ヨハルジード辺境伯のマルコに対する思惑
その頃、ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯の屋敷の執務室のソファに座るヨハルジード。その後ろに立つ執事。
ヨハルジードの前に立つフリードッシュとゲルゲット。
ヨハルジードが声を荒げて。
「どう落とし前を付ける気だ。マルコ君を怒らせろとは言っていないはずだが」
「「申し訳ございません」」
「功でも焦ったか?バカ共が。
マルコ君の見た目は」
「ほぼ女の子です。声も」
「美人と言った方がいい位です」
「男装している訳では無いのだな」
「ギルドカードを照会しましたが男になっていますから間違いなく男です」
「女をカッコよくした男ですぜ。俺がお持ち帰りしたいぐらい需要は尽きませんよ。
あれを売った方が金になるじゃないですかぁ?」
「フリードッシュ。そんなにか?」
「はい。旦那様はその方面にご興味が有りませんのでピンと来ないでしょうが、そっち方面に見せたら確実にその場でオークションが始まりますよ」
「なにぃ」
「俺の見立てで下限五百枚は下らないんじゃないですか?
使い回しでも金額は落ちないぐらいですよ」
「そこまで言いうか?」
「女でも居なぐらいですよ」
ヨハルジードは後ろに控える執事の男に。
「マスミカット」
「そう情報が上がって来ております。
バッシュ殿が声を掛けなければ、周りの女性達が群がりそうで有ったと」
「女性受けも良いのか」
「はい。わたくしの手の者も聡明さと強さを含めて溶けています」
「男には全く興味が無いと言っていたではないか」
「それを凌駕し、精神のコントロールさえかき乱し、虜にする容姿と強さを秘めた男の子」
「言動は?」
「所作言動は終始穏やか。貴族並みの歩行と立ち姿勢。一瞬も怯まず、敵とみなせば容赦無し」
「それも凄いな。
そっち方面も視野に入れて考える。
で、フリードッシュ。
ギルドで更新したらAランクでレベルが1582。と?」
「はい。恐らくそうなります。自己申告ですが」
「ドラゴンを単独で二体同時に狩れる者などアバターぐらいしかおらん。
正にSランクの卵ではないか。
それを怒らせ、ここへも来る気が無い。
十五歳のSランクを育てたとなれば公爵級の功績だぞ。こんなちんけな辺境伯如きではないぞ。
いきなり降って湧いた私の陞爵を台無しにしよってぇ、どうするんだぁぁ」
「「申し訳ございません」」
「申し訳ないで済むと思うのか?」
「汚名返上の機会を頂けないでしょうか?」
「いいか。あくまでも穏便にマルコ君が自分の意思でここへ来ることが条件だ。
強要したりしたら、大陸一の堅物なエウマイアーギルド長が黙ってはいない。それこそノルトハン王国に持っていかれる。
それだけは何としてでも阻止せねばならん。
とにかくだ。
私の元にさえ来れば養子縁組を結び、確固たるものにする。いいな」
「俺もAランクなんですが?」
「そんなおっさん面はいらんわっ
「酷いですよぉ」
「まぁ一日で、単独でドラゴン二体を狩って、二体とも収納し帰って来い。そしたら考える」
「うっ」
「では、失礼いたします」
「ああ。期限は明日の夕刻までだ。
明後日には王城に向かわねばならん。それまでに養子縁組を済ませ、同行する。いいな」
「「はい」」
「マスミカット」
「はい。旦那様。
はっきり申しましてあの者達では無理でしょう。
マルコ様は十五歳とは思えぬ相当聡明なお方。
この一端から国同士迄の問題へ発展させる方法をお持ちです。
しかも旦那様を巻き込む方法まで一瞬で計算をされております。
わたくしの手の者までも手玉に取り、魔力を辿って屋敷の位置から武器の保管庫までも見抜いておられます。
逃げ隠れも無理でしょうな。
彼らによってここも既に辿られているでしょう。敵対して到底敵う相手ではございません。
何せ声だけでゲルゲットを吹き飛ばし、泡を吹かせたお方です。
恐らくは既にSランクに到達しているやも知れませんな。
