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BEYOND SOUL  作者: 史邦ヒスト
東章 長安編
26/61

第26話 王明の重み

 ___(たか)は空を駆ける。

 ___大空を悠々(ゆうゆう)と飛び、中華の魔男魔女(まだんまじょ)を片っ端から裁きながら…


________________________


 長安(ちょうあん)西部の広い通りで、反乱軍直属の思超家(しちょうか)集団"乱晶(らんしょう)"の一角である孟寧(もうねい)と他の思超家(しちょうか)への粛清を繰り返す獣人(じゅうじん)王明(おうめい)(にら)み合っている。

 前者は余裕そうな顔を浮かべ、後者は無に近い顔をしている。どちらも、常人とは思えぬほどの殺意が漏れている。


「王明…これは想定外だ。天理(てんり)の話では、長安の民衆、愚かな独裁者・楊国忠(ようこくちゅう)、そして思超堂(しちょうどう)の偽善者どもを殺すだけでよかった筈なんだが…」


 孟寧は髭を撫でた。


「残念だったな。この長安に俺がいたことは天理も知らなかったのか」

「"想定外だ"としか言っていない。誰が"困った"と言った?」


 王明は眉をひそめる。


「どういうことだ」


「私が聞いた天理の話はあくまで、この事件に関する話であって、乱晶としての最優先事項ではない」


 周囲の砂がじわじわと宙を漂いながら孟寧に近づく。


「今から、乱晶として守るべき掟を教えよう」


 孟寧は手を前に突き出した。


「_____王明に出くわしたとき、速やかに排除せよ」


 その時突然、王明の頭上から砂の雨が降ってきた。


「お前のことだ。こんなの、目眩(めくら)ましに過ぎないのだろう?」


 王明は速やかに人からサソリ、サソリからミミズへと変身し、土の中に潜り込んだ。


「重力で土ごとお前を押し潰す!」


 孟寧は手を振り下ろして、王明が潜っているであろう地に強力な重力を加えた。


 孟寧は勝利を半分確信した。実は半分疑ってはいたのだが、土を掘り返してまで王明の死を確認する時間はない。万が一、王明がそこにいないのなら、この行動は致命的となる。


「お望みであれば、この地で土葬してやろう!」


 逃げ道を塞ぐため、彼は凹んだ地点の周りにも重力を加え、最後に広範囲にわたる重力の塊で印をした。


 孟寧は今度こそ勝利を確信した表情をして、凹んだ地点に背を向けて、王宮に向かって歩き出した。


 彼の道には腰を抜かした老兵が怯えながら後退りする。若い新兵たちが周りで槍を構える。そんな彼らも、老兵と同じように震えていた。


「どくかい?どくなら生かしてやってもいいがね」


 兵士たちは皆、重心が後向きになっていた。彼はすかさずそこを突く。


「どくんなら…生かしてはやるがァ、職務怠慢だな」


 その言葉が更に兵士たちの精神状態をおかしくする。死にたくない気持ちと兵士としての責務の狭間で怯えている弱き兵士たちの表情を見ながら、孟寧はケラケラと笑う。


 軽い、軽いねぇ~。人間はどうも感情に流されやすいから皆、軽く見える。

 集団が作られ、個人に責務が生まれると、個人は責任感ごときに動かされるから皆、軽く見える。


 …だから弱いんだよ。弱者が


 頭の中で、彼らに対する侮辱の言葉が無限に生まれてくる。孟寧は、日々の小さな楽しみに似た感覚を謳歌していた。


 …でも中には人と等しいことを嫌い、"重く"あろうとする愚者が現れる。


 背後から襲ってきた王明を後向きの重力で防いだ。


「く…ッ!」


「まだ私が勝ったつもりでいると思ってるのか?私は油断しないよ。…真理が見つからない限りに…な」


 そのまま孟寧は手を上に上げ、無重力で王明を城壁と同じくらいの高さまで飛ばした。


「身体が上に…」


 王明はフワフワと上がり続ける。

 彼の真下にいる孟寧は叫ぶ。


「どんどん上がるがいい。景色が良いだろう。最高の気分で落ちて死ねるぞ!」


 そう言われたのか、王明は目の上に手をかざして、長安よりも奥の山々を見た。


「確かに…景色はいいな…。ここからなら、長安の外をどこまでも眺めることができそうだ」


 城壁の外には、無数の暗闇が広がる。その中でも、長安周りの農村や、遠くの山が彼の目に映った。王明は、夜中でも遠くの山や農村を認識できるようだ。


「…で、どうせここから落とすのだろうな」


 王明の予想通り、孟寧はその時に手を振り下ろした。


「死ね!王明!」


 王明の身体に重みが走る。王明は長安が一望できる高さから、ものすごい速さで落下していく。

 人は落下するとき、どんな体勢を取ろうが頭から落ちる。何故なら、身体の中で一番重い部分が頭だからだ。彼は頭を下に向け、孟寧を見る。彼は、狂気に満ちた表情で王明を見る。


