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 ホルカイ帝国も動き、考察

 ホルカイ帝国。帝都の城内。

 謁見の間で玉座に座り、情報を受ける皇帝ジルメイダ・イヲ・ホルカイ。二十歳。

 昨年皇帝の父親と妃の母親を病で亡くし、若くして皇帝の座に就いた。

 スラっと背の高い色白の面長の美形で長い銀髪を後ろで一つ縛りにしている。

 派手ではないが真っ白な衣装には宝石ちりばめられていた。

 ひじ掛けに頬杖を突きながら陶器カップのワインを飲みながら報告を聞いていた。

 透き通る落ち着いた口調で、階段五段下で跪いている軍服姿の男に向かって。


 「なるほど。その少年がアイファウスト王子殿下ではないか。と、言う事だな?」


 「はい。皇帝陛下」


 「今迄で一番まともな情報だな。その者に金一封を出せ」


 「ありがとうございます」


 「それで、その者しか姿形を知らぬのだな」


 「さようでございます」


 「その者は?」


 「今はトウショウ王国の王都にございます帝国の商社の本部に居ります」


 「男か女か?」


 「女でございます。

 名前はサウリーナ。十八歳。経験無しと報告を受けております」


 「アイファウスト王子殿下は今年十五のはずだな」


 「はい」


 「その者の容姿は?」


 「好みがあります故」


 「まぁそうだな。アイファウスト君の好みなど誰も判らんな。

 サウリーナと性格が正反対で十五歳程度の隠密は居るか?」


 「全く正反対の性格ではございませんが今向こうに一緒に居ります、妹のイルナーナが適任かと。十六歳。

 サウリーナはおっとり系。イルナーナは活発系と申し上げた方が解りやすいかと。

 姉サウリーナと同じく中距離転移の念話持ちです。

 二人ともホルカイのエルファサ女神様の誓約書に名を記載しております」


 「教会の方は?」


 「現状はトウショウ王国の教会が情報を掴んでおります。

 間違いなく動きます。

 教会内でもトップランクの腕利きの少女。キャレットが王宮監視任務に就いております故」


 「キャレット君は何歳かな?」


 「登録上はアイファウスト王子殿下と同じ誕生日で十五歳。

 教会育ちの孤児の子です」


 「アイファウスト君が気に入ったらトップまで上り詰めるね」


 「はい。異例の出世で夢の生活が送れるはずです。

 恐らく発見の努力は惜しまないと思います」


 「サウリーナとイルナーナに潤沢な資金を渡し、キャレット君より早く見つけるように。

 ただし、教会と敵対してはいけないと言明して。

 君も知っての通り派手な行動は極力避けたい。作戦に支障を来す恐れもある。

 特に今は教会と事を構えると面倒だからね」


 「畏まりました。事を荒立てぬように厳命いたします。

 今より直ぐに手配いたします。失礼いたします」


 男が一礼して扉の方へ向って歩き出した。

 隣に立つすらりとした長身で長い金髪の女性に向かって。


 「フルシュナ宰相君。どう見る」


 「タイミングが悪いと申しますか、良いと申しますか」


 「上下弦の月の事かい?」


 「はい。このタイミングで表に出て来たとなると、作戦遂行のためには是が非にでも皇帝陛下の元に留め置きたいですねぇ」


 「力になってくれると思うかい?」


 「トウショウ王国には少なからず恨みも御座いましょう。

 わたくしとてこの世界を貶めたマッドジョイは憎いですから。両親を間違いで殺されたとなれば尚の事と思います。

