マルコを怒らせる足掛かり
男はメルーナを後ろから抱え込んで抱き上げた。
「お兄ちゃん」
「メルーナ」
「動くんじゃねぇぞCバッシュ」
「動いちゃダメですよバッシュさん」
「だが
「いいですから」
「おっおう」
「ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯の遣いのお方のフリードッシュさんが幼女を人質に?」
「他に二人いますよ。
実質的にそうなってしまいましたが、あなたが来れば何も致しません」
「自白していることに気付いていないのですか?
もういいです。
すぅぅぅ。メルーナちゃんの胸に触っているじゃないかぁぁ。吹き飛べバカ野郎ぉぉ
「へっ?」
バッシュは壁に打ち付けられて床でうな垂れる男を見ながら。
「Aランクのゲルゲットに指一本触れていないのに吹き飛んだ?気を失ってらぁぁ。
メルーナはマルコの腕の中?どうなってんの?」
メルーナをお姫様抱っこするマルコは。
「メルーナちゃん大丈夫?」
「うん。大丈夫。でも怖かった」
「僕がこのまま抱いていますから大丈夫ですよ」
「うん」
「フリードッシュさん。すみませんねぇ。
今日、ドラゴン二体を倒したのでAランクに昇格。レベルも千越えですよ。
そこのAランク二人も拘束しまたよ。ですが本当にAランクですか?立ったまま気絶しましたよ。まぁいいですが。
ゲルゲットさんでしたか。彼は965。威張っていらしたのでしょうねぇ。レベルを公開していらっしゃる。僕が現状推定値1582。敵いっこありませんよ。
それでフリードッシュさんは不法侵入。恫喝。脅迫。未成年者略取の犯罪教唆。
フリードッシュさんの命令で動いたゲルゲットさんはAランクの冒険者。
全ての冒険者規定に抵触。その上未成年者の誘拐未遂。どちらの罪状でも処刑が確定していますよ。
それでわたくしを脅してでも連れて来いと指示を出したヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯迄調査が及ぶでしょうねぇ。
貴族ですから王城から派遣される近衛兵でしょうか。
それと僕は冒険者。冒険者でBランク以上は行動を束縛してはならない。そう規定に有ります。
そして僕はギルドに行けばAランク。当日の事なので各ギルド長に直訴できますよ。
そうですねぇ。堅実なお方のノルトハン王国王都ギルド長エウマイアーギルド長様辺りがいいでしょうかぁ。
ノルトハン王国のマウレス宰相様と懇意の仲と聞いていますがぁ。
そこまで行くとぉぉ貴族の手を離れて国王様同士の話しになりますねぇ。
そんな事になるはずがない?」
「う”っ」
「ご存じ無いはずがないですよねぇ。ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯が僕を確保しろと仰っているのですからぁぁ。
あら?その反応はご存じ無かった?
フリードッシュさんはヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯に信頼されていないようですねぇぇ。
お教えいたしましょう。
現在、ノルトハン王国を除く三国はSランクのアバター様が引退した事によって、Aランク冒険者の取得合戦の真っ最中。
Aランクの存在は国家間の秘匿事項に入っているんですよ。
でも。Aランクともなればどの国も周知のお方ばかり。
そこでヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯爵様はAランク寸前の僕に目を付けた。
僕は単独でドラゴン二体を討伐できる。つまり、Sランク寸前でもある。
ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯爵様がSランクを育てた。どのような功績で各国から称えられるのでしょうかぁ。
お解りになりました?」
「は い」
「それで、僕のお知り合いとなったこちらの少女に狼藉を働いた。
Aランク目前。Sランクも視野に入っている僕がギルドに訴え出ればどうなっちゃうんでしょうかねぇ。
あなたやヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯のお言葉と僕の説明。世間様はどちらを信用するのでしょうかぁぁ。
そしてノルトハン王国とキューレット王国。どちらがお強いのでしょうかぁ。ああ、ホルカイ帝国様が出ていらっしゃるかもぉぉ
「あぁぁぁ
「ジルメイダ・イヲ・ホルカイ皇帝陛下は冷血で、おこわぁぁいお方と聞いたことがありますねぇ。
進行中のごふぉん」
「ひゃいひゃい」
「大人しく帰らないと取り返しがつかなくなりますよ。
あなたお一人の死罪ならばいいのですがぁ一族郎党、ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯。関連組織とそのトップまでぇ。
ねぇフリードッシュさん」
「わ 判りました。帰ります。
ゲルゲットを連れ出せ」
「表のお二人は気絶していますよ」
「うっ。そうだった」
「仕方ありません。どうぞ」
「えっ?」
「お二人さん。もう動けますよねぇ。ゲルゲットさんを連れ出してください」
「「は はいぃぃ」」
「それでフリードッシュさん。謝罪わぁ?」
「申し訳ございませんでした」
「扉と調度品の修復代わぁ」
「金貨一枚で
「はぁぁ?何を言っているんですかぁ?
