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蓮の花の少女

作者: 昼月キオリ


ナナミ(7)

蓮の花に住む青年を応援する謎の少女。


イツキ(15)(中学3年生)

何かと上手くいかないやさぐれている青年。


ソウマ(15)

イツキの同じクラスの友人


トウヤ(15)

イツキの同じクラスの友人


おじいさん(年齢不詳)

街角の占い師。






ある夏の午後。

学校が終わった俺は友人たちと街を歩いていた。


その時、街角で占い師らしきおじいさんを見かけた。

トウヤ「あんなとこに占い師っていたっけ?」

ソウマ「最近始めたんじゃない?」

イツキ「なんか胡散臭くね?」

トウヤ「せっかくだしやってみない?」

イツキ「えー・・・占いやんのかよ」

ソウマ「いいじゃん、初回無料って書いてあるし、やろやろ、怪しかったらその場で逃げればいいし」

イツキ「まぁ無料ならまぁいいか」



トウヤとソウマを占い終えたおじいさんはイツキの顔をレンズ越しに見た。

占い師「君は・・・花に縁があるね」

イツキ「花??・・・」

占い師「何か花について気になることはないかい?」

イツキ「うーん・・・そう言えば死んだばあちゃんが蓮の花のには妖精が住んでるって言ってたような」

占い師「ほう、蓮の花に妖精・・・ふむふむ」


ソウマ「なんかのおとぎ話じゃない?」

トウヤ「日本昔話てきなね」

イツキ「さぁ、俺もよく分かんないんだけどさ」


占い師「ではこれから蓮の花を見かける機会があったら花の声に耳を傾けてみるといい」


イツキ「花の声って・・・」

ソウマ「おじいちゃん何言ってのw」

トウヤ「花の声ってさw」


占い師「まぁ、君のおばあさまの話もワシの話も信じる信じないはお前さんたちの自由だよ」





次の日。学校。

先生から来年テストがあると聞かされた。

イツキ「来週テストだってさ」

トウヤ「やだなぁ」

ソウマ「なー、何でテストなんてあんのかね、まーどーせいつも通り勉強なんかしないけどさ」





更に次の日の朝。

俺は学校へ向かう時、いつも公園を突き抜ける形で登校していた。

そして今日、小さな池に蓮の花が咲いているのを見つけた。

いつも通っている道なのに蓮の花が咲いていることさえ知らなかった。

人は意識していないと近くにあるものにさえ気付かないのかもしれない。



はぁ、と大きなため息を吐いた俺だったがある蓮の花の前で足を止めた。

小さな少女が蓮の花の上に立っていたからだ。

髪をツインテールにしているピンク色のワンピースを着た7〜8歳くらいの女の子だ。

イツキ「な、何だこれ・・・人形?」

ナナミ「あ、お兄ちゃんこんにちは」

イツキ「え」

イツキは辺りをキョロキョロする。

ナナミ「やだなぁ私だよ」

イツキ「この人形、今喋って・・・・」

ナナミ「私は人形じゃないよ、ナナミって言うの、よろしくね!」

イツキ「は、はあ・・・」


ナナミ「お兄ちゃんのお名前は?」

イツキ「イツキだけど・・・」

ナナミ「イツキ君ね!大きなため息が聞こえたけどどうしたの?」

イツキ「あー、いや、来週テストで」


って何やってんだ俺。

側から見たら花に話しかけてるヤバい奴じゃん。

たまたま周りに人がいなかったから良かったけどさ。


ナナミ「そっかぁ、テスト頑張ってね!」

イツキ「まぁ、うん」

歩き出した俺に少女は旗を持って両腕を振っている。

ナナミ「頑張れー!頑張れー!」

俺は何も見なかったことにしてその場を去った。






イツキの高校受験は危ぶまれていた。

テストが知らされる少し前から先生に注意されている。

これ以上成績が落ちるのはまずいぞ、と。


俺とトウヤ、ソウマはいわゆる問題児で勉強はほったらかしで遊んでばかりいた。

どうせ頑張ったって上手くいかないんだから何もしない方がマシだ。

それが俺らの口癖だった。

そんな俺に対して両親は無関心で何も言わない。

それは小学生の頃から同じようなもので

誰も俺に期待なんかしていなかった。






三日後の朝。

ナナミ「お兄ちゃん頑張れー!」

いつものように少女が俺の応援をする。

しかし・・・俺はその日、たまたまイライラしていたせいか八つ当たりをしてしまった。

イツキ「俺はとっくに頑張ってるよ!」

イツキの怒声にピタッと少女の動きと声援が止まる。


イツキ「もう応援なんかしないでくれ!」

女の子はしょんぼりとしているが俺は無視して歩き出した。




帰り道の途中、街角にいた占い師のおじいさんに話しかけられた。

占い師「おや、この間の青年よ、怖い顔してどうしたのかね?」

イツキ「蓮の花に女の子がいて応援してきたんだ、毎度毎度、だからもう応援なんてするなって言った」

占い師「そうかい、それは悲しいねぇ」

イツキ「悲しい?」

占い師「君の応援をしてくれる人はその子以外にいるかい?」

イツキ「え?それは・・・」

占い師「自分の為に一生懸命になってくれる人っていうのはね人生でなかなか巡り会えないものなんだよ」

イツキ「・・・」


俺は何も言い返せなかった。






テスト当日の朝。

俺は少し早めに家を出た。

イツキ「あ、あのさ、この間は怒ったりしてごめん」

イツキは頭を下げ、少女に謝った。

ナナミ「いーよー、私こそ勝手に応援しちゃってごめんね」

イツキ「ううん、俺がイライラしててそれで君に八つ当たりしただけなんだ」

ナナミ「そっかそっかー!何にイライラしてたの?」

イツキ「なんか色々上手くいかなくって、それで・・・」

ナナミ「そっかそっかー」

イツキ「あのさ、俺今日テストで・・・応援してくれる?・・・」

恐る恐る聞くイツキにナナミは満面の笑みを浮かべる。


ナナミ「うん!!お兄ちゃんがんばれー!がんばれー!」

少女が旗を両手に持ってイツキの応援をし始めた。

最初の頃のように両腕を一生懸命振っている。


イツキ「ありがとう!俺、頑張ってくるよ!」

そう言ってイツキは学校へと走り出した。



一日経ってテストの結果が出た。

いつもテストは赤点ばかりだったイツキだが、今回初めて平均点以上を取れ、先生にも友人にも驚かれた。



結果を知らせようとあの少女の元へ歩き出す。

しかし、俺がたどり着いた時、いつも少女が立っていた蓮の花は枯れてしまっていた。

池の中にあるまだ枯れていない全ての蓮の花を探してみたけどどこにも少女の姿はなかった。


イツキ「そ、そんな・・・」

 

"かざみ病院"

その時、風に乗って少女の声がした。

 

イツキ「え?・・・今のって・・・」


俺は全速力で走った。


 

