カミミヤファミリー涙のバースデー
公爵が空を仰ぎながら。
「マッドジョイ。女神様も相当お怒りなのだろう。
逆を返せば異界の地から召喚されたイサム陛下とサチ妃殿下をお前に任せてもいいと、手放しで信頼を置いていたのだろうな。
悔もうが泣こうが叫ぼうが反省しようが死んだ二人は戻らぬ。いや、我々が殺してしまった二人。
我々は救世主をこの手にかけた咎人として生きてゆかねばならぬ。本来であればわしらが死んで詫びねばならんが・・・その思いで剣に触れると鞘から抜けん。
この国の全ての者を罪人にしたザイスターと教会連中を処刑し、アイファウスト君を探し、保護するしかないだろうな。
そして我々貴族はその罪人に加担した罪人だ。どのようにしたらお許しを請えるのか、それ以外は今は解らぬ。
一緒に考えようではないか」
「はい」
伝令が走って三人に近寄り。
「ご報告いたします。都内各所のイサム陛下。サチ妃殿下が構想に携わった橋や建物が崩壊。
他にもお造りになったもの全てが粉砕しました。
イサム陛下とサチ妃殿下の開発された物のほとんどとガラス製品。窓ガラスを除きすべてなくなりました。
全ての工房でも同等の被害が出ているようです。
怪我人や行方不明者の報告は今の所は来ていません。
女神様のお告げ通り大陸全土のようです。失礼いたします」
「我々は創世のエルファサ女神様のお力を侮っていたようだな。
世界を滅ぼすことなど造作もないであろうな」
別の伝令が走り寄って。
「報告いたします。今のお告げによりザイスター宰相及び王城内司祭全員を捕らえました。
何方の指示もありませんでしたがイサム陛下とサチ妃殿下を敬っていた貴族や兵士、文官、使用人達による強行です。
侍女やメイド。使用人達を襲っていた者達は尽く殺されました。
クーデター派は鳴りを潜め、逃げるように城を後にしました。残っているのは穏健派とイサム陛下とサチ妃殿下派のみです。
マッドジョイ軍師とその家族はエルファサ女神様のお告げにより受け入れるとの事」
マッドジョイは地面に座ったまま、力無く。
「続けてくれ」
「はい。
ザイスター他各部屋には陛下と妃殿下を騙していた証拠が多数出ました。いえ。机の上に並べられていました。
ザイスターの部屋からは金貨五千枚が出ました。横領の証拠も多数。
窃盗を避けるため封印しようとしましたが金貨一枚動かせない状況です。
恐らくエルファサ女神様の術式ではないか。との事です。
捕縛した者は全ての魔法術式を取り上げ、身柄を地下牢に封印しましたが
「どうした?」
「公爵閣下。とても不思議ですが信じて下さい」
「女神様と亡くなったイサム陛下。サチお妃様が王都の民が見つめる天空に現れ、語られたのだ。今なら何事でも受け入れるぞ」
「はい。ザイスターの胸をイサム陛下ご愛用の剣で一突きにされ死にました。
イサム陛下のお部屋に在った剣が勝手に動いて、宙を舞い、廊下を飛び、牢で刺した。との言事です。
司祭たちの方は同じようにサチ様の剣により全員断頭。こちらも同様です。
リャクダソは倒壊した瓦礫に下半身を挟まれ生きてはいますが何の対応も出来ず、死を待つ状態です。
エルファサ女神様に謝罪を述べているようですが虫の息です。
それでザイスターに突き刺さったイサム陛下の剣に伝言メモが刺さっていました。これです。血は全く付いていません。
マッドジョイ軍師どうぞ」
「ありがとう。
【頑張れよ。マッドジョイ。
イフィス。アイミーナと幸せにな。
アイファウストをガキ呼ばわりされたのは腹が立ったがまぁいい。
さっきは気が立って、ああは言ったが女神様は俺達が説得しておくから。
俺達のお宝はお前達で国民の為に有効に使ってくれ。まぁ曲がったことが嫌いなお前なら心配無いと思う。
まだ、隠れている貴族や教会関係者、商人が居るから例の場所に名簿を置いておく。生かしておくと厄介だぞ。
ザイスターが国庫から横領していた財宝のありかもな。
ザイスターの部屋の金塊は女神様が認めるまで誰も手を付けられない。何れ許可も下りるだろう。
闇ギルドの連中も女神様が殺している。やっぱ色々やらかしていたよ。
もう、復活は不可能だろう。所在地はメモしておいた。
あと、頑固も大概に。信用し過ぎも、疑い深いのもほどほどにな。
さっきも言ったが、国王様に成ったらちゃんと町ん中歩てみて回れ。自分の目で確かめろ。
お前との冒険。焚火を囲んだ野宿。くだらねぇ話し。クソ不味いおめぇの料理が妙に懐かしいぜ。
そして魔王討伐。本当に楽しかったぜ。相棒】
【イフィス。冒険もお茶会もとても楽しかったわ。もっともっといっぱいお話しがしたかった。
