ノルトハン王国王城。アイファウストの生活基盤造り
ノルトハン王国。王城。謁見の間。
トウショウ王国からスパイが戻って来て、各貴族も集まり報告を受けていた。
入り口の両扉が飛ぶように開き。女神エルファサがロングスカートのワンピースをなびかせて颯爽と入って来た。
周りの近衛兵達は全く動けず硬直している。
貴族の間を抜け、玉座に向かう女神に。
玉座に座る、ノルトハン王国の国王ノネジット・ファウス・ノルトハンが。
「曲者だぁぁ捕らえよぉぉ何をしておるぅぅ
「おうおう威勢がいいなぁ。まぁ十年が経っておる。許してやろう。
名を名乗ろうか。創世の女神エルファサだ。久しいのぉぉノネジット・ファウス・ノルトハン」
「エルファサ女神様。皆、傅けぇぇぇ
「中々良い心がけだな」
ノネジットは宰相を引き連れ玉座から転がるように三段を降り、床に傅いた。
その横をスカートを引きずるように横を抜け、階段前に達した。
横に居たメイド二人が走り寄り、一人が女神の片手を受け、もう一人が後方のスカートを軽く持ち上げながら玉座に促した。
「よく躾けられておる。手を受けてくれたお主。名は?」
「ネイナにございます」
「スカートの方は?」
「ウイールでございます」
「ネイナにウイール。ありがとう」
「「勿体なきお言葉」」
「両脇に控えておれ」
「「はい」」
「ノルトハン王国。ノネジット・ファウス・ノルトハン。面を上げよ」
「はっ」
「少々首が疲れそうだな。誰か椅子を持って、ノネジットを座らせよ」
使用人の男二人が椅子を運んで来て。
「はい。こちらです」
「座って良いぞ」
「ありがたき幸せ」
「まず今、この間にわたくしの結界を張った。
一切の出入りは出来ぬと心得よ。
して、この錚々たる貴族の面々と、ここで何の打ち合わせをして居った?」
「国内事情の」
「ほう。そこなるスパイとか?」
「アイファウスト王子殿下の消息です」
「何故今更」
「トウショウ王国のアイミーナ王女殿下が賊に襲われ瀕死の重傷。それをお救いになったのがアイファウスト王子殿下ではないかと」
「うむ。丁度良かったな。
すまぬウイール。茶を貰えぬか?」
「畏まりました。少々お待ちください」
「貴族連中もその姿勢では疲れるであろう。立って良いぞ」
「はっ」
「お待たせいたしました。テーブルとお茶でございます。
お毒見は」
「必要無い。ありがとう」
「いえ。失礼いたします」
「おいしいなぁ」
「恐悦至極にございます」
「お代わりを頂こう」
「はい。どうぞ」
「予期していたのか?」
「はい」
「良い子だな」
「ありがとうございます」
「さて、喉も潤った。本題に入る。
ノネジット・ファウス・ノルトハン。
アイファウストを探す必要は無い」
「探すなと?」
「まぁ慌てるな。アイミーナを救ったのは紛れもなくアイファウストだ。わたくしも関知せぬただの偶然だ。
救ったのも人命救助であり、それ以上でもそれ以下でもない。アイファウストも救い出す時に困惑しておった。
それでだ。アイファウストは今、このノルトハン王国におる」
貴族がざわついた。
「場所は東の国境の砦。その門番の隊長。マルックの家に居る」
「えぇぇぇ
「驚いたか。でだ、神託を伝える。
その地にアイファウストを神官長として十年目にして真エルファサ女神教会を建立する」
空気が割れんばかりの。
「えぇぇぇぇ
「まぁ皆、落ち着け。
教会の建立から街づくり迄をハルサーラの商会。エマルサーラ商会に一任した。
エマルサーラ商会の頭取。ハルサーラを大司祭。四女のアルミスを特別司祭とし、わたくし創世の女神エルファサが直々に加護と護府を与えた。
貴様らの異論は一切認めん。害そうとした者はこうなる」
「ぎゃぁぁぁぁぁ
「ノネジット。今あそこで火だるまになっている者は?」
「わたくしがお答えいたします」
「主は?」
「ノネジット・ファウス・ノルトハン陛下の宰相を務めるマウレス・ジルミナでございます。
発言のご許可を」
「マウレス。許す」
「ありがとうございます。
彼の者は東の門周辺を領地とするガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵の西隣
「待て」
「はい」
「ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。前へ」
「はい。わたくしめにございます」
「その位置におれ」
「はっ」
「マウレス続けよ」
「はい。ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵の西に領地を持つトカルチョ・ド・デモンション男爵にてございます」
「ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵はトカルチョをよく知るのか?忌憚なく申せ」
「はい。色々な手口で我が領地を手に入れようしていたのを知っております。
しかしながら確固たる証拠が無く手をこまねいておりました」
「理由は?」
「賊をうまく利用し、イタチごっこでした」
「マウレス。報告は?」
「受けております。軍も派遣し賊退治をしておりましたが辺境伯の申しました通り、尻尾が掴めませんでした」
「男爵家のどこまでが加担していた可能性が有る」
「親類縁者含めます」
「十五歳以下の子供は?」
「登録上はおりません」
「うむ。ノネジット。この後の処遇は解かっておるな。ほれ証拠案件だ。マウレス取りに来い」
「はい」
「これは」
「足らぬか?」
「十分でございます」
「下がって良いぞ」
「一点ご質問を」
「何だ?」
「あの者は何故燃えたのでしょうか?」
「ああ。念話だ。内容は東の砦に向かい即制圧せよ。集落の皆殺しも辞さない。
途中で切って燃やした」
「結界が」
「わたくしにも色々思惑がある」
「はっ」
「ガウレシア。国軍と共闘し男爵領の悪を一掃せよ」
「ありがたき幸せ」
「軍資金が必要であろう。些少だが使うと良い。
取りに参れ」
「はい」
「金貨五百枚有る。後はマウレスに頼め」
「ありがとうございます」
「下がって良いぞ」
「はっ」
「さて、何故ここまでするか聞きたいであろう」
「はい」
「ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。
わたくしが愛して止まないアイファウストがお主の領地で暫し世話になる。
正確にはハルサーラの養子にしようかとも考えておる。
できれば東門に近い位置で良い物件は無いか?」
「東門から南に一キロほど行ったところに廃村がございます。名前はエルドラット。言わば賊集団の村で裏家業の商家を中心に栄えていました。
十年前恐らく宰相のザイスターに加担してエルファサ女神様の逆鱗で村の全員が死にました。
その後は二回ほど調査に入った切りです。
その中心に昔商家だった屋敷がございます。今は放置されそのままになっております。
部屋は計三十。大浴槽から大キッチン迄。ダンスホールも備えております。
わたくし達の方で整備させますか?」
「いや。アイは・・すまん癖が出た。アイファウストは錬金術師。
この城が大破壊を起こしても一瞬で元通りにするぞ。花瓶の位置すら寸分違わず」
「えぇぇ
「そこでいいなぁ。うん。そこを頂こう。幾らいる」
「もし、開拓して整備をして頂けるのであれば教会の土地としてご提供いたします。地価税も非課税となります。
税は何れ集まって来るであろう商人や住民から貰い受けます。詳細については追々。
ただ、村にしろ町にしろ長は決めて頂きたのですが」
「相判った。ハルサーラと協議しよう」
「お願いいたします。それでハルサーラとは面識が有るのですが」
「ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。近日中にアイファウストと家族で顔合わせすると良い」
「そこに娘が二人居りますが?」
「何処に?」
「わたくし達です。エルファサ女神様」
「ネイナとウイールか?」
「わたくしネイナが姉です」
「わたくしウイールは妹です」
「おいノネジット。貴様手は出しておらんな?」
「滅相もございません。誓います」
「お主達。好きな男は?」
「「おりません」」
「貰って行くぞ」
「えぇぇ
「うるさいぞノネジット。
お主達アイファウストの側仕えは嫌か?」
「光栄に思います「わたくしも光栄にございます」
「ネイナ何があった。小声で申せ」
「はい。父の領地はノルトハン王国の中でも屈指の広さ。
わたくし達姉妹を手に入れ領地の拡大を狙う者が後を絶ちません」
「強引に息子をあてがって来る貴族や商家が多いです。
結婚すれば恐らく家族は。
それらから陛下がこの地位で守ってくれています」
「ほほう。今、ビクッっとした者らか。ありがとう。
王家に子は?」
「五歳におなりになるアイファル姫様がお一人です」
「名は取ったのか?」
「おそらく「たぶん」
「可愛い事をしよる。戻って良いぞ」
「はい「はい」
「ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。異論は無いか」
「一点確認を」
「申せ」
「妾となるのでしょうか?」
「あぁぁはっはっはっは。心配には及ばん。
