反国王派の重鎮とマウレス宰相
お買い物が出来なくなった木こり君が涙を流したころ、王城のノネジットの執務室にマウレス宰相と男二人。近衛兵三人が呼ばれていた。
男の一人はジャクリード・レ・イザルッシュ公爵。
もう一人はヨルデイット・ト・ジャグボ伯爵だった。
ノネジットは執務机。後方に一人の近衛兵。
マウレス宰相様はその前のソファ。
公爵と伯爵はテーブルを挟んでソファに掛けている。
その後方に一人づつ近衛兵が立った。
「陛下。この者らは?」
「勿論私が呼んだ。問題は無いよ」
「しかし、公爵である私の後ろに立たれるのも、面白くないものですな」
「いつも背中を守らせておるのにか?」
「まぁ。で、お呼び出しの趣旨を」
「そうだな。腹の探り合いは好かんのでな」
「私もです」
「マウレス」
「はい。ジャクリード公爵閣下。こちらをご覧ください」
「うむ。ん?お前の騎士隊を処罰するのか?」
「はい。昨日色々調べまして、お見せいたしますが絶対に口になさらないように。例え公爵閣下であっても不敬罪の適用対象となってしまします。
どうぞ」
「んんん。誠か?あぁ認めているな」
「はい。強要も何もしておりません。隊員たちの自白です」
「完全な不敬罪だな。が、お主の監督が
「公爵閣下は人の心まで監督がお出来になると」
「いやすまん。強要は出来ても入れ替えまでは無理だ。
そうさせないように教育するのも上に立つ者の務めだ」
「城内近衛兵の教育のトップは何方でしたか?」
「うっ。わしに言わせるのか。貴様」
「ええ。公爵閣下が教育者の名を出しましたので。あえてお聞きします。
ちなみにですがわたくしは選抜され与えられた近衛兵を従えているだけですが?」
「ジャクリード。誰だ」
「わたくしの息子。長男です。嫡男でもあります」
「お父様のあなたが教育をなさったのですよね。
上に立つ者の務めと」
「ぐっ」
「良い教育を行うと女神に宣誓し、これか?
ああ。私はお主らに国王として認められておらんのだな。わぁぁはっはっはっはっは」
「決してそのようなことは・・・
「どうぞ」
「ぐっ。どこで?」
「さぁ?本物の原本です。コピーは取っています。抹消は出来ません」
「どうなる」
「そう結論をお急ぎにならずとも。
少々、お伺いいたしますが、今日噴水が稼働したのはご存じでしょうか?」
「あぁ。報告を受けた」
「そうですか。南正面にケーキ屋さんが新装オープンいたしました。
お忍びですがユーミルナ妃殿下とアイファル姫殿下がそのお店に行っておいででした。
偶然ではありますがガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵の妻でイサラーサ夫人。
娘のネイナとウイール。
そして大司祭ハルサーラ様にエウマイアーギルド長。
「何が言いたい」
「途中色々ありましたが、ケーキを囲み団らんの場へ女神エルファサ様と愛の女神ビーナス様がご降臨。
アイファル姫様にエルファサ様はドレスをビーナス様はおとぎ話の絵本をプレゼントなさいました」
「本当か?」
「はい。女神の誓約書にサインしているわたくしは嘘を付けません。
そこで二柱からユーミルナ妃殿下にアイファル姫様をアイファウスト王子殿下と同じようにするなと神託を受けたそうです
「き 貴様」
「どこかの国と同じですねぇ。いとこ同士で共にこの国を発展維持して来て、国王家族を毒殺。未遂と言う実行。その指示があなた公爵閣下。
女神の誓約書にサインした今。剣を抜き立ち上がれば消し炭です。火災にならずにあなただけ」
「うぐっ」
「確認ですが国王になって何がしたかったのでしょうか?」
「この国の行く末を案じた」
「どのような部分が危なく、どのような国策が有ったのでしょうか?
