ドラゴンの巣とマルックの家で
アイファウストが気を失ったころ。アルミスのベッドの横。
足を組んで腕組みをし、椅子に座るハルサーラの前でマルックは正座をして。
ハルサーラは語気を強め。
「で、木こり様はドラゴンの所へ向かったかもしれない。と?」
「はい。お義母上」
「あなたぁぁ
「申し訳ない。行くとは思わなかった」
「トロールの件を知っていて、転移が出来る時点で警戒はするものです」
「浅はかでしたぁぁお義母上ぇぇ」
「何か痕跡を辿れるような物は?」
「そう言えばアルッシュが半日手形を発行したと」
「回収済みなの?」
「はい」
「リッシュ。アルッシュを」
「はい」
「失礼いたします。お呼びですか」
「木こり様の半日手形の半券一組を」
「はい。確認をお願いいたします」
正座をしているマルックに渡した。
「はぁぁこういう時に限って完璧。お義母上」
「頑張ったな。完璧に消えている」
「ありがとうございます」
「ほんの少しでもぉぉ
「いまさら遅い。返す。戻っていいぞ」
「もしかして木こり君の痕跡を?」
「そうだが?」
「お湯飲みに口を付けていましたよ」
「持ってこい」
「はっ」
「こちらです。ハンカチに包んできました」
「よく気が利いたな」
「ありがとうございます」
「在るな。ここだ。血液では無いので反応が薄いなぁ」
間接キスのようにハルサーラがその部分に唇を付け、舌で舐めた。
「うぅぅん。どこだぁぁあぁぁ薄くて反応が消えていくぅぅ居たぁぁ。
ここから真北。八百キロぉぉ?標高およそ七千メートルぅぅ?なんだとぉぉ。
ここを何時に出たぁぁ
「二十分も経っていません」
「バカなぁぁ。しかし、痕跡自体は間違っていない。マーキングも出来た。
でも動かない。どうしてだ。何故動かない。消えてしまうぅぅ。消えたな」
「大奥様。地図です」
「そこのテーブルに広げろ」
「はい。どうぞ」
「ここから真北へ八百だ。コンパス」
「はい」
「この辺りか」
「完全にホルカイ帝国内ですね」
「どんな転移を使ったらここまで一気に行けるんだ。失敗して突っ込んのだのか?
いや、先ほどの彼なら絶対にあり得んな」
「お義母上。ここ以外で木こり君にお会いに?」
「ああ。今日たまたまジード村に薬と食料の配布に行ったところだった。
先程、アルミスには話したが、そこへ彼が間違いなく転移で現れた。
わたくしが驚いている暇もなく、一軒一軒を回って怪我人の治療に当たっていた。欠損の者すら完全回復させていた。
ジード村で怪我人はもう居ない。
親を治してくれた彼に子供らが抱き着いたが微笑みかけ抱き上げたり、楽しそうにあやしたりしていた。
そして何も言わず大型のイノシシを三体置いて消えた。
わたくし達は荷物を下ろしてここへ来た。
彼がいるではないか。
そしてアルミスの目が見えるように。歓喜のあまり礼を言う事すら忘れた。
そして今だ。どう謝罪し、恩を返せばいいのだ」
「先ほど何も受け取る気は無いと言っていました。
ただ単純に入国できればいいと。
トロールの時の恩すら返せていません」
「ジード村でも見返りは何一つ求めてはいなかったな」
「お母様。お礼はもう一度直接お伺い致しましょう」
「そうだな。
ただ、わたくし達、並みの冒険者では到底辿り着くことは出来ん。
Sランクのアバターは引退した。もう頼る事すら無理だ。
彼の両親は?」
「入国審査前で何処の誰かすら解かりません。
男の子で、十二から十八歳。気立てのいい優しい子。それだけです」
「わたくしの認識と同じか。アルミスの感じは?」
「同じです。ですが目が治る前に聞いたお声は女の子」
「そうかぁ。マルック、木こりの名以外に何か無いのか」
「・・・・・」
「まぁ。そんな彼だ。山や地面に激突したとかは無いだろう」
「あなた。ポーションの容器は?」
「二本とも返した」
「お母様。わたくし直接飲みました。それでは辿れませんか?」
「マルック。その容器は何処にお仕舞になった」
「恐らく収納」
「ダメだな」
「そうですか」
「今のような事でもいい。何か気が付かんか」
「お母様。ダメもとでも」
「そうだな。口付けするぞ」
「はい。んっ」
「できるか?サーチ。うぅぅん。無理そうだな。収納に在ると全く反応しないな。もしくはもう洗浄が終わっているか」
「ダメですかぁ」
ハルサーラの褒め言葉に反し、ドラゴンの巣で地面にめり込んだアイファウスト。
「あぁぁ痛ってぇぇ。気を失っていましたね。って、あっぶねぇぇ。他にドラゴンが居たら今頃お腹の中だったぁぁ。クラウス様は正しかったぁぁ。ごめんなさい。
あっ足が折れてる。ポーション飲んでぇヒールっと。
オッケー。治ったぁぁ。あう。そりゃ頭も撃つわな。さすがのヒールも自分への効果が薄いな。
少し休むか。結界張って寝よ。犠牲になったシャレコーベさん達おやすみなさぁぁい」
アルミスの横で目を閉じサーチを続けるハルサーラが。
「でた。アルミス。ヒールを受けたか?」
「気が付きませんでしたが?」
「そうかまぁいい。はっきり出た。恐らく自分にヒールを掛けたのだろう。ヒールの源だから解かった。半日程度は追えるな。
ただ位置は変わらぬ。どうしたと言うのだ」
「ヒールを掛けたと言う事は大怪我でも?」
「ドラゴンか?」
「緊急事態ですよ」
「解っている。だが、痕跡は消えていない。場所も変わっていない。討伐は出来たが、ヒールでも時間が掛かるほどの大怪我かもしれない」
「救出に向かわないと」
「落ち着けアルミス」
「大奥様。ここですか?」
「そこから変わっていないな」
「大奥様。面接をお忘れですか?わたくし行けます。四回の転移で。一回の転移で五分休憩で可能です」
「忘れてはいないが危険すぎる。他にもドラゴンが居る可能性も有る。恐らく極寒の地だぞ。
それにその地図であっても前人未到の地。想像で書かれている。
いくら有視界転移が可能でも標高差が解からねば突っ込む可能性も否定できん。
小刻み過ぎては魔力の消費も半端ない。二次災害を招いては本末転倒だ」
「その様な場所に・・・・
「ああ。そのような場所にいらっしゃる。
今、対策を考えている。必ず助ける。案ずるな」
「はい」
そのまま、解決策が見つからないまま昼になった。
さすがに門番達を抑えきれずに、そこに情報を聞きつけたチェルッシュのパーティーも加わり、マルックが冷たい視線を浴びていた。