 ご両親が恩義に思っていらっしゃるノルトハン王国の事はご存じでしょう。

 どのようにご説明して説き伏せて、ご納得いただくかですね」


 「まぁそこはお顔を見ながらお話し合いと言う事で、早急に作戦立案を」


 「はい」


 「それで、アイファウスト君だとして、彼自身をどう見たかね」


 「そうですねぇ。断片的な情報のみですから、想像に域を超えません。

 ただ、アイファウスト王子殿下は転移を自在に操れるようです。

 ですから、ここを含めた他の三国にも手配した方が良いかと思います」


 「そうだな。アイファウスト君は女を知っていると思うかい?」


 「さぁどうでしょうか?十五歳ですとそこそこは。ジルメイダ陛下はおませさんで十歳でしたが」


 「待たせている彼女達にも維持費がかかる。そろそろ貰って欲しいものだね」


 「差し上げるまでは誰も手が出せませんし、労働で手を痛めてもいけませんから」


 「アイファウスト君に一杯働いてもらって返してもらおうか?」


 「あまり酷い事をなさると十年前のトウショウ王国のように叱られますよ」


 「勿論わかっているさ。

 アイファウスト君に気に入られ、囲った者はエルファサ女神様が恩恵を与える。だったかな?」


 「はい。エルファサ女神様のお言葉です。

 アイファウスト王子殿下に来ていただければ、この凍り付いた大地の一面に花が咲くとわたくしは信じております」


 「そうなってくれれば民も喜ぶだろうな。

 アイミーナ王女殿下は使えそうと思うか?」


 「今はまだ気まぐれで救った可能性も否めません」


 「仇の娘だからと、アイファウスト君が襲った。なんてことは無いよね」


 「恐らく真の仇はマッドジョイ夫妻。アイミーナ王女殿下には恨みは無い。

 何事も無かったのでしょう。

 でなければスイシャーナ親衛騎士隊長が黙ってついて来ませんよ」


 「何処に住んでいたと思う?」


 「もし、クラウスといたのなら大森林の奥地」


 「冒険者のAランクでも今現状十キロも入れないぞ」


 「使徒様でしたら女神様のご寵愛で何とかなるのでは?」


 「この一件で森を出そうか?」


 「そうですね。成人を迎え、世間に出てくる可能性は十二分にあると思います」


 「根拠は?」


 「冒険者登録」


 「既にか?これからか?」


 「そこまでは判りかねます」


 「調べる方法は?」


 「黒目黒髪はありきたり。クラウスを頼るか、反るか。過去も含めその線の考慮」


 「意味は?」


 「あくまでも仮定の話しです。

 まず、この大陸全土で隈なく各国が住民を調べました。今だ発見には至っていません。

 もし、捜査の手が及ばない大森林で共同生活をしていれば、野菜の入手は困難なはずです。肉ばかりでは栄養も偏ります。

 必ずどこかに買い物に行く。

 幼い頃のアイファウスト王子殿下でしたら一人置いてはいけない。必ず同伴しているはずです。

 なじみの町も少なからずあるでしょう。そこで冒険者登録。

 クラウスの容姿は幼い頃に拝見した、わたくしですら知っております」


 「なるほど。反る方は?」


 「冒険者にならない」


 「庶民のままでいると」


 「クラウスもいい年のはず。

 今後を考えれば、何らかの方法で糧を得る必要があります」


 「表に出てくるね」


 「冒険者の件とは別になりますが一つの疑問は何故アイミーナ王女殿下はたった十名の親衛騎士隊だけで、何処へ向う予定だったのか?です。

 若しくは彼の地にいらっしゃることをご存じでこの日まで秘匿していた?

