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 解き放たれしアイファウスト・カミミヤ

 賊の遺体を回収し終え、騎士たちを馬車に乗せた。

 馬車の扉から。


 「あの。あなたは?」


 (クラウスは何も言わせてくれなかったからなぁ。

 よし。ここはやはり時代劇の風来坊のようにカッコ良く)

 「通りすがりの者です。森の中にお嬢様と言われるお方がぁぁああん?」

 (って、えぇぇぇぇ?

 あちゃぁぁ。この紋章トウショウ王国の王家じゃぁぁん。ありゃ貴族や商家のお嬢様じゃなくて、この紋章アイミーナ姫様かぁ。鑑定使うの忘れてたぁぁ。

 あ”っ。


  『各国の各貴族の紋章一つ覚えられないとは。おいたわしや。

  必要が無い?

  追われる身の若様が?

  断頭台に向かって歩まれる若様に冒険者登録は必要御座いませんね』


 一生懸命にお勉強したのにぃぃ。やらかしたぁぁ。

 皆さん鎧に紋章書いておいてよぉぉ。

 そりゃ公共の場でお姫様なんて呼べないし、身分は晒さないよねぇ。お忍びのようだしぃぃ。

 で、馬車にはでかでかと。なんで?意味不明ですよ)


 「あの?」


 「えぇぇまぁ。ちょっとお待ちくださいね」

 (姫様は確定だろうけど、まぁ確認は必要だよねぇぇ。

 はぁぁ晴れ晴れしいぃ単独討伐のデビューが、ぶ飛んだ波乱になっちゃったよぉ。

 どうするのよこれぇぇ。姫様瀕死だしぃ。だ 断頭台っ。ぶ 部品取りっ。あ”ぁぁでもぉぉ。でもぉぉ放ってはおけないよねぇ。ポーションも無いみたいだしぃ。

 も もしかしてマッドジョイ陛下もイフィス妃殿下もお出ましになる?


 『わたくしがサチの親友のイフィスですよ。覚えているかしら?サチのガキ』

 『俺様がマッドジョイ。英雄よりつえぇぇんだぞ。まぁ断頭台で茶でも飲みながら昔話でもしてやるよ』


 ふんごぉぉ。死んじゃうぅぅ。確実死ぃぃ。

 だ だけど放っては置けないよね。

 怖いけど。恥ずかしいけど。足が付きそうだけど。身バレしないようにぃぃ隠し通してぇえぇぇい。ままよ)

 「今からお嬢様の元へお連れ致します。六人のお方は馬車の中でご休憩を。わたくしが御者を務めます」

 (大丈夫そうだけど回復しておこ。ヒールっと)


 「えっ?体が楽になった」


 「疲れも無い」


 「何を


 「行きましょうか」


 「お嬢様は?」


 「大怪我をしておいでです。詳しくは診ていませんので急ぎましょう」


 「賊は?」


 「森の中も含め全員討ち取りました。ご安心してください。あぁ嘘つきました。二人取り逃がしています」


 「馬を追いかけた者達ですね」


 「はい」


 馬車の中の全員がお嬢様を思いうな垂れた。

 アイファウストは馬二頭に向かって。


 「今から転移を使って森の中に行きます。ん?

 大丈夫。魔物は居ないよ。

 うん。怖くも無いよ。

 えっ?君は何処か痛いの?

 ああここかぁ。ヒール。

 もう痛くない?良かったぁぁ。

 じゃぁ良いかな?ありがとう」


 御者席に座ったアイファウストが。


 「転移」




 お嬢様を囲って警戒する騎士たちの少し前に出て来て、そのまま馬車として横付けした。


 「えっ?何っ?馬車?君は一体?」


 御者席から降りたアイファウストは女騎士を抱き抱え疑問を投げかける女騎士に、馬の一頭の首筋を撫でながら。


 「ほらね。大丈夫だったでしょ。凄くは無いよ。ありがとう。

 それで、あなたが隊長様ですか?」


 (まさか馬と会話をしていたのか?有り得んな)