 楽しそうだな、俺が落下死する想像でもしてるのだろうか…。


 そう考えながらも、王明は地面にどんどん近付いていく。鳥に変身して空を飛んでも無駄だ。身体に重力は変わらず掛かっている。


 孟寧は両手を広げて王明を見上げた。


「フハハハ!どんな獣になるつもりだ?象か?犬か?(ねずみ)か?すべて無駄だ!何になろうが、貴様が獣である限り死ぬことは…」


「獣…ならな」

「…!?」


 王明の髪が地に触れそうになった瞬間、彼は白く発光して姿を消した。

 _____そして、血に染まったのは孟寧の方だった。


「…へ?」


 孟寧の右肩は今にも千切れそうな程の大きな傷がついている。


「う、腕がああああ!!!!!」


 あまりの有り様に驚いたのか、孟寧は右腕に重力を加えて千切(ちぎ)り落としてしまった。


「わ、私の腕が、腕がぁぁあ!!!!!」


 孟寧は右肩の切り口を上下に振る。振れば振るほど血が流れる。これは彼にとって、想定外且つ恐怖の光景だった。

 そして背後に、元の姿の王明がいた。


「い、いつの間に背後にィ…!」


 孟寧はプルプルと震えた右肩を突き出して構える。


「どうやらその余裕そうな表情は、俺の思超(しちょう)を甘く見ていたかららしいな」

「な、何故死なん!あの高さから落ちたら、どんな獣だろうと…」


 孟寧はハッとした。

 彼が変身したのは、"虫"である。


「む、虫ィィィ!!!!!!」


「そうだ。俺は虫に…(あり)になったんだ。だが、もう一つ忘れてないか?何故、お前の腕が切れたのか」


 確かに、蟻ごときでは人の腕は切り落とせない。それどころか、大きな傷を与えることも不可能だ。


「答えは…イッカクだ。俺は、落ちる直前にイッカクになり、落下の勢いを利用して角でお前の腕を貫いた。そして貫いた瞬間に蟻になり、落下した」


 孟寧は、この男と自分に大きな実力差があったことを確信した。


 勝てない。この男には絶対に勝てない。強すぎる。


 孟寧は初めて、天理以外の人間に恐怖した。自身の死を確信した恐怖ではない。どうあがいても上に立つことのできない恐怖である。


 その恐怖の末、彼は凶行に出る。


「さて、結着の時間だ」


 彼は逃げた。すかさず馬に変身した王明が追う。


(終わりだ…孟寧)


 王明が(ひずめ)を孟寧に向けたときだった。

 彼は先程の老兵を重力で押さえつけ、王明に見せた。


「どこまでも追うがいい。このジジィの命がどうでもいいのなら!」


 孟寧は老兵を宙に飛ばす。


「か、身体が…!」


 王明は上を見上げた。だが、少しするとまた、孟寧に近づく。


「やはり来るか!じゃあ、落としても良いということだ!」


 孟寧は左手を下げ、老兵を落とす。老兵は、すべてを諦めた表情をして死を待つばかりだった。

 王明は、そんな老兵をお構いなしに孟寧を追って走る。


「最後のあがきだ!死ねジジィ!」


 孟寧が逃げながら叫ぶ。


 その時だった。馬と化した王明は高く跳び、空中で鷹に変身し、老兵のもとへ飛び立った。

 瞬く間に普通の鷹とは思えぬ握力で老兵を掴み、そのまま孟寧に向かって滑空する。


「ご老体には悪いが、少し急降下させてもらう」


 王明はそう言うが、老兵は泡を吹いて聞こえていない。


「…本当に済まないな」


 そして間にいた新兵たちの真上に入り、老兵を離した。すかさず新兵たちが老兵を抱える。


「た、助かったのか…!?」


 新兵たちは不安そうに泡を吹いた老兵を見た。そして、老兵の身体がまだ温かいのを感じ取ると、ホッと息をした。


 老兵を降ろした王明はそのまま滑空を続ける。加速する彼の飛行はついに、孟寧を攻撃できる間合いに到達した。


 孟寧は背後からものすごい殺気を感じ、後ろを振り返る。


 そこには、自分よりも二回りも大きい虎がいた。


「バカ…な…」


「グルルル…ガァ!」


 虎の爪が土を真っ赤に染めた。


________________________



 人の姿に戻った王明は、その場に立ち尽くしていた長安の兵士、逃げ遅れた住民たちに言い放った。


「長安の皆々方(みなみながた)。悪しき思超家は、この王明が成敗した!だが(じき)に新たな悪しき思超家がやって来るであろう。今は民も衛兵も避難するといい!」


 人々は大きな歓声を上げ、彼を称賛した。


 だが、彼はこの状況に嬉しさを感じてはいなかった。


 まだ、これで終わってはない。この後、楊国忠を討ち、まだ残っているであろう司馬章(しばしょう)らと決着を付け、これから来るであろう反乱軍の思超家どもとも戦わねばならない。


 彼は自分以外の思超家を殺すため、次の標的を考えた。

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