第16話 鬼に金棒
「死ねぇっ!」
戦いは魏匠の拳で始まった。彼の拳は空気が潰れるような音を立てながら司馬章に迫る。
「炎殴ッ!」
司馬章もすかさず炎殴で攻撃する。互いの拳が衝突した。
「そんなものか?"炎殴"とやらはよォ!」
「!?」
魏匠は司馬章を殴り伏せた。
「しょっぼいな!炎使い!」
(つ…強い…!)
司馬章は、手の甲についた血を拭った。
「その怪力…お前の思超の能力か」
「…何言ってんだ?てめぇ」
「…?」
「今のは殴っただけに決まってんだろ」
魏匠の言葉に司馬章はゾッとした。
そう、この怪力は思超によるものではなく、魏匠が始めから持っているものなのだ。
「これは…殴っただけなのか!?」
「おいおい、思超家が皆、てめぇのようなヒョロガリの学者どもだと思うなよ。俺は元々、ここの武官だ」
魏匠は長安の衛兵隊長であり、日々の鍛錬は欠かさなかった。故の筋肉、強靭な身体、怪力である。
魏匠は首をゴキゴキと鳴らした。
「その貧弱な身体じゃあ、あと何発は耐えられそうか!」
司馬章はたった一撃で、大きな痛みを身体に残したまま立ち上がる。
「それでも、まだ勝負はついてないッ!」
司馬章は両手に火を起こした。
「炎殴!」
司馬章は魏匠の胸部に炎殴を何度も当て続けた。
「うおおおおお!」
しかし、燃えるのは彼の服だけ。魏匠の皮膚は黒く焦げながらも、彼は暑がらなかった。
(熱がらないのか⁉炎だぞ⁉)
「熱くねぇけど、このまま黙って喰らっときゃ、ホントに燃えちまう」
魏匠は司馬章の頭を掴み、持ち上げた。
「せっかくだから、てめぇにも俺の思超【鉄筋論】の能力を見せてやろう!」
その時司馬章は、魏匠の感触が硬くなったように感じた。
(あれ?コイツの手、こんなに硬かったか?)
彼は魏匠の皮膚の内側に肉を感じなかった。まるで、非生物に掴まれているかのようだった。
すると、司馬章は上へと投げられ、落下直前に腹部に突きを喰らった。
「ぐはッ!!」
先程の突きよりも強力だった。拳は骨近くまで食い込み、仮に骨に届いていたら、骨折は免れなかっただろう。
「さっきの奴にも言ったが、俺の思超は【鉄筋論】。皮膚の内側を鉄にすることができる能力だ!」
まさに、[鬼に金棒]である。
魏匠は再び司馬章を掴み上げ、住民が逃げて誰もいない民家に向かって殴り飛ばした。勢い上げて飛んできた司馬章がぶつかった民家は瓦礫の山と化した。
起き上がると攻撃を回避しなければならない、すぐさま魏匠は殴りかかって来る。幸い、回避できるような速度の攻撃だったので、3度目の攻撃以降は回避し続けることが出来たが、それでも防戦一方だ。加えて、司馬章が回避することで魏匠の拳は後ろの民家を粉砕する。
鬼ごっこを続けるうちに、周囲の家屋は皆、瓦礫の山になってしまった。
「これ以上、鬼ごっこを続ける気か?」
魏匠は笑う。人がいないとはいえ、これ以上長安の街を壊したくはない。司馬章は正面衝突するのを覚悟した。
「いや、やっぱり戦おう。避けるのはもうやめだ」
司馬章は軽くステップを踏んだ。




