クラウスから誕生日と卒業祝いのプレゼント
「ギルドの存在意義って何?自由に狩猟が出来るならいらないじゃん。換金もそこいらのお店で出来るし。案外その方が高かったじゃん」
「それを悩むお方を聞いた事がございません。そこに在る。それで終わりのお方ばかりだと言うのに」
「『知らない事。判らない事は恥ずかしいことではない。それを知ろうとしない事が恥ずかしいことと思いなさい』って、誰の言葉だったかなぁ」
「ここでそれをお使いになりますか。
ギルドの基本的な存在は民を危険から守る。国軍や警察などが存在しますがこれは各国の国家機関。下手に動けば戦争に発展する恐れがあります。
そこで個人事業主の冒険者が必要となって来ます。各国に登録はしますが国の命で動くのは特殊な場合を除きます。
ギルドは国境無き魔物討伐組織。その仕事内容は多岐に渡ります。
迷子探しの依頼や落とし物の捜索。最強種のドラゴンですね。これらの討伐迄。
報酬さえ支払えば国からお子様迄受注します。先程のように例外も存在しますが。
あと、ダンジョンの管理ですね。
四か所のダンジョンを覚えていらっしゃいますね」
「もちろぉぉん。お友達が出来ちゃったからぁぁ」
「ダンジョンはその国の所有物ですが全てギルドが管理します。出て来たお宝は冒険者の所有権が発生しますが意思次第で国が買い上げてくれます。
その仲介をギルドが行います。難易度のランク分けもギルドの仕事です。
ランクが存在するのはこのダンジョンの為と言っても過言ではありません。
ランクが上がるにしたがってハイリスクハイリターンのクエストが受けられます。非常に射幸心を煽りますがそれがまた冒険者の醍醐味です。
個人の依頼からギルドの依頼。これを集めて難易度を決定し、冒険者に発注するのがギルドの一つの存在意義。
他にイサム様達が立ち上げた国を跨ぐ銀行業務。これはもうよくご存じの事と思います。
他にパテントや市場価格の調査などの維持管理。
また、大災害時に救援活動なども行いますね。
まぁ何といってもギルドで冒険者登録し、カードを得られ特定の条件さえクリアーしていればランクやクエストの有無にかかわらず、この大陸全土を自由に行き来出来ます。
国境でギルドカードを提示すれば入国税は無料。各お店で割引や特典などいろいろ。お風呂やクリーニングサービス。なんて場所も有りますよ。
自由な旅がしたいと仰っていた若様には必修アイテム。
ただし、冒険者とは何かを思い出して下さい。
冒険者は自らが弱者、民を守るとエルファサ女神様に誓いを立てて就いた職業。
自らの命を賭して民を守るのが義務です。
冒険者となった以上はそこを避ければ最高刑は死刑となっておりますよ。
ですからこの大陸全土を好き勝手に往来できる特権と国王からの任命で叙爵されることも多額の報酬や各種褒章を頂けるようになっているのです。
覚えていらっしゃいますよね。
いかがでしょうか?若様からお聞きした前世のマンガやアニメと言った物に出てくる内容と変わらなかったのでは?」
「ぎくっ。でもね。知っているアニメとかだと冒険者は自由気ままで気に入ったクエストを自由に選択できるって言うのが専らだったよ」
「イサム陛下とサチ妃殿下もその認識でした。
ですが、この現実世界に於いてその様な悠長なことを言っている場合では無かったのです。
先程も申しましたが、魔王は討伐できたが魔物は増える一方。
冒険者が自由と言う言葉を使えばお勉強した裏ギルドの様になってしまいます。
ギルドに登録すれば各種恩恵が受けられる。
ただし、そこにはがんじがらめの規定と約定が存在する。
言ってみれば魔王討伐軍。
民を救う強い意志を示して冒険者登録をするのです。
そこに自由などと言う言葉は存在致しません。
それが嫌であれば冒険者登録をしなければ良いのですよ」
「もっと早くに教えておいてよぉぉ」
「冒険者が嫌になりましたか?」
「全然。俄然やる気が出てきた」
「それは良かったです」
「アニメの自由業を除けばほぼ同じだよね。
でも聞いておかないと違う部分が有ると混乱するじゃん。
『思い込みは死に直結しますぞ。確認の確認を怠ってはなりません』」
「はぁぁまたそのような事を」
「だから確認。
賊退治は警察や軍じゃ無いみたいだよ」
「居住区の賊などは警察の範疇ですが、周辺の街道などは冒険者の区分です。
百人を超えるような場合は軍が動く予定ですが事例がございません」
「なるほどそう言う事かぁ。
って事はだよ。軍の力量って冒険者より上って事?
