1、天使と悪魔
17歳。平凡な高校2年生。
これは、俺が命を懸けて戦う、不思議な話だ。
「なぁ!蓮也!今日の雑誌見たか?」
前の席に座っている高木渉に話しかけられた。
こいつは俺の数少ない友達の1人で、オカルトに依存している。綺麗にセンター分けにされた髪の毛が少し崩れている。多分朝から興奮しているのだろう。
興奮している理由は、この雑誌だ。オカルト雑誌で、宇宙人だの、都市伝説だの、沢山掲載されている。この間無理やり読まされた。
「みてねぇよ。俺そーいうの別に信じてる訳じゃねぇーし。」
「今日の雑誌はそれどころじゃないんだ!この辺りで出たんだよ!」
「何が」
「幽霊だよ!幽霊!夜に怒鳴り声みたいなのがきこえて、外に出てみると、そこには軍服みたいなの着て刀を持った幽霊がいたみたいなんだ!今日はそこで張り込みしよう!」
一息で言った高木は肩を上下に揺らしながら顔を真っ赤にして目をキラキラさせている。
……拒否権は無いのかよ。
「行かねぇよそんな顔されても。そんなの見間違えだろー?」
「絶対違うね!僕はこの目で見るまで信じない!ほら、行くでしょ!7時半に蓮也の家に行くから!もう帰って風呂入んないと!じゃあな!」
……拒否権は何処だ。そう告げると、高木は走るようにしてクラスを出ていった。
腰をあげ、バックを背負い俺もクラスを出て校門を潜る。
俺は霊感がある訳でもない。そして、霊自体に興味はない。
だけど、高木がそこまで言うから、少し気になっているのは事実だ。いつもより足が軽く感じた。
―――
家に着き、早速スマホで調べた。
高木が言っていた通り、ネットニュースになっていた。
内容は、夜8時頃、人の声が聞こえ女性が外に出た。
すると、軍服のような服を着ていて、手には日本刀のようなものを持っている男性が立っていた。男性は、ゆっくり振り返り、今見た事は誰にも言うなと口止めをしたと言う。
(いや、女性言ってんじゃん。全然約束破ってんじゃん)
ますます怪しい。そういうコスプレした人がたまたまいたんじゃないか?
「これ、ほんとかよ」
そもそも、家の近くだけど、夜8時はサラリーマンが帰っている時間帯だ。
見間違えかもしれない。
俺は半信半疑で7時半になるのを待った。
―――
ピンポーン
インターフォンが鳴った。高木が来たんだろう。俺は玄関のドアを開けた。
「蓮也!お待たせ!早速行こう!俺事前に死角になる場所調べたから、そこで見ようぜ!」
嬉しそうに話している。よっぽど好きなんだな。オカルト。
「あれ、蓮也の家族はまだ帰ってきてないのか?」
「あー、当分家に居ないんだ」
そっかと呟きながら、それどころではない感じで俺の腕を引っ張る。
道は高木に任せてもいいだろう。
高木はこう見えて成績優秀だ。羨ましいと何度思ったことか。
―――
「ここだ!結構バレなさそうだろ?」
そこは家の塀の角だ。確かにこっちからは道路の方が見えるし、多分道路側からも見えないだろう。
「その幽霊はここの道路に現れるのか?」
「あぁ、ここにそろそろ現れるらしいけど、あ、静かに」
高木は集中して道路を見つめる。あまりにも真剣なので、俺も道路に目線を合わせる。
……
何も聞こえない。本当にいるのか?
よーく見ると、段々と影が大きくなっている。人型の影だ。
瞬きした瞬間、目の前に男が現れた。
黒髪で身長は俺くらい。後ろ姿しか見えないが、確かに軍服のようなものを着ている。
……本当にいた。俺は呆気にとられ、口をぽかんと開ける。
右手には刀を持ち、何かと戦っているみたいだ。
「おい!なんでお前はそんなに頑固なんだよ……お前のせいで俺の仕事が終わんねぇんだよ!早く俺に斬られてさっさと地獄に行きやがれ!」
「ふん、俺もそんなに弱くないんでね。馬鹿にされては困るよ。どっちが早く地獄に行くか勝負してるんだよ?死神さん?」
死神?あの死神か?大きな鎌を持ってる…
「おい!逃げんじゃねぇ!俺は死神じゃねぇ!って、はぁ、またどっか行きやがった…」
ん?死神じゃない??どういう事だ?
