第11話 純悪の小物
司馬章、孫操備、李光の三人は、楊国忠のいる王宮に向かって出発した。
「やはり長安の餅はウマイな」
酒に酔った李光がドヤ顔で洛陽出身の司馬章を笑う。即座に、孫操備からゲンコツを喰らってしまった。
「こら!出身で優越感に浸ろうとするのをやめろ!」
「イテテテ…悪かったよぉ〜。ヒック」
李光はしゃっくりをしながら酒を飲み歩いた。
三人の背後には不穏な影があった。先程の盗賊たちだ。
「呑!あいつらです!俺たちをこんな目に遭わせたのは」
盗賊の下っ端が彼らを指さした。
「よぉ〜し。かわいい子分をなぶったバカに、俺様の一撃を喰らわせてやるぜ。お前らはその後、奴らから物を盗め」
ドンと呼ばれる頭領は、李光の持つ酒に目が行った。
(あの酒!なかなかの上物じゃァないか!ヘヘ、遠慮なく頂いていくぜ!)
頭領は棍棒を李光に振り下ろした。が、瞬時に司馬章が棍棒を掴んだ。
「何!?」
司馬章は背後の部下たちを見て、男が何者かを知る。
「お前、さっき俺たちを襲った盗賊の頭領だな」
その男はニヤリと笑って答えた。
「その通り。この俺様は、長安一の盗賊!虞呑さまだぁー!」
虞呑は、派手に自己紹介すると、もう片方の手にあった刃物で司馬章を刺そうとした。
「うひゃー!これからコイツはグシャグシャだー!楽しみだぜぇ!」
司馬章は先に虞呑に触れた。
「"炎射"」
司馬章の手の平から大きな炎が吹かれ、瞬く間に虞呑を焼き尽くした。
「呑ー!!」
部下たちが虞呑に駆け寄った。
「クソっ、よくも呑を!覚えてろよ!」
司馬章は逃げゆく盗賊たちにやれやれとした表情で言い放った。
「お前たちは…純悪の小物だ…」
虞呑はその言葉を聞くと、目を覚まし、立ち上がった。
「待て!俺さま達は"純悪"という言葉は好きだが、"小物"っつー言葉は気に入らねぇ!」
虞呑は敗北したことを忘れ、怒り任せに走ろうとした。
「お前達は、この長安で略奪を繰り返してきたのか。人の財産を奪うことでしか、楽しみが得られないのか」
司馬章にしては冷たい言葉だった。
「あぁ!そうだよ!俺らに正義感なんてクソマジメな感情はねェ!そんな自分が楽しくて堪らねぇんだよ!」
虞呑は怒りながら反論した。
「ならば、何度でもこの俺がお前たちを屈伏させるよ。お前たちが俺を殺すまで…」
司馬章は明るい顔を取り戻しながら再び前へ進んだ。あとを追うように、孫操備と李光も歩いた。
「おい待てぇ!最後にお前の名を聞かせろ!」
虞呑は叫びに、司馬章は答えた。
「俺は司馬章。最高の哲学者を目指す旅人だ!」
虞呑の視界から見えなくなるほど、司馬章たちは遠く離れた。
「呑…ボロ負けですね…」
「おい!呑の前でそんなことっ」
虞呑は敗北を認めた部下の言葉を擁護した。
「いや、お前の言うとおりだ」
虞呑は空を見上げる。真っ赤な夕日が司馬章たちの方向へと動いていた。
「なぁ、お前ら」
「何でしょう」
「俺様たちも、旅に出よう。純悪の小物では、ダメなんだ…」
虞呑たちは、司馬章と真逆の方向へ歩き始めた。
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「司馬章も完全に思超に慣れたな」
孫操備が喜んでいる。
「お前も立派な思超家だよ、司馬章」
「ありがとう、こんな夢のような力を手にして、夢のような友と出会えて良かった」
司馬章も嬉しさを隠せなかった。
「ところで、王宮まであと、どのくらいだ?」
李光が遠くを見ながら聞いた。
「夕日の半分が城壁の奥に隠れた。おそらく、夕日のすべてが隠れるまでには到着するよ」
孫操備はいつになく真剣な目をしている。
「いよいよ始まるのか…」
司馬章も、頭の冠を締め直した。




