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BEYOND SOUL  作者: 史邦ヒスト
東章 長安編
28/59

第28話 先発隊の壊滅

 李光(りこう)たちが長安(ちょうあん)楊国忠(ようこくちゅう)と戦っているとき、洛陽(らくよう)では乱晶(らんしょう)が全員招集されていた。

 とは言っても、つい先程まで全員が安禄山(あんろくざん)と食事をしたばかりではあるが。ともかく、使者たちはバタバタと足を走らせて宮城(きゅうじょう)内にある構成員たちの部屋に伝えて回った。


「なーんだよ。あのバ…安禄山(あんろくざん)様はまだ食い足りなかったのか」


 使者の言葉を聞き、呂辛が渋々と部屋の扉を開ける。彼は軽くあくびをしながら、宮城の通路を歩き始めた。

 かつての唐の栄華を示す掛図や壁画はもう存在しない。通路の壁には、"燕"と図太く書かれた張り紙のみが遠くまで続いていた。

 少し歩くと、呂辛は史思明(ししめい)と遭遇した。史思明は普段、冷静な顔をしているが、だらけきった呂辛の姿を見ると、顔を強張らせて呂辛を叱った。


「なんだそのだらしない身なりは。思超家(しちょうか)の表象を崩すな」


「おー、おー、これは硬派の史思明さん。そんなにお硬いやり方が好きなら、ここを出て行って(あっち)についてもいいんだぜ?」


「その唐が、だらけた老害・楊国忠(ようこくちゅう)の人形劇場と化したから反乱を起こしたのだ。そもそも、論点がズレている」


「あー、なんだっけか?」


「思超家の表象についてだ。第一、我々思超家は思想家の一歩上を進んだ存在なのだ。常人よりもこの世を理解し、常人には理解できない術と力を使う我々は、いわば賢人。常人からも知性のある存在としての表象が強い」


 少し目を瞑っていた史思明が、目を一気に開いた。


「だが!力を手に入れた思超家は、なぜ強さだけを求めるようになったのか!」


 呂辛はヒューと口笛を聞こえないように吹いた。


(めんどくさいんだよなぁ…この時の史思明は)


 史思明の怒りの説教は止まらない。


思超(しちょう)を手にして、思超を知ることで、思想の先にある真理を求めるのが我々思超家の定義だ!だがお前も含め、最近の思超家(バカ)どもはどうだ!魔術を操れる全能感に酔いしれて、国の戦争に積極的に参加し、挙げ句の果てには思超家どうしで強さを競い合う始末!これでは賢人の表象が台無しではないか!」


 お前もそうだろ、と呂辛は指摘しようと思った。だが彼は、史思明が今回の反乱で思超を使った所を見たことが一度もなかったことに気づいた。彼は軽く舌打ちをすると、そのまま食事が行われた所へ再び歩き出した。


「だいたい魏匠(ぎしょう)孟寧(もうねい)もなぜあんなに武人のような……」


 史思明は呂辛がその場にいないことに気づかず、あと一刻ほど説教を続けた。


 ________________________


 呂辛が椅子に座り、魏匠と孟寧、史思明を除く乱晶全員が揃った。


「…史思明は来ないのか」


 天上王真(てんじょうおうしん)理公子(りこうし)(通称:天理(てんり))が口を開く。


「あいつ、会議とかダルいからやってらんねぇ つってサボるらしい」


 呂辛が笑いながら答えた。


「そうか…」


「ところで、安禄山様がいないのは何故だ?」


「…今回は、我々だけで話をしろ との指示だ」


 乱晶の右五席(うごせき)空恭(くうきょう)が腕を組んだ。


「で、何の話だ?」


「…魏匠と孟寧が死んだ」


 その言葉に全員が眼球をピンと張った。


「い、い…今なんて」


 空恭と二つの空席、一つの埴輪(ハニワ)をまたいだ椅子に座る、左三席(ささんせき)徐刀(じょとう)が冷や汗を流す。


「分かんねぇのか?魏匠と孟寧がおっ()んだんだよ」


 その右で左四席(さよんせき)周起(しゅうき)が嫌な言い方をする。だが、そんな彼も髪の影で汗が垂れていた。


「…どいつだよ」


「…呂辛?」


「殺ったのはどいつかって聞いてんだよォ!」


 右二席(うにせき)の呂辛が机を強く叩きつけた。あまりの勢いで、机にかすかな血が付着した。


「それなんだが…」


 答える言葉を選んでいた周起に呂辛がさらに詰め寄る。


「言え!周起ィー!」


 周起が口を開いた。


「…片方は王明」


 王明の名を聞き、乱晶内がザワついた。


「もう一つは!」


「……分からねぇんだ」


 呂辛は周起の返事に呆れ、自らの思超で黒い物体を生み出した。


「…この無能がッ!」


「待て呂辛!落ち着け!」


 徐刀が立ち上がる。次から次へと緊迫感が走っていた。


「やめろ呂辛…もう一人の名前は知らんが、どんなヤツかはしっかり見てきた。もう片方、魏匠を殺ったのは炎を操る若い思超家だ」


「炎を操る…?」


 徐刀が腰を降ろした。彼女含め、乱晶の全員は洛陽攻めに参加しており、天理(てんり)が炎を操る思超家・司馬典(しばてん)を殺したことも知っていた。


 呂辛が怒りの表情、他の者が不思議な表情をしていたが、天理だけは唯一、秘めたる興奮を感じていた。


 まさか本当に奴が思超家になるとは…それもこの短期間でかなりの強者であった魏匠を倒すほどの者に。奴…いや、司馬章(しばしょう)なら私の野望を叶えてくれるに違いない。


「強くなれよ…司馬章…!」


 ________________________


「周起、話は済んだか」


 安禄山がやって来た。乱晶一同は頭を下げる。


「安禄山どの、申し訳ない。二人は戦死した」


 天理が謝罪を述べる。周りの兵士たちは、安禄山の不服そうな表情を浮かべているのを見て、ゴクリと唾を飲んだ。


「あの二人は、後でしっかりと弔うぞ」


 その場の全員が、彼の言葉の意味を瞬時に理解した。


「それでは、出撃の足を早めるべきか」


 天理が聞く。他の乱晶の思超家たちは皆、眼差しで戦いの意思表示をしている。


「いや、玄宗(げんそう)皇帝陛下、楊貴妃(ようきひ)様、長安の民が逃げる猶予をやろう。狙いはあくまで楊国忠ただ一人。奴を長安で討ち、長安を根城とすることで万全の状態で陛下を招く!」


 安禄山は酒を静かに机に置き、すぐに戦うことができずに悔しがる呂辛に声を掛けた。


「せっかく残りの乱晶が、この洛陽に揃っているんだ。次の長安攻めも お前たちに来てもらおう」


「安禄山様、恩に着ります…」


 こうして、会議が終了し、乱晶各員はそれぞれの部屋に戻って行った。


 ________________________


 話は長安に戻る。司馬章は魏匠の最期を見届けて、皇城(王宮)に向かっていた。


 ―魏匠…悪いけど、まだ天理への怒りが強いよ。復讐ナシでは旅の目的が見つからない…でも、()()()()()()()()()()ってことは確実に伝わった―


「だから見ていてくれ。いつか、お前の望まない旅を辞めるためにも、俺は旅を続ける…」

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