処刑は確定しています。
明確な行動計画と書面が有れば見せていただきたいですが、無ければ仰った方が何かの役に立つかもしれませんよ」
「今は無い」
「毒殺計画を画策しておいてですか?」
「そうだ。わしはこの国のトップで有りたかったのだ。それだけだ」
「そうですか」
「王命だ。前で枷を付けよ。手荒な真似はするな」
「はっ。失礼いたします。公爵閣下」
「あぁ。終わったな。
一ついいか?」
「答弁の制約は設けていません。どうぞ」
「ノネジット。お前にはあるのか。この停滞した。いや、下落に向かうこの先を」
「すでに動いておる。国庫をむしばむウジ共の掃除にな」
「どういうことだ」
「わたくしから。
昨日から今まで。女神様の粛清は除いて、実に五貴族。四豪商。七商会が潰れました。今後も増えます。それとは別で既に捕縛した貴族が二名も居ります。
調べの結果、国発注の公共事業、輸出入量の改ざん等で不純な利益を得ていることが判りました。
三年まで遡って現在で判っている金額はその全てで金貨五十万枚を下りません。
その上、真面目に営む商工農の民達を不当に扱い、奴隷に売っていた事実も発覚。経済への推定損失はこちらも十万枚を下りません。
この二日間で現金で五十万。経済損失では十万を超える資金が戻ってきます。
これらをこれから活用し、もう一度公共事業の見直しを進めていきます。
陛下とお妃様の肝いりで、今正にその事業計画を策定中です」
「そのようなこと今迄何も」
「水面下で動いておりました。公爵閣下派閥に見つからないよう。悟られぬように。
今お話しした組織の捕縛は全てアイファウスト王子殿下の指示によるものです。
勿論、ご自身も危ない橋を何度も渡っておいでです。
全ては同い年で両親と別れざるを得なかったご自身をアイファル姫様と被せて。
ちなみにですが公爵閣下のご息女お二人の首には既にアイファウスト王子殿下の刃が突き立っています。下手な真似はされぬように。
あぁ。わたくしの念話友達。と、言っていいと仰いました」
「娘たちは何も知らん」
「二年前、三歳だったアイファル姫様はもっと何も知らないでしょうね」
「うっ。一族郎党三親等までか」
「勿論。全てあなたご自身の責任。甥っ子や姪っ子。ゼロ歳から全てです。お孫さんもですよ」
「たのむぅぅゆるしてぐれぇぇあの子たちは何も知らんのだぁぁ
「だから言っているではありませんか。三歳のアイファル姫様も国盗り合戦など知りませんでしたよ。
失敗による未遂で生き残っただけ。あの時アイファル姫様が死んでいたら今の言葉は出るのでしょうか?
しかも自己顕示欲の為だけに、幼い三歳の女の子を手に掛けた。
どぉぉこぉぉに許しを請う権利がおありだと思っているのですか?
既に屋敷を含め軍と近衛兵が突入し、拘束しています。終わりましたね」
「あぁぁぁぁ
「喉がお渇きになったでしょう。お茶をどうぞ。勿論毒は入っていません。今は」
「さて、お待たせして申し訳ございませんねヨルデイット・ト・ジャグボ伯爵。
あなたが書記でしたから同罪です。判りますね。
正直にお答えください。
あなたの奥様のご実家メジュラで何が起きていますか?」
「今頃、客寄せと接待の酒?品が良くないとのうわさで結婚してからも、行った事は無い」
「なるほど。先ほど警察が突入。元冒険者C、Dランク二十九名を処罰または捕縛しました。
奥様のご両親と奥様のご兄妹、親戚も捕縛。奥様は現在逃走中。
お子様たちは警察で身柄を保護しています」
「一体何が?」
「ナーガ橋ミッドナイトブラッド。ご存じですね」
「勿論です」
「前回の主犯は?」
「いいえ。ごろつきで有ったとしか」
「奥様のご両親が片側の主犯。
そして今夜、第二次ナーガ橋ミッドナイトブラッドが起こる寸前でした。
今回はかなり大規模で周辺の無辜な都民までを巻き込む計画でした」
「まさか、わたくしも?」
「そうですね。奥様があなたの伯爵名を使い、色々画策していました。
とても恐ろしい計画です。
こちらをどうぞ」
「こ これは」
「ノルトハン王国の王家への逆賊行為。ようは殺害計画です。
奥様はお妃様に成りたがっていたようですよ。
で、あなたは毒殺の実行犯。
奥様の行動を知らなかった。と、でも言える訳が無いですよね。
当然、言い逃れが出来ることは出来ませんよ」
「あっ。あぁぁぁ
「陛下」
「全容を洗い出し、その後、私が罪を言い渡す。
ヨルデイット・ト・ジャグボ伯爵を三人で地下牢へ」
「「「はっ」」」
「わしは良いのか?」
「その手枷はご存じの通り全ての魔法と技術を封印します。
それでなくても誓約書が有りますので動けば燃えます。
自殺願望が有るのならご自由に」
「判った。大人しくしていよう」
「ではここから本題です」
「わしの処刑の件は二の次か」
「正直に言えばそうです。あなたが死のうが生きようが、この国にとってどうでもいい事です。
復讐劇でしかありません。
建設的なお話しを致しましょう。
公爵の地位を保ったままわたくしの部下になるか、一族郎党全員処刑。
どちらを選びますか?