前にも言ったけど俺、国軍を実際に見た事無いんだよねぇ」
「わざわざ見に行く必要は有りません。特段おもしろいものでも有りません。
軍と冒険者。正直に言えば個人の力の平均値で申しますと冒険者の方が強いです。勿論軍の中でも抜きに出ている者も多いです。
ただ大きな違いがございます。
冒険者は個人。せいぜい五人のパーティーが一組です。そして他のパーティーとの連携は皆無。連携の取れない魔物や少人数の賊などには対応可能です。
そして個人個人の物欲が少なからず出て来て、パーティーやパーティーワークは崩壊します。
一番多いのはパーティー内の女を取った取られた。これは歴史が示しています。
軍の方は個人は弱いかもしれませんが組織で統制が取れ、上下関係も厳しく、指示系統も確立しています。装備も整い、各隊の仕事も分担されて人数が揃っています。
軍の規律もありほぼ遵守され国王や民を守る意識が高い集団です。
イサム様や若様の日本国の自衛隊には劣るかもしれませんが。
貴族が持つ私設軍もありますがこちらは冒険者の上位互換ですね。
警察ですが日本国の警察と同じと思って頂いてよいと思います。
自衛隊と警察の違いです。
公安と言う組織も考えておいででしたが道半ばで終わってしまいましたね。
そして王の直近を守る近衛兵。国軍のエリート。こちらはそのままでお勉強をしておりますね」
「王様や貴族様を律する組織が無いって事?」
「御座いません。いかがですか若様。
Sランクに成れば実質国王と同等または上の地位ですよ。連れのお供お二人と隠蔽使いで世直しに出ては?」
「絶対父さんに聞いたでしょ」
「残念。サチ妃殿下でございます」
「母さんそんな趣味があったの?」
「魔王討伐の野宿の時に吟遊詩人顔負けに語られておりましたよ。いかがですか?」
「いやいややらないよ。調べるのが面倒だし。
あのさぁ。クラウスって俺の侍従でお城勤めだったじゃん。
そう言った細かい取り決めまで、経緯を含めて携わっていたんでしょ?
