期待と失望
取り敢えず返信をする
「貴方はフレンドリストには居なかったはず」
『あぁ、そうだね。フレンドリストには居ないよ。余り広まっていない機能だけど実はランカー限定でフレンドじゃない相手にも対戦申請送れてね』
「ランカー限定?」
(ランカー限定……流石、ちゃんと今回もランカーになってるんだ)
プレイヤーネーム神威、前作の上位ランカー
僕に大会の招待状を送ってきた人物、前作ランカーの中でも関わりが多かった
『そう、ランカーは自分の保有ポイントの一部を賭けて戦えるんだよ』
「保有ポイントを賭ける?」
(最高ランクはランクアップがない代わりにポイント総数が溜まってくんだったね。それを支払うのか)
最高ランクは保有ポイントを奪い奪われる戦い、ランカーとしてランキングを維持する為には保有ポイントは大事なのだ
そのポイントを賭けるという事は負けたらランキングが落ちる事はほぼ確実
上位ランカーの保有ポイントは本当に誤差レベルのポイント差の事が多い
ランカー時代の僕なら絶対にやらない
『そう、申請したランカー側は対戦で負けたらランクポイントを一部奪われる。受けた側は負けてもランクポイント取られたりはしないから安心して』
(余り使われなそうな機能、配信者向けかなぁ)
一般のランカーには得がない機能
配信者ランカーなら配信を盛り上げる為として使える
強いランカーと言うプライドと勝つ自信があれば
神威は自他ともに認める実力者、最近話題なプレイヤー程度相手に負けるとは思っていないだろう
「配信者向けの機能って事か」
『まぁ、そうだね。ランカー側には余り得が無いから』
「この対戦って経験値は貰える?」
『経験値?』
「ランクポイントじゃなくてレベル上げに必要なポイントの方」
『少し確認してくる。少し待ってて貰えるかい』
言われた通り少し待つ
確実な情報を渡す為にわざわざ調べているのだろう
『確認したら経験値もちゃんと手に入る仕様だったよ。それも勝っても負けても普通にランク戦するよりも貰える』
(ランク戦より経験値が多い!? ならやるしかない)
レベル上げの為の少しでも多い経験値が欲しい
勝っても負けてもならやるだけ得、ブランクがあるから腕試しに丁度良い
「ならやる」
『これも聞かないとか。俺は配信者でこの対戦も配信したいんだけど大丈夫かな?』
「それは問題無い」
配信されて困る事は無い
話題になるのは避けたいがもう既に有名配信者が動くくらいには話題になっている様なので無理だろう
いざとなればプレイヤーネームと機体を変えればいい
別に変えるのが面倒なだけで初期機体に拘っては居ない
『助かるよ。対戦は今からOK?』
「30分後で」
『了解、なら30分後にまた申請送るよ』
「別に気付いてる訳では無いみたいだし問題なし」
正体バレしていたら話は違ったが気付いてる様子は無かった
だったら一戦だけやって経験値を貰うだけ
強い敵と戦うのは楽しい
「さてさて、30分あるし弁当食べよ。腹減ったぁ」
唐揚げ弁当をレンジで温める
30分という時間は食事と休憩、作戦会議を兼ねた時間
飲み物を袋から取り出して飲む
「ぷはぁ~、話からして初期機体がお望みだよね。でもあっちはランカーだし良い機体と武器使ってそう。戦法はどう来るかな」
神威が前作でやっていた主な戦法は機動特化のインファイトとヒットアンドアウェイ
超速で接近して2丁のショットガンで一気に削りすぐに敵の射程外に逃げるかそのまま追い込む
確実に近距離では機動力と火力で押し負ける、耐久があれば撃ち合えるが初期機体の耐久では難しい
「前と同じ戦法か分からないけどもしそうなら中距離射撃して攻め込んでくるのを待つかな。こっちから仕掛ける必要は無い。確実に当てていく。接近されたら先に撃つ。逆に距離を取るのもありだな、近距離に強い分中距離以降に弱い印象あるし」
予め幾つか作戦を立てる
神威相手に今まで通りの方法で勝てるとは思わない。初期機体で本気で勝ち筋を考える
弁当を食べながら思案する
「熱っ!? 唐揚げ温め過ぎたぁ……フーフー、はふはふ、ええっと遠距離編成は性格的に無いからあっても中距離プラス近距離かなぁ。機動タイプじゃないなら中間かな。耐久特化は無さそう。耐久特化だったらかなり厄介こっちの武器じゃ削るの難しいんだよなぁ」
神威はほぼ確実に舐めプはしてこない
神威は自分の強さに自信があるだけでなくどんな相手でも油断しないからこそ上位ランカーとして君臨していた
得体の知れない相手に油断をするそれこそ考えづらい事なのだ
例え初期機体がスペックで弱いとしてもそれでハンデをなんて生易しい事はしないそういう人間だと僕は神威をそう思っている
「大体のパターンは考えたし後は相手の装備と行動次第かなぁ。さて、どんな機体かな。今作のランカー機体、楽しみ」
弁当を食べ終えて準備を終えて待機する
チャットが終わってから30分経ち対戦申請が送られてくる
「これを承認っと……おっ、始まった」
対戦申請を承認するとルームに入り対戦が始まる
対戦相手神威の機体が見える
「……へぇ、君はそういう事しない人だと思っていたんだけどなぁ神威」
僕は失望の感情を込めた言葉を呟く
ボイチャは付けていない為、本人には聞こえていない
僕は30分間の間に考えていた作戦を全て放棄した。必要が無くなった
「これで互角、良い勝負になればいいな」
『やっちゃえ!』
『神威さんなら余裕でしょ。あっち、ランク低いでしょ?』
『話によるとレベルも低いらしいからね』
『いやいや、分からんだろ。あっちも結構強いんだろ?』
神威の配信のコメントは賑わっている
今回はランカーと話題のプレイヤーの戦いという事で他のプレイヤーも観戦している
「あぁ、分からない。特に今回は対等だからね。この機体はストーリーモード以外だと動かした事無いんだけど……まぁ何とかなるか」
『とか言って圧倒するんでしょ。いつもの事、知ってる』
『ランカーの力見せてやれ~!』
『ストーリーモードでしか使った事ないのにそれで勝つつもりなのか。それは舐めすぎじゃないか?』
『流石ランカー』
『なんか神威らしくない』
『これで負けたら笑いもの』
『この対戦楽しみだぜ!』
神威が使っている機体、それは僕と同じ初期機体と同じ武器
そう、神威は初期機体同士の対戦をしようとしているのだ
対等な戦いを求めるが故の選択なのか優しさ故か強さ故の驕りかはたまた配信者としての話題性を考えてか
僕には分からないし分かろうとする気もない
対戦が始まる