第19話 食我硬
魏匠は勝利を感じた。なぜなら、この技を当てられた対象で死亡しなかった者が未だにいないからである。
司馬章は大きく背中を反ることで、"食我硬"を回避した。だが、金棒の衝突で起こる衝撃と音の波は大きく、それを間近で感じた司馬章は思わず転んでしまった。
「おいおい、決闘で転ぶなんてダセェなァ!」
魏匠が嘲笑う。あんなもの、間近で見るだけですでに痛いに決まっている…そう反論したくなるほどに大きな衝撃が耳と脳に走っていた。
(衝突音の振動にさえ押されてしまった…。もし、あれが直撃したら俺の顔は血飛沫に変わっていたかもしれない…!)
司馬章はゴクリと唾を飲む。これまでの戦いでの汗が冷や汗に変わった。
「ビビってんじゃねぇよ!ヒョロガリ野郎!」
「え、えんしゃ……」
司馬章は技名を唱えたのにも関わらず、技を出さずに後退してしまった。無意識な後退に本人も困惑していた。
(……は?)
「ガハハハ!やっぱビビってんじゃねーか!」
魏匠は続けて司馬章に共感したように彼の恐怖心を煽った。
「仕方ねぇよな!これに当たったら、てめぇの頭は消し飛ぶんだからよ!」
技を打とうにも本能的に引き下がってしまう。ならばいっそ、意識的に下がって距離を置くのがいいのではないかと司馬章は考えた。
「この距離なら…"炎射"!」
「恐いからって…そんな卑怯なことすんのかァァア!」
魏匠は両腕を元に戻し、十字型の姿勢を取ると、つむじ風のように回転して襲来した。
「"羅裏跡"」
魏匠は回転しながら司馬章の腹部から胸部を何度も攻撃する。司馬章はまたも吐血した。
「そんなに食我硬が怖いなら、この技で御前を気絶させ、食我硬で殺してやる!」
司馬章は僅かな力を振り絞って、炎を上げた。
「"炎壁"…!」
炎の壁は司馬章と魏匠の間に入り、2人を別けた。そしてそのまま司馬章の周りを1周し、司馬章を外敵から守るように彼の周囲を封鎖した。
「炎の壁?」
魏匠は打ち破ろうと腕を伸ばしたが、さすがにこの熱さに手を入れることは危険だと感じたのか、壁の外で司馬章を待つことにした。
「保てて1分くらいか…」
司馬章は肩を降ろすと、そっと地面に座った。
「おいどうした!早く出てこい!」
壁の外で魏匠の怒鳴り声が聞こえる。司馬章は炎壁が消えるまで、食我硬の打開策を考えた。だが、自分のひ弱な拳で金棒を壊すことは当然不可能だ。避け続ければ良いという訳でもない。彼は悩みに悩んだ。
「くそッ!仕方ねぇ。衛兵狩りでもすっか」
魏匠が諦めて司馬章から離れていくとき、壁の内側では司馬章が大きな発見をした。
溶けかけの貨幣である。
「こっ、これは貨幣…?半分溶けて歪んでいるぞ!」
そしてそれが自分の炎で溶けたことがすぐに分かった。司馬章は歓喜した。
「………これだ!」