そこで壊れている三本燭台。
創世のエルファサ女神様の破壊を免れた、今は再生不可の伝承の製品ですよぉ」
「えぇぇ?その様な代物がここに?」
「あれです」
「五枚でご勘弁ください」
「では、ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯様に請求
「十枚でどうでしょうか」
「その程度の認識しかないのですか?
ああ、お手持ちが無い。
仕方ないですねぇ。
そこの屋根のお姉さん。降りて来てください」
「えっ?」
黒装束の女が観念したように飛び降りて来て、マルコが。
「こんにちは」
「はい。ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯の手の者でお許しください」
「判りました」
「キューレット王国の大森林の三本燭台相場が金貨八十枚。
謝罪も兼ねて百枚を置いて行きます。
いかがですか?」
「その壊れた三本燭台は差し上げます」
「はい。貰って行きます」
「ヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯様ではない、主様にお礼を言っておいてください」
「えっ?あぁはい」
「それとあなたを含め、お三方もお帰り下さい。
砦の入り口から付けて来ていることは知っていましたよ。
残っていれば殺意有りと認め、どうなるか判りませんよ。
残りの二人も丸見えですからね」
「えっ?」
「マルコ君よぉ。何処に居るの?」
「バッシュさん。ナイフを軽く放り投げて下さい。大丈夫です殺傷はしません」
「お前メルーナを抱いたままでどうするの?」
「いいですから」
「こうか?」
「せいっ」
「うぐっ」
バッシュの玄関の通りを挟んだ向かいの家の壁に張り付き潜んでいた黒装束の女の顔の横にナイフが刺さった。
隠蔽が解かれその手には短剣があった。
金を払った女とバッシュが驚きながら。
「「風魔法?」」
「はい。で、僕の右手の壁に張り付いているお方も判っていますよ。刺突武器二本。今更仕舞おうとしてもバレバレですよ」
「屋内から
「屋内からでも見えますよ。何なら証拠に空に舞い上げましょうか?もう浮いていますが」
「あ”ぁぁぁボスぅぅぅ
「クロが浮いてるぅぅ」
「フリードッシュさんも空中散歩は如何ですか?」
「ご勘弁をぉぉぉ」
「今で二メートル。意思が無いと怖いですよねぇぇ。更に五メートル上げましょうかぁ」
「お許しを」
「仕方ありません。はいっ。着地」
「おいっ。大丈夫か?」
「はいっ」
「お二方もあれで殺意無しは無理が有りますよね。お姉さん」
「申し訳ございませんでした。
おいっ。仕舞え」
「はっ」
「殺意を晒しておいて謝罪だけ?」
「どのようにすればお許しを」
「あなた方の業界なら?」
「処刑一択」
「だったら処刑ですよね。でも、メルーナちゃんの前ではしません。
あなた方三人の魔力を認識しました。
アジトわぁぁ。なかなか広く良いお住まいですねぇ・・・何をなさっているのですか?念話は遮断してあります。転移も無理です。
僕のこの結界を抜け出せるとでも?