病院に着き、荒くなっている呼吸をなんとか整えてから中に入った。

汗がダラダラ首筋へと流れていく。



受け付けの看護師に聞く。

イツキ「あの、この病院にナナミちゃんはいますか?」

看護師「あの、あなたは・・・?」

その時、ちょうど病院内に入って来ていた母親が話しかけてきた。

母親「ナナミは私の娘ですがあなたは?」



完全に警戒されている。

そりゃそうだ。こんな汗だくでガラの悪そうな中学生。

俺だったら追い払ってる。

こんな時、好青年だったら堂々としていられるんだろうな。



イツキ「俺は、えーと、ナナミちゃんの友達でイツキって言います」

母親はまだ警戒しながらも病室まで連れて行ってくれた。





けれど病室に着いた時だった。

看護師たちの慌ただしい声が聞こえてきた。

緊急手術をする、という内容だった。

担架で運ばれていく一人の幼い女の子。


髪は薬の影響からなのか全て抜け、帽子を被っていた。

あの蓮の花の上にいた明るくて元気な少女とは思えないほど痩せ痩けていて顔が青白かった。


母親「ナナミ!!」

慌てる母親を看護師が宥める。

母親「あの子を、あの子を助けて下さい!!」

悲痛な叫びが廊下にこだまする。

先生「ナナミちゃんのお母さん、今から緊急手術が始まります、あとは我々に任せて下さい」

母親「はい・・・」



運ばれていくナナミちゃんに俺は叫んだ。

イツキ「ナナミちゃん頑張れー!頑張れー!!」

看護師「あなた、病院内では静かに!」

イツキ「すみません・・・」




手術室の部屋の扉が閉まり、手術中と書かれた赤いランプが付いた。

イツキ「頑張れ、頑張れ、頑張れ・・・」

母親が手術室の前の椅子に座り、手と手を組んで祈り続ける中、

俺は隣に座って小声で応援し続けた。




しばらくして手術中の赤いランプが消え、扉が開いた。

手袋を外した先生が扉の向こうから現れた。

母親が椅子から立ち上がる。

母親「先生、ナナミ、ナナミは・・・」

先生「手術、成功しましたよ」

イツキ「ホッ、良かった・・・」

母親「先生!ありがとうございます!ありがとうございます!」

先生「もう安心ですよ」

母親「はい!」

母親の涙ぐむ声に俺まで泣きそうになった。



ナナミちゃんの病室へ向かう途中、母親が話しかけてきた。

母親「あの、イツキさんもありがとうございます」

イツキ「いえ、俺は何も・・・」

母親「いいえ、あなたの声援があの子に届いたんだと思います」

イツキ「そうだといいんですけど・・・」






病室。

シューシュー。

呼吸器から音がする。

そして、ゆっくりナナミちゃんの目が開いた。


ナナミ「まま・・・」

母親「ナナミ!!良かった・・・本当に、良かった・・・イツキさんがねナナミの応援してくれたのよ、お友達だって言って」

ナナミ「うん、友達だよ」


母親「そう、本当に友達だったのね・・・ごめんなさい、私ずっと疑ったままで・・・でも、さっきのイツキさんの応援を聞いて心からナナミの心配をしてくれている優しい子なんだって分かったの」

イツキ「いえ、こんなガラの悪い中学生がナナミちゃんに近付いていたら警戒するのは当たり前です」

母親「そんな・・・」

ナナミ「まま、先生たち」

母親「あら、そうだったわ、私ったらナナミが目を覚ましたことに感動して忘れてた!看護師さん呼んでくるわね」

ナナミ「うん」

母親「イツキさん、少しの間、ナナミをよろしくお願いします」