俺にはそう言った情報がもっと必要だと思うんだけどなぁぁ。ちらっ」
「まぁ納得ですが。若様には領地経営は別にして、貴族の知識を超える量をお教えしています。
恐らくは法律なども含め若様に敵う貴族はおりませんでしょうな。
前世の高度な知識もございます。イサム様とサチ様もそれに準じていると仰っておりましたから」
「領地経営はするつもり無いし、貴族にもならない。超めんどくさそう」
「足らなければ地下の本棚に書籍がございます。
各国の王立図書館に行けばさらに教養が高まります。お勉強をなさっても良いと思いますよ」
「えぇぇ。自分でぇぇ?」
「ご自身でです。もう時間稼ぎはよろしいですか?」
「えぇぇっとぉぉ待ってよぉぉ。聞きたい事があったようなぁぁ思い出したぁぁ
「通常時の大きなお声は品が無いですと、お教えいたしましたよ」
「父さんと母さんが異世界から来たってどれくらいの人が知っているの?」
「常識でしたから言っておりませんでしたな。
全ての者が周知の事実です。語る事を憚る事もございません。ご存じの通り、教会の強制召喚の儀でこちらに来られております」
「そうだったのね。日本と言う未来の知識は?」
「ごく僅かな者が知るだけです。今では知っていてもそれを生かせる術がございません。基礎知識が偏っています故。
それに物質はカミミヤファミリーの日に女神様がほぼ破壊していますので、再現可能な技術や知識が残っているのは無形態の物を除きほんの僅かです。
このガラスですら再現不可能な代物でございます」
「そんなに貴重なの?」
「全く無い訳ではございませんが、使用可能な製品で現存する物はレア品です。
それをお調べになるのも面白いかと」
「また使い慣れないお言葉を。でさぁ修行中に俺何度も死にかけてるじゃん。過酷すぎるぐらいの中で。
ワイバーンの口の中に放り込まれた時は前世の爺ちゃんと婆ちゃんが呼びに来てたよ。腹をぶち破るまで。
クラウスがいなくなってあんなことになったら、可愛い僕ちゃんは本当に死んじゃうかも。痛いなぁぁ怖いなぁぁ。ちらっ」
「では、お可愛い若様が死なないように十五歳の誕生日プレゼントです。お誕生日おめでとうございます。若様。どうぞ」
クラウスは異空間から鞘無しの刀を取り出し、テーブルに置いた。
アイファウストが立ち上がり、片手で柄の部分を持って縦にして刃の部分を見て。
「俺が欲しかった刀じゃん。いいの?武器屋で見た時、滅茶苦茶高かったよ」
「あのような粗悪品ではございません。イサム様とサチ様がアイファウスト様の成人の日のために鍛えてお創りになり。わたくしに託した物です。
臓物が口から出そうなほどの修行に耐えた若様です。
この刀身で日本国ではワイバーン。こちらではドラゴンが一刀両断。痛くも怖くも有りません。
ただ、今までの両刃の剣と違い扱い方が違います。
あぁそう言えばイサム様はテレビと言う物で、時代劇と言う教育番組でレクチャーを受けたと仰っていましたよ」
「それ絶対嘘だから。クラウス君信じちゃダメ。さっきの母さんの世直し道中と一緒だから。刀の振り方なんか一般人がテレビを見ても判んないからね。
いい?判った?」
「さようでございましたか。身の振りが変わった型でして右足で踏み込む姿勢を
「剣道。って言って無かった?」
「はい。四段で県大会個人優勝と聞いております」
「まじで?」
「凄いかどうかは仰っていませんでしたが。まじです。イサム様のお父様は七段だったと。
ちなみにサチ様は玄海灘流薙刀の師範の娘で段位は貰えなかった。と。
師範に勝って腹いせに剥奪されたと怒っていらっしゃいました」
「とんでもねぇ父親だなぁ」
「お母上様です」
「ごめんなさい。あっ。
それが基礎に有ったから強いんでないの?」
「まぁそうとも言えます」
「俺、向こうでなぁぁんもやったことないよ」
「少々難儀かもしれませんが、なぁぁんもやったことが無い。と、仰ると言う事はちょぉぉ暇。でしたよね。
そんな若様でしたら恐らくはちょぉぉ教育番組をご覧になっていたと
「ご覧になっていません
「夕方の再放送も?」
「誰から聞いたの。母さん?」
「サチ妃殿下はその時間部活と言うものに、勤しんでおられたようです。
ご友人のお話しだそうです」
「俺もぉその時間は忙しかったよなぁぁ
「ほほぉぉう。ご自宅で毛布にくるまり、漆黒の闇に飲まれし我が
「やぁぁめぇぇてぇぇ。
これから一生懸命覚えます。クラウス様。教えて下さい」
「わたくしも刀は・・・
「嘘。愛刀桜吹雪って何」
「自己流を極めて下さい。わたくしが流派の名を。アイちゃん流とか
「いやだぁぁ
「こちらの鞘はわたくしの手作りです。自動で刀身を修復。鞘で土龍が屠れます」
今度は鞘を置いた。
(サクッと流れを変えたね)
「それはそれで凄いねぇ。おおっ、ピッタンコ。おさまりが気持ちいい」
「立って帯刀してみてください」
「こうだな。どう?」
「よくお似合いです。木こりの服装でなければ尚、宜しかったでしょうな。
Sランクに成って一年。成長なさった若様が帯刀なさって訪ねてくるのが楽しみでございますな。
これでご納得いただけましたでしょうか?」
「って。クラウスのプレゼントは半分じゃん」
そう言いながら帯刀したまま腰かけた。
「刀を含む剣や槍を抜き身のまま持ち歩けば即逮捕ですが?
