ヨハルジード辺境伯。マルコの使用用途が広がる
執務机の椅子に掛けるヨハルジードが。
「で、誓約書に基いて消し炭になったと」
「はい。完全にマルコ様の掌でした。
わたくしも一歩早く口を出していたら燃えておりました。旦那様も」
「ギルドを牛耳っているからか」
「はい」
「早々に手を引く。
新たなギルド長はギルド長会議に一任する。まぁあと一か月ででかい土地が入るからな。ギルドは用無しだ」
「畏まりました」
「ただ、マルコ君の動向だけでも追えんか」
「わたくしはまだ死にたくはありませんが?
旦那様のご命令であれば一蓮托生となります」
「おぉぉ怖い怖い。明日の十時までは何もするな」
「まぁわたくしなりに色々手は打っておきます。旦那様には何ら危害が来ないような手段で」
「任せた。私から行動制限はしない。お前の自由に動け」
「承りました」
「それで」
「はい」
「幾らだった?」
「こちらをどうぞ」
「金貨百枚の請求書?なんで?売れた分の差額じゃないの?」
「無価値でした」
「うぅぅそぉぉだぁぁ」
「王都の王立鑑定所の鑑定証明書です
「うぐっ」
「エルファサ女神様の誓約書に基づく鑑定結果です。
どうぞ」
「素材は大森林の樹木。最高級品。
凡そ十八年前のサチ様制作の初期品。超希少価値。
使用形跡無し。新品。
保管状況。非常に良好。
正規品の価格。金貨百枚?
但し。
重要部分が破損して美術的価値が消滅しているのと部材取りもできないため無価値。
観賞用としてお持ちになることをお勧めいたします?」
「はい。
燭台ですから素材の一本一本が細く、細かい。
幾ら大森林の素材であってもここまで細いと折れて粉々になります。
そして木工技術品の加工技術と美術的価値観。サチ妃殿下制作の超希少価値。
宝石の類は一切使用されておりません。
ですがその価値は金貨百枚。
壊れて無価値。
素晴らしく巧妙に仕掛けられた罠です。
売っても得しないように考えておいでです」
「無価値を知って売りつけた詐欺」
「いえいえ。それを壊したのはこちらで弁償代金。
売買ではございませんよ」
「だったなぁ。勝てんなぁぁ」
「金貨百枚ですが」
「何を言っているのかな?
支払った事実は口頭でしか・・・何これ?」
「金貨百枚を支払ったゼロワンの収納に入っておりました。
どのような魔法を使えばできるのか判りませんが、バッシュ殿発行の損害金受領書です。
もう一通は大森林の素材を使用した骨董品売買証明書。
破損理由も克明に書かれております。
バッシュ殿のサインはギルドで照合しました。
譲渡先はわたくしのフルネームが有り、国家法の書式ですから正規の物です。
ゼロワンからはサインをしている姿は見ていないとのことです。
このような状況に至ることを想定していて、既にご用意をなさっていた。
誰も勝てませんよ。
因みにこちらはコピー品です。破棄されると困りますからな」
「私は一切指示を出しておらんぞ。
それに破損の原因は向こうの武力行使によるもの」
「仕方ありませんな。
こちらです」
「今度はなんだ?んんんん?」
「こちらもゼロワンが持っておりました。コピーです。
ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯がフリードッシュ殿に少女を人質に取ってマルコ様を連れて来いと言う命令書です。
これ一枚で旦那様の疑問は全て解消されます。
少女を奪われまいとする正当防衛
「命令書は有るが、実力行使には出なかった。で、済むわ」
「フリードッシュ殿とゲルゲットが黙っていられるでしょうか?エルファサ女神様の誓約書に基づいての証言で」
「うっ」
「それに骨董品売買証明書に破損理由が記されていますよ」
「それを受け取った時点で承諾したと認められるか」
「はい。
やったやられたの証明も無理です。
怪我人は一人も居りませんので、過剰防衛にも当たりません。
言葉だけで泡を吹かせた。
どのような魔法を使って何をどうしたらそうなるのか立証が出来ません。状況証拠だけで物的証拠が存在しない。
やられた状況証拠と証言は有りますが、これを出されたらその状況を作り出したこちら側が完全に不利です
「伯爵の召喚命令に従わなかった命令違反があるではないか」
「召喚令状はお渡しになりましたか?
