ポートハウス襲撃と迎撃
決行時間。
ポートハウスの前の通りを東へ二百メートル位行ったところに、東向きで二頭引きの豪華な馬車が停まった。
その横に黒装束の一人が跪いて馬車の中に向かって。
「ヤブツーツキお坊ちゃま。準備整いました。
ポートハウスは真っ暗。就寝の模様」
窓も開けずに中から男の声で。
〚どこぞの男とミレッシュちゃんは一緒に寝ているのかんね〛
「監視の者から自室となった二階でシュベッタとカスミナと一緒に居ましたが、今は一人のようです。
男は居ません」
〚うっしゃぁぁ〛
「ただ、早い事に越したことは無いかと」
〚判っているねぇぇ〛
「申し訳ございません」
〚その男の事は知っているね〛
「はい。監視を行っていたセルファンとミーゲッシュが知っております」
〚その男は始末するね〛
「はい」
〚欲しいのはミレッシュちゃんだけだからんね〛
「承知しております」
〚お前以外抱きかかえる事も手を繋ぐことも許さないかんね〛
「はい。心得ております」
〚あぁ。権利書なんかがあるといいかんね。
それが有ればパパもママも明日動きやすくなるって言ってたかんね〛
「可能な限り、探します」
〚パパとママが協力してくれているのよ。絶対に見付けるね〛
「畏まりました」
〚やんね〛
「はっ」
二階のミレッシュの部屋の窓から外の様子を伺っていたシュベッタが。
「カスミナ。監視の目が逸れた。来るよ」
「了解。ミレッシュちゃん。隠蔽を掛けてお兄ちゃんのお部屋に行くよ」
「はい」
一階の食堂の脇道に面した窓から気配を消して窓の外を伺うデービッシュがスカッシュに。
「おうおう。人目も憚らず大挙して来たよ」
「デービッシュ。素人には見えていませんよ」
「屋根と地面。早っ」
既にテーブルと椅子が隅に寄せられ、暗みの中の食堂の中央でしゃがんで待機するハルサーラが。
「リッシュ。大丈夫か。初陣になるぞ」
「お任せください。大奥様」
「アルミス。大丈夫か?」
「ポーションを飲みました」
「無理はするな」
「はい」
ヤブツーツキの陣形が整った頃、ポートハウスの裏路地。
千鳥足の男が消えそうな蝋燭の手持ちの燭台を持って。
「ひぃぃいっく。ういっとぉぉ。奴隷にひっくっぅぅなってぇういとぉぉ。酒がいいねぇぇ。あらよってぇぇ。
俺の金貨ちゃんはういっどぉぉこだ。五十枚たぁぁ気前がいいねっとぉ。ういっ。藁の下ぁ。山盛りの藁は何処ですかぁぁ。
ってぇぇおうあったぁぁ。ここかぁれどれどぉぉ。おぉぉ急にぃひっく、明るくなったぁぁ。あれ?
「ドンコ」
「かぁぁじだぁぁ。かぁぁじだぁぁ。みんなぁぁ。来てくれぇぇ
屋根の上の見張りの二人。
「あんたうまく行ったよ」
「いくぜぇ。突撃ぃぃ
裏路地。
「エリンキ。消せ」
「了解」
「おっさん確保。警察に」
「了解」
「その後、ミレッシュ」
「はい」
「ドンコ。行くぞ」
「おりゃぁぁぁ」
エリンキは到着した警官に。
「警官のお方。消火は完了。この方です」
「お預かりします」
「では」
玄関を入った集団は奥のミレッシュの部屋へ向おうとしたが。
ハルサーラが。
「シャレン。魔石に灯りを」
「はい」
明るくなった食堂。
「「「なんだぁぁ?明るくなったぁぁ」」」
「何だい。大の大人がいたいけな少女ぉ
「ハルサーラ。寝ていただろ?なんで?」
「説明する義理は無いね。
その抜剣した剣で私達を殺しに来たんだろ。全てお見通しさ。
やっておしまい」
「「「「了解」」」」
「待ち伏せだぁぁ引けぇぇぎゃぁぁ
「おいおいつれないねぇ逃げるのかい?入ったら出口はねぇよ」
「ガルカク」
「ホロホぉぉ。表に警官達が多数ぅぅ。逃げ場がねぇぇ」
「聞いた通り、表に出たらお強い警官様達とガーリッシュとドンコが居るぜ」
「くっそぉぉ。死なば諸共ぉぉやれぇぇ」
「マスケット。やるぞ」
「はい兄さん」
「つえぇぇ
「なんでスカッシュもこんなにつえぇんだよぉぉ
「あの子も強いわよ」
「アルミスぅぅ?何でここにぃ」
「初めまして。さようならぁ」
「うんぎゃぁぁ」
「大奥様の背中を狙うとは卑怯なりぃぃ」
「うぎゃぁぁ」
「わたくしもいますよぉぉ」
フジミヤの部屋のベッドの上のカスミナがミレッシュを抱きかかえ。
「ミレッシュ。隠蔽が掛かっているし、扉の外にエリンキお兄ちゃんもいる。お姉ちゃんが着いているから大丈夫だからね」
「うん」
ヤブツーツキの馬車は既に警官によって制圧され。
表通りや脇道で警官隊が賊を切り捨てていた。
元のミレッシュの部屋。
「あぁあ。貴重なガラスを割っちまってぇ。女神様のお怒りを買うよ」
「シュベッタ?ここには娘がいたはず」
「あたしも有名人だねぇ。で、可愛い娘だよ」
「おばはんじゃなく、娘は?」
「娘だつぅぅのぉぉ。死んどけぇ
「ブチきれたぁぁ
「くっそっつえぇぇ
「あたしは逃げるからね。闇討ち以外で勝ってこねぇさ」
見張りをしていた女は軒を掴んで屋根に大車輪状態でしゃがんだ。
そこにはフジミヤが立っていた。