 女神様のご寵愛が有れば不自然な偶然も可能なのかも」


 「その情報は私の所には来ていないな」


 「自身の考察で、わたくしの中に他にも疑問が出てきました。

 少々長くなりそうなので止めておきますか?」


 「いや。聞かせてもらおうかな。

 近衛兵達にも仕事を与えないと、暇で給料をもらっているのが忍びなくなるだろう?」


 「ふっふっ。お上手ですこと。

 この大陸全土で五年前に到達した、たった一人のSランク。アバターと言う男。

 書類上はキューレット王国の最南端の漁村トルレイルの出身。

 孫だと言うレマン君。アイファウスト王子殿下と同い年で黒目黒髪。

 十年前の当時、アバターはFランク。捜査対象になりましたが素性は明らかで即対象から外されました。


 当時、偽情報が殺到し混乱も有ってクラウスの容姿を知る者がその調査には当たっておりませんでした。

 今思えば何者かによって情報が操作されていたかもしれません。最初の一年で大陸全土で二十万件を超えていましたから。

 もっと言えばアバターがSランクになった時、貴族になる権利が出てキューレット王国のマズルス・ラ・キューレット国王が執拗に貴族になるよう強要しましたが、拠点をノルトハン王国に移してしまいました。

 結局、干渉しない事を条件に戻る事になりました。


 ここでの疑問は庶民が功績を示し貴族になることは夢であり喉から手が出る程欲しい地位です。

 それを蹴って公の場に出る事を拒みました。それは何故なのか?


 今だアバターの素性についての詳しい資料は纏まっておりません。

 誰もが憧れ王族ですら逆らう事が出来ない畏怖の存在。Sランク。


 長剣使いで転移の持ち主。解っているのはこれだけ。

 レマン君と薬草採取のクエストを行っている所を見た者は多いです。

 しかし、アバターは一度たりともパーティーを組まず、クエストは全て完ぺきにこなし、ドラゴン討伐も一度や二度ではありません。

 にも拘らず、戦っている姿を見た者はおりません。


 Bランクへの昇格で必須の護衛クエスト時には賊も魔物も出ず。クエストは終了。昇格の権利を得ました。この時、レマン君を伴っておりました。

 Aランクへの昇格で必須の賊の退治とアジトの殲滅の時はトイレに行くと言って、偶然対象の賊と遭遇し捕らわれアジトに連行され全滅させ、昇格の権利を得ました。ロープで縛られた痕跡と全身打撲。

 ギルドカードの性質上、クエスト完了は疑う余地がありません。

 何故ここまで秘匿しなければならないのか。作為的な物を感じて来ました。


 二十年前の魔王討伐の従軍にクラウスは勇者パーティーの補佐役として従軍しています。

 美しいと評されるほどの流れるような剣さばきで魔物を屠る姿は誰の目にも止まり、ホルカイ帝国軍として従軍していたわたくしの父、レオラニードからもそう聞いております。

 ドラゴン出現時は勇者パーティーかクラウスを呼べ。これが討伐隊の合言葉だったそうです。

 従軍した冒険者も兵士達も共通の認識だったようで、事実、一般従軍の中でドラゴンを単独で倒せたのはクラウスのみでした。


 Sランク昇格条件にドラゴン討伐は有りません。

 ドラゴン出現時はBランク以上の冒険者十人以上。もしくは軍の対応。

 しかし、アバターがSランクに成って以降ドラゴンの出現率が著しく低下。


 短略的ですが、今にして思えばクラウスがアバターと言う偽名で登録していたのではないか?そう思え始めました。

 であるなら黒目黒髪のレマン君はアイファウスト王子殿下。

 最強ランクのクラウスにアイファウスト王子殿下を託し、転移で逃げおうせ、素性を秘匿したまま今日の日まで育てていた。

 そしてクラウスは転移を駆使し、こちらの情報を取集して鉢合わせが無いように静かに暮らしていた。

 長々と申し訳ございません」


 「いや。君の考察で間違いなだろう。

 全て納得がいく説明だった。

 それで、君のお父上レオラニードはその時の武勲でレオラニード・マトッシュ・ネサヴィスク子爵として、私の父から叙勲されたんだっけ」


 「はい。名誉と名を頂きましまた。

 一緒に従軍なさったイミアルデス・ウエブ・マダショセキ子爵と奥様のシャシメニー様。

 イミアルデス・ウエブ・マダショセキ子爵は辺境伯へと陞爵でした」


 「話しを逸らしてすまない。話しを続けよう。

 私は知らないのだがそのアバターがSランクを登録したキューレット王国の町は?」


 「大森林の南。ビバイバル湖の南の町。トルファン」


 「ん?少し待ってくれるかな。

 さっきは聞き流してしまったが、私の記憶ではクラウスは転移持ちでは無かったと聞いているが?」


 「先程のお話しはわたくしの たらればの考察 でございます」


 「そうだったね。あまりにもリアルだったから」


 「ありがとうございます」


 「先ずはクラウスが転移が出来た。と、仮定しよう。

 ビバイバル湖はでかいからねぇ。大森林の南端からトルファンまでは凡そ五十キロ。

 貴族級の大方の転移持ちが単独で障害物無しで飛べる限界だね」


 「はい。ですがアバターがマズルス・ラ・キューレット国王の追ってから逃れるのにノルトハン王国まで逃れたのではないかと言う噂もあります。

 後日の調査。四年ほど後ですが逃れた当日にノルトハン王国の南門にアバターの入国の記録が残っておりました。

 距離にして凡そ千五百キロです」


 「凄いねぇ。判明したのも去年かい?」


 「はい。常識外れの行いの為、何かの勘違いと言う事またSランクだからと何の根拠もない確証を得て、事実確認を行う事も無くうやむやになってしまいました」


 「信じがたい事は受け入れないよね」


 「これはつい先日わたくしの陰が突き止めたのですが、その時のクラウスとの共通点が当時最新の各国の貴族の領地の地図。貴族の法律と作法。帝王学の書籍の購入。

 Sランクのアバターが購入したと言う事と滅多に売れないが一冊づつ置いていたので店主が覚えていました。

 貴族入りを蹴り、貴族の依頼を全てを拒否したアバターが購入する必要が無いものです。

 もう一点は大量の野菜と牛乳の購入。合わせて凡そ馬車一台分だったそうです。

 こちらもその場で収納したようでどちらの店主も覚えていました。

 ちなみにアバターもクラウスも牛乳が嫌いだったと言う事は皆が知るところです」


 「お腹が鳴って嫌だ。だったかな?」


 「はい。魔物に見付かりますので」


 「牛乳はサチ妃殿下が十五歳まで飲むように学校で奨励していたからね。

 私も飲めなくて苦労したよ」


 「わたくしもぬるいのが苦手で、次の授業まで持ち越していました」


 「余計に飲みにくいだろう」


 「もう毎日が大変でしたわ。

 申し訳ございません」


 「なに構わないさ。

 つまりはアバターとクラウスの共通点が多く存在し、転移が無ければ証明できない?むしろ転移が有れば全てが繋がると?」


 「はい」


 「私達も小さなお店にまでは捜査を入れていなかったね」


 「はい。ここに来てようやく捜査範囲の方向転換が出来ました。

 それに、生きていらっしゃるのだろうか?と、探すより。生きていた。と、探す方がより効率が良いはずです。

 色々思い出されて考えが纏まりませんね」


 「この後、私の部屋で打ち合わせようか?」


 「今日は忙しかったので先にお風呂頂きたいですわ」


 「ならば一緒に入ろう」


 「そろそろお妃様をお決めになった方がよろしいかと」


 「私では不服か?」


 「お戯れを」


 「君の魅力に勝る子がいないからね」


 「庶民出の新興貴族の父の娘。わたくしでは正妻は務まりませんよ。陛下の横に立つだけでいまだに睨まれますもの」


 「民や国に対し何も産まない。自らの貴族としての義務を果たさず暇を弄ぶ。飢える子の傍らで物欲まる出し。

 穀潰しの腐れ世襲貴族の腐った目など気にする事は無いさ。行こうか」


 「はい」

 (俺が全力で守る。だから俺の元に来いとは仰らないのですね。やはりわたくしはあの子に劣るのでしょうね)


 「どうかしたのかい?」


 「少々アイファウスト王子殿下の事を考えておりました」


 「行こうか」


 「はい」

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