荒んでいるノルトハン王国のギルトと冒険者
ギルドの受付前。
フジミヤの前に笑った者達十三人が正座で並んだ。その周りにはやじ馬が寄って来た。
ガルカクはフジミヤの後ろで気を失ったまま。
「フジミヤ。君が納得できる謝罪を言ってもいいんだよ。例えば有り金全部を出せとか、それこそ命を以って償えとか」
「えぇぇぇ。そんな事までぇ」
「貴族で言えば不敬罪に相当しますからねぇ。
Aランクは既に子爵程度の貴族と同等。レベルによっては伯爵や侯爵。公爵と同程度。意味解かります?」
(クラウスが言ってたねぇ)
「はい。理解できました」
「今現状でフジミヤはレベルも高いので伯爵と公爵の間程度。侯爵と認識してください」
「判りました。確認ですが国の貴族の不敬罪と同じ規定ですか」
「それに準じます」
「もう一点良いですか?」
「何でしょうか?」
「お小言を言って良いですか?」
「過度な罵倒をしなければ」
「では、皆さん。
あなた方は国王陛下とも言えるノルトハン王国王都ギルド本部、エウマイアーギルド長の言葉を全く信じなかった。
つまりこれは反逆罪。即刻この場で首を・・・刎ねはしません。
不敬罪は適用を受けた者をその場で処刑すればそこで終わり。
しかし、被害者であるわたくしが一旦保留とすればその適用はわたくしが不敬罪の処罰を執行するまで半永久に継続されます。
意味は解りますね。
よってわたくしは不敬罪の適用の処罰を一旦保留とします。
そしてあなた方十三名が以後一度でもエウマイアーギルド長に逆らう行為を行ったとわたくしが認めればわたくしが遠慮なく首を刎ねます。
Aランクですからどこまで追いかけますよ。
逃げることは決してできません。
わたくしのギルドカードです。ご覧ください。
大陸の四隅に在った四か所のダンジョン全て十歳までに制覇済みです。初級ダンジョンになる前ですよ。
勝てると思うお方はどうぞ前へ。
・・・・・
いらっしゃいませんね。
イサム・カミミヤ元陛下とサチ・カミミヤ元妃殿下が苦労して造り上げたギルドです。
国のため。民のため。そして冒険者であるあなた方の為のギルドです。
何をバカげたことをやっているのですか。自分より年下が上位のランクになった。
褒め称え自分も研鑽し、追いつき追い越せと互いに励まし合うのが冒険者ではないのですか?
何ですかあなた。わたくしを睨んでいいと思ってるのですか。そうですか。解りました。今ここであなたに対し死ぬまで不敬罪を履行しましょう。死ね」
「ぎゃっ」
正座していた正面の男の胸を一突きにし、引き抜いた。
「「きゃぁぁぁぁぁ
「次は誰ですか。同時に掛かって来てもいいですよ。
・・・・・
「ちょフジミヤ君。待ってください。本当に殺したのですか?」
「殺しても良いんですよね」
「そうですが。カリーナ」
「はい。えっ?」
「どうなんです」
「心臓一突き。死んでいます」
「「「「えぇぇぇぇ?」」」」
「「「「きゃぁぁぁぁ」」」」
「それで他に何方かいませんか。
あなたどうです」
「お お許しをぉぉ」
「許しませんよ。
他には居ませんかぁ。残念ですね。仕方ありません」
(回復。ヒール。床清掃。完璧)
「えっ?俺、今刺されたよな」
「「「「え”ぇぇぇぇ?」」」」
「生きてるのお前?」
「死ぬほど痛かった」
「お前服に穴が開いて血だらけ」
フジミヤはその男に血糊の剣を突きつけたまま。
「あなたは生きています。故に不敬罪は続行ですよ。解っていますか?」
「も 申し訳ございませんでしたぁぁ」
血を魔法で洗浄して鞘に収め。
「ああ。謝罪は必要ありません。
あなたのわたくしへの謝罪は死ぬことだけですから。それが貴族に逆らった時の恐怖ですよ。
いいですか皆さん。もう一度言いますよ。
イサム・カミミヤ元陛下とサチ・カミミヤ元妃殿下が苦労して造り上げたギルドの名を貶めていけません。
それこそカミミヤファミリー涙のバースデーの日にエルファサ女神様が皆殺しにした裏ギルドになってしまいますよ。
ギルドを正常に運営するのはギルド長も受付のお姉さんも解体場のお兄さんもお姉さんも。そして、最前線で戦うあなた方冒険者なんです。
先程、エウマイアーギルド長が仰っていました。Aランクは貴族だと。
ならばAランク以下のお方は国軍であり近衛兵なんですよ。国と民を守るのが義務なんです。困っている人がいれば助けるのが義務なんですよ。
あちらのクエスト依頼掲示板をごらんなさい。
この近辺のクエストは有りません。しかし、南北の国境や南北の森林地帯で困っているお方達が居るではありませんか。何をしているのですか。
おいそこのお前。さっきまで酒飲んで大笑いをしながら女性達の迷惑を顧みずに声を掛けまくっていたな。
エウマイアーギルド長。あの者のランクは」
「Cランク」
「それで私を笑って罵倒していたのか。
何の努力もせずにこの私をよく笑えたな。
ここはお見合い会場か?酒場か?冒険者とは何だ。ギルドとは何だ。エルファサ女神様から賜った魔法を何に使っている。考えた事が有るか。
冒険者なら冒険を。魔物の討伐を。一般人を命懸けで助け、命懸けで野宿を楽しみ、荒野で食事を楽しみ、魔物との命の駆け引きを楽しむ者ではないのか。
それらを解かって、理解し、納得して、命を掛けて冒険者になったのであろう。
一体このギルド言う場所を冒険者を何と心得ているのか。
それすら忘れてしまっているのですか?