 「あぁそうだが」


 「賊の遺体を収容します。その間にお嬢様を馬車の中に」


 馬車の中から助けられた騎士たちが降りて来た。


 「隊長。お嬢様は?」


 「イノシシに脇腹を突かれ意識が無い」


 「えぇぇ


 「とにかくお嬢様を馬車の中へ」


 「「「了解」」」




 「馬は?」


 「馬車の馬以外、全頭逃げました。食料も金貨も有りません」


 「そうか」


 「収容終わりました」


 「待て。君は人の遺体の収納の魔法が使えるのか?」


 (あ”っ)


 「何処かの貴族か?教会の司祭か?」


 (そうだったぁぁ。普通では出来ないんだったぁぁ。

 いつも通りにやっちまったよぉぉ。えぇぇい。交換条件だ)

 「今から行う事と今までの事を見なかった事にして頂けるのであれば、お嬢様をお救い出来ます。

 食料のお渡しも出来ますがいかがいたしますか?」


 「交換条件か?」


 「街道からここまで一キロ。今、わたくしが立ち去り、このまま放置すればこの付近ですら魔物のエサ。

 言う通りにして頂ければ、お嬢様の傷跡すら残さず回復できます。いかがいたしますか?」


 「それであってもここから一番近いトウショウ王国の西の国境砦迄無事に辿り着ける保証が無いではないか」


 (そうきたかぁぁって、俺が保証するの?おかしくねぇ?)


 「その所作。どちらかの貴族のご子息とお見受けする」


 騎士全員が跪いて。


 「転移をお持ちのご様子。お嬢様だけでも西の国境砦へお願いできないでしょうか。

 ここであなたには会わなかった。それどうだろうか?」


 (まぁいいかぁ。もう、色々超めんどくさくなってきた。

 身バレしなきゃいいんでしょ)

 「皆さん。立ってください。

 それで隊長様。今からお嬢様を治療いたしますのでお二人立ち会って頂けますか?」


 「君で治せるのか?」


 「信用するもしないも隊長様次第。

 ただ、完璧に治る事を保証しますよ。治った状況をご覧になってお気に召さなけらばこの首を差し出します。

 こちらの皆様でお嬢様のあの状態を治せるのであればどうぞ」

 (しまったぁぁ。緊張で口が滑ったぁぁ。『気に入らん。身元を明かせ』って、言われたらどうしよぉぉ。

 えぇぇい具の音も出ないほどの最高峰の医療を施してやるぜぇぇ)


 「あぁ判った。頼む。

 サーラ副隊長」


 「はい」




 後部座席にお嬢様が横たわる馬車内。


 (うおぉぉ美人隊長さぁぁん。近い近い。心臓が破裂しそう)


 「幾ら血まみれと言っても、あからさまに避け過ぎではないか?」


 「申し訳ございません。手元が暗かったのでこちらのランプに火を灯します」


 「ああそうだな」


 (全然普通に見えるけど、そうしておこうっと)


 馬車内の両側の壁にある燭台の蝋燭に指先から小さな火を出して、軽くデコピンの様に飛ばして火を灯した。


 「今のは火魔法か?」


 「そうです。もう少し、場所を頂けますか?」


 「あぁすまない。これでいいか?」


 (へぇぇこのお方がアイミーナ・ロ・レンジャー王女様。想像していたよりお可愛いですねぇぇ・・?

 仕事しろぉぉ。俺ぇぇ。

 サーチ。

 内臓の一部を損傷。腹膜炎が怖いな。あと左の肋骨三本。肺や他の臓器には刺さっていないな。それと左大腿骨骨折。

 この怪我は時間を掛けて身元を確認している暇は有りませんね)

