アルミスの経過観察
それから十分ほど経ってマルックの家が歓喜の雄叫びで震えた。
アルッシュは慌ててマルック達の居る寝室の扉を叩いた。
「隊長大丈夫ですか。隊ちょぉぉ
扉の向こうの部屋の中から明るい声のマルックが。
〚あぁすまない。あまりに嬉しくて二人で叫んでしまったよ。
アルッシュ。アルミスを見てくれ。ベッドで起き上がっている〛
「失礼しまぁぁす?」
「お久しぶりね。アルッシュ。元気そうね」
「ア アルミスさん?治ったんですか?見えるんですか?」
「見ているわよ。それに痛くも痒くもないの。強いて言えば少し眩しいかしら」
「嬉しくて明るくするために全開にしたからな。
カーテンを閉めよう。レースでいいな。窓は開けるぞ」
「はい。はぁぁ素敵ぃぃ。とても良いお天気ねぇ。レースの揺れ具合と肌に感じる風が久しぶりで、とても新鮮で心地いい」
「うおぉぉすげぇぇあの美しい金髪が戻って風に揺れていますよぉぉすげぇぇですよ隊長。良かったですね隊長」
「あぁ色々心配と迷惑をかけた。すまなかった。そしてありがとう」
「ありがとう。アルッシュ」
「いえいえ。俺は何も。もう歩けるんですか?」
「歩けそうだけど、もうしばらくはこのままで居ようかしら。感覚がまだ」
「そうですね。その方がいいです。お茶でもお持ちいたしましょうか?」
「それよりアルッシュ。木こり様はどちらに?お礼とお金の件を伺わないと」
「あぁぁそうだ、報告しなきゃ。
それがですね、半日手形を持ってどこかに行っちゃったんですよ。まだ・・・十五分ぐらい前でしょうか」
「行先は伺っていないの?」
「はい」
「三時間以内に戻らないといけない話しはしたか」
「はい。念押しいたしました」
「木こり君の事だ。時間は守ってもらえるだろう。経過を見に来るとも言っていたからな」
「あなた。その木こり様とはいつお知り合いに?お話しの流れからすると初対面ではないようですが。
それに木こりが本名では無いのでしょう」
「その話し、木こり君が戻ってからでいいか?」
「何か取り決めでも?」
「あるんだよそれが」
「判りました。お戻りになるまで待ちましょう。
それまでお茶も控えておきましょう」
「そうだな。もう少し横になると良い」
「そうね。ありがとう」
「アルッシュ。お前はキッチンで待っていてくれるか?」
「了解。誰が来ても、今は事実は伏せておきます」
「あぁ頼む」
暫くして、キッチンに居るアルッシュはテーブルの周りを腕組みをしながら歩いて回りながら。
「うぉぉ一時間経ったぁぁ大丈夫かよぉぉ木こり君
玄関の外から。
〚アルッシュさん居ますかぁぁ〛
駆け出し、扉を飛ばすように開けて。
「あぁぁおせよぉぉぉ
アイファウストは玄関に向かって一段上がり。
「ごめんなさい。それとただいま。お返しします」
「あぁ待ってくれ。慌てるなぁ俺ぇぇ時間はまだあるぅぅ。これとこれを合わせて。良し消えた。再確認。問題無し。隊長に・・・アルミスさんの方がいいな」
「問題ないですか?」
「大ありだよ。入ってこい
(えっ?失敗した?そんなはずわぁ)
右腕を掴んで、引きずり込むように部屋に入って行った。
「あぁぁれぇぇ
「隊長」
〚いいぞ。入れ〛
「失礼します。木こり君です」
「この度は
「マルック隊長さん。傅くのは止めましょうよ。立ってください」
「しかし
「あなた。ご許可が出ているのよ」
「判った。木こり君ありがとう。ご覧の通り目も見えるようになり、火傷の跡も無くなった。髪の毛まで元通りになった。
本当にありがとう」
「木こり様。ありがとうございました。何とお礼を申し上げたら」
(よがっだぁぁ。アルッシュさんのバカ。失敗したと思ったじゃないですかぁ。でも、一応確認)
「いえいえ。何も必要ないですよ。少し目を診たいのですがいいですか?」
「はい」
「アルッシュさんはキッチンでお待ちいただけますか?」
「了解」
「あのぉ顔を近づけちゃいますよ」
「照れるな。診てやってくれ」
「美人様ですよ」
「そんなことは百も承知だ。何処の誰にも負けねぇよ」
「あなたっ」
「うへっ」
(クラウスに教えてもらった方法で確認しましょうかね)
「失礼しまぁぁす。
マルック隊長さん。アルミスさんの瞳の色は合っていますか?」
「元のままの奇麗なブルーアイだ。透明感も変わっていない」
「ありがとうございます。
マルック隊長さん。髪を撫でで貰えますか?痛みを