そして金貨百枚の謝罪金です。
恐らくこの三本燭台はマルコ様の持ち物でしょう。あの近辺には当時の物は残っていません。
非常に巧妙な手口です。
詐欺だと訴えれば、こちらの罪も暴かれます。こちらは旦那様まで含めた命。
あちらは金貨百枚と罰金程度。それも返す相手が居ない状況。冒険者ランクにも影響はございません。なにせ、事実壊れていますから。
並の者では手も足も出せませんでしょう」
「その燭台を売った方が金になったのではないか?」
「申しましたよ。巧妙な手口だと。
北の門から三人が付けているのをご存じだった。
そこへ飛んで火入ったフリードッシュ殿。
あの場所の事もバッシュ殿から色々伺ったのでしょう。
背後を確認するのに絶好のチャンスが到来。
本来であればゲルゲットが飛び込む瞬間に何らかの対抗手段を打てたでしょうが、出方を見た。
マルコ様にとって、この三本燭台には金貨八十枚を超える価値がそこには有ったのでしょうね。
事実、金貨百枚になっております。修繕費は恐らく無料。魔法でお直しになるでしょう。
全てを思考されるのに一秒と掛からずに計算をされたのでしょう。
手の者からは全てが一瞬で決まり、考える暇も無かったと」
「あの者らでか」
「わたくしの元で最優秀の三人ですが、子供のように扱われております。
そして、わたくしの事までをお知りになっておいでです。
聡明なエウマイアーギルド長で敵うか敵わないか。
微妙な所でしょうか」
「やはりか。
お前ではどうだ?」
「難しくなっております」
「どう言う意味だ」
「旦那様のお名前を出さなければなりません。
マルコ様の中であの者達を毛嫌いした。つまりあの者達の所作言動が旦那様の全てでございます。
サチ妃殿下のお言葉をお借りするならば、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。でございます」
「だわなぁぁ。初手を失敗したぁぁ」
「今現状あの者達しか居りませんでしたから仕方ありません。
今後はお使いになりませんように」
「解っている。明日までだ。
ホルカイ帝国との密約の上下弦の月作戦に使って功績を挙げようと思っていたのに」
「それをお考えでしたか。
既に上下弦の月作戦をご存じのような内容でしたからねぇ。
話しは早いでしょうが傭兵扱い。
少々勿体ないのでは?」
「勿論、後方支援組だ。私の護衛にする。いざとなれば出張っては貰うが。
ここからノルトハン王国の東門までの先陣は砦の兵と掃きだめの住民とCランク以下だ。
何のために飼い殺しにしていると思う。
それにヘルとサタの情報から途中で村を築いたエイジットの隊も傭兵にする。
そして先陣でノルトハン王国のガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵領からトカルチョ・ド・デモンション男爵領迄の東は貰う。
ノルトハン王国から情報が入って来なくなったがまぁいい。
まさかここから北上し、東門を攻めてくるとは思ってもいないだろう。度肝を抜く作戦だ。幾らのマルックでも十人では対応しきれまい。
おっと、自分の作戦に陶酔してしまった。
軍備も後方の町で最終段階まで来ている。軍資金もある程度は揃った。残りの一か月でさらに増やす。
それにはドラゴン二体分の素材が必要だ。
何としてでもマルコ君を養子に持ち込む手立ては無いか?」
「さようでございますねぇ。久しぶりに干上がった頭を使いましょうか。
少々、お時間を下さい」
「解った。好きにしろ」
「ありがとうございます」
「ところで」
「はい」
「その燭台。直らない?」
「直りません」
「売れない?」
「金貨百枚でお売りいたしますよ。まだ、立替分を頂いていませんが?」
「カルックスを呼んで鑑定してもらう」
「いいえ。お二人で安く見積もられそうですから、わたくしの伝手の店に行って来ます」
「そこを何とかぁ」
「では、失礼いたします」
「あぁぁ待ってくれぇぇ」