アイファウストはわたくしの術で正妻しか取らせぬようにする。教会の幹部が女にだらしないとリャクダソの様になってしまう。
本人も判っており一夫一妻を望んでおる。イサムとサチの子だぞ。
ただまぁ。本人の意思とは関係なく女性が集まり、押しかけ女房が増えて、やがて一夫多妻となる可能性は否定できんな。
これは認めざるを得んだろうな。
リャクダソらの逆の意味でその娘らを窮地に追い込むかもしれぬ。
そうなれば神官長の立場としても良くは無いであろう。本末転倒となる。
わたくしの方でこの件は吟味する。
二人とも。アイファウストの元に居るからと言って結婚できぬ訳では無い。全ては自由恋愛だ。
ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。
ネイナとウイールに良き男が出来れば嫁がせれば良い。二人に任せる。そこは縛らぬ。
ただ教会に居続けると言うのであれば相手は吟味して欲しい。
貴族らよ。この二人に加護が有る事を忘れるな。無理強いすれば、ほれそこの消し炭になるぞ。
ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。どうだ?」
「ありがとうございました。
二人ともいいのか?」
「「はい。お父様」」
「決定だな。入居の期日は追って神託で知らせる。母にも伝え置け」
「「はい」」
「ガウレシア。これで全員か?」
「二人の兄。長男のラルシエルが居ります。結婚しており子供はまだ。
領地の執務代行兼私設軍副隊長です。今は領地の屋敷におります」
「その夫婦も同行を認める」
「ありがとうございます」
「ノネジット。質問か」
「はい」
「申してみよ」
「ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。つまりシャウトリーゼ家はエルファサ女神様の寵愛を受け庇護下に入った。と」
「うぅぅん。そうなるな。
大切な領地を借りる訳だからな。そうでなくてはならぬだろうなぁぁ・・・少々考えるが恐らくそうなるであろう」
「「「「えぇぇぇ」」」」
「「「ありがとうございます」」」
「それでだノネジット。
彼の教会はわたくし直属だ。国の指図は受けぬ。一切の手出しは無用。
それとマルックの門番達をエルファサ女神神聖軍騎士団としマルックは団長とした。異論は認めぬ。
また貴様ら貴族連中を放置するとイサムやサチのようになりかねんからな」
「しかと承りました。
教会に関し一点確認を」
「申してみよ」
「はい。何故今までエルファサ女神様を名乗る教会を許していらっしゃったのでしょうか?」
「何だ判っておらぬのか?」
「はい」
「では、この城の中の教会の位置付けは何だ」
「・・・」
「わたくしは十年前にエセ教会と宣言しておるぞ。
まぁよい。
わたくしはその時こうも宣言した。他の神を信仰すれば災いを起こすと。
つまりだ、不本意ではあるがエセ教会ではあるがわたくしの名を使っておる。他の神ではないと言う事だ。
そして、一気に使わせぬようすれば災いだらけになるであろう。
もう一点。
アイファウスト王子殿下と言って涙のカミミヤファミリーの日に供物を捧げ始めた。
それはイサムとサチ。アイファウストの存在したことを忘れぬ事に繋がった。
それはわたくしの存在を。神の力を認識し後世に伝える事に繋がった。
まぁわたくしの慈悲だと思ってくれ」
「この城の教会はどうなるのでしょうか?」
「うぅぅんそうだなぁ・・・アイ・・どうするかはアイファウストに一任する」
「はっ」
「ガウレシア。お主の移動方法は?」
「個人の転移です」
「うむ。そうだなぁぁ。お主の屋敷。西の離れ。空きが有るな?」
「はい。ですがどうしてそれを
「そこに王城と繋げた。もう一方を東門南砦内一階。五番部屋に繋げた。後は後程にしよう」
「ありがとうございます」
「で、ネイナ。ウイール。転移が無いな」
「「はい」」
「今使えるようにした。
感覚で解るが今は有視界で行え。あの出入り口の扉まで行けるか?」
「えぇぇっとぉぉ。行けます」
「準備出来ました」
「行け」
「「転移」」
「「「「おぉぉぉぉ」」」」
「戻れ」
「「転移」」
「うん。まずまずだ。魔力と収納も増やしておいた。うまく使え」
「「ありがとうございます」」
「ノネジット。もう一点。アイファウストはどこの国にも所属はせぬ。
わたくしの水晶のカードを渡した。それがアイファウストの住民票だ。
何れ冒険者登録をすると思うが」
「畏まりました。一点質問を」
「申せ」
「女神様にとってアイファウスト王子殿下はどのようなお立場なのでしょうか?」