イツキ「はい」




ナナミ「お兄ちゃん、来てくれたんだね」

イツキ「うん」

ナナミ「ありがとう、お兄ちゃんの応援届いてたよ」

イツキ「そっか・・・そっか・・・」

俺は泣いていた。

ナナミ「お兄ちゃん、泣いてるの・・・?辛いの?」

イツキ「ううん、これは嬉し泣きだよ」

ナナミ「そっかぁ、よかった」


 

なんていい子なんだろう。

自分が目覚めたばかりなのに俺の心配してくれて・・・。

いや、蓮の花にいた時だってこの子は病院にいたはずだ。

自分がこれほど大変な時に俺の応援をしてくれていたんだ。

なのに俺は・・・。



イツキ「改めて君に謝りたい、あの日、怒ってごめん」

ナナミ「いいんだよー、私の方こそお兄ちゃんのこと知らないのに頑張れって言っちゃってごめんね」

イツキ「ううん、ナナミちゃんは何も悪くない、

俺が勝手に捻くれてただけだよ、こんな俺のこと応援し続けてくれてありがとう」


ナナミ「ナナミの応援、ちゃんと届いてた?」

イツキ「うん、届いてたよ、それでねテストも上手くいったんだ」

ナナミ「凄いよ!良かったね!」

イツキ「他の人に比べたらまだまだなんだけど」

ナナミ「他の人は他の人、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん、比べられないよ!」

イツキ「そっか・・・ありがとう・・・」

ナナミ「あれれ、お兄ちゃんまた泣いちゃったの?」

イツキ「あはは、なんか今日は涙もろいなぁ・・・」

母親が戻って来る前にナナミちゃんの慰めによって俺はなんとか涙が止まった。






ナナミちゃんが退院する日。

その日は雨が降っていた。

ナナミ「あ!お兄ちゃん!!」

俺は病院の扉の前に立っていた。

ナナミちゃんの容態は良くなり、顔色も良くなっている。


母親「娘の為に今日まで通ってくれてありがとうございました」

イツキ「いえいえ!俺もナナミちゃんに会えて勇気もらってましたから」

ナナミ「お兄ちゃん、退院はしたけどこれからも時々遊んでくれる?」

イツキ「いいですか?」

イツキはチラッと母親を見る。

母親「ええ、もちろんです」


イツキ「ありがとうございます、あ、そうそう、これナナミちゃんに」

イツキはバッグから小さな袋を取り出した。

ピンクのリボンが付いた可愛らしい袋だ。

ナナミがイツキからそれを受け取り、袋を開けた。


ナナミ「わぁ、蓮の花のランプだ〜!可愛いー!」

母親「あら、綺麗な間接照明ね、いいんですか?こんな素敵なものをもらってしまって・・・」

イツキ「はい、あまり高価なものではありませんが

退院祝いなので・・・ナナミちゃん、受けってくれるかな?」

ナナミ「うん!ありがとうお兄ちゃん!」


 

イツキは微笑むと二人に会釈をした後、傘を開くと二人が立っている屋根がある場所から歩き出した。



ナナミ「またねー!」

振り返ると少女が笑顔で手を振っていた。

あの蓮の花の上の妖精と同じ笑顔で。



イツキ「うん、またねー!」

俺は手を大きく振り返した。

少女に負けないくらい大きく、強く。



その時、雲と雲の間から光が一筋差し込み少女に降り注いだ。

まるで苦しみに終わりを告げるかのように。



また会える日まで。

少女の笑顔が守られていますように。

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