あなたが作るクッキーやケーキが大好きだった。もっと食べたかったわ。
『少し失敗ぃぃ』の、時の、はにかんだ笑顔が大好きだった。
もう一度あなたと冒険がしたかったわ。本当に楽しかったの。寒いときに抱き着いたあなたの暖かさ。今でも覚えてる。
これからはしっかり手綱を握って妃としてマッドジョイを導くのですよ。二度とこのような事が無いように。
わたくし達はあなた方を怨んではいないわ。女神様にも伝えておくわ。
可愛いアイミーナちゃんと幸せになるのよ。
さようなら。わたくしの大好きなイフィス】」
伝言を見た公爵もマッドジョイもイフィスもその場にうずくまり嗚咽になった。
イフィスは伝言を胸に抱えた。
公爵は立ち上がり。
「全近衛兵と全軍に告げよ。
アイファウスト王子殿下とクラウス殿を王城内及び王都内をくまなく捜索するように。
発見次第、わたくしの元へ同行するように」
「了解」
この時、公爵は捜索の理由を告げなかった。
「旦那様」
「どうしたトルイット」
「今を以ってお暇させて頂きます」
「何故だ」
「何故?これはまた妙な事を仰います。
わたくしは常々申し上げておりました。この荒廃した国難はイサム陛下とサチ妃殿下の所業ではございませんと。
ザイスターを殴り倒してでも、お二人のお話しをお聞きなった方が良いですよ。と。
奥様にも、旦那様を気にせず王都内で見聞きしたことをお話しになった方が良いとも進言いたしました。
では、短い年月でしたが、お世話になりました」
「待て。そこまで言うのであれば
「あなた様がわたくしを殴って阻止いたしました。何度も何回も」
「うっ」
「あなた?」
「事実だ。完全にザイスターに騙されていることに全く気付いていなかった。
トルイットはイサム達の犬だと言われてな」
「駄犬は去ります。さようなら」
「待ってくれ。力になってはもらえないか」
「今更?
わたくしはイサム陛下とサチ妃殿下の 犬 で、ございますから。
主を亡くした駄犬は野に去るのみです。
お仕えするわたくしめを殴り倒してでもザイスターの言いなりにさせようとなさったのですよ。
目が覚めたからと今更何を仰るのですか。わたくしめの飼い主様は永遠にお眠りになりました。
殴られても、ここまでお仕えしたことを褒めて頂きたいものですな」
「判った。何を望む。何でも言ってくれ」
「物欲はございません。
ただ二言のみをお伝えして去ります。
謝罪のお言葉は頂けないのですね。
それと創世の女神。エルファサ女神様も仰っていました。そして確信を得ました。
英雄殺しの無能のAマッド
「えっ?」
「転移で行ったな。転移場所は判るがもういいだろう」
周りにいた兵士たちも。
「「「「わたくし達も英雄殺しに付き合ってはいられません。城内兵を辞職します。さようなら」」」」
「奥様。アイミーナお嬢様をお抱きください」
「判ったわ。みんな揃ってどうしたの」
「「「「「英雄殺しの側に居たら殺されます。さようなら」」」」」
「そ う」
「はぁぁ。屋敷内は空っぽになった。警備兵ももういない。
城内の方も辞職者はあと何人出るのであろうなぁ」
「あの者らはイサム陛下とサチ妃殿下派でしたねぇ。
あなたに対して何度も何度も意見具申をしておりましたね。
しかしあなたは逆にお前達が騙されているのだと」
「なんでだよぉぉ。なんでなんだよぉぉ。ザイスターのバカ野郎がぁぁ」
「あなた。親友を信じ切れなかった報いをこれから受けるのですよ。
今更地面を殴ってもお二人は帰って来ませんよ。
わたくしも わたくしも何故頑なに情報を うっうぅぅぅサッちゃぁぁぁん。あぁぁ
「あ”ぁぁぁ
後日、王として王城に入ったマッドジョイ。妃となったイフィス。
トウショウ王国の王城に各国から転移紋や転移回廊で訪れた使者から、大陸全土の教会で信者が女神の憤怒の威光を受け、教会が崩壊した事を知らされた。
各国も漏れなく、イサム達が関わった物全てが崩壊し、魔法の大半も行使できなくなっていた。
また、各国の王もイサムとサチが殺された事を女神からの神託で知っていた。
トウショウ王国以外の各国は王命で総力を挙げてアイファウストを女神の御遣いとして、保護対象として探す事になる。
この大陸全土で起きたこの日の出来事を人々は
『カミミヤファミリー涙のバースデー』
と、呼んで各所の簡易祭壇にイチゴの三角ショートケーキを供える日となった。
その年に五歳の誕生日を迎える男の子たちは、簡易の教会でお供えされたイチゴの三角ショートケーキを食べると無病息災になると捻じ曲がって伝えられるようになる。
それはたった五歳のアイファウストがあの混乱の中を生き延びていると言う不確かな情報から・・・