芋づる式に男爵へ
ララヴールは失禁個所をクリーンの魔法で洗浄して、店の扉を少し直して、そっと閉め、店内に戻ると。
「あら?シーカームさん。クリアスカイさん。給仕のお方も跪いてどうなさったのですか?演技は終わりましたよ」
「アイファウスト・カミミヤ王子殿下。
スカイメインの窮地を助けて下さりありがとうございました。
そしてわたくし達二人と店員三名も」
「いえいえ、わたくしではありませんよ。
ハルサーラ様がうまく纏めてくださったこと。そして、皆様の演技力の高さです。
マーガレットお嬢様を他国の伯爵家のお嬢様と信じ込ませなければここまでうまくはいきませんでしたよ。
さぁ、お立ち下さい」
「あ ありがとう ございます」
「あなたぁ、泣かなくても」
「お前も泣いているよ」
「クリアスカイ。どうする?ここでも仕事が出来るようになったわよ」
「ハルサーラ様。東の地へ」
「家内の言う通り、是非ともお願いしたい。そして、アイファウスト王子殿下にお返ししたい」
「判ったわ。給仕の子達はどうするの?確か孤児院出の子達よね」
「彼女達三人も同行の許可を頂けませんか?
ここでの住み込み。住む場所が無くなります」
「アイファウスト王子殿下」
「一緒に来ますか?」
「「「はい」」」
「決まりね。
しかし、アイファウスト王子殿下。
まさかマウレス宰相様をお連れになって来るとは。
タジット巡査が驚き過ぎてどうかなりそうでしたよ」
「あの方法が最も早く解決出来ましたから」
「そうですが。
アイファウスト王子殿下。
お力添えに感謝いたします」
「「「「ありがとうございました」」」」
「はい。
それで、お腹が空きました」
「そうですね。
シーカーム。
温かいお食事をもう一度お願いできるかしら?」
「ああ。ハルサーラ様お待ちください。
シーカームさん。こちらはこちらで頂きますので、追加料金をお支払いいたします」
「そんな事をしたらエルファサ女神様とイサム陛下とサチ妃殿下にどやされる。追加分はお返しの手付だと思ってください」
「アイファウスト王子殿下。ご厚意は受け取りましょう」
「はい。判りました。お願いいたします」
「少々お待ちを」
「アルミスさん。お体の方は大丈夫ですか?」
「はい。肩慣らしには丁度良かったです。一応ポーションは飲んでおきました」
「申し訳ございませんでした。まさか
「アイファウスト王子殿下。頭を上げてください。ここの誰もがまさかの所業です。
それに感覚を戻すための良い運動になりました」
「ありがとうございます」
「アイファウスト王子殿下。お食事にいたしましょう」
「はい。ハルサーラ様。
では、マーガレットお嬢様。お座りください。椅子を引きます」
「ありがとうララヴール。このままでお食事はダメ?」
「逆にその方が都合が良いと思います。お嬢様もルミアスさんも」
「「お母様」」
「構いませんよ。
お掃除のお願いいたしました。それに、万が一飛び込んでこられると厄介ですから」
「はい」
ホラノベールが口に出した知り合いの男爵。
ガジサーダ・ド・ファドレ男爵の王都の屋敷。
執務室に執事風の初老の男が駆け込んできた。
「何だヨジョハン。ノックも無しに」
「ガジサーダ様。緊急事態でございます」
「何が」
「ホラノベールと護衛五人が不敬罪の疑いで近衛騎士に捕らえられました」
「何だとぉぉ
ヨジョハンから報告を受けたガジサーダ。
「もう一度確認だ。剣を抜いたのか」
「はい。ホラノベールが指示しました」
「最悪ではないか。その伯爵の娘の素性は判らぬのだな」
「はい。恐らく知っているのは陛下。宰相。近衛騎士隊第三隊長サジタリエ・リートッシュとタジット巡査ぐらいでしょう」
「スカイメインとハルサーラもだな」
「そうなりますね」
「くそう。あと少しでクリアスカイと娘三人を店舗丸ごと手中に収められたというのに。
あの場所はギルド直近で好立地だと言っていたではないかぁぁ
「わたくしにそう仰られましてもぉ」
「ポートハウスの方は大丈夫なんだろうな」
「ガジサーダ様ご自身の身の心配をなさった方が宜しいかと」
「そうだった。タジット巡査をここへ呼べ」
「タジット巡査と部下は事情聴取の為、既に王城に。恐らく聴取官はユーミルナ妃殿下ではないかと」
「何にでも頭を突っ込むな。あの妃は」
「幼い子頃からのご性分でしょう。何?何故?お嬢様でしたから」
「侯爵家の使用人達が逃げ回っていたそうだな」
「はい。
それよりも。サジタリエ様は伯爵の嫡男。手詰まりです」
「娘はまだ店に居るのか?」
「私がこちらへ向かうまでは」
「誰か置いてきていないのか?」
「警官が数名張り付いております。その上、昨日の件も有り手数が足りません」
「早くしないとあの口軽男が吐いてしまうではないか」
「あの男はお止めになった方が良いと再三進言しましたのに。
窮した時は身分を見てガジサーダ様のお名前を出してもいいと仰ったばかりに」
「いまさらだ」
「恐らく店や屋敷の方は家宅捜索が入ってるでしょうね」
「あぁぁどうするんだぁぁ
「失礼する。近衛騎士隊第三隊長サジタリエ・リートッシュだ。動かない方が身のためだぞ」
「はい「はい」
「ガジサーダ・ド・ファドレ男爵。既にそこの者から聞き及んでいると思うが、説明は必要か?」
「何の件だね?