サチ様のお話しで得た。
ピンポンポンポ~~ン。
間もなくぅ。四十二番ホームにぃ断頭台行急行列車が到着いたしまぁす。
ご乗車のお方は切符をお持ちになりぃ白線までお下がりくださぁい
「乗りませんよぉぉ。切符も持っていませんよぉぉ。通過してくださぁぁい」
「せっかくアイファウスト・カミミヤ王子殿下の為にお召し列車をご用意いたしましたのに」
「断頭台へのお招き列車ですよそれは。絶対に乗りませんよ」
「そうですか。残念です」
「いやいや残念もなんでもないから」
「それで土龍が屠れる鞘は必要では無かったと?」
「ごめんなさい。俺ではそこまでの物を作る技術はまだありませんでした。ありがたく頂戴いたします」
「解かって頂けてわたくしも嬉しいです。
そちらはお誕生日のプレゼントとわたくしからご卒業のお祝いでございます」
「まだ卒業レベルに達していないんじゃない?」
「これからは実戦で鍛えてください。
お教えできるものはもうございません」
「あぁあ仕方ないなぁ。クラウス。今まで育ててくれてありがとう。感謝に尽きないよ。
本当に 本当にあ あり
アイファウストは声を詰まらせながら、涙を流しテーブルの上に有ったクラウスの両手を包み込んだ。
「わたくしめも楽しゅうございました。ありがとうございました」
「速攻でSランクになって会いに行くよ。その時はお嫁さんを紹介してよ」
「勿論でございます。その日を心より楽しみにしております。
そうそう。後一点。わたくしからのお願いでございます。
貴族の顔と冒険者の顔。その二重人格のような性格は非常に良いと思います。直さないように」
クラウスは包み込まれた手を惜しみつつもゆっくり抜き取り、立ち上がって。
「若様。お元気で」
アイファウストの手はテーブルの上でそのままで。
「あぁ。判った。クラウスも元気で」
クラウスは直立し右手を胸に当て、深くお辞儀をして。
「失礼いたします」
その場からクラウスが消えた。
アイファウストはテーブルに突っ伏して、そして顔を上げ、クラウスが座っていた椅子の背もたれを見て。
「あぁあ。なんか胸に穴が開いたみたいだ。恋愛なんかした事無いけど、失恋ってこんな感じなのかなぁ。
十年かぁ。早かったなぁ。凄く楽しかったよクラウス。
・・・今生の別れでは無いんだ。
そうだよ。もうクラウスに会えない訳じゃないんだ。早くSランクになって一年。あっという間だ。そしたらクラウス会える。またクラウスと一緒に暮らせるかも。
ドラマなんかでよく寝てしまえって言ってたな。風呂入って寝よ。
今までありがとう。クラウス。父さん。母さん。女神様。
頑張って生きてみるよ」
そう言って暖炉の上の幼い頃の家族写真を見た。
「ってかさぁぁぁ父さん、母さん。俺の誕生日って別れの誕生日なのぉぉ」
家族写真がパタリと倒れた。
「あ”っ。図星?」