家出少年木こり君
翌日早朝、アイファウストは木こりの姿で一人パナイジーの砦の守衛に向かって歩いていた。
快晴の空の元。間近に聞こえる小鳥の賑やかなさえずりと遥か彼方から聞こえる魔物の咆哮。
ごっきげんで鼻歌交じりに歩いていた。
教会の自室の机には【少し遊びに行ってきます。探さないで下さい】と書置きをしてきた。
ナルッシュから連絡を受け、それを見たハルサーラは。
「家出少年のようになっていますよ、アイファウスト王子殿下」
「きのうのスカッシュの件で悪者にしたから?」
「その後は何もなかったようにお話しされていましたよ」
「いやぁぁ年頃の男の子は内に秘めて素知らぬ顔をしますから。
特に十年引きこもってああ言った冗談に耐性が無いかも。真面目が服を着て歩いているあのクラウス様ですから」
「心配になって来たではありませんか。
どうしましょうか。
皆にきのうの状況を
「わたしの思い過ごしのようです。
お義母様下の方。小さい文字のここをご覧ください。小さくて更に少々難解ですが」
「【ハルサーラ様。お土産を買ってきます。楽しみにしていてください】?はぁぁもう、人の心配を他所に」
「パナイジーでしょうか」
「でしょうねぇ。サチ妃殿下がご覧になったらどのようになさるのでしょうかねぇ」
「そりゃもう、軍に居た時と同じで『心配させないの』って、仰ってげんこつですよ」
「あなた頂いていたわね」
「はい。勝手に斥候に行って、正座させられ叱られました。ヘルメットの上から脳天にドカン。痺れましたよ。
その後優しく褒められました」
「お美しい方でしたからねぇ鼻の下が伸びていますよ」
「おっといけねぇ」
「誰もパナイジーまでは行けませんね。ガルカク兄妹にも念話が届きません。
戻ったらげんこつのお仕置きです。
ナルッシュ」
「はい」
「近衛兵隊に何時でも出撃できるように準備を」
「棒に当たりますか?」
「確実に当たる」
「理由を」
「アイファウスト殿下は一旦実家にお戻りになった。
木こり様が書置きを置いてイズ大ばば様の集落より先に随伴を伴わず視察に行かれた模様。
現在念話が繋がらない。
万が一を想定して出撃準備。
命令あるまで待機」
「了解」
教会内は大騒動になった。
教会が大騒ぎになっている事も露知らず。
「いい天気だなぁ。前に見たテントはもう無いですねぇ。
守備隊のお方ですね。かなぁぁり対人恐怖症も克服出来たでしょう。しかぁし、油断は禁物」
(新たに作った冒険者の偽造カード。名前はマルコ君。レマン君とは被りませんね。十五歳。Bランクのレベル888。末広がり縁起良し。
ああ。さっきドラゴン二匹とその他諸々を討伐したからレベルとランクが上がるなぁ。
クラウスぅぅ。念願の一人旅が始まるよぉぉ。観光と名物料理を堪能するからねぇぇ。土産話し待ってってねぇぇ
「止まれ木こり。女か?」
(ビックリぃぃ。考え事しながら歩いちゃったからもう目の前だったぁぁ)
「いえ。男です」
「男ぉぉ?」
「はい」
「まぁいい。
この砦の門はキューレット王国のパナイジーの入り口だ。現在冒険者以外は受け入れていない。
冒険者か?」
「はい」
「カードを見せろ」
「はい」
「本当に男だな・・Bランク?お前がぁぁ?」
「何か問題でも?」
「まぁいい。ギルドに照合する。待っていろ」
「はい」
「はぁぁぁ。まだかなぁぁ。暇で退屈ぅぅ。椅子かテレビぐらい設置しておいてくれればいいのに・・・はっ。まさかテント生活一週間?