それに近衛騎士で有っても、ここまで無断で入れる権利は無いと思うが」
「ユーミルナ妃殿下とマウレス・ジルミナ宰相の貴殿の召喚状だ。確認しろ」
「うっ。魔力が乗った本物」
「ホラノベール・アジキは勝手に司法取引を申し出て、ユーミルナ妃殿下が何も聞いていないのにべらべらしゃべったそうだ。人殺しも含めてな。
その際、貴殿の名のみが十分で七回出たそうだ。
何でも兄弟並みの関係で、ガジサーダ男爵の名前を自由に使っていいと言われた。威嚇に使えと」
「あのクソバカ野郎がぁぁ・・・そのような事は一切言っておりませんよ」
「ほほぉぉ。手持ちのスカイメイン食堂の権利譲渡の証書も提出した。貴殿のサイン入り。
その際、貴殿の指示でゴロツキを使い営業妨害したことも露呈。
捕らえたゴロツキもガジサーダ男爵様から色々便宜を図って頂いたと自白。貴家の紋章の入った貴殿のサイン入り証書を持っていたぞ。普通は持てんわな。
脅しに使っていたようだが?」
「わたしがその者らに渡した証拠と脅しに使っていた物的証拠は」
「ん?ホラノベールとゴロツキの自白で十分ではないか。
まぁ一応言えば現在自白に基づいて警察がギルドも含めて捜査、確認中だ。
後はユーミルナ妃殿下にお聞きしたらどうだ?」
「クッソォぉぉ」
「貴族と賊の癒着はご法度だ。知らぬ訳ではあるまい。
ギルド運営の銀行融資も出来ないようにしていたそうだな。これも貴族が関与してはならない規定となっているよな。
ここの担当営業が大泣きだそうだぞ。関わらなければ良かったと」
「そ その証拠は?」
「ん?あるぞ。ユーミルナ妃殿下の手元に。ギルドも含めて捜査中と言っただろう。そして大泣きだと。
それで賊との癒着の方でいいか?
ご法度の裏の人身売買の商売の女性奴隷を三人だな。三十八歳。四十五歳。四十八歳」
「年齢が間違っていません。終わりましたよ。ガジサーダ様」
「捕まってぎゃぁ
「ガジサーダ様が一瞬で後ろ手に」
「お褒めに預かり光栄ですよヨジョハン殿。
それでねぇガジサーダ・ド・ファドレ男爵閣下。
お忘れでしょうか?あなたもいらっしゃった謁見の間の出来事を。
エルファサ女神様の誓約書にサインしている貴族がノネジット国王陛下に楯突いたらどうなるんでしたっけぇぇ
「あぁぁぁぁ
「同じ男爵様でしたよぉぉ。かなり苦しそうでしたねぇ。おとなぁぁしく着いてきたら何も無いかもぉ
「あひゃぁぁぁ
「おやっ?」
「隊長。泡を吹いて気を失っています」
「何だかねぇ。拘束して連行しろ。
ヨジョハン。お前もだ。聞きたいことが山ほどある。連帯責任で燃えるかもなぁ」
「はいぃぃぃ」
「今家に居る誰一人転移でも逃がさず拘束しろ。逆らった場合は負傷させても構わん」
「「「「了解」」」」」
スカイメインで外食を堪能したアイファウスト。
木こり姿でギルドに向かいながら。
「想像していた外食となぁぁんか違うようなぁ。
勿論、どれも美味しかったですよ。でも、こうもっと楽しい雰囲気を想像していたんですが」
「木こり様。それは次回に。デービッシュ」
「こちらがギルドの職員専用裏口です」
「あっという間に着いてしまいました。お買い物は?」
「スカイメインの裏手ですから、路地にほとんどお店はございません。ここの両脇や向かいにはございますよ」
「どこです?あったぁぁうおぉぉ
「お声が」
「ん」
「入りますよ」
「あぁぁお店ぇぇ
受付カウンターで。
「お待ちしておりました。デービッシュ殿」
「カリーナ。なんか慌ただしいなぁ」
「実は当ギルドの銀行部門の営業が・・・・
「なるほどね」
「申し訳ございませんが、会食コーナーでお待ちいただけますか?」
「あぁ判った。皆さん行きましょう」




