いつめるような
「今はそこじゃないわ。あなた達、メルスちゃんを見ていてあげて」
「はい。お任せください」
「アルミス。お母様に通じた?」
「さっき届きました。今来ます」
「「お母様ぁ」」
「見つかったの?」
「北都橋で自殺願望者の・・・
「サチ妃殿下のメモもあります。その様な事になりません。
何かの事故か事件に巻き込まれた可能性の方が強いです。すぐ行きますよ。すぐそこです。セルファンも」
「「「はい」」」
「あぁぁ。マルックから念話。ガルカク兄妹を連れてどこかに行ったって」
「アルミス。行先は聞いていないの?」
「訳が分からないらしく。盾と矛に行きますよ。と」
「行った事は無いけど、その店は判るわ。行きましょう」
「「「はい」」」