「もう既に何度も撫でた。痛くないそうだ」
「ダメ。でしたでしょうか?」
「痛くなければいいですよ。触られた感覚はありましたか?」
「そのぉ。気持ち良かったです」
「うっうん」
「お幸せそうで何よりです。
アルミスさん。先ずは深く瞼を閉じてください」
「はい」
「痛くないですか?」
「全く」
「瞼の裏が眩しくチラついたりは?」
「窓枠と・・主人の残像が・・目を悪くする前と変わりありませんよ」
「目を開けてください。瞬きも潤いも有りますね。
僕の指先を見て下さい。そうです。動かしますので目で追ってくださいねぇぇいいですよぉぉ。
今度はこちらです。いきますねぇぇいいですよぉぉ。
少し早く動かしますね。はいっ。今度はこちら。はいっ。大丈夫ですね。
魔石の灯りを見てもらいます。明るくしますねぇ。暗くしますねぇ。はい。
今度はこの紙に書いた【6】と言う文字を片目で見て下さい。手で押さえて。はい。
遠ざけます。見えにくくなったら言ってください。いきますねぇぇまだ見えますかぁぁ
「はい。天井と壁の隅に蜘蛛の巣があります」
「あぁこれが見えますか?」
「はい。あなたぁぁ」
「あんなに掃除したのにぃ。さっきだなありゃ」
「もうっ。言い訳ばかりしてぇ」
「すまん」
(とっても仲睦まじいご夫婦です。助けてよかった)
「もう片方は?」
「普通に見えます」
「では今度は色です。
この花瓶のお花の色は?」
「黄色とオレンジと赤。緑の葉がお花たちに彩を添えています」
(ポエムですぅぅ。でも)
「確認です。
この色は?」
「黄色」
「これは?」
「緑」
「これは?」
「赤」
「では、花瓶の色は?」
「薄い水色」
(うっしゃぁぁ。仕上げにヒール。っと。気付かないほど完璧な治療。俺・・女神様。クラウス様ありがとう。終了)
「目の方も治っているようです。平衡感覚も問題無いようですね。火傷も完璧に治っています。美しい金髪も戻りましたね。
ドラゴンの呪術も消えています
「「ドラゴンの呪術?」」
「はい。個体によってはブレスに呪術を乗せて来るんです。
アルミスさんを襲った個体はそれです。
ですからいつまで経っても完治に至らなかった。
まぁ、ドラゴンのブレスを浴びて生き残る事自体が稀なんですが」
「木こり様はどうしてそんなにお詳しく?」
「一人旅の木こりですから、知識は豊富に持っていなと死んじゃいます。
完全に解呪できていますからもうぶり返すことも無いと保証いたしますよ。
ああ。創世のエルファサ女神様に誓って、再発は致しません。
それと今日この後は椅子での生活でお茶なんかを飲んで頂いても良いですよ。お食事もどうぞ。
お風呂もいいですが狭くて暗いおトイレはどうしましょうか」
「今迄も俺がやっていた。今日は非番だし、問題は無い」
「一週間はご自宅から出ないようにして欲しいのです。感覚が戻るまでの処置です。
そうですねぇ。突発的な反応の感覚が戻っていない。
そう言えば判りますか?」
「ああ。解かった」
「解かりました」
「その間のお世話は?」
「すぐそこが仕事場だ。時折部下に任せて戻って来ていた」
「そうでしたか。それで
「マルック。心配には及ばん。わたくしの侍女を貸そう。
アルミス。やっとお前に見合ういい子を見つけた」
そう声を掛けながら一人の商人風の女性が入ってきた。
その後ろには少女。
アルミスは。
「お母様」
「ああ。調子はどう・・だ?
アルミス?包帯は?いや髪が滅茶苦茶奇麗ではないか。目は見えるのか?見えるようになったのか?」
「はい。はっきりお母様が見えます」
「本当なのか?」
「侍女とは、そちらの可愛い茶髪の子が
「あぁぁそうだ、あぁぁそうだ。すっかり火傷も治って奇麗な髪が戻っているな」
「はい。お母様」
「アルミスぅぅ
お母様はベッドに座るアルミスに抱き着いた。
「お母様ぁぁ
「か 髪を撫でてもいいのか?」
「はい」
「前の様にしなやかな髪だ。良かった。本当に良かったぁぁ
抱き合い歓喜であふれる涙を拭う事もしない二人をアイファウストは見つめながら。
(ちゃんと涙も出ましたね。
わぁぁ回復の食事のレシピ渡しそびれたぁぁ。この後お仕事も残っているしぃ。枕の下にでも入れておくか。物質転移。魔法痕跡回収。完璧)
「隊長さん。キッチンに行きましょうか」
(てか、隊長さんに渡せばよかったんじゃね。まっいいか)
マルックは右袖で目を拭って。
「あぁそうしよう」
「はい」




