2、出会いと同意
ガバっとベットに寝ていた俺は起きた。
夢……流石に夢では無いか。
あの夜の出来事はまるで、誰かが作った御伽噺の中にいるような気分だった。
朦朧としている意識の中にいた俺は、ふと時計を見る。
7時……か。
いつもなら遅刻ギリギリだが、今日は遅刻前に学校に行けそうだ。
歯を磨き、制服に着替え、バッグを持つ。
誰もいない部屋に向かって、
「行ってきます」
と言葉を放った。
―――
学校に着き、下駄箱に靴を入れ教室に向かう。
俺らのクラスは2階にあるから、階段を登らなければならない。
教室に入ると、既に高木が席に座っていた。
「あれ、蓮也今日早くね?」
「いつもより早く起きたんだよ。」
俺はさりげなく昨日のことを聞いた。
「昨日さ、夜どこにいた?」
「夜?家で勉強してたよ。あとはテレビとか?そんなこと聞いてどうしたんだ?」
「いや、なんでもない」
やはり、記憶が無いみたいだ。昨日の出来事は、夢だったのか?確か、俺の背中に翼があったような……
俺は考えることをやめた。これ以上考えても何も起こらないし。
―――
3時限目になる前になった。まだ11時ということに絶望を覚えながら、窓の外を見る。俺の席は窓側だから、授業もサボりやすい。
校門の前には木があるが……ん?
木の近くに誰かがいる。しかも、昨日見たような……
「蓮士……」
「どうした?」
「あ、次数学だったよな。俺具合悪いから早退したって言っといて」
「え、具合悪いのか?大丈夫?」
俺は荷物をバッグに入れて小走りになる。
「大丈夫じゃねぇよ!」
色々とな。俺は廊下を走って昇降口を出た。
―――
「おーい!蓮士ー!!」
手を振りながら近付いていく。
「って、昨日のやつじゃねぇか!」
「何してんだ?」
「……やることねぇから少し探索してんだよ。人間界に来るのが久々だし」
黒髪が風になびく。
なんだコイツ、いるだけで絵になるじゃねぇか。
なんだか腹が立ってきた。
「お前、そういえば天使の使命を授かったな」
「あぁ、その使命ってなんだ?それと、昨日のは夢なのか?」
夢?と蓮士が首を傾げた。
「お前馬鹿なのか?」
「馬鹿じゃねぇし!」
「それはどうでもいい。丁度いいところに来てくれた。俺はお前に聞きたいことが山積みだ」
「なんだよ……」
「お前は何故自分の才能を隠している」
「はぁ?才能?」
「お前の能力だよ。使命を授かったとき、お前は能力を使わずに悪魔を倒した。能力は常套句を言うと発動する。どうしてあの時言わなかった。天使になった瞬間に頭に常套句が浮かんでくるはずだ。」
一気に言われ頭がこんがらがる。
じょうとうく?俺はそんなの頭には浮かばなかった。ただ、自分の意思で動いただけだ。
常套句って、確か蓮士が言ったやつか?
「……惚けた顔しやがって。あと、お前は天使になった。だから任務もこなしてもらう。」
「俺は高校生だぞ?平日とか無理だ」
「お前は例外だから仕方がないだろ?俺らがいる天界に行くか現世に留まるかのどっちかだな。まぁ俺も今日帰らなければならないんだ。報告しないといけないし」
「はぁ……」
意味が分からない。こいつは何を言ってんだ?
