英雄夫妻を後悔処刑
「この城の廊下も見納めかぁ」
「もう少し、装飾に凝っても良かったかも」
「贅沢は敵だ」
「冒険者の時と同じ生活で、全く贅沢して来なかったのに殺されますよ」
「だよねぇ」
「おいっ。下らねぇおしゃべりはそこまでだ。
一応、魔王を倒した功績で言っておいてやる。
ここから出ると石を投げられる。
そこで死なれては元も子もない。防御は許可する」
「ありがとうごぜぇますだぁ軍師様ぁ」
「ありがたいのかしら?」
王城前に設置された三つの断頭台。
既に民衆が集まり、その時を待った。
重厚な鎧に固められた兵士によって断頭台に上がった二人には民衆から罵倒を浴びせられ、石を投げつけられた。
そして二人の首が隣同士で断頭台に設置された。
暫くクラウスとアイファウストを待ったが民衆が爆発しそうになったため、イサムの顔の位置に立ったマッドジョイ。
「ここに集まった皆に告ぐ。私は軍師マッドジョイだ。今回のクーデターの総指揮官でもある。
ここに国を混乱に陥れ、民達を苦しめた国賊を捕らえた
「「うおぉぉぉぉ」」
群衆のそのうめくような雄叫びは天にも届くほどだった。
「即刻首を刎ねる所だったが国賊の息子であるアイファウスト王子が逃げ出した。
全力で捜索中だがいまだ見つかっていない。今まで待ったが出てくる兆しも無い。
五歳の身。一人で逃げている訳では無かろう。恐らく侍従のクラウス。侍女の女と一緒のはずだ。
諸君。この町の中にも逃げ出している可能性も否定できない。
黒目黒髪の五歳ぐらいの男の子を見付けたら警察。国軍。自警団に通報して欲しい。
その身をわたくし達が確認する。間違いは絶対に起こらない事を保証しよう。
捕らえてこの断頭台で首を刎ねる。国賊の子を生かしておいてはいけない。いつか必ずその怒りを刃に乗せ君達を襲うであろう」
「探して殺せぇぇ「「おぉぉぉぉ」」
「サチ。マッドジョイ君のなかなかの演説だったな」
「違う方へ向けてくれればよかった。そう思いますよ」
「許可無く会話をするな。
さて二人共。ここで逆らい防御魔法で刃を受けなかった場合は人質が死ぬ。心しろ。
お前が魔王を倒したのは揺るがぬ事実だ。少しばかりの願い事は聞いてやる。あぁアイファウストの命乞いはするな」
「ありがとう。それは願わない。一つはサチを先に頼む」
「何故だ?」
「俺が死んでからだと、慰み者になっていても判らん」
「そこまで下劣な民では無い。まぁ願いは聞く。サチ。それでいいか?」
「はい。構いませんよ。それを望みます。
わたくしからもいいですか?」
「あぁ」
「人質となっている配下の者に怪我は?」
「お前達が死ねば開放する。本人たちの意志で王城に残るのも良し。里に帰るのも良しだ。自由を保障する。
だが、逃亡を計ったり、抵抗すれば取り押さえるが現時点で殺すことは無い、それ以外には何もしていない。その様に報告が来ている」
「信じるわね」
「俺からもう一ついいか?」
「何だ」
「近くに寄れ」
「今更なんだ」
「いいから来いって。
俺のズボンの右ポケットに手を入れてくれ。ザイスターに解らないように」
「これは鍵か?」
「あぁ。俺の執務室の机から見て右の本棚。真ん中の段の右から三冊目を取り出すと鍵穴がある。その鍵だ。
絶対にザイスターに見付からないようにお前一人で開けてくれ。絶対に一人でだ」
「何が入っている」
「お前へのプレゼントだよ。あぁ殺すような物は入っていないし、トラップでも無い。
困窮した民達が諸手を上げて喜ぶような代物だ」
「お前やはり
「この期に及んで金なんか持って行かれないよ。それに俺とサチが真っ当に稼いだ金だ。見れば解かる」
「確かに身分や金に執着はしていなかったな」
「全くな。
この格好見りゃ解るだろう。俺達が考えたスラムの者達でも買えるポロシャツとジーンズだぞ。
そこに居るザイスターの方が金ぴか装飾でよっぽど王様だよ。
何度も何度も言ってきたが、お前にしつこく言われなきゃ、王様になんか成りたくなかったよ」
「本当。わたくしのドレッサーも知っているでしょ。イフィスの十分の一以下よ。宝石にも衣装にも興味が無かったし。
教会と仲良くパーティー三昧のザイスターは凄かったわね。何処にお金が有ったのかしら。
あぁあ。冒険者が良かったわ。楽しかったもの」
「贅沢なんてなぁぁんもしてこなかった」
「今朝の目玉焼きとパン。サラダも美味しかったわぁ。
今日のアイファウストの五歳の誕生日も盛大にやるって言ったのあなたとザイスターよ。
毎年のように民衆と同じように、ケーキ三つで済ませるってわたくし達は言ったのに」
「贅沢のぜの字もしてこなかった、俺達の生活様式をお前が一番よぉぉく知っているよな」
「貧相な装いを周りの貴族連中が国王、妃に似付かわしくないと、いっつも言っていたわ。
あなたが一番知っているわよね」
「ちょっと待て。お前達が言っていたことは
「この態勢苦しいし、疲れるんだけど。早くやれ。奴が来る」
「いや待て
「マッドジョイ軍師殿。いつまで民衆を待たせる気だ」
「いや、しかし」
(これ以上イサム達と会話されてはボロが出そうだ。
奏上した報告書類も見つかっていない。早々に回収せねばならん)
「もう待たん。アイファウスト・カミミヤ王子殿下は後程探せばよい。
最後の約束はサチが先だったな。おいサチをやれ」
マッドジョイはサチの断頭台のロープを切る役の兵に数歩近付きながら。
「ちょっと待ってくれ
ザイスターは。
「マッドジョイ殿は怖気づいたのですか?