あぁぁ。やっと出てきたぁぁ。あれ?さっきの人と誰だろう?」
「マルコ様。わたくしはここの隊長を務めますナテラットと申します。以後お見知りおきを。
部下が高圧的な態度で
(うぅぅ初対面に対してあれわぁぁ。怖かったんですよぉぉもぉぉ。
まぁ、大人の対応で)
「いえいえ。職務を全うされた優秀なお方だと思っていますよ」
「「ありがとうございます」」
「お気になさらず」
「このような場所に立たせたままで、お茶も出さずに長らくお待たせしてしまい大変申し訳ございませんでした。
ドラゴン二体をお狩りなっていらっしゃるマルコ様。どうぞ入国してください」
「ありがとうございます」
「ちなみにですが、そのドラゴンはまだギルドにお売りになっていらっしゃらないようですが」
「はい。持っていますよ。十メートル級を二体。つい先程だったので」
「お一人で狩られた事になっていますが、お連れ様は?」
「居ません。たまたま偶然寝ていたので一人でも十分でした」
「「はっ?」」
「お疑いになるので?」
「いえいえ。そのような事は決してございません。
ただ、寝ていたからと言ってお一人でドラゴンを倒されたことに驚愕いたしました」
「そうでしたね。ごめんなさい」
「「頭をお上げくださぁぁい」」
「はい」
「ドラゴンは北の森で?」
「はい」
「ノルトハン王国からいらっしゃった?」
「その方面と言っておきます。木こりがメインなので、宿無しの根無し草です」
「それはそれは大変でしたでしょう。
実はここの領地を治めるヨハルジード・リックス・ビャウミャウ辺境伯が是非とも屋敷にお招きしたいと申されております。
宿泊の準備も整えるそうです。
間もなく馬車が到着いたします」
「お断りは可能ですよね」
「はい。ですが従った方が良いかと思いますよ」
「実はここへ来るのが初めてなので町が見たいのですよ。
暫く後でもいいでしょうか?」
「解かりました。その様にお伝えいたします。
パナイジーのギルドはここを真っすぐ行った突き当りです」
「ありがとうございます」
「では、良い旅を」
(ナテラット隊長良い人やぁ)
「ありがとうございます。失礼します」
(おやおや。もう監視役が付きましたかぁ。女の人三人ですね。他のお方達には見えないほどの手練れですね。
ナテラット隊長わぁぁ。全く気付いていないと言う事は伯爵様かぁぁ?
妖精ちゃん。何処のお方の方達か調べてくれるかな。ありがとう。
しゃぁない。ガルカクさん達にも見つからないようにしないとぉぉぉ。しまったぁぁ鍛冶屋さんの名前聞いてないやぁぁ)
「へぇぇ。案外賑わっているのねぇ。表通りは」
(迷子にならないようにマッピング。上空に行きたいけど屋根伝いに監視は付いて来ていますねぇ。
何処か高い所わぁ。無さそうですねぇ)
「砦の上は無理だよねぇ。もう少し先に行きましょうか。
ですが一人旅としてはいい滑り出しです。さぁぁ楽しむぞぉぉ」
「朝ごはん食べていないから、お腹がすきましたねぇ。喉も乾きました。どこかにお食事処は無いでしょうか?
和食。は、無いですよねぇ。
おお。一人で外食は初めて。うっしゃぁぁ」
(とは言いつつも周りの視線が怖いですねぇ。僕の後ろに何か居るのでしょうか?居ないですねぇ)
「へいへい。お嬢さん」
「うきゃぁぁ
「そこまで驚くことぁねぇだろう」
「あのっ。男の子ですが?」
「へぇぇ。いいねぇ」
(まただぁぁ)
「何か御用でしょうか?お兄さん」
「ここらじゃ見かけない顔だねぇ」
「さっきここへ来たばかりです。ギルドに行こうと思って」
「その前によぉ。お兄さんといい事しないか?」
「いえいえ。少々急いでいますので」
「いいじゃねぇか」
(いい事思い付いた)
「分かりました。その前に喉が渇いたんです。何処かでお茶は飲めませんか?」
「持ってねぇのか?」
「全部飲んじゃって」
「いいぜ。たっぷり飲ませてやんぜ」
(絶対意味違うよね)
「こっちだ。ついて来な」
「はい」