私設軍か自警団経由になりますが」
「くそっ」
「ご招待状でもBランクは自由意志です。
束縛は逆にこちらが罪を問われ所轄のギルド長と近衛が出てきます。
何れにしてもこの命令書が世に出ればこちらに利する点は何処にもありません。
フォーマットはそちらの引き出しに入っているいつも旦那様がご使用の用紙です。
何故か。本物の用紙で、どのようになさったかは判りませんが、ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯とフリードッシュ殿の正規のサインがございます。
そこにあるペンとインク。筆圧まで完璧にコピーされています。
こちら側すればれっきとした偽物です。
ですが、だぁぁれも疑う事が出来ないほど完璧なサイン。そして完璧な蝋印。
そしてこの世界にそこの引き出しにしか無いヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯専用用紙。
この蝋もヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯の所持品。
印の方もその指輪の物。
裁判所に持って行けばヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯が偽証罪になってしまう偽物です。
わたくしがこれを持って行けば死刑ですが?」
「お前が持ち出した?」
「用紙は可能でしょう。
ですが、印刷はカルックス殿。
そのペンもインクもインクブロッターもカルックス殿から購入。
その指輪は?
因みにお作りになったのはカルックス殿で万が一の破損時用に数本お持ちなのはご存じ。
蝋もカルックス殿から仕入れており、全てがカルックス殿で揃います。
そして完璧な旦那様とフリードッシュのサインも手元にお持ちです。
後は命令書の文章の文字までをここまで完璧に模写できるか
「お前が死ねば?」
「明日の会合は無くなり、養子の件とドラゴン二体は
「それが売れたら払う」
「畏まりました。
ただ、金貨百枚でわたくしを殺す気がおありになったと?」
「私が殺さずとも事件事故もあるだろう。
その時、マルコ君がどう出てくるかの例えだ。
キューレット王国内で有名なお前に手を掛けたら、私が不利になることぐらい判って言っているだろう。
それにクロ達の育ての親のお前がそうなれば、黙ってはおらんだろう」
「はい。承知しております」
「お茶をくれ」
「今から少々出かけますので、失礼いたします」
「お茶を淹れてからでも良くない?」
「急ぎます故。では」
(あいつ、ここ半年位い素っ気ないよなぁ。
まぁいい。
マルコとはいったい何者なんだ。化け物か。
しかし、これだけの能力を持った者をみすみす誰かに渡すわけにはいかん。ますます重要度が上がった。
これだけの偽物が出来れば・・・あれ?玉座が見えて来たんじゃないか?
ギルドの扱いにも長けている。
おぉぉぉ。
有ること無いことを正規の書簡で命令書を作り、証拠を提示して訴えて弾劾。私が玉座に?
いやいや、ここを含めての四カ国の覇権が握れるんじゃぁないのかい?ギルドは私の手の中?
「うおぉぉぉ。良いではないか良いではないかぁぁ私の一人勝ちではないかぁぁわぁぁぁはっはっはっは。あぁぁはっはっはっは。
おっと。誰も居ないな。素で声が出ていたな」
(利用価値が多過ぎて想像も付かぬぞぉ。絶対に養子にする。
ドラゴン二体も当面の金として必要だが、その後も討伐させれば金が湧いて出てくるではないか。正にサチ妃殿下の仰った金の生る木。むうぅふぅふぅぅぅ。
笑いが止まらんとはこの事よ。
やはり、敵対は避けて穏便に且つ自然に懐柔せねばな。
フリードッシュとゲルゲットの首で少女に謝罪して許しを乞うところからか。
利用価値の大きさを考えれば、頭を下げる事など造作もないことよ。
カルックスも必要無くなるな。
イジシスの許嫁を解消してマルコ君に姉さん女房として進呈しようではないか。貴族の娘だ。喜ばないはずがない。
むふふふふ。楽しくなってきたぁ。
自分で茶を淹れて、作戦を考えよぉぉっと)




