マルコとヨハルジードの直接交渉
翌朝。ヨハルジードの執務室。
ソファのヨハルジードにマスミカットが実子の件を話した。
「マルコ君もそこまで知っているとは・・・それでだなネオプルーンの
「その件はもう宜しいですので」
「謝罪や金銭を要求しないのか」
「過ぎた事です。そこを言ったとて何も変わりません。本人もこの世に居りません。
旦那様の申し開きを聞いても意味を成さない。既に事実の事象とマルコ様もそう仰っておりました」
「感謝はしておこう。ありがとう。しかし、マルコ君とは素晴らしいお方だね」
「はい。わたくしを助け汚名を被った素晴らしいヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯様とヤルベル奥様。
実の兄妹以上に接したサラレタお坊ちゃまとイジシスお嬢様。
教会から名声は広まるでしょう」
「是非とも養子にしたが」
「無理をなさると破綻します」
「そう だね。今は静かにしていよう。
サインした。これを持って教会に行くと良い」
「はい。わたくしもサインいたしました。ご確認を」
「いいぞ。では行きなさい」
「はい。ギルドで十時にお待ちしております」
「ああ。遅れることは決して無い。へそを曲げられたら元も子もないからね」
「では、失礼いたします」
「バカめ。事実を知る当人が生きていられると思うのか。私の世界覇権を握る邪魔でしかないわっ。
養子契約さえ結べば、マルコ君には全く関係のない事象。
これで不貞の子の憂いは無くなった。
ノットエコギルド長のドアホウが死んだお陰で、戦で功績を挙げる方法を考え直さねばな。まぁ色々好都合ではあるな。
それにはまず金だ。何とかしてマスミカットにドラゴンの入手方法さえ考えさせればお払い箱。
辞職を推奨するか、懲戒解雇を勧告するか考え処だな。まぁ世界の覇権を握るまでには一か月ある。
ホルカイとキューレットの癒着の物的証拠は必要だ。
マルコ君の偽命令書で、私は無理無理起用された事にすればバカ国民は私に付く。
ゆっくり考えようではないか。ふっふっふ」
ギルド二階の執務室にヨハルジード。その後ろに教会で秘密裏に養子縁組迄を済ませたマスミカット。
マルコとバッシュが向かいに座った。
それぞれの紹介を終え。
「報告に有った通り本当にお可愛くお美しいお方ですねぇ」
「ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯様もお忙しいでしょうから、腹の探り合い無しでお話ししませんか?」
「いいでしょう。わたくしの養子になりませんか?」
「それはお断りいたします。戦争に駆り出されるのはごめん被りたい」
「根無し草と聞いておりますが、出身はどちらで?」
「トウショウ王国と教会で聞いています。孤児院出身です」
「申し訳ございませんでした」
「それでバッシュさんに大変お世話になり、あの場所で皆さんに非常に良くして頂きました。
それで、皆さんを大変気に入りまして僕の仲間になってもらい、一緒に旅をしてもらおうかと思っているんです。
ですが、あの地区の方達はこの町から出られないと、辺境伯様からお達しが出ていると。
バッシュさんもCランクで同じ扱いと。本当なんでしょうか?」
(おぉぉぉ。向こうから交渉の弱味を提示して頂けるとは、使わさせていただきます)
「はい。それは本当です。色々理由がございまして。
まぁ交渉次第です。
大規模な商隊でも組むおつもりで?」
「そんなとこです。十二分に賄える仕事は持っていますから」
「まぁSランク寸前のAランクでしたらそうでしょうね。
わたくしの知り合いのカルクスッタ商会をご紹介いたしましょうか?」
「競合相手になります。遠慮しておきましょう」
「そうですね」
(ここで無理に養子の話しを持ち出すと全てが破綻しそうだな。
良い条件を出してこちらに引き込めるように誘導するか)
「辺境伯様?」
「色々模索をしておりました」
「それで、あの地区のお方達を連れ出すための交渉内容は?」
(ここで一気に攻勢をかけるか)
「ドラゴン二体であの地区の者全員とバッシュ君の町外への許可を出しましょう。いかがですか」
「国外へは?」
「勿論、商隊ですから四か国を自由に回ってもらって結構ですよ。本日付で特権階級書と許認可状をしたためますよ」
「永久ですよ」
「勿論です。ただし、ドラゴン二体をわたくしに譲渡することが条件です」
「一体に負かりませんか?僕もそれを商材にするつもりです」
「負かりませんね。二体が条件です」
「そうですかぁ。仕方ありません。人材はお金には代えられませんから」
「よくその様な言葉をご存じですね。正にその通りですよ。
まぁ、一体に負けることも可能ですよ。
マルコ君がわたしの養子となって、パナイジーを拠点に自由に旅に出る。
いかがなさいますか?」
(うっ。自由な旅?)
