マルコ君。マスミカットを勧誘
ギルド長の執務室。
二人掛けのソファでテーブルを挟んでバッシュとマルコ。向かいにマスミカット。
ルージルが震える手でお茶を配り終え、転がるように部屋を出た。
「それで何からお話し致しましょうか?」
「まず確認です。
マスミカットさんは何故、ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯様に付いていらっしゃるのですか?」
「隠せませんか?」
「ヒスイスさんは亡くなったあなたの奥さんネオプルーンさんとヨハルジードさんの間にできたお嬢様。
それも強奪で」
「はぁぁ。その様な情報を一体どこで。旦那様も奥様すら、いまだにわたくしに隠していると言うのに。
Aランクともなるとその様な能力まで発現しますか?」
「まぁそう言う事にしておきましょう。
何故気付かなかったのですか?」
「勿論、気付いていました。ネオプルーンから聞いておりましたから。
しかし、旦那様は頑なに否定。
身分の差で不敬罪の話しにまで。今後その話しをしないと言う約定で諦めました。
そして、ヒスイスは旦那様の元に奉公と言う形で召し上げられました。
公式上はビャウミャウ家の娘となりました」
「貴族って色々出来ちゃうんですよねぇ」
「はい」
「で、復讐ではなくヒスイスさんを見守りたい。これですか?」
「はい。ですが何処へ奉公に出したのか半年経った今もって不明でございます」
「全く血は繋がっていなのにどうして?」
「わたくしとの二人の間に子供は居りません。妻の忘れ形見。そうしておいてください」
「子供の僕では理解できない事情ですね。すみません」
「謝る事では無いですよ。
それで忠誠心ですがはっきり申し上げれば無いです。
ネオプルーンが亡くなった後もここに居続けるのは、ヒスイスが人質のようなものですから」
「ヒスイスさんは出自をご存じなのですか?」
「はい。幼いころから第一夫人のヤルベル奥様と直系のサラレタお坊ちゃま。イジシスお嬢様にこっぴどく虐げられておりました。
わたくしの妻の血を色濃く受け継いだのか、お二人に全く似ておりませんでした。
それで十五歳までは屋敷に居ていい代わりに、旦那様が事実を打ち明けました。
勿論、わたくしには打ち明けなければいけないその意味も理由も判りません。
何時打ち明けたのか知りません。立ち会っておりませんので」
「ああ。簡単ですよ。
お前は不貞の子。全ての縁談を断れ。男付き合いはするな。仲よくするな。友達を作るな」
「はぁぁぁ。納得できました。
自分の生まれに関し、奉公に出される前にわたくしに話して来ました。心情は解かりかねます。本人もどうしてだろうと言っておりましたので。
あいつの子ですが、わたくしは実の娘のように思っております。手助けできないのが、助けてあげられないのが、わたくしの力不足です。
せめて、せめてあの子を貴族の子としていなければ、わたくしが養子に貰っていたのですぅぅ。くっくっくっくぅぅ・・・
しっ失礼いたしました」
「構いませんよ。少しは落ち着きましたか?」
「はい。誰にも話せず、色々な思いが転がる雪玉のように膨らんでお有りました。
ほんの僅かではございますが、気が軽くなりました」
「どうです。僕の元に来ませんか?」
「そう来ましたか。その言い方だとお仲間が既に複数人いらっしゃるように聞こえますが?」
「今は僕一人。ですよ」
「今ここでは。の、間違いでは?」
「僕がヒスイスさんを見付けたらどうですか?」
「その時はうんもすんも無くあなたの元に下りましょう。
あなた様の身分と背後関係をお聞きし、そして表裏全てお話して、二重スパイの役目も担いますよ」
「僕の失態ですね」
「マルコ君何処が?」
「自分で自分を締め付ける課題を出してしまいました」
「あぁあ。なるほどね。頑張って見付けねぇとな。
話しが終わっちまったよ」
「マルコ様。念話のアドレスを頂けませんか?」
「今はまだ止めておきましょう。ルージルさんを伝言係にいたしませんか?」
「なるほど。そう致しましょうか。
彼女の実家はここパナイジーの町の家具職人の商家の娘。二十三歳
兄夫婦が居りまして、その妹。
バッシュ様はご存じですよ」
「機会があれば見に行ってきます」
「是非そうしてください。ああいった言動と見た目ですが、乙女です。パナイジーのギルドで生きて行くための適応能力です。
根はいい子ですよ」
「でしょうね。僕の術がエルファサ女神様の火を消しましたからね」
「でようマルコ君。ここどうすんの?ギルド長が死んじまったよ」
「考えますよ」
「Aランクの。先程までBランクのマルコ様にお聞きしたいのですが、トウショウ王国の王都のギルド、メイデス副長の行方はご存じ無いですか?
ポコマイミ達がララヴール隊長と言うお方と一緒に大型馬車で都を出たと聞き及んでおります」
「ポコマイミさん達とはお友達なので知っていますよ。ですが、今は言えません」
「となると、ララヴール隊長もご存じ?」
「はい。僕の背景をもっとお知りになりたいでしょうが、今はここまで。今から出てくる質問には一切答えません」
「やはり勝てませんね。では、何も無ければ明日の十時にこちらで」
「はい。何も無ければですね」
「わたくしはルージル殿と話して来ます。出口までは送りますよ」
「いえ。バッシュさん行きましょう」
「どこへ」
「いいとこです。転移」
「はぁぁ。凄いお方です。
金貨二千枚はよろしかったのでしょうか?
請求先が消し炭でしたね。誓約書で燃えてしまうのも良し悪しですか」
ギルドの受付カウンターに一人来たマスミカット。
背筋を伸ばして正面を見つめるルージルは時折目線を髪の毛の先端に送っている。
「そんなに心配なさらずとも、燃えていませんよ」
「でもぉ」
「終わりましたよ」
「マルコ様とCバッシュ・・・バッシュ様は」
「あの部屋から転移でお帰りになりました」
ギルド内に残っていた冒険者達が。
「えぇぇぇぇ?」
「Sランク目前でしょうね」
「はいっ」
「「「「マスミカット様ぁぁ」」」」
「わたくしが見てもとても奇麗になっていますよ。
誰一人、燃えていませんから皆さん合格だったのでしょうね」
「「「「よがっだぁぁぁ」」」」
「それで、皆さん。今日から暫くはヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯の名で休業と致します。
ルージル殿。あなたは出勤してください」
「一人は怖いのですが」
「わたくしの女性の部下三名を派遣いたします。
それであなたの仕事はわたくしとマルコ様の伝言役です」
「い 生きてていいのですか?」
「マルコ様があなたをご指名ですよ」
「よがっだぁぁよがっだよぉぉマルゴざまぁぁありがどうごじゃいまずぅぅ
「何らかの形でマルコ様からわたくし宛てに伝言が来ましたら連絡をください」
「わがりまじだぁぁ」
マスミカットは転移で屋敷に戻り、ヨハルジードの執務室。