「まるで忍者ですねぇ。お姉さん」
「あんた」
「ミレッシュちゃんのお婿さん。
僕のお嫁さんを攫おうと画策するからぁぁほらぁぁあそこぉぉ。見ていいですよ。あなたが動かなきゃ何もしません。
あぁあ。ボスの馬車が大変なことにぃぃ」
「警察か?」
「はい。呼んでおきました」
「全て嘘?」
「はい。あなた方とヤブヤを壊滅させるための陽動。とでも言っておきましょう」
「まさかお館様の方も?」
「はい。放火の教唆と襲撃の許可。尻尾を掴んだ警察は迅速に動くでしょうねぇ。色々と悪事に手染めていたようですからぁぁ」
「きさまぁ
「今だと、不法侵入だけで僕が済ませる事も簡単。抜いて向かえば火あぶり。どうしますか?」
「にげ・・はっ?」
「動けますかぁぁ。手枷もしておきましたよぉ。
今なら簡単に首が落ちますよ」
「寄るなぁ。レベル差が大きいのか?あたし700有るんだけど
「僕は千越えのAランク。ここに冒険者カードがあります。名前は伏せてお見せしますよ。ああ。灯りが必要ですね。どうぞ」
「えぇぇ?勝てない。判った。火あぶりだけは嫌だ。断頭にして欲しい」
「確認ですが、今までに何人殺しました?」
「十人ぐらいだ」
「ほう。なかなかですねぇ。さっきの相方のお方はご兄妹?恋人?ご主人?」
「さっきの相方って」
「一緒に監視をなさっていたお方ですよ」
「何故相方を知っている」
「『眠い。集合場所で食って寝る。あいよ』」
「聞いていたのか?」
「軒下で暇潰しにね」
「そこから聞いていた?」
「その前から。『飽きて来たよ』」
「はぁぁ。何でもない奴だ。ただの仕事仲間」
「そうですか。もう亡くなっていますからね」
「三人をシュベッタ一人でか?」
「はい。お強いですね。
警察で洗いざらい話したら司法取引で減刑できるように僕が話しておきますよ」
「あんた一体?」
「さぁ何者でしょう。どうします?」
「判った。女神に誓って全て話そう」
「そこは女神様と言った方がいいかもですよ」
「女神様に誓う」
「一点だけここで確認をしたいのですがいいですか?」
「聞いて」
「赤瓶の増血剤」
「ああそれかぁ。あたしは使っちゃいないが、かなりいるよ」
「何処に?」
「ここで死んだ奴らやヤブヤの方に。お館が名簿を持っているはずだが」
「ありがとうございます。少々お待ちください。
{聞こえましたぁぁ?エウマイアーギルド長}
{はいはい。至急向かいますよ。端っからギルドを巻き込む気満々でしたよね}
{人員足りますかぁ?}
{ガトリングと一緒に急遽揃えましたっ}
{ご苦労様です。では失礼いたします}
「ジャックレイ署長。応じてくれました」
「ジャックレイ?都の警察のトップ?」
「あぁ。あんた名前は?」
「セルファン。女。二十三歳」
「その訛りはホルカイ帝国か?」
「それも北の方な。あぁ入国は正規だぞ」
「こっちの聞きたい事に全て答えてくれたら奴隷落ちで済むように彼から頼まれている。
彼に誓って保証はするぞ。逃げたら火あぶり。どうする」
「そんなに偉いお方なのか?」
「少なくとも俺より上の、どえらい方と念話で話せる。って、とこだな」
「判った。逃げも隠れもしない。いやできない。この手の木枷。魔法封じ。
ヤブヤのあたしの部屋に資料が有る。魔力認証式だ」
「行こうか。彼君。協力に感謝する。言われた通りその他も捕らえている。
ああ、マジルは逆らったから切り捨てた。死亡」
(ミレッシュちゃんに怖い事を言った報いです)
「ありがとうございます。下に転移でお連れします。あの馬車でいいですか?」
「あぁ頼めるかね。少々高所恐怖症でね。署長の地位も高すぎて怖いよ」
「はい。馬車前です」
「ありがとう」
「ジャックレイ署長様。お疲れさまでした」
(やっぱここは敬礼だよねぇ)
「君も」
(おっ。返してくれた。本物は貫禄が違うねぇ)
「失礼いたします」
「ああ。彼君。待って欲しい」
「何でしょう」
「あたし達の話し声が」
「耳が良い。あの距離だと無理がありますね。
創世のエルファサ女神様に誓ったお二方。関係したお方でもあります。
他言無用ですよ。みんなおいでぇ。魔力あげるよぉぉ。
みんな、ご苦労様でした」
「その頭の五匹?人?蝶々?」
「しぃぃっ。妖精さん達がお食事中です。では」
慌ただしく後処理に追われる警官隊が囲むポートハウスに向かうフジミヤの後姿を二人は眺めながら。
「なぁ。あたし夢でも見てんのかい?」
「いいや。俺も見た。生まれて初めて。本当に存在しているんだな」
「ここって昔見た絵本のおとぎ話の世界かい?」
「だと良いな。死にたくなきゃ言葉に出すな」
「判った。って彼君は何者なんだい」
「そっち方面は話せねぇな」
「そんじゃぁ敬礼が様になってるんだけど。警官かい?」
「背筋が伸びて奇麗だったね。あそこまで奇麗なのは部下の中でも少数だな。
さぁ乗った乗った。彼のお願いでね。乗せてやってくれってさ」
ジャックレイがセルファンの手枷を持って引き上げるように馬車に乗せた。




