トウショウ王国。王宮へ
「この大森林で転移魔法だな」
「使用不可能が常識ですよ。事実、短距離ですらここの誰も使用できません」
「だなぁ。それを馬車と共に一キロも。そしてこの森林の合間に的確に」
「物凄いとしか言いようが有りませんよ」
「隊長。黒目黒髪でした。もしかすると」
「年齢的にもドンピシャですよ」
「貴族の振舞いと言うより、陛下や姫様に近いです。口調が民に近いようでわざとらしいです」
「最高位の回復魔法で錬金術迄。エリクサーは神話級ですよ。間違いないんじゃないですか。
お爺様ってアイファウスト殿下の侍従だったクラウス様では?」
「アイファウスト王子殿下として、あのポーションとヒール。
完全回復に近いヒールはサチ妃殿下ぐらいしか使えませんでしたよ。報酬支払えます?」
「マッドジョイ陛下のお話しですとクラウス様はポーション造りに秀でていたと」
「このカップと言うよりコップもポーションの容器も製法が失われたガラスです」
「そうだな。あまりに共通点が多いな。わたしもそう思っているが、名前ぐらいは確認をしなければならんだろう」
「アイミーナ・ロ・レンジャー王女殿下とバレました?」
「話しの流れからすればご承知だろう。そしてわたしの失態」
「もし。もし万が一。いえ、ほぼ確定と思いますが、復讐をお考えでは?」
「ああ。わたしもそれを懸念している。
近くにクラウス様が居ることも否定できない。
もしだ。もし、人質に取られそうになった場合は姫様を逃がし、一緒に死んでくれるか」
「「「「はいっ。この命に代えて迄も」」」」
「ありがとう。取り敢えずはお名前の確認を
「お互い知らない同士ですよ。隊長様」
「判った。すまない。我々が探しているお方に特徴が似ていたので少々詮索した。
お名前だけでも教えてはもらえないだろうか?」
「じゃぁ行きましょうか。皆さん申し訳ありませんが、立って頂けますか?」
(来るか?皆も警戒しつつ立っているな)
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。テーブルと椅子を仕舞うだけです。
収納。分解。元通り」
「お名前だけでも」
「皆さんこちらへ」
「やはりダメですか。それで何処へ?」
「皆さん。馬車に触れていてください。別に近くに居るだけでも構いません。はい全員ですね。そのままでいてください」
「転移か?」
「まぁそんなとこです」
「これだけのぉぉはぁぁぁ?」
「隊長ぉぉぉあそこぉぉ王宮の玄関ですぅぅ
「姫様ぁぁぁアイミーナ姫様わぁぁぁ
白衣姿の女性が駆け寄ってきた。
「ジーナ医術長?」
「ローブ姿の少年がいきなり来て、ナイフで脅され、ここで待機しろと。
で、なければ姫様の命は無いと思え。と」
「少年の言う通りです。姫様は馬車の中です。早く。
サーラ副隊長ぉぉ明かりを灯せぇぇ
「かがり火に火を灯せぇぇ。スポットで魔石の灯りをぉぉ」
「「「りょうかぁぁい」」」
「周囲を囲めぇ、警戒最大ぃぃ」
「「「りょうかぁぁい」」」
「担架を持てぇ
ジーナ医術長の掛け声で控えて待っていた白衣の女性達が。
「はいぃぃぃ「りょうかぁぁい「急ぐわよぉぉ「はいぃぃ」
隊長が。
「皆も手伝え」
「了解」
馬車の中からアイミーナを乗せた担架がゆっくりと出て来た。
「ゆっくりだぞぉぉ。慌てるなぁぁ」
「隊長。まだ意識を失った状態?」
「いやジーナ医術長。厳密には寝ているそうだ。だが急いだことに越したことは無い。早く診て欲しい」
「医学的見識があるお方?」
「あぁ。骨折箇所まで見抜いていた。かなりの知識人だ」
「隊長。医務室に行きます」
「あぁジーナ医術長頼む。四人付き添えぇぇ。王宮警備隊周囲警戒ぃぃ」
「「「「了解」」」」
「そのままゆっくりですよぉぉ」
「りょうかぁぁい」
「こちらは周辺警戒だ」
「はい」
「隊長。報告」
「サーラ副隊長いいぞ」
「王宮警備隊を含めて周辺警備に就きました」
「ありがとう」
「二、三人ネズミが居たようです」
「今は?」
「消えました。
それで。姫様とわたくし達のことを」
「ああ。やはり既にご存じだったな。だからここへ」
「ずっとお嬢様で通していましたよ」
「わたしの親衛騎士隊とあれだ」
「はぁぁ。馬車の王家の紋章。しかもアイミーナ・ロ・レンジャー王女殿下の」
「ああ。一般ではほぼ見分けはつかん。
しかし、的確に専属医のジーナ医術長を呼んでいた。凄いお方だよ」
「あの森にいらっしゃいながら王宮の事までご存じであったと」
「そうなるな」
「復讐はお考えでは無かった」
「そうなるな。幾らでもチャンスはあった。
