第9話 力の差
司馬章と李光が参戦し、3対1の構図となった。
「3対1だ!!諦めて帰れ!」
司馬章が叫ぶ。
王明はうつ向き、クククッと笑った。まるで、箱の中で必死に脱出しようとするネズミを見るかの目で。
「3対1ねぇ……"3:1"の間違いじゃないのか?」
「……どういうことだ」
李光が反応した瞬間、彼は毒蛇に噛まれて倒れた。
「李光!!」
倒れゆく李光を踏みつけて王明は話を続けた。
「この俺とお前達の力量比が3:1であるということだ」
そう、この3人が束になって戦っても、王明にとって三分の一の強さでしかないのだ。孫操備はそのことを始めから知っており、自己犠牲と引き換えに二人を逃がすつもりだったが、まさかこの二人が参戦し、うち一人が倒れるとは思いもしなかっただろう。
「まずい!逃げろ!司馬章!」
孫操備の叫びも虚しく、司馬章は王明に向かって炎の拳で殴りかかった。
「"炎殴"」
司馬章は"炎殴"を繰り返すが、ゾウに変身した王明に大きな致命傷を与えることはできなかった。
「くそっ!吹っ飛べッ!!」
司馬章は自分の望みを吐きながら殴り続けるが、王明はビクともしなかった。
「飛べといわれて飛ぶほど、人は甘くないぞ…!」
王明はサイになり、タックルで司馬章を壁に叩きつける。角と壁に挟まれた司馬章は、今にも潰されそうだ。
「お前は何がしたいッ!俺たちが何をしたというんだ!」
「無駄だ、司馬章!コイツは常人だけの世界を目指す思超家殺し・王明!!僕たちが思超家である以上…話が通じないんだ!」
それを聞いた司馬章はさらに絶望した。
「クソォォォ!」
王明が毒蛇に変化した。
「大丈夫だ。楽に殺してやる」
次の瞬間、毒蛇に噛まれた司馬章は傷口から大量の炎を放出した。
「こ、これは…!」
毒蛇の王明はその熱さに耐えきれず、司馬章の腕から落下し、火ダルマになりながら床を転げ回った。しかし、司馬章も毒を確実に入れられており、毒が廻った司馬章も意識を失った。
「ハァ…ハァ…この忌まわしき炎使いめ!この身体に焼き跡を残したか!」
五分後、司馬章は意識を取り戻した。周りを見ると、李光と孫操備が倒れたままだった。孫操備は司馬章が気を失った直後に毒蛇の王明に噛まれ、それからずっと意識が飛んでいる。
「二人とも無事なのか…」
司馬章が視界をさらに広げると、王明が映った。彼は剣を持って、李光の首を刎ねようとしている。
「や…やめ…」
まだ身体に毒が残っていた司馬章は身体を引きずりながら近づくため、間に合わない。王明は、司馬章の声を無視して刃を李光の首に当てた。
「り…李光…!」
もう駄目だと思った瞬間だった。王明の頭脳を不穏な予感が通り過ぎた。
(これはまさか…奴らか!?)
刃を止めた王明は、意識のある司馬章に伝言を残した。
「お前達より優先して殺すべき奴がこの近くにいる。今回はここで退こう」
王明はそう伝えると、鷹に変身して思超堂から去っていった。
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「孫操備!李光!」
司馬章は二人を揺らした。幸い、息は途絶えていなかったようだ。
「頼む!目を覚ましてくれ!」
それを地下の間の片隅で盗み見た学者が1人、近づいて来た。
「……?」
彼は倒れた二人の胸に手を当てると、司馬章に向かって言った。
「二人の意識、取り戻そうか?」
思超堂を抜けて、長安上空を飛ぶ王明は飛行中、杞憂をしていた。
(司馬章か…まだ未熟だが、放って置くと世の災害に成りかねない。今はまだ炎だが…いずれ…それをも越えた何かになるぞ…!)