ちなみに二五歳以下の女性にはそれなりの奴隷になって頂く予定です。
国家主導のオークション。
ご存じですよね。あなたも数名ご購入済みだ。どのように扱っていらっしゃるか。そこまでは知る由も有りませんが」
「脅迫か」
「いいえ。全く。二者択一です。今は一族の未来があなたの掌にあります。
トップに君臨したい。たったそれだけの矜持だけです。既にその選択肢は消えています。
ご子息も捕縛。私設軍は武器解除になっていますからクーデターや襲撃は出来ません。
いかがです。この辺りで目を覚ましたら。
何がいいんです。トップの。国王に成ったら神にでもなれるとお思いなのですか?
何の国策も無く玉座に付いたら彼の男爵の二の舞ですよ。
女神様が寵愛する使徒様が既に動いて実績を示しているんです。庶民も奴隷も貴族すら関係無く。
この二日間で何人死んだか知ってますか?百人超えているんですよ。危機感は無いのですか?それで国王。笑わせるんじゃありませんよ。
まだ、コルレット子爵の方が断然マシです。何が公爵ですか」
「うぅぅ」
「公爵名で国策を出し、成功した事例を挙げなさいよ。研究開発で民や国を豊かにした事例を挙げなさいよ。救済した民の数は?魔物の討伐数は?賊の壊滅数は?
言えないのですか。ゼロです。あなたが公爵になって行った国政はゼロです。
民の血税を何と心得ているのですかぁぁ愚か者ぉぉ。議会会場で昼寝をするなぁぁアホかぁぁ。
返せよ。民から今まで受け取った全ての金を返せよ。金貨五万枚。即刻あなた自身が稼いだ金で返せよ
「マウレス宰相。落ち着こうか」
「はい。申し訳ございません陛下。
あなたが死を選べば、年少者からあなたの前で処刑していくのはご存じですよね。
あなたが行って来た事をあなたが受ける番です。
あの時のあの子らのあの子の両親の悲痛な叫び。覚えていますよね。
あなたの馬車の前に飛び出しただけで不敬罪を適用し、一族を処刑したあの日。
陛下ですらお咎め無しにしているのに」
「・・・・」
「そうですか。判断が付きませんか。
わたくしは陛下からあなたに関する処断の全ての決裁権を賜っております。
陛下は共に歩んだあなたに自分では心が甘いと判断された処置です。
もう一度聞きます。わたくしの部下となるか、一族郎党の死を選ぶか」
「・・・・」
「そうですか。矜持を選びましたか。
わたくしから、公爵になるまでの功績を称えますが結局は自分の為だった。そう思われても文句は言えませんよ。
ですが、最後のお別れは許しましょう。
入れ」
「はい」
「おじいさまぁぁ。何をなさったのですかぁぁ。わたくし達みな処刑だそうです」
「お父様ぁぁ「おじいちゃぁぁん「おとうさぁぁん。なにをやったんだぁぁ」
「誰が口を開いていいと言いました。国王一家毒殺による暗殺を企てた、一族よ。
これを見よ」
「あぁぁぁぁ「ばかぁぁ「お爺ちゃんなんて大っ嫌いぃぃ」
「孫たちの縄だけでも
「バカを言うな。縛り上げよ」
「はっ」
「痛いよぉぉ「痛いです「お止めください




