女神の怒り
「救世主様たちを・・・やはり、間違いではございませんでしたか」
「トルイット?」
「いえ奥様。
ご報告でございます。
先程。王城から使者が参りまして、旦那様のご指示通りお二人の亡骸は粗末な木箱に詰められ海に向かって走り出したと。のぼりを立て向かったと。
道中、民から石を投げつけられるでしょう」
「俺のせいだぁぁ。俺がバカだったばかりにぃぃ。ザイスターを信用したばっかっりにぃ。
この国を救った英雄が勇者がこんな結末になったのは俺のせいなんだぁぁ。うおぉぉ
(今更何を白々しい)
「旦那様。アイファウストお坊ちゃまは?」
「あなたぁぁ
「恐らくクラウスが匿って隠れているのだろう。今城内をくまなく探している」
「ザイスターや教会に見付かれば更に罪を重ねる事になりますな」
「今団長に居なかった報告を命じた。城の中の者にも一切手出し無用と」
「至急奥様の御父上の公爵閣下にお会いになった方が良いかと」
執事のトルイットの言葉のタイミングで鎧をまとった初老の男が入ってきた。
「それには及ばん。よくやったな。マッドジョイ。これで乱世は良くなる。
アイファウスト王子殿下はいまだ見つかっておらぬが」
イフィスは書類の束を持って部屋の入り口に居る父親に走り寄った。
「お父様。これを」
「どうしたイフィスそんなに慌てて。書類の束か?」
「取り敢えず目を通してください。お話しはその後」
そう言って目を伏せた。
一通りに目を通した公爵が複雑な表情と戸惑ったような口調でイフィスに。
「待て待て待て、待てぇ。これはどう言う事だぁ」
イフィスは涙を流しながら公爵を見上げ。
「それがイサム陛下。サチ妃殿下の真の御心です」
「バカを申すなぁぁ。どいう事だぁぁマッドジョイぃぃ。説明をせよぉぉ
マッドジョイは涙を流しながらも、落ち着いた口調で。
「我々軍属と貴族はザイスターと城内司祭リャクダソに完璧に騙されていました。
面会が叶わなかった事。陛下の議会への出席がなかった事。今思えばおかしなことばかりでした」
「騙されたでは済まぬであろうがぁぁ。
だが、わしも陛下へのお目通りがザイスターに何度も却下され、素直に従ってしまっていた」
その時、王都中の教会の鐘が落ちる音が響いて来た。
かなり大きな爆発音も。
「お父様」
「創世の女神。エルファサ様のお怒りだ。お二人を手元にお召しになられたのであろう
公爵に付き添って来た軽装兵三人が喉元を両手で抑えて倒れもがきながら。
「イサムに謝れぇぇ」
「サチに謝れぇぇ」
「アイファウストに謝れぇぇ」
「おいっ。どうした。大丈夫・・
「お父様?」
「死んだ。恐らくエルファサ女神様のご意志だろう。
イフィス。アイミーナは」
公爵はイフィスの両肩に手を掛けた。
「奥で侍女が
侍女がアイミーナを抱き抱え部屋に入って来て。
「こちらにおいでです。えっ?」
公爵が。
「そこの三人は恐らくエルファサ女神様の御力で死んでいる。
何が起こるか分からん。そこにいろ」
「は はい」
「そのまま抱いていて」
「はい」
「そこの兵三人でアイミーナを囲め」
「了解」
「そっちの三人でこの者達を丁重に葬ってやってくれ」
「公爵閣下お言葉ですが。その者らはイサム陛下とサチ妃殿下に罵声を浴びせていた者らですよ」
「そうであったか。だとしてもだ」
「了解」
兵士が死体を部屋の外へ出すと同時に部屋に伝令の兵が入ってきて敬礼をして。
「お取込み中の所失礼いたします。軍師閣下。公爵閣下。失礼たします。
こちらは?」
「その三人はこの場でエルファサ女神様に召された」
「そうでしたか
「申せ」
「はい。公爵閣下。
恐らく都内全ての教会の鐘が落ち、教会内の祭壇が崩れ落ちました。
王城内の祭壇も崩壊。ステンドグラスも粉砕しました。
各所の教会のその場に居た信者は女性の声で、いえ。エルファサ女神様のお声で『愚かな民達』と、申されたそうです。
復旧を試みているそうですが直ぐに崩れてしまうそうです。
以上です。失礼いたします」
次の伝令が入って来て敬礼をして。
「ご報告いたします。海に向かった馬車から早馬連絡。陛下とお妃様のご遺体が空からの光りに包まれ天に召されたそうです。荷馬車はその場で粉砕したようです」
立ち去った伝令に続いて、次の伝令。その後方にも並んだ。
「ご報告いたします。王城の断頭台が爆発しました。周辺に居た軍の兵士及び民衆が多数死傷。現場は混乱。収拾が付きません。指示を下さい」
この伝令は留まり、その横に別の伝令が立ち。