俺は頭がこんがらがりそうだ。じゃあ誰なんだよ。
すると、男がくるりとこちらに体を向け、声を挙げた。
「おい!そこにいるやつ、出てこい!バレバレなんだよ!」
俺は焦った。俺らまで殺されてしまう。
「見つかっちまった!高木早く逃げるぞ!って、高木?」
先程まで隣にいた高木がいない。
「高木ってこいつか?」
見上げると、さっきまで道路にいた男が高木を抱えてて立っていた。
「ッッ!おい!離せ!」
俺は怒り任せで言葉を発する。こんなに感情が湧き上がってきたのは何年ぶりだろうか。
「大丈夫だ」
「高木に何したっ!」
「ただ眠らせただけだ!」
「今すぐ離っ」
「お前の後ろにいるやつをさっさと片付けたいんだよ!」
後ろをゆっくり振り返ると、そこに居たのは、人間では無い、ケダモノがいた。俺は恐怖で声すら出ない。
さっきの男が高木を置き、刀を抜く。
「人間襲うなら、俺が容赦なく斬らせて貰う。」
「お前、」
「俺の名前は紗月蓮士だ。そして、天使だ!」
そう名乗ると、蓮士は刀を振る。ケダモノは血飛沫を上げながら消えていった。
「今のは一体…」
「これは悪魔だ。人間の心に入り込み、心を蝕む。精神的に弱ってる奴や、自己肯定感が低い奴などを乗っ取るんだ」
「じゃあ、蓮士…は」
「俺はさっきも言ったけど、天使だ。死んだ時に怒りや復讐心、そして守りたいなど強く思えば天使になれる。俺はこの世にいる悪魔を地獄へ送るため、派遣されたんだ」
蓮士の言っていることは嘘を言っているとは思えなかった。
「な、なんだ?」
「これは…地響きだ」
突然、地面が揺れだした。立っているのもやっとで、気味が悪い。
「お前も感じるのか?」
「あぁ、凄い揺れてる…」
「これは、悪魔がいる証拠だ。悪魔が俺を引き寄せている。俺とお前を取り込む気だ」
「戦うのか?」
「……俺は、命を懸けて戦うとあの日誓った。逃げる必要は無い。お前達を守らなければならないからな」
蓮士が言い終えると、遂に悪魔が現れた。だが、さっきとは状況が違う。
「に、2体だと!?」
蓮士はびっくりして目を見開く。2体が同時に現れたのだ。
そして、一体はこちらへ、もう一体は高木の所へ移動し襲ってきた。大きな真っ黒い羽を動かして。
「っ、!お前、俺の後ろに来い!」
言われた通りに蓮士の後ろに走るようにして回り込む。
「黒炎よ!燃え上がれ!」
唱え終わると、蓮士が持っていた刀が黒い炎で包まれる。
悪魔を斬ると、黒炎が悪魔を包み込み、
「ギャッ!」
っと悲鳴を上げながら燃える。蓮士は黒炎をどんどん大きくしていく。
「っまずい!間に合わない!」
高木のすぐそこまで悪魔が迫っている。蓮士は今動くことが出来ない。
俺は、動ける。
どうする?俺が悪魔と戦っても負けるだけだ。
だけど、高木は俺の友達だ。俺は、守りたい。二度と、失いたくない。
汗が止まらない。俺は、命を懸けなければならない。使命感が俺の心を支配する。
(俺にも、力があれば…)
心で呟いた次の瞬間、俺の体が光で包まれた。
「っ!?なんだこれ!」
「お前…」
光は段々と薄くなり、目が覚めると、背中に違和感があった。
横を見れば、翼があった。
「は、羽が…」
「っお前!早く高木を助けろ!今のお前なら、あいつを倒せる!武器は手に持っているはずだっ!」
「…あぁ!」
力強く走っていく。
(人間が、生きている人間が天使になるなんて、聞いたことないぞ!)
本来なら、死んだ人間が天使になるはずだ。
「俺は凪砂蓮也だ!お前を今から殺す!」
大きな剣を持って走っていった蓮也は、悪魔に向かって振りかざす。悪魔を地獄へ遅れるのは経験を積んだ者でなければ不可能だと言うのに…、最初から武器を使いこなすなんてよっぽどの天才じゃないと出来ないのに…。
悪魔を地獄へ送った蓮也は、フラフラしながら高木に近づいていく。
「よ、かった…」
「おい、蓮也…!」
力尽きたのか、倒れてしまった。背中に生えた翼は砂のように消えていく。蓮也は天使になったのだ。
(どういう事だ?蓮也は生きていた。なのに、天使の使命を受けた。何者だ?)
「…蓮也、か」
空には満月が浮かんでいた。
初めまして。なつみかんと申します。
ルドベキアの天誅を読んで頂きありがとうございます。拙い文章ですが、書きながら慣れていければなと思います。今はまだ残虐なシーンは出ませんが、今後そういう表現が出てくる予定です。
容姿について
蓮也…黄色と黄緑の間辺りの髪色。黒がかっています。髪型は短髪です。身長は175cmで、武器は剣。
高木…センター分けの茶髪です。身長は173cmです。
蓮士…黒髪で前髪が少し目にかかっています。身長は175cmで、武器は刀です。能力は黒炎。
これから沢山キャラクターが出てきます。新しいキャラが出たら後書きで容姿について報告させていただきます。更新頻度は遅いですが、どうぞよろしくお願い致します。