アイファウストの身内のわだかまり
アイファウストとハルサーラは真ん中の塔の最上階の東のガラス窓を開け放って並んで。
「アイファウスト王子殿下。
サムジーム殿と有効なお話しでもありましたか?」
「はい。領内が見渡せる、ここへ来ました」
「ここは中央塔の最上階ですね」
「はい。地上から凡そ三十メートル。改めて観ると見晴らしが良いですねぇ」
「はい。領地も一望できますよ」
「こんな日に空を飛ぶと気持ちが良いですよぉぉ。
それで何故、南東の方角に煙が上がっているのでしょうかねぇぇ」
「あらあら。何か起きていますよ。山火事のそれとは違いそうです。水蒸気のような白い物も上がっています。
凡そ五十キロほどでしょうか。火元は全く見えませんが」
「戦闘の合図の狼煙ではありませんよねぇ」
「色が付いておりません。草木が燃えるそれです。
ですが範囲が限られているようですね。これから延焼していくのでしょうか」
「サムジームさんが時折煙が見えると仰っていたんですよ。
でも、あれではないようですねぇぇ。見ていらしたのは食事などの焚火程度でしょうからぁぁ」
「ここに十年通っていましたが、見たことは有りませんでしたねぇ。
地上からは見えないでしょう。
サムジーム殿はどのようにご覧になったのでしょうか?」
「時折国境砦の確認にいらしていたそうです。
ここから南十キロ付近で見たそうです。
お会いになった事はございませんか?」
「無かったですね。
ドラゴン襲撃時にも」
(出ましたね。ここで言っておきましょうか。出しゃばらず、嫌われないように例の伯爵を悪者にして)
「それ。
マルック隊長からガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵が連絡を受けて、王国の緊急連絡網で救護隊と応援と出撃許可の要請をしたそうなんです。
で、例のジームダーナ・ト・ジジャルタ伯爵がどうも握りつぶしていた。
中央の伯爵と辺境伯では実務上は辺境伯の方が上位なのですが、中央の方が実権を握っている。
特にジームダーナ・ト・ジジャルタ伯爵はご存じの通り、ノネジット陛下もユーミルナ妃殿下も疎ましく思ってはいましたが色々な意味で公爵級の実権を握っていましたからね。
そして偽の王命で被害拡大を阻止するため、数名の犠牲者で済ませろ。
腹が膨れたら帰っていく。
被害報告は必要無い。
ドラゴンや魔物など日常の事だ。
派兵したら国家反逆罪。
と。
まぁ僕でもそう言ってしまうと思いますよ。偽の王命などを使わずに。
ワイバーンの性質上、縄張り内で同じ狩場では狩らない。種族の保存。つまりエサが無くならないように。
ハルサーラ様であればよくご存じの事と思います。
勿論、貴族の皆様もご存じ。腹が膨れたら帰り、年単位で現れることは無い。
それで国境付近の出現は、本来はギルドの仕事ですから国軍や私設軍が出動する事も無い。領都近郊や国王が命じれば別です。
これが国法ですから仕方がないと言えば仕方ないですね。
ご存じのトロッコ問題ですよ。
それで、ギルドも当時はここまで来るまでに最低でも二日掛かります。
ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵で丸一日。
エマルサーラ商会の転移紋でも武器を携えた多人数は無理。
ジームダーナ・ト・ジジャルタ伯爵に連絡が行った時はすでにマルック隊長が撃退していた。
ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵も納得せざるを得ない。
後日、ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵から他の襲撃現場と同じ救援物資は届きましたよね」
「そうですね。
国家法に基づいた量でした。
元々、中央には見捨てられていたのをガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵がお目に掛けて下さったと感謝せねばなりませんね」
「はい。
今この時点でもこの大陸のどこかでドラゴンに襲われている方がいらっしゃいます。後遺症に悩まされている方もいらしゃるかもしれません。
それを救済できる僕はここに居て何もしていない。
僕を責めるのであればどうぞ。
半年前に助けに来なかった僕を責めるのであればどうぞ。
冒険者を辞めて何もしなくなったクラウスを責めるのであればどうぞ。
僕はたまたまこの地に来てアルミスさんを。ジード村のお方達を救ったに過ぎないんです。
クラウスはエマルサーラ商会のアルミスさんが大変な事になっている。知っていたかもしれません。
ですが、何もしなかった。
恐らく僕が居たからだと思います
「もうお止めください」
「はい。
ただこれは言っておきたいと思います。
これらの事に納得は出来ないと思いますが、それも国法と貴族の定め。理解していただく外はないと思いますよ」
「はぁぁそうですね。
身内の不幸で各方面を恨んでいましたね。
申し訳ございません。
お話を伺って、胸の痞えがようやく取れました」
「まぁ僕も許せない部分は有りますので折を見て各方面にガツンと言います。
ハルサーラ様。ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。イサラーサ様と仲良くしてくださいね」
「お判りでしたか?」
「はい。十年引きこもりの子供目線ですが。
これからはハルサーラ様も言わば大貴族。
何故なら創世のエルファサ女神様の教会の最高幹部。国王にも匹敵する身分です。
信者の手前、経典に添って行動をしなくてはなりません。
アキツシマ自治区以外で命に係わるような喧嘩を見ても手出しできないんです。僕が判断をして、指示を出さない限り」
「そうでしたね。
理解致しました。
気付かせていただきありがとうございました」
「僕は言い過ぎて嫌わてしまったでしょうか」
「何を仰っているのですか?
至極まっとうな事を言われて相手を恨むなど賊のやることですよ。あら、わたくしかしら」
「僕はハルサーラ達が大好きですよ」
「もう、はぐらかすのもお上手なんですから。
抱きしめても?」
「はい。ハルサーラ様」
「暫くこのままで。
それであの煙はいかがいたしますか?
アイファウスト・カミミヤ神官長様」
「アキツシマ自治区に隣接する地域として、一旦偵察に向かいます。
ハルサーラ様。近衛公安騎馬隊に招集を。教会前広場に整列。馬は収納」
「わたくしもお供いたしますよ」
「はい。準備をお願いいたします。行ってきます」
「はい。お気を付けて。
はぁぁここから飛行ですか。
早速、歩いたから当たりましたね。棒に。
ガウレシア・ト・シャウトリーゼ辺境伯爵。イサラーサ様には謝罪したほうが良いのでしょうかねぇ。
ねぇアイファウスト君」




