第8話 思超家殺し
思超堂の上空に一羽の鷹が飛んでいた。
「はて?この長安に鷹などいただろうか」
庭の学者たちは首を傾げる。
鷹は低空飛行をすると、男の姿へと変わり、思超堂に堂々と侵入した。
「ひっ、人!?」
学者たちは驚く。人に化ける鷹など、初めて見るからだ。
男は、一人の学者に尋ねた。
「孫 操備はいるか?」
「な、何の用でしょうか」
その男は敵意を一切見せずに答えた。
「………彼を殺しに来た」
その瞬間、辺りにいた学者たちの背筋が震え、逃げ出す者も現れた。
「あなた方、非思超家に危害を加えるつもりはない。ただ、孫操備の身柄を引き渡してくれればいい」
彼はそう言うが、学者たちの恐怖心が落ち着くはずがない。自分たちに対して男から殺意は見えないが、強者のオーラが波のように溢れていた。
「僕が、その孫操備だ」
話を聞いた孫操備が室内から出て来た。
「皆、本当に安心してください。奴は"思超家殺しの王明"。何があろうと非思超家は殺しません」
「…自ら出てくるとは」
王明はズカズカと孫操備に近寄った。
「待て、ここで僕とお前が殺し合いをしたら非思超家も犠牲になる。ついて来い」
王明は拳を下ろし、両手を挙げた状態で孫操備の後ろから戦場へ向かった。
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思超堂 地下一階
「ここが戦場か。申し分ない広さだ」
孫操備は王明の身体をよく観察した。
(やはり奴は常人体系からは読みづらい屈強な筋肉を持っている。肉弾戦では敵わないな…)
孫操備は少し後ずさりをしながら質問する。
「一つ聞く。なぜお前は、思超家ばかり殺すのか?」
王明は答えた。
「この世から思超を無くすため……!」
彼は続ける。
「思超家は思超という名の超能力を悪用し、人々の幸せな生活を脅かしてきた。戦争・犯罪・脅迫・洗脳…人を狂わせる出来事に加担したバカもいる!」
彼は叫んだ。
「思超は、この世の秩序も常識も壊しかねないのだァァァ!」
その瞬間、彼は熊の姿に変化した。
(熊になった!?)
「最後の思超家であるのは、この俺だァァァ!!」
熊の唸り声ような低い声で王明は攻撃した。王明の腕(熊の腕)が孫操備を力強く地面に叩きつける。
(人間には出せない火力!この肉厚さ!中身も熊そのものなのか!?)
「お前は主語が大きい。全思超家がそうじゃないだろ!」
孫操備も反撃する。自分を押さえつける王明の重みを三等分して肋骨から離れた三つの部分に分散し、起き上がった後、弱々しい蹴りを与えた。
「全思超家がそうでなくとも、そうせざる得ないのだッ!」
孫操備の軽い脚を簡単にはじき飛ばす。
「その思超…成体式か!?」
「そう…俺の思超"最大進化論"はいかなる生物にも変化できる思超であるため、成体式の頂点と呼ぶに相応しいだろう」
【最大進化論】…王明の「生物の祖は共通である故に、すべての生命と同じ血を共有している」という考えを記した書名であり、彼の思超。数多の生物に変身することができ、変身した生物の性質・特徴までも受け継ぐことができる。
今度は鷹に変身し、孫操備の死角から爪を刺し込んだ。
「んぐっ!」
空中から攻撃を繰り返す王明に、孫操備はまったく攻撃を当てられなかった。
「どうした!そんなに戦いにくいなら地上に降りてこようか!」
今度は虎に変身し、ジワジワと近寄る。
「"三防"!」
孫操備は三防で攻撃に備えたが、
「威力を三等分しても、それが効くなら意味がないぞ!」
王明の爪で勢いよく斬り裂かれてしまった。三等分してもなお、致命傷になりうる力だ。孫操備は両足と左肩を大きく負傷した。
「さぁ…死ね」
王明がうずくまる孫操備を牙で砕こうとしたときだった。
ものすごい速さで王明の牙が止められた。
「助けに来たぞ、操備」
李光と司馬章が参戦した。