「ご報告いたしまぁぁす。西の国境砦に森林の魔物多数接近ちゅぅぅ。現在、応戦中。ですが被害はじんだぁぁい。
応援要請が来ていまぁぁす。ですが各所の直通連絡水晶が破裂しました。通信不可ぁぁ。短距離の念話のみでぇぇす。応援を出しますかぁ。指示下さぁい」
「ご報告いたします。王都内全域の教会が崩れ去りました。司祭を含め死傷者多数。エルファサ女神様のお声で『もう必要ない』と、仰ったそうです。失礼いたします」
「ご報告いたします。断頭台爆発の続報です。今調査段階ですが怪我をした者からの情報ですと、自分達はザイスターに金を貰ってやったと。
罵声を浴びせた者が喉元を押さえてもだえ苦しみ、回復魔法の効果は全くありません。既に数十名が死亡。
石を投げた者が突然現れた岩でゆっくり潰され死亡。まだ、岩の下敷きで生きている者も多数いますが救助のため岩に触れた者は吹き飛ばされます。その者達も死傷しています。
死傷者は現在までで凡そ百五十名。さらに増えると予想されます。その場から逃げた者達が街道のあちらこちらで倒れています。
軍の方も金を受け取っていたようで百名近くが死傷です。
鎧の中は見るも無残です。失礼いたします」
「ご報告いたします。ザイスター宰相が王城の執務室に立て篭もり、マッドジョイ軍師に至急お会いしたいと申されております。いかがいたしますか」
「ご報告いたします。都内の店の冷蔵保存庫が壊れ生鮮品が一気に腐り、イサム陛下及びサチ妃殿下が考案された一部の品々が粉々になりました。失礼いたします」
「ご ご報告申し上げぇぇまぁぁす。まっ窓の外をご覧ください。空です。あの巨大な光の形は恐らくエルファサ女神様のお姿ではないでしょうかぁぁ」
公爵は窓から空を見上げ、全てを悟ったように無気力な声で。
「ああ。間違いなくエルファサ女神様だな。我々は逆鱗に触れたな。マッドジョイ」
マッドジョイは何も言わずに走り出し、玄関を出た。
両膝を付き、人型の光りの方の天を仰ぎ胸で指組をして。
「わたくしを殺して下さぁぁい。それでお怒りをお鎮め願えないでしょうかぁぁ」
天空に浮遊する巨大な人型の光から、怒りのこもった低く重くしかし、透き通るような女性の声で。
「くだらぬ。わたくしの最も愛するイサムとサチを裏切った貴様らはアイファウストが心から許さぬ限り、苦しみ悶え、苦痛と苦渋で涙を流せ。
特にマッドジョイ。イフィス。貴様ら家系は死ぬ事すら許さん。
イサムとサチは貴様らと何度も何度も会話の時を持とうと努力しておった。それを尽く無視しよって、その結果がこの有様だ。許さぬ。
聞け大陸全土の愚民共。わたくしは創世の女神エルファサ。
イサムとサチ。アイファウストを騙し、殺してでも国王の座を欲し、国の金までも横領して財を蓄え、贅の限りを欲した男。ザイスター。わたくしを裏切った男。
贅と女を貪る教会の頂点に居座り続ける事を望んだリャクダソ。わたくしを愚弄した男。
わたくしに誓いをたてながらも、わたくしに嘘をついたマッドジョイ。
そいつらに騙されながらもイサムとサチ。アイファウストの処刑を受け入れた、この国の、この大陸の全ての愚民共に告ぐ。
教会の復興は諦めよ。他の神を信ずれば災いを起こす。
貴様らの命など創世主のわたくしにしたら生かすも殺すもこの掌次第。
ふっ。うん僥倖。イサムとサチが苦労して整備したものを罵倒し、異論を唱え、悪行に自らを置いた愚か者達が苦しみ悶え、激痛を味わいながらようやく死んだな。
魔王を倒し、安寧をもたらし、この世界の創世のわたくしが愛してやまぬイサムとサチを愚弄した貴様らは女神のわたくしすら愚弄した。
貴様らが望む幸せは訪れぬ。覚悟せよ」
女神の光の両脇に新たな人型の光が現れ。
「女神様。それではわたくし達が民から怨まれます。本末転倒です」
「サチがそう言うなら考えようではないか。何とする」
「女神様。俺が思うに、今はこのままでいいのではないでしょうか?俺達がお世話になったお方達もいます。
魔物も引かせ下さい。魔王がいなくなったと言え、地上の負の遺産に対し女神様のお力を使うとお体に障ります」
「いいのかイサム」
「はい。ただ、現状維持でマッドジョイを国王にしてやってください」
「サチもそれでいいのか?」
「はい。それで構いません。
それよりお茶にいたしましょう。ケーキも持参しましたよ」
「そうだな。ん?ケーキも有るのか?」
「はい。いつもお供えしていたあれですよ」
「イチゴか?」