ここの全員。自分のギルドカードを出し、裏を見直せ。よく見ろ。
おいさっき死にかけたお前。冒険者の心得をタップしてスクロール。
最後の六つを読み上げろ」
「はっはい。
一つ。冒険者は傲慢で有ってはならない。
一つ。冒険者は民を救う義務を有する。
一つ。冒険者は常に平常心でなければならない。
一つ。冒険者は民の上に立つ者ではない。
一つ。冒険者はギルド長の命令に逆らってはならない。
一つ。
「一旦そこまで」
「はい」
「あなた方冒険者は民を救う義務を有しているのですよ。
あの掲示板のクエストは民達がなけなしのお金を出して依頼を出しているのですよ。助けを求めているのですよ。
例えクエスト内容に金額が見合わなくても取り合い奪いをするものでしょうが。一年前のクエストとは何ですか。情けない。
その対価としてランクアップ。より良いクエスト。陛下からの褒章が用意されているのでしょ。
軍隊で功績を挙げたお方と同じでしょう。違うのですか。
ギルド登録が今日初めてでも、十五歳に到達するまでに経験を積み、数多くのお方を救い、数多くの討伐をしてこればいきなりAランクの四桁だってあり得るでしょうが。
そんな事も理解できないのですか。
何ですか『いきなりAはおかしい』とは。何の根拠があるのですか。死にかけたお前がBランクの方がもっとおかしいでしょ。
イサム・カミミヤ元陛下とサチ・カミミヤ元妃殿下がお造りになったカード発券機を疑う?
なら今ここ居る全員。四カ国全員。Sランクのアバター様のランクを疑う必要がありますよね。
おいっ。死にかけエセBランク。どうなんだ。
(あぁぁそう言う事かぁ。ランクアップに達した時に素性の確認で昇格降格。
通常のカード更新時には確認されないから剥奪とかも無いんだぁ。お父上。お母上。バグですよ。
だから、気に入ったランクで居る限りは好き放題のやりたい放題が出来ちゃうんだ。
それをみんなも知っている。はぁぁなんてこったい)
まぁいいでしょう。言いますよ。
私はきのう一日で単独討伐三メートルのトロールを二十三体。合同討伐五メートルのゴブリンキングを討伐しているのですよ。
標高八千メートルのドラゴンの巣で八メートル級のドラゴンを単独討伐すら行っているのですよ。
十五歳になる今日までに五十万体以上の魔物を討伐しているんですよ。
エウマイアーギルド長」
「みんな聞きなさい。嘘も隠しも有りませんよ。全て本当です。全ての魔石を収納に保管してあります。これでもまだ過少申告ですよ。
彼が全ての魔石を放出したら魔石の相場が一気に下落。
今、ゴブリン一体の魔石の標準価格が大銅貨一枚。それが十体以上で銅貨一枚になりますよ」
「私がAランクで文句があって笑えるお方は前に出て来てください。
・・・
お前笑っていたじゃないかぁぁ出て来いよぉぉ。ドラゴンを今直ぐ討伐して来いよぉ。それから私を笑えよぉ。
エウマイアーギルド長。あのお方の年齢は」
「二十二歳のBランク」
「私、十五歳ですよ。若いですよねぇ。お尻が青いですよ。笑えば?笑えよ。
いいかここにる者達よく聞け。
イサム・カミミヤ元陛下とサチ・カミミヤ元妃殿下が命を賭して苦労して造り上げたギルドを酒場にするんじゃねぇぇ。ナンパの場所にするんじゃねぇぇ。
そこの女達ぃぃそんな半裸みたいな恰好で森に入れるのかぁぁ。沼地に入れるのかぁぁ。崖を登れるのかぁぁ。雪山に行けるのかぁぁ。冒険者を舐めるんじゃねぇぇ。
襲われても文句言うなよぉぉ。端っから仕事する気がねぇのかよ。
命懸けのクエストを達成してお祝いのお酒なら何も言いませんよ。
そこの食堂で大いに飲んで生きている幸せを実感して、次のクエスト達成の糧にしてください。
命懸けのクエストを達成して息抜きのファッションなら何も言いませんよ。
みなさんお美しいですからねぇ。良くお似合いだと思います。ファッションも楽しみの一つです。
しかし、あんなに地方のクエストが残っているのに何をしているのですか。
何のために国境をカードパスにしているのでしょうか本当に。あなた方の事を冒険者とは言えませんよ。最低にカッコ悪い
「ガキがぁぁいい加減にしやがれぇぇ
「やったれやぁぁイデピッドぉぉ
「「やれぇぇ」」
「はぁぁ抜きましたね。さようなら
「えっ?」
抜剣しながら木こりに向かって来た男が宙に浮いた。
「おいっ。ちょっ。これどうなってんの。体が全く動かねぇんだけど」
「Cランクのイデピッドさんまたお会いしましたね。で、今度は死にたいようですね。
煽っていたお仲間さんの裸同然の女冒険者さんお二人とスキンヘッドのおじさんはどうなさいますか?」
イデピッドは天井近くで両手を上げた状態でシーリングファンの最強風力のように高速で回り始めた。
それを見ている三人は。
「「ああうぅぅ」」
「おっおう」
「そのお返事では判りませんねぇ
三人は一瞬で土下座に成り。
「「「申し訳ございません。動きません」」」
「今更ですかぁ。
エウマイアーギルド長。どうしましょうか?」
「そんな事も出来るのですか?」
「ご覧の通りですよ。更に高速回転も可能ですよ。どうです?これ以上早く回すと剣を持った手と足がちぎれますよ。ギルドの中が血だらけです」
「あれ生きています?」
「既に頭に血が上って死んでいますよ」
「はぁぁ下ろしてください」
「はい。どうぞ」
「カリーナ。確認」
「死んでいます」
「「「あ”ぁぁぁぁ」」」
「フジミヤ君」
「許すんですか?
僕が強く無ければ僕が死んでいましたよ」
「そうですがぁ」
「それにギルド内。いえ、緊急時を除いて抜剣はご法度ですよ。
見逃すのですか?
もしかしてエウマイアーギルド長はこのお方達のお仲間?」
「違います」
「死んでいるんですよ」
「厳正に対処します」
「仕方ないですねぇ。ヒール」
「えっ?俺っ
「「「「「え”ぇぇぇぇ?」」」」」
「これで皆さん判ったでしょ。二度目ですよ。奇跡でも何でもありません。会得しているスキルですよ。
フジミヤ君がどれほどの高見に居るか」
「「「「「あ”ぁぁぁぁ」」」」」
「エウマイアーギルド長。ヒールは相場で幾らですか」
「金貨五百枚以上」
「イデピッドさんの借金は金貨五百枚。パーティー均等割りでいいですね」
「止めなかったパーティメンバーにも責任が及ぶという事ですね。
解りました」
「「「え”ぇぇぇ?」」」
「待ってくれ」
「では死にますか?」
「そうじゃねぇよぉ」
「では、私の間違っているところを指摘してください。
私が間違っていたら謝罪して金貨を五百枚を払いますよ。ほらどうぞ。これが現金の金貨で五百枚ですよ。
年端もいかぬガキに正論を指摘されて腹が立ったと言うのなら払って頂きますよ。どうぞ」
「・・・」
「言えないのなら殺気を乗せて剣を抜いてしゃしゃり出て来るんじゃねぇ。そりゃ」
床に座っていたイデピッドの顔面を回し蹴り。
正座しているパーティー仲間の顔の横をすり抜け吹き飛んで行った。
イデピッドが手に持っていた剣でスキンヘッドの頭が切れ血が流れた。
「えっ?痛ぇぇ」
「あんた血が出た」
イデピッドはギルドの出入り口から通り迄吹っ飛んで地面に寝転がった。
「良かったですねぇ剣が首を直撃しなくて」
ハルサーラが。
「あなた達良かったわね。
フジミヤ君が わざと 当てないようにして」
仲間の三人は完全に土下座に成り。
「「「申し訳ございませんでしたぁぁ」」」
「ガーリッシュさん達を。冒険者仲間を妬んで襲っていたあなた方をその程度で許すとでも?
ガーリッシュさん達の件は僕はもう全ての襲撃を把握していますよ。八回」
「「「えっ?」」」
「まぁいいでしょ。
エウマイアーギルド長。あの者のギルドカード剥奪」
「はぁぁ。一応ガーリッシュ達当人が『次は』と、言っています。慈悲は」
「エウマイアーギルド長も殺気をお感じになったでしょう。一任します」
「ありがとう。
三人共、この場で死にたくなければ今は指一本動かすな」
「「「はっはい」」」