(おっ。ほころんだ)
「わたくしは貴族です。
色々な方面にも顔が利きます。
今までは一人旅でご苦労もなさったでしょう。
商隊ともなればまた大変です。
わたくしの元で商隊を組んでご商売をなさればいい。
ドラゴン一体の商材でも十二分に利益も出ます。そして辺境伯の息子。食うには困りません。
戦争が不安と聞いております。
あの地区のお仲間も匿い、食と住まいをも保証いたしますよ。
如何ですか?」
(うおぉぉやっべぇぇちょぉぉ魅力的なご提案ですぅぅ。
旅に関するお金に苦労はしない。正に願ったり叶ったりの一人旅のご提案じゃぁ無いですかぁ。
どうしよっかなぁぁ。印籠作っちゃおうかなぁ)
(おぉぉ。悩んでる悩んでる。もう一押しか?
いや、ここはがっつくと避けられる。茶でも飲みながら待つか)
(うぅぅん。僕が養子に行けばリルファンさん達の住む場所も・・・はぁぁ俺はバカか。もう一押し来ていたら落ちてた。やばかったぁぁ)
「とても魅力的なご提案ですがお断りをさせて頂きます」
(考える時間を与えてはいかんかったぁぁ)
「理由を頂けますか?」
「そうですねぇ。背後に貴族が居ると逆に敵対派閥に敵視されて商売がやりにくくなる。
養子となれば尚の事。
お貴族様の暇潰しでお客様受けも良くない」
(くっそぉぉぉど正論だぁぁ)
「ではまず、特権階級書と許認可書を見せて頂けますか?」
(あぁぁ人が次の手を考えている間にぃ)
「辺境伯爵様?出し惜しみでしょうか?」
(うっ。まずい)
「マスミカット」
「こちらでございます」
「これです。まだわたくしのサインと蝋印が有りませんので正式ではございません。どうぞ」
「確認いたします」
「確認いたしました。書式も全て国家法に準じていますので正式な内容です。
各個人の資産の持ち出しも可能。
全員の御名前も記載されていますね」
(ここであの書類の事を切り出してもしらばくれて、逆に心証を悪くするか。様子見だな)
「何でしたら住民カードもこちらでご用意いたしましょうか?」
「いえ、それはこちらで用意いたします」
「ここのギルドでは
「旦那様。既に可能となっております」
「エウマイアーが許可したと言っていたね」
「はい。マルコ様ご自身で発券が可能です」
「では、お任せいたします。どうでしょうか?」
「では、サインと蝋印を頂けますか?」
「ドラゴン二体は?」
「旦那様ここでは出せませんが」
「そうだったね。いか程の場所が在れば良いでしょうか?」
「伯爵様のお屋敷の玄関前程」
「では、そちらで」
「こちらがエルファサ女神様の誓約書に記載したドラゴン二体の目録です。お渡ししておきます。
あの地区の住民の方が安全にこの町。もしくはこの国を出るまでに違反行為が有ればあなたが燃えます。
永久ですから以後伯爵様が直接間接を問わず彼らに接近を試みた場合でも発動しますよ」
「その様な事は致しませんよ。確かに間違いございません。
ではこちら側のサインと蝋印です。
逆にマルコ君がドラゴンの件で騙せば燃えますよ」
「勿論です。目の前で五人が燃えましたから」
「ではどうぞ」
「はい。間違いございません。ありがとうございます」
「屋敷に参りましょうか」
「その前にご確認を。
この部屋を整理していて見つけた物が有ります。これは伯爵様がギルドに出した命令書でしょうか?」
「えっ?」
(ヨハルジード辺境伯の顔から血の気が引きましたね)