だがこうして最も安全な場所に移送して頂けた。
恐らく魔力の消費も半端ないだろう。
それとクラウス様は何処かにお出掛けだったのかもしれん。
本当にお一人だったようだな」
「はい」
「皆に通達。いらぬ詮索はするな」
「判りました。今、念話で通達。
それで請求書は?」
「貰っていない。そう言えば彼は?」
「ここには?」
「居ないぞ」
「スイシャーナ隊長ぉぉ陛下とお妃様が王城よりいらっしゃいましたぁぁ」
「スイシャーナ親衛騎士隊長」
「マッドジョイ陛下。アイミーナ王女殿下。この度は
「かなりの部分をジーナ医術長から念話報告を受けている。だが、詳細が聞きたい」
「この度の事。大変、申し訳ございません。この後、いかなるご処分
「スイシャーナ親衛騎士隊長。処遇の件は後程よ」
「も 申し訳ございませんイフィス妃殿下」
「跪いている暇はない。状況の説明を」
「いえ、先ずは少年を。おいっ。少年は居たか?」
「隊長。この周囲の何処にも居ません」
「仕方ないな。マッドジョイ陛下、先ずは姫様の元へ」
「少年とは何だ」
「後程で」
「今
「あなたぁぁ」
「わ 判ったイフィス。行こう」
「はい」
王宮内の医務室。
ベッドでシーツを掛けられ横たわるアイミーナ。
「ここわぁ?」
「おぉぉ気が付いたかアイミーナ」
「あぁぁアイミーナぁぁ無事で 無事でよかったぁぁ
イフィスはそう言って横たわるアイミーナにしがみ付いた。
アイミーナはポカンとした表情で。
「父上?母上?」
ジーナ医術長が優しく。
「姫様。ここは王宮の医務室。ベッドの上です。意識が戻られ嬉しく思います」
「ジーナ医術長どうなのだ?」
「陛下少々お待ちください。
スイシャーナ隊長。先程姫様のお体を拝見いたしましたが何処を怪我されたのか判りますか?」
「左の脇腹だ。イノシシの牙で突かれた」
「何もございませんでしたよ。こちらに鎧もございますが何の痕跡も有りません。
ただ、貧血のようではありますが」
「ジーナ医術長。わたくしも刺されたことははっきり覚えていますよ。
イノシシが突然ぶわぁぁって来て、こっち側にドカン。弾き飛ばされて、とっても痛かったですよ」
「スイシャーナ隊長。どう言う事か」
「申し訳ございません陛下。
賊達の追撃を受け、森の中へ逃走。
イノシシは待ち構えていたかのように
「あなた。今それが必要な事ですか?」
「だがイフィス、状況を
「一刻を争うこの時に何を言っているのです。
状況を聞いたらアイミーナの怪我が改善するのですか?治るのですか?
ジーナ医術長。任せます」
「陛下。席を」
「しかし
「今から確認、処置の為にシーツをずらします。男性兵士の目にアイミーナ姫様の裸体を晒しても良いのですか」
「判った。退室しよう。わたしと共に男はこの場から去れ」
「はっ」
ジーナ医術長がシーツをめくり。
「イフィス妃殿下もご覧ください。何処にも有りません。擦り傷すらありません」
「でも、アイミーナを抱えていたと言うスイシャーナには血痕が流れるように付いていますよ」
「はい。アイミーナ姫様の血でございます」
サーラ副隊長が。
「隊長。わたくし騎士隊を辞めます。
妃殿下。ここへ来て医術長を脅した少年が襲撃して来た賊凡そ十五名を一人で撃退。お手持ちの得物は刀。
イノシシに襲われた瀕死の姫様に回復魔法とエリクサー。転移魔法を駆使して助けてくれました。
防御魔法でわたくし達を保護。
その時お水とこちらを頂きました。昔王宮勤めだった母が持って帰って来て見た、今ではおとぎ話の簡易携帯食です。
そしてポーション容器とコップは陶器では無く、再現が出来なくなったガラス製。
馬車を含めた全員を魔王国の大森林から転移魔法で一瞬でここまで。
そして所作は正に王族。黒目黒髪で十五歳前後。お爺様がエリクサーをと仰っていました。
報酬の交渉もなさらず、名も名乗らずお礼も言えぬまま姿を消されました。
これだけの事を成したお方に何も無しではいたたまれません。女神様のお怒りを買います。
軍警察に行きます。隊長お世話になりました。さようなら」
「サーラを外に出すなぁぁ」
「了解」
「サーラ。貴様の処遇はわたくしと共にある。そこで陛下の采配を待て」
「はい」
扉の向こうからマッドジョイの声で。
〚何事かぁぁ
「あなたぁぁ入ってぇぇ」
〚もういいのかぁ〛
「陛下のみの入室を許可します」
「何があった。賊か?」
「あなた待って。お父様もご一緒でしたか」
「アイミーナの容体は?」
「お入りください」
「ありがとうジーナ医術長」
「扉番、閉めなさい」
「はっ」