構うな。やれっ」
「はっ」
群衆から大きな雄叫びが上がった。
「終わりましたな。マッドジョイ軍師殿」
「ここは任せた」
「勿論そのつもりです。あなたは民衆を纏めるのは下手だ。アイファウスト捜索のために軍人を纏めてきて下さい」
「あぁ判った」
ザイスターは走り行くマッドジョイの後姿をみながら。
(脳筋冒険バカを教会と騙すのはちょろかったな。他の貴族もバカばっか。これで俺が国王。やっとだ。
後は血を引くアイファウストを殺せば完璧。クラウスは貰っておくか)
執務室に駆け足で向かうマッドジョイ。
(何だこの心のもやもやは。この鍵の奥に何があると言うのだ)
扉の前の近衛兵に。
「この部屋に誰も通すな。誰もだ」
「はい」「はい」
扉を開け。中に入り鍵を掛け。言われた本棚の前に立った。
本を取り出すとそこに鍵穴があった。
(今更だがあいつが嘘をつく訳がない。トラップは・・やはり無いな)
鍵穴に鍵を挿し左に回した。
本棚自体が扉のように カチャ と、手前に動いた。
扉のように手前に引くと。
「おいおいおいおい。
俺達との討伐時に回収し、あいつと分けたドロップ品や魔石、お宝の山じゃねぇか。どんだけ在るんだよぉ。
討伐報酬証明の金貨の入った袋の山もある。手つかずかよ。
何だこの看板?サチの文字か。『国が民が疲弊した時用。イサム君、使っちゃダメ』
俺はみんな使っちまったぁ。こんなこと考えていたのかよぉ。
この書類の束は何だ?」
(イサムの民に向けた治世の内容じゃねぇか。
全部、宰相や司祭が議会で言っていた真逆じゃねぇかぁ。
国庫もかなり潤った。以後は民の税は順次下げてきた現行の四割から三割以下だと。二年前の書類だ。誰だよ書面をすり替えたのわぁ。
こっちはザイスターからの治世の報告書?全然違う内容だ。民達がこんなに裕福な訳ねぇだろうがぁ。
はっ。皆ザイスターと司祭に騙された?
イサム達が俺を再三呼び出そうとしていたのは、これの話しがしたかったのか?
俺の頭では理解も確認もできん。イフィスだ)
書類の束を持って出て、腰に在るマジックバックに仕舞い、本棚を静かに閉め。鍵を掛け。本を戻し、床に傷が無いかの確認を行い部屋を出て鍵を掛けた。
近衛兵に。
「誰もこの部屋に入れるな。俺以外誰もだ。ザイスターであっても、強行する場合は問答無用で切れ」
「はっ「はっ」
そのまま、馬で急ぎ城内の屋敷に向かった。
出迎えたメイド達と妻のイフィス。
「お帰りなさいませ。あなた」
「話しがある。俺の執務室へ」
「はい」
執務室内でテーブルを挟んでソファーに掛ける二人。
「陛下と妃は?」
「亡くなったよ」
「これで乱世は
「これを見てくれ」
「この束は?」
「断頭台のイサムの遺言で、イサムの執務室の隠し金庫を教えてもらって俺が開けた。
中には俺達と討伐に出かけた時の報酬がほぼ手付かずで俺の背を超える程、山の様に残っていた。
国と民が疲弊したら使うために」
「何ですって?」
「いいからそれを見てくれ」
「あのっ。議会で聞いていた宰相様と司祭様の陛下のお言葉や書面内容が全て逆です。
ザイスターとリャクダソのサインも有ります。
収支報告書も市政の報告書も全くでたらめ。それが全て本物」
「それを見てどう思う?」
「どうもこうも、でたらめな内容を陛下に奏上し、わたくし達へは陛下の御心の逆で統治していた」
「やはりそうか。ザイスターのコピー物ですっかり騙された」
「騙されたって。陛下とお妃様は
「も もういない。殺しちまったんだよ、友人をこの手で俺わぁぁ。なんてことをしたんだ俺わぁぁあぁぁぁ
二人は暫く嗚咽になった。
「俺が。俺があいつの言葉を何も聞き入れなかったから」
「サチ様が最後のお茶会で誰も話しを聞いて下さらないと仰っていました。
都の様子も伝わらず、外出も出来ないと。
あなたが何も言うなと仰ったので何も言えませんでした」
「俺があいつを信用しぃぃ騙されていたことに全く気付かなかったぁぁ。俺はバカだぁぁ大バカだぁぁ。
お前達も転移を駆使して市政を見にいきゃぁ良かっただろぉぉ
「逆です。あなたやわたくし達が市政の現状のご報告を上げていればもっと違ったでしょう。
外を見に行くにしても、技術開発がお忙しかったから。お国の為、民の為、貧困に喘ぐ・・・わたくし達は知っていたのに・・何故
「イサムぅぅサチぃぃ許してくれぇぇうおぉぉぉぉ
扉が開いて男が入って来た。
マッドジョイの執事トルイット。
「どうなさいました。旦那様。奥様」
「トルイット。これを見て」
「はい。奥様」