それで、お庭の大きな立ち木の元に池が在るんですねぇ。あれはアヒルちゃんでしょうか。七羽ほど見えますねぇ。
立ち木には小鳥さんの巣が三か所。
食用に?」
「いえ」
「連絡手段?」
「いえ」
「朝の目覚まし?」
「そんなところです」
「お優しいお方達ですねぇ。
後、数名いらっしゃるようですが、ばらしてしまうとお仕事に支障が出るでしょうから止めておきましょう。
ただ、何処まで見えているかは証明しておきたいので言っておきますね。
二階への階段の三段目。板を上げると長短の剣。なかなか巧妙ですねぇ。あら。五本の内一本錆びが出かけていますよ。手入れを怠ってはいけませんよ。
玄関の扉の中にも。
うぅぅん。今日は何方が食器洗いの当番なのでしょうか。
パンと目玉焼き。サラダですね。一般的な朝食ですね。
何方かサラダがお嫌いなお方いらっしゃるのでしょうか。それとも何かに慌てていた。
食堂のテーブルの上に皆さんが召し上がった食器が残ったままですよ
「「当番ボスぅぅ」」
「いきなり呼ばれたので洗う暇がなかった」
「それは僕のせいですね。ごめんなさい。
まぁこんなところにしておきましょう。
どうです?魔力を辿ることが出来るんですよ。逃げられませんよ。
あなた方の直接の主様の指示を待っていてください」
「解かりました」
「それで、あの短剣。誘導ですら可能ですよ。バッシュさんにお返ししますよ。せいっ」
「おぉぉぉ。手元に戻った。なんで?」
「物質の転移ですよ」
今度は黒装束の二人の女とバッシュが。
「「「失われた魔法?」」」
「お引き取り下さい」
「「「はいっ」」」
「はいぃぃぃ」
「メルーナちゃん。もう大丈夫だよ」
「怖かった」
「お兄さんのせいだね。ごめんなさい」
「うぅぅうんっ。いいの。でももう少し抱っこしてて。足が震えているの」
「いいですよ。このまま行きましょうか?」
「うん」
「すまねぇな」
「いえいえ。元はと言えば僕が従っていればよかったんです。
逆に迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」
「あの燭台。俺のじゃねぇぞ」
「戸棚の中に有ったんじゃないですか?」
「嘘こけ」
「その金貨入ります?」
「いいのかよ」
「いいですよ。メルーナちゃんを怖がらせちゃった謝罪です」
「ありがとう。
なぁ。マルコ君」
「はい」
「許嫁か結婚は?」
「どちらも無いですよ」
「ならメルーナを貰ってくれねぇか」
「えぇぇぇ」
「突飛なのは解かる。だが、マルコ君がメルーナを許嫁でこの町から連れ出してくれねぇか」
「許嫁でいいんですか?」
「エセ教会の司祭の前でエルファサ女神様の誓約が要るから形だけでは済まないが」
「なるほどねぇ。メルーナちゃんはこの町を出たいの?」
「お兄ちゃんも一緒なら」
「メルーナ。もう諦めろって」
「嫌。お兄ちゃんと一緒がいい」
「優しいお兄ちゃんから離れたくないよねぇ」
「うん」
「バカだなぁもう。
行こうか」
「お兄さん。このままでいい?」
「はい。いいですよ。行きましょう」
「ちょっと待ってくれ。扉を・・・あれ?」
「直しておきました」
「「いつぅぅ?」」
「行きましょう」
「パンを配る場所はここだ」
「噴水広場?広くはありませんが」
「十年前まではここにイサム陛下とサチ妃殿下の技術継承者の店が三十軒ほど在った。
まぁ色々有って今じゃありきたりの物を造っているのが十軒ほど。人数にして五十人程だ。
軒の件数としては五十程有るが、ほぼ空き家。みんなで身を寄せて暮らしているからな。
町の者達なんかだぁぁれも来やしねぇ。一つの集落みてぇなもんだ。その中で冒険者は俺一人」
「なるほどねぇ。皆さんが集まって来ましたよ」
「メルーナちゃんどうしたんだい?怪我でもしたのかい?」
「バレンおばさん違うよ。怖いおじさん達が来て怖かったの。このお兄さんに助けてもらっちゃった」
「そうかい。災難だったねぇ。
ねぇお兄さん。怖い人から助けられる力が有るんだったら、そのままメルーナちゃんを攫って逃げておくれよ。おばさんからのお願いだ」
「俺からも頼む」
「俺からもだ」
「あたしからもお願いだよ」
「ま 待ってください。先ずはパンを配りましょう。
バッシュさん。そこに椅子が有ります。取ってください」
「ああ。って、こんなところに椅子が在ったのか?」
「メルーナちゃん。ここへ座って」
「お兄さん逃げない?」
「逃げませんよ。パンはどうやって配るんですか?」
「そこのテーブルにパンを出してください」
「こう?これでいい?」
「はい。皆さぁぁん。今日はお一人様一個でぇぇす。
お水も有りますよぉぉ」
「ありがとうメルーナちゃん。バッシュ君。いつも助かるよ」
「本当にすまないねぇ」
「いやいや。世話になっているのは俺達の方だって。一個で申し訳ないが、遠慮せずに持って行きな」
「ありがとう。ありがとう」
「ありがとう」
「メルーナちゃん。いつもありがとう」
「もっと頑張るからね」
「ああ。色んな意味でみんなで頑張ろう」
「「「「おぉぉ」」」」
(あぁぁもぉぉみんな良い人。助けちゃう。決定)