 「ありがとうございます。一応確認ですが。これは賊に刺されたのですか?」


 「いや。ここへ到達する前に横からイノシシの牙で突かれた。恐らく内臓もぉぉなにぃぃぃ回復魔法、最上級のヒールだとぉぉ


 「えぇぇぇ?」


 「それは何だ。ポーションなのか?しかもガラス容器?」


 「爺さんがエリクサーって言ってたなぁぁ。掛けるだけで回復しますよ」


 「はぁぁぁ?「えぇぇぇ?」


 「良し。怪我の方は大丈夫」

 (サーチ。損傷個所全て完治。

 呼吸脈拍正常。頭部強打の痕跡無し。昏睡状態から睡眠に移行。各部位異常無し。血が少し足りませんが問題は無し。完璧・・


 『何が完璧だぁ。鎧が壊れたままではないかぁ。首を出せ』


 あんぎゃぁぁ。

 よ 鎧も直して奇麗にしておきましょう)


 「鎧も治ったぁぁ錬金術ぅぅぅ。こんな高度な錬金術。は 初めて見たぁぁ


 「た 隊長。つ 繋目が全く解からない。と、言うより新品?」


 「凄いなこれは」


 (完璧のお墨付きの反応ですよね?ねっ?)

 「お嬢様の肌を晒しておくのは忍びないですからね。

 あぁでも今現状、失った血迄は増やせないので動かさず今暫くはこのままです」


 「あぁ、わ 判った。傷口が完全に跡形もの無く塞がった?消えた?」


 「骨折も内臓も元通り修復出来ていますからご安心を。呼吸も脈も大丈夫。寝ている状態です」

 (信用してください。お願いします)


 「サーラ副隊長確認」


 「はい」




 「スイシャーナ隊長。

 動悸、息切れなどは見受けられません。脈も正常。苦痛状態にも無いようです。何より手が柔らかく温かいです」


 「そうか。寝ているのだな。

 君は医術にも長けているのか?」


 「まぁそうですね」


 「凄いな」


 「それで


 「これだけの事を見せられて気に入るも入らんも無いだろう」


 (どっち?)


 「隊長。はっきりと申し上げないと、不安そうなお顔をなさっていますよ」


 「そうだな。今現状では完璧だ」


 (よがっだぁぁ。よがっだよぉぉ)

 「戻られたら、一応医術者のお方に診てもらってください」


 「問題は無さそうだが、診てもらう事にする」


 「シーツか何かありませんか。体が冷えるといけませんので」


 「ああ。ここにある。

 サーラ副隊長。頼む」


 「了解」


 (隊長様たち四人の怪我も疲労もひどいな。隊長さんにもヒールの効果を味わってもらうとするか)

 「降りましょうか?」


 「あぁ」


 「あの隊長様。お嬢様と同行していたそちらの三人のお方とそこへ並んでいただけますか?」


 「我々か?」


 「はい。そのまま。ヒール」


 「体が軽くなった


 「傷が消えましたぁぁ


 「出血が止まったぁぁ


 「跡形も無くスッキリぃ」


 「ありがとう。これがヒールの効果かぁ。凄いなぁ。お嬢様も完璧に治っていらっしゃるだろう。


 (はい。はい。完璧ですよぉぉ。もう疑わないで下さいねぇぇ。首は渡しませんよぉぉ。僕のものですからぁぁ)


 それで、お願いが有るのだが、向こうから来た彼女たちは」


 「ご安心ください。もう治していますよ。

 では、皆さん休憩しましょう」


 土で作ったテーブルと十人分の長椅子を創り出した。

 それを見た騎士たちは驚愕したがそのまま椅子に掛けた。

 テーブルに蝋燭を立て、火を灯した。


 (うへぇぇ美人さんばっかだったぁぁ。緊張するぅぅ。面と向かうとコミ障がぁぁ。みんな美人さんだしぃぃ。

 そうだ貴族様対応だな。貴族様対応に変換。おお緊張感が消えた)