「はい。イチゴの三角ショートケーキです。御代わりも有りますよ」
「早く食べよう。二個は必要だな。
愚民共に告ぐ。マッドジョイ。貴様が次期国王だ。謀ればアイファウスト以外、この大陸全土を吹き飛ばしてやる。気持ち良く死ねると思うな。
あぁそれとマッドジョイ。貴様はサチに最後の最後まで嘘を付いた。
数名のメイドや侍女が犠牲になった。犯した者は今もだえ苦しんでいるがいづれ死に至る。
約束を違える裏切り者。最後まで嘘を付く男。部下に指示もまともにできぬ能無し野郎。あぁぁはっはっはっ。
行こうか」
「はい「はい」
「女神様ぁぁイサムぅぅサチぃぃ待ってくれぇぇ」
「どうしたマッドジョイ。これで良かったんだろう。
共に戦い寝食を共にし生き延びたよそ者の俺達より、道案内のこの世界の宰相を信用した。
女神の寵愛を受けた俺達より元からあった教会を信じた。
謁見の間で俺の横で女神様に一生こいつを信じます。って言ってたのに。
まぁその宰相に俺達も騙されたがな。お相子か?」
「すまない。本当にすまない」
「もう俺達は死んでるよ」
「アイファウストは良いのかぁぁ。帰って来いよぉぉ
「お前が言う所のガキか。立派に育ってくれるさ。
こうやって見守れるしな。いざとなればここへ連れてくる」
「わたくし達の子ですよ。強く育つわ。舐めないでね。
あぁでも可愛いからすぐにここへ連れてこようかしら」
「おぬしらが望むならそれでもいいぞ。わたくしが愛してやまぬ可愛い子でもあるからな。
簡単に裏切る貴様の娘にアイファウストはわたくしが死んでもやらぬし、いらんわ。
なぁぁにが『俺の娘をやってもいいと思っていたんだ』上から目線も大概にしろぉぉ。
魔王を討伐し、この国をこの大陸全土の民達の生活を豊かにし、貧困率も下げ、死亡率も下げたのは紛れもなくイサムとサチだ。貴様などではないぃぃ。功績の横取り野郎ぉぉがぁぁ。
今この会話は大陸全土に聞かせておる。全ての者らが貴様らを敵視するだろう。あぁぁはっはっはっはあぁぁはっはっはっは。
あぁぁイサム。サチ。やはり怒りが収まらぬ。
お主たちが考え作った橋や建物を破壊していいか?もちろんこれ以上人には被害を出さぬ」
「他国にも有りますが?」
「なぁに。お前たち二人の髪の毛一本で済む。造作も無いことよ。
マッドジョイ。貴様が下らん謝罪のために食い下がった報いだ。覚悟せよ。
イサムとサチが生活を豊かにする前に戻してやるぅぅ、ではいくぞ。あぁやはり今着衣の衣服は除く、食器も含めた全てだぁぁ吹き飛べやぁぁ」
マッドジョイの屋敷の食器棚やテーブルのガラス製品が粉砕し、記載されていない紙が一瞬で消し炭になり、文具も粉砕した。
都内各所で爆発音や土煙が上がった。これらは大陸全土で起きている。
「あぁぁはっはっはっ。愚民どもぉぉ逃げ惑えぇぇ思いしれぇぇ。
大陸全土で一部を除き魔法も行使できぬようにしてやった。創世の女神のわたくしと愛する者を愚弄した罰だ。甘んじて受けよ」
「もう女神様。やりすぎですよ。
アイが生きて行く上で大変になりそうですわ」
「そうかサチ。まぁ良いではないか。
アイはわたくしが見守り守り抜く。不自由はさせんよ。
その内、良き者に匿われて、その者達に着いて幸せになるであろう。わたくしの使徒だ。
アイファウストが認めた者達、その周りの者も国王。貴族以上に何不自由無く大いに幸せにしてやる。
使徒であるアイファウストが認めれば、創世の女神であるわたくしの正式な信徒となるのだ。幸せにならないはずがない。
それに少しはわたくしの気も済んだ。少し は だがな。手を出すのはここまでだ。
愚民共よ、今在る教会は全て偽物だ。アイファウストが認めるまではこの世界にわたくしの教会は無い。
愚かな貴様らは神無き世界で心の安らぎを得る場所を失い、悶え苦しみ苦難を味わえ。
イサムとサチ達から技術継承を受けた者も同罪だ。何一つ情報をもたらさなかったからな
「ああ。マッドジョイ。町ん中見て回れよ。俺達は見せてもらえなかったからな」
「あなた方が町の中を見るのを拒みましたからね。ちゃんと見て回るのですよ」
「茶を飲みたい。ケーキも食べたい。帰るぞ」
「はい「はい」
「あぁぁ待ってくれぇぇ。待ってくれよぉぉなぁぁ頼むぅぅ。もう一度だけチャンスをくれぇぇ。もう一度だけぇぇ
「あなた。もうお三方のお姿は有りませんよ。
友人を裏切った罪人のわたくし達には見えないのかも。
女神様のお怒りもごもっとも。弁明の余地も有りません」
「どうしたらいいんだぁぁ。どこで間違えたぁぁ