すると、突然地響きが鳴った。
「っ!悪魔だ!行くぞ!」
「おい!俺蓮士みたいな服きてねぇけど、戦えるのか?」
「ぁぁぁぁ!そうだった!どうする俺!どうする!帰ったら天使の能力を持ってくるんだった!」
あーだこーだ1人でテンパっている蓮士の背後にズズズと迫ってくる。
「おい!後ろに悪魔が……」
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!」
喰われる。そう思った時、
「お前は黙ってろ!このゴミクズ!」
そう言って一振で悪魔を倒してしまったのだ。
「よし!決めた!俺の力をこの耳飾りに込める!お前は悪魔が来るか見張っててくれ!」
そう言って俺に刀を投げ渡した。そう言われても……
悪魔が空を飛んでいるのが見える。
(昨日も2体来てたよな……)
「ま、まずい!こっちに来る!!」
悪魔が突然急降下してくる。俺は刀をブンブン振り回す。
「蓮士!早くしてくれぇ!こっちに来る!」
蓮士はよし!といい耳飾りを引きちぎるようにして取り投げる。
「刀をよこせ!」
俺は言われた通りに刀を蓮士に投げる。
「その耳飾りを付けろ!お前は天使本来の力を手に入れるはずだ!」
「……っあぁ!」
急いで耳飾りを付ける。すると、昨日のように光が体を取り囲み、目を開けると、俺は蓮士と同じ服を着ていた。
「蓮也!行けーーー!!!」
俺は剣をおおきく振りながら悪魔に向かって走る。
「死ねぇぇぇ!!」
斬った!と思ったその瞬間、悪魔が雄叫びをあげた。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「っ!なんだコイツ!」
斬ったと思った悪魔が、どんどん再生していく。
傷口は完全に塞がってしまった。
「蓮士!なんかこいつ、おかしいぞ!」
「くそっ、こんな時に限って面倒なやつが現れる!そいつは堕天使だ!堕天使は斬っただけでは死なない!心臓が急所だ!心臓を狙うぞ!俺はやつを引き付ける!お前は心臓を狙ってくれ!」
そう言うと、蓮士は常套句を唱える。
「黒炎よ!燃え上がれ!」
刀はみるみるうちに黒い炎で包み込まれる。
「こっちだ!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
蓮士が走っていく。堕天使は、停車している車や家に当たりながら蓮士を追い掛ける。
俺にやれるのか?
一瞬、迷いが脳裏を横切る。
だが、やるしか無い。蓮士は、俺に任せてくれた。
俺は、天使になった。天使としての責務を、全うしなければならないのか?
「っ!おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
剣を持ち直し、剣を突き刺す。が、そう簡単には上手くいかない。
「っ!くそ!」
かわされてしまったのだ。
「ったぁ!」
蓮士が刀で腕を斬り、斬った箇所が黒い炎で燃え上がる。
「今だ!蓮也!」
「今度こそ……!」
遂に、剣が堕天使の胸を貫いた。
「ギャァァァァ!」
悲鳴のような声が聞こえ、堕天使は燃え尽きていく。
「お、終わった……」
「……ありがとな」
「え?」
「天使になったばかりの奴は、恐怖で戦えず、殺される奴が多いんだ。だけど、蓮也は違った。お前は、強い。」
「そ、そこまで言うなよ……照れるだろ?」
感謝なんて言わなそうな奴に言われると、少し嬉しいのは気のせいか。
あの時、本当は足が引き攣った。だけど、蓮士がいたから、蓮士が共に戦ってくれたから。
「お前は実力がある。お前は俺らと一緒にくるべきだ。」
「行ったとして、この世界での俺はどうなる?」
「いなかったことになる」
「え?」
「俺もそうだ。この人間界にはそもそも存在しないことになっている。」
天使が存在している。ということは、人間には知られてはいけない。そして、普通は人間には見えない。と蓮士は話した。
「じゃあなんで雑誌に載ってたのと、俺は見えるんだ?」
「雑誌?俺が載ってたのか?」
「バッチリ乗ってたぜ?不審者だって」
「……多分、俺がこの世界にいすぎたせいだ。もう行かないと。お前も来るだろ?」
俺はこの世で産まれたことは消される。
それはどうなることかも分かっている。だが、
「……俺は、悪魔と戦った。悪魔から人間を守れるのは俺だ。高木を守れるのも俺だ。だから……」
「だから、一緒に行きたい。守りたい。命を守りたい」
俺は痛い程人間の命がどんだけ儚いか分かっている。
分かっているからこそ、守りたい。
「分かった。お前の意志を感じた。共に行こう。お前なら行くと言ってくれると思っていた」
にっと笑った蓮士は、俺の前にグーにした手を差し出す。
「……おう!」
覚悟を決め、グータッチをする。
俺らの物語は、始まったばかりだ。
ルドベキアの天誅を読んで頂き、ありがとうございます。
服について↓
服は黒く、左胸に紋章と一緒に短いリボンが付けられています。紋章とリボンについては今後説明が本文中に出てきます。
学ランのような生地ですが、動きやすい設計になっています。服は着る本人に合わせられるので、その人によって服の形は違ってきます。
例 ワイシャツのみ着ている等