 「このピッチャーに氷とお水。コップ。こちらのお皿は簡単な食べ物です。お好きなだけどうぞ」


 「一つ伺いたい。このような森の中で血の匂いも漂う中、火を灯しこんなにゆっくりしていていいのか?」


 「はい。大丈夫ですよ。結界魔法で遮断しています。血の匂いもかき消しました。外から中は何も見えません。ドラゴンが乗っても大丈夫」


 「はぁぁぁ?あのヒールから考えれば本当だろうな。

 なんかもう、驚き過ぎて感覚がマヒして来た」


 「今現状、お嬢様を動かすことは出来ません。傷が落ち着くまで今暫くお待ちください」


 「そうか。分かった。

 喉も乾いていた。助かる。みんな頂こう」


 「はい。配って」




 「やはり収納が使えるのだな」


 「隊長様にお伺いしたいことがありますが、今まで行使した魔法関連のお話しは無しでお願いしたのですが?」


 「聞きたいことは山ほどあるが仕方あるまい。判った」


 「皆さんは大事なお嬢様をお連れしてこんな時間に何処へ?」


 「待って欲しい。ここまで報酬はいくら支払えばいいのだ。見当がつかないのだが」


 「向こうに行ってから決めましょう」


 (向こうとはどこの事を差しているのだ?まさか姫様に気付いた?)

 「とんでもない金額を言われても無理なのだが」


 「交渉と言う手がありますよ。

 で、どちらへ?」


 (ここまでしてくれた彼だ。信用していいだろう。アイファウスト王子殿下本人だと思うが。

 今聞いて、この場から去られても困る。

 いや待て。冷静に状況を判断しろ。

 ボッチと言いつつも、どこかからかクラウス様も見ていらっしゃるのだろう。

 恐らくアイミーナ姫様だと判っていて何もしてこないこの状況。

 確認は必要だとは思うが、こちら側も確認される。

 復讐の為、姫様を人質に取られてもあの強さ。我々では敵うはずも無い。

 今は冷静に対応してとにかく姫様を安全な場所に移さねば)


 「隊長様?」


 「あぁ申し訳ない。実はとあるお方を探していて、そのお方の情報が入って来た。

 それでキューレット王国のトルファンと言う町に向かう所だった」


 (あぁクラウスとしょっちゅう行っていた町かぁって、俺だよね。しらぁぁんぷり)

 「では、今朝トウショウ王国を出発したばかり?」


 「そう。我々お嬢様の親衛騎士隊十人と共に


 「隊長っ」


 (しまったぁぁ)


 (あぁあ。親衛騎士隊ってアイミーナ・ロ・レンジャー王女殿下の直属じゃないのぉぉもぉぉ。

 身バレ厳禁ですよぉぉ)

 「少ないのでは?」


 (隠し通せる気がしないぃぃ。えぇぇい)

 「まぁ色々あってだな。あぁ申し訳ない。自己紹介が


 「馬車の紋章で大方の想像は付きますが、お互い知らないでおきましょう」


 (バレたか。知っていたか)

 「そうだな」


 「それでまだ旅をお続けするおつもりですか?」


 「いや。あなたのお陰で傷は癒えたが路銀も食料も無い。そもそもお嬢様が心配だ。西の国境砦に戻ろうと思う。

 ただ、皆の剣もこの通り使い物にならなくなっている。

 そうでなくても魔物相手では苦戦を強いられる。今はイノシシですら無理だろう。

 もし可能で有れば護衛をお願いできないだろうか?

 もちろん到着次第、可能な額で上乗せして報酬は払う」


 (ですよねぇ。そうなっちゃいますよねぇ。仕方ない・・・誘われた?やばいやばい。

 身元をばらさないように長居は無用で報酬もそもそもいらない。

 囲まれても事ですし、サクッと行ってサクッと消えましょう)

 「五分程席を外します。結界魔法もそのままなのでご安心ください。

 この席からは動かないで下さい。結界魔法の外に出れば即座に魔物が寄って来ます。会話は可能ですよ。ほどほどの大きさで。

 今手元の得物では太刀打ちできません。良いですね」


 「何処へ行くのだ?」


 「お嬢様を安全な場所に移動させる準備。

 で、どうでしょうか?」


 (し 信用するしかないか。最悪の場合は決死の覚悟。姫様を守り、彼と死なば諸共)

 「判った。言う通りにしよう。五分だな」


 「はい。その頃にはお嬢様も移動に耐えられるでしょう」


 そう言ってその場から